最小多項式

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

線型代数学において、 F 係数の n × n 行列 AF 上の最小多項式(さいしょうたこうしき、: minimal polynomial)とは、F-係数のモニック多項式 p(x) であって、p(A) が零行列となるようなものの中で次数最小のものを言う。q(A) = 0 となる F-係数多項式 q(x) は最小多項式 p(x) で割り切れる。

次の3つの主張は同値である:

  1. λ ∈ F は、A の最小多項式 p(x) の根である。
  2. λ ∈ F は、A固有多項式の根である。
  3. λ ∈ F は、A固有値である。

A の最小多項式 p(x) における根 λ の重複度は、λ に対応する A のジョルダン細胞の最大次数を表す。

一般に、最小多項式は固有多項式と一致するとは限らない。例えば、4In を考える。(Inn 次単位行列。)この行列の固有多項式は (x − 4)n である。一方、4In − 4In = 0 であることから、最小多項式は x − 4 である。従って、n ≥ 2 ならば、4In の最小多項式と固有多項式は一致しない。

ケーリー・ハミルトンの定理と上の注意により、最小多項式は常に固有多項式を割り切ることが従う。

定義[編集]

F 上の有限次元ベクトル空間 V 上の線型変換 T に対し、

I_T=\{p \in \mathbf{F}[x] \mid p(T)=0\}

とおく。ここで F[x] は、F 上の一変数多項式環を表す。I_T は、F[x] の自明でないイデアルとなる。このとき、T最小多項式とは、I_T を生成するモニック多項式のことを言う。従って、最小多項式は、I_T 中のモニック多項式の中で次数が最小でなければならない。

応用[編集]

V 上の線型変換 T が対角化可能であることと、すべてのジョルダン細胞の次数が1であることとが同値である。従って、体 F 上の有限次元ベクトル空間 V の線型変換 T が対角化可能であるための必要十分条件は、T の最小多項式が F 上で一次式の積に分解し、すべての根の重複度が1であることである。

計算法の一例[編集]

F 上のベクトル空間 V とその線型変換 T および V の元 v に対して、

 \mathit{I}_{T, v} = \{ p \in \mathbf{F}[t] \; | \; v \in \operatorname{Ker} p(T) \} = \{ p \in \mathbf{F}[t] \mid p(T)(v) = 0 \}

と定義する。これは、F[t]の自明でないイデアルとなる。\mu_{T,v}を、このイデアルを生成するモニック多項式とする。

この多項式は次の性質を満たす。

  • \mathit{I}_{T, v}\mathit{I}_Tを含む。
  • dを、v, T(v), ... , T^d(v)線型独立となるような最大の自然数とする。このとき、 ある\alpha_0, \alpha_1, \ldots, \alpha_n \in \mathbf{F}が存在して、
 \alpha_0 v + \alpha_1 T(v) + \ldots + \alpha_n T^d (v) + T^{d+1} (v) = 0
が成り立ち、さらに
 \mu_{T,v} (t) = \alpha_0  + \alpha_1 t + \ldots + \alpha_n t^d  + t^{d+1}
となる。
  • Vのひとつの基底{v1,..., vn}を取ったとき、Tの最小多項式は、すべての\mu_{T,v_i}たちの公約元である。

体論における最小多項式[編集]

体の拡大E/FF代数的Eの元αが与えられたとき、αの最小多項式とは、F-係数モニック多項式p(x)であって、p(α)=0となるようなものの中で次数最小のものである。最小多項式はF既約であって、f(α)=0 となるすべての多項式 f(x)∈F[x] を割り切る。

例えば、F有理数体QE実数体Rとするとき、

  • \alpha=\sqrt{2}の場合、αの最小多項式は、x^2-2である。
  • \alpha=\sqrt{2}+\sqrt{3}の場合、αの最小多項式は、
p(x)=x^4-10x^2+1=(x-\sqrt{2}-\sqrt{3})(x+\sqrt{2}-\sqrt{3})(x-\sqrt{2}+\sqrt{3})(x+\sqrt{2}+\sqrt{3})
となる。

p(x) の係数を決めている体 F が何であるかは重要で、もし F=R なら、\alpha=\sqrt{2} の最小多項式は x-\sqrt{2} である。

関連項目[編集]