政治経済学

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政治経済学(せいじけいざいがく、英語: political economy)は、経済学および政治学のそれぞれにおいて、多少なりとも他方の要素を持つと考えられる学際分野。その意味内容・定義・解釈は、経済学・政治学、あるいはそれぞれの中の学派や領域、論者によって、かなり異なる場合がある。

歴史[編集]

経済学は、当初それ自体の名称がpolitical economy(ポリティカル・エコノミー=政治経済学)であった。これはeconomy(エコノミー=経済)が語源的・本来的には 家計術あるいは家政学といった意味なので、そこに「国の」という意味の形容としてpoliticalがつけられていたからだ、とよく説明される。そのため古典派経済学の著作では「political economy」を「政治経済学」ではなく単に「経済学」と訳すのが一般的である。

古典派経済学においてはその創始者とされるアダム・スミスの所論が重商主義批判であったのをはじめ、デヴィッド・リカードフリードリッヒ・リストによる自由貿易保護貿易の論争など、その多くに政治的・政策的な主張が含まれていた。また、ジョン・スチュアート・ミル経済学者であると同時に政治学者でもあった。そのため、本来「political」には「政治的」あるいは「政策的」の意味が含まれていたが、後にその問題意識が見失われた、という主張もある。

現在では、元々は異なる学問体系であった政治学と経済学が融合し、従来とは違った意味で「political economy」と呼ぶに相応しい研究成果もいくつか存在する。その中には、単に経済学を他の分野に適用したに過ぎないものから、従来の経済学を覆すような根本的に異質な仮説を置くものまでが含まれ、日本語でまさに「政治経済学」と訳すにふさわしいものも存在する。

いずれにせよ、経済学と政治学は、基本的には接合不可能なほどに異なる学問体系を持つものである。政治経済学は一応それらの学際分野ということにはなるが、独立・単一の学問体系をなしているものではない、という点は留意を要する。むしろ、経済学か政治学の一方に立脚する研究者が、それぞれ独自に他方の研究対象である政治か経済を視野に入れて行った研究の自称として用いてきた、という方が実態に近い。経済学と政治学の何れも専門としない人が、自らの政治・経済に対する見解をまとめたものを政治経済学と称している例すら、ないとは言い切れない。もとより近い立場のものをまとめる動きはあるものの、異なる立場の用法は無視、さらには排除される傾向すらみられる。

研究業績[編集]

上記の結果、「政治経済学」には具体的には下記のような意味や用法、研究業績がある。

  • 今日、主として政治学界で通用する「政治経済学」には、大別して、①方法としての「政治経済学」、②対象としての「政治経済学」という2つの意味がある。方法としての「政治経済学」とは、近代経済学が生み出してきた合理的選択論等の演繹的な理論枠組やフォーマルモデル等を政治分析に適用する研究を意味する。例えば社会選択理論公共選択論ゲーム理論の実証研究に応用した選挙研究等の諸業績が、これに当たる。他方対象としての「政治経済学」とは、従属変数マクロ経済政策産業政策、社会経済的パフォーマンスを設定、かつこの各国間の差異や共通性を説明する為の独立変数を政治行政制度・政治的アクターの行動等に求めることによって、政治現象と経済現象の相互作用を解明していく研究を意味する。具体的には、ネオ・コーポラティズム研究、福祉国家研究、産業・金融レジーム研究等の中に、これを見出すことが出来る。ただし、巷にはこの2つの意味合いを理解せず、単に政治・経済双方の事象に触れているが為に「政治経済学」の名称を用いる書籍等が数多く存在することも事実である。
  • 一方で欧米では、経済学、主にゲーム理論もしくは計量経済学を用いた政治システムや、政治システムと経済の関係性に関する研究を「政治経済学」と呼ぶ。公共選択論とよばれる、主にミクロ経済学を用いた政治分析も「政治経済学」にふくめることもできる[1]。この意味での政治経済学は、公共選択論で分析対象とされていた選挙制度政治過程のみならず、政治制度(ポリティカルシステム)そのものも分析対象とし、またデータを用いた実証分析も含む。また、国際経済学マクロ経済学公共経済学などの経済学の他分野に応用したものを政治経済学に含む場合もある。
  • 最近の政治学の分野でも、主体の行動に「合理性」を仮定してモデル構築をする分野を「政治経済学」と呼ぶ。この分野の特徴としては、社会選択理論ゲーム理論といった数理的手法の厳密な適用が挙げられる。社会選択理論は、投票制度をはじめとする制度の記述とそのパフォーマンスの (公理的) 分析のために有用である。ゲーム理論は複数のアクターの行動が互いの利得に影響しあう「戦略的状況」の分析に有用であり、個々の主体のインセンティブを考慮したうえで,行動の帰結を予測するために用いられる。たとえば投票ルールを分析するために、まず社会選択理論的手法で (選好から帰結への対応として) ルールを記述し、つぎにそのルールのもとでのひとびとの行動をゲーム理論の概念である「均衡」によって予測する、という具合に両者が補完的に用いられることが少なくない。詳細は実証政治理論を参照のこと。
  • 主流の経済学が「ポリティカル」をつけずに「エコノミー」や「エコノミクス」だけで「経済」や「経済学」を意味させるようになると、これに対する批判も含め、「ポリティカル」に意識的に「政治」の意味を込めた用例も見られるようになってくる。新古典派以降の経済学においては、のちにマクロ経済学と呼ばれることになる分野を含む、政府市場への働きかけ方、つまり経済政策に関わる議論を扱う分野が「政治経済学」と呼ばれたことがあった。
  • 欧米では、戦間期から戦後にかけて、新古典派以降の経済学とマルクス経済学の何れにも属さない立場や、一方に飽き足らなくなった立場から政治経済学を指向していると評される研究がいくつも表れる。その初期の代表例は、カール・ポランニーによる『大転換』である。また、現在は環境経済学で参照されることが多い、ウィリアム・カップの『私的企業と社会的費用』も最終的に民主主義論に到達する。さらに、ケネス・E・ボールディングも、『経済学を超えて』の中で経済学から政治学を指向する必要性を説き、独自の「政治経済学」を構築した。日本でも、経済学史研究から多彩な展開を見せた玉野井芳郎の業績などを政治経済学と位置づける見解も存在する。
  • マルクス経済学の本旨は、(古典派)経済学への批判にあった。その当初から、古典派経済学の政治への問題意識を批判的に継承するとともに、その分析対象として、政治体制経済体制を含む社会全体を視野に入れてきた。そのため、マルクス経済学は、経済のあり方に対する国家が与える影響を考察するものなどを中心に「政治経済学」と呼ばれた。戦後になると、再びマルクス経済学や、それに理解を示す経済学者によって用いられる例が増えた。例えば都留重人宮本憲一によるものである。冷戦崩壊後の現在では、政治経済学という言葉がマルクス経済学の発展的継承という意味で用いられることもある。これは自称であり、実態はマルクス経済学そのもの、という場合も少なくない。
  • 戦時期の日本では、言論弾圧によりマルクス経済学が壊滅したのち、いわゆる近代経済学内部で、より総力戦体制の構築に関与する立場の経済学を「政治経済学」と呼び、理論研究を重視する純粋経済学と区別した。前者の代表が大熊信行であり、後者の代表が中山伊知郎である。
  • 国家内や国家間の政治的・経済的な力関係を異なる観点から位置づける、自由主義現実主義マルクス主義構成主義などの分析を比較し、総合的に活用する分野が「政治経済学」を称する傾向がある。例えば、ギャリー・ロダンによるシンガポールの政治経済体制分析がこれに当たる。
  • 開発低開発に関する新マルクス主義のアプローチ、例えば従属理論や、イマニュエル・ウォーラーステインによる世界システム論に言及するときに、「政治経済学」が使われることもある。また、マルクス主義的な国際政治学スーザン・ジョージによる研究や、暴力の概念を政治的なものから経済的な意味にまで拡大したヨハン・ガルトゥング構造的暴力論と、そこから発展した平和学も「政治経済学」と呼ばれることがある。
  • 国際政治経済学と称するのは上記のマルクス主義的な研究に限られない。例えば、国家の貿易政策や通貨政策などが国際的な貿易や国際金融にどう影響するかの自由主義的な研究などである。これは各国の関係が平等に近いものであることを前提として、その相互依存関係に着目するもので、ロバート・コヘインジョセフ・ナイによる研究業績が代表例である。またリアリズムネオ・リアリズム)的な分析としては、ロバート・ギルピンスティーヴン・クラズナーらものが挙げられる。
  • 20世紀後半以降、環境問題の顕在化とともに、いくつかの異なる文脈でpolitical ecology(ポリティカル・エコロジー)という言葉が使われるようになってきた。そのうち学術的な意味でのPolitical ecologyは単に「政治的なエコロジー」あるいは政治生態学ではなく、political economyのもじりとされるとともに、実質的にも特に従属理論や世界システム論を念頭に置いた意味での政治経済学の環境版とされている。なお、日本ではpolitical ecologyは、政治経済学や環境経済学、政治学よりも環境社会学での紹介・受容が進んでいる。

脚注[編集]

  1. ^ 「公共選択論」は伝統的にはヴァージニア学派のものを指し、社会選択やゲーム理論を厳密に用いようとするローチェスター学派の合理的選択アプローチ (実証政治理論) に比較すると、ミクロ経済学やゲーム理論をやや軽めに用いることが多かった。たとえば個人レベルの選好やコストまでに溯ることなしに、意思決定その他のコストやアクターの合理性にアドホックな仮定 (獲得予算最大化など) を置くこともあった。

関連項目[編集]