戦術曳航ソナー

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AN/SQR-18A(「くらま」搭載機)

戦術曳航ソナー・システム英語: TACtical Towed Array Sonar System, TACTASS)は、アメリカ海軍が開発した水上艦用ソナー・システム。また、これに準じた機種が西側諸国海軍で広く配備された。TACTAS (TACtical Towed Array Sonar)とも称される。

来歴[編集]

戦術曳航ソナー・システムは、音響測定艦装備のSURTASS (Survellance Towed Array Sonar System,サータス) のコンセプトを、一線の戦闘艦に導入するものであった。SURTASSは、長大な聴音アレイを曳航することで、自艦騒音から離れたところにソナー・システムを展開し、さらに艦体装備という束縛から解放されることにより、艦体装備のソナーでは不可能なほど大型の聴音アレイを形成できるというものであり、旧式の原子力潜水艦であれば100 kmの距離で探知できるという強力な探知能力を有していたが、極めて大掛かりであるので、専門の音響測定艦以外への装備はまったく不可能であった。

一方、アメリカ海軍の水上部隊が有する対潜火網は、大出力・低周波の艦首装備ソナーAN/SQS-23またはAN/SQS-26、一部艦ではさらにレイヤーデプス(水温躍層)下での探知を可能とする吊下式のSQS-35 IVDS (可変深度ソナー) をセンサーとして、火力としてはQH-50 DASHアスロックMk 32 短魚雷発射管より発射する短魚雷を指向することによって形成されていた。しかし、この当時、ソ連軍においては潜水艦発射巡航ミサイルの装備が進んでおり、これにより、ソ連海軍潜水艦の攻撃距離は飛躍的に増大した。SQS-26ソナーは極めて優秀なソナーではあったが、探知距離としては、実戦的環境下ではせいぜい10海里程度が限界であり、巡航ミサイル発射以前に敵潜水艦を探知・撃破できないことから、現在の対潜戦闘体制には重大な欠陥があることが判明しはじめていた。

これに対処するため、1960年代後半より、アメリカ海軍は対潜作戦をアクティブ・オペレーションからパッシブオペレーションに転換するよう志向するようになった。当時、艦装備のソナーはアクティブ・モードでの運用を主としていたことから、まずDASHによりパッシブ型ソノブイを投射する研究(DEStroyer JEZebel system, DESJEZ)が着手されたが、1969年のDASHの運用停止に伴って、有人でより汎用性の高いSH-2 LAMPS Mk Iヘリコプターが導入されたことにより、問題は一足飛びに解決されることとなった、続いて、収束帯 (CZ) を利用しての遠距離探知が可能な曳航ソナー・システムの戦闘艦への配備が計画された。これは、SURTASS計画と並行して、ETAS (Escort Towed Array Sensor) として開発されることとなった。

まず、初期の曳航ソナー・システムであるAN/SQR-15 TASSが、1973年から1974年にかけてブロンシュタイン級フリゲートなど一部の艦に実験的に配備された。しかし、これは装備艦の戦術的行動をあまりに大きく制約されることから、最終的に撤去されていた。この経験から、アメリカ海軍は、戦闘艦に装備した場合に、より柔軟な運用が可能であることが必要であると考えるようになり、これを反映して、計画名はのちに、戦術曳航ソナー・システムに変更された。

開発と配備[編集]

最初の生産型として、暫定的にSQR-18の開発要求が1974年になされたが、これは既に1968年より開発が開始されていたものであった。EDOによる最初の2つの試作品は1974年4月に完成し、モインスター (FF-1097)に装備された。ソナー・アレイは全長242m、直径8.26 cmで、各12mのセクション16個からなっている。これはそれぞれ異なる周波数を聴知するもので、VLF用が8個、LF用が4個、MF用とHF用が2個ずつである。最初のバージョンであるSQR-18A(V)1では、730mのケーブルを有するSQS-35可変深度ソナーの吊下体を利用して曳航していた。続くSQR-18A(V)2は、SQR-19の開発成果をバックフィットして、その曳航装置(OK-410)を使用しており、1.62 kmにおよぶケーブルによって曳航される。なお、COTS化されたSQR-18A(V)3は、のちにEDO 950として輸出にも供された。

戦術曳航ソナーの本命はSQR-19であり、その開発は1976年より本格化した。最初の実用試作機は1982年にムースブラッガー (DD-980)に装備されて試験を開始した。翌1983年には、12機の制作契約が締結された。ソナー・アレイや曳航装置などは基本的にSQR-18A(V)2と同様であるが、情報処理用のコンピュータが増強され、より優れたソフトウェアを使用することにより、飛躍的な性能向上を達成したとされている。SQR-19には、使用する処理装置に応じて、現在までに3つのバージョンの存在が知られている。SQR-19(V)1は、OJ-452(V)9コンソール2基と、OL-190(V)5音響処理装置1基を使用する。SQR-19(V)2は、OJ-452(V)8コンソール2基と、OL-190(V)4音響処理装置1基を使用する。SQR-19(V)3は、OJ-452(V)8コンソール2基と、OL-190(V)5音響処理装置1基を使用する。

これらのTACTASは、10ノット以下で運用できるものの、艦の運動は制限され、探知能力についても概略探知方位と虚像が同時に探知され、さらに艦首尾方向は不感域になるなど、用兵者には倦厭されるセンサーである。しかし1CZ(Convergence Zone、収束帯)域、2CZ域での探知能力は、外洋においては評価されるべきものであろう。その長距離探知能力は、新型の多用途ヘリコプター・システムであるLAMPS Mk IIIと組み合わせることにより、いかんなく活用されることとなり、のちに、新型のMk 116水中攻撃指揮装置、艦体装備のSQS-53またはSQS-56ソナーとともにAN/SQQ-89統合対潜戦闘システムを構成し、オリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートにおいては、その対潜戦闘コンセプトの中核的なセンサーとされた。ただし、沿岸海域での戦闘が重視されるようになったことから、TACTASによる長距離探知の機会が減り、また浅海域では運用も困難であることから、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の後期建造型(フライトIIA)では、LAMPSヘリコプターの運用設備と引き換えに撤去されている。

なお潜水艦に搭載されているTACTASSはSTASS(サブマリンタス)と呼ばれるが、性能的にはTACTASSと同様である。STASSの特徴は、STASSを展張した際、聴音捜索と同時に、潜水艦が自身の放射雑音レベルの測定に用いる点にある。

アメリカ国外における配備[編集]

カナダ海軍ハリファックス級フリゲートに装備するSQR-501 CANTASSは、SQR-19とほぼ同一であるとされている。また、スペイン海軍サンタ・マリア級フリゲートにはSQR-19が装備されているが、これは世界で初めての完成機の輸出であった。

なお、聴音に特化したTACTASSのコンセプトに対し、アクティブ・モードでの運用に対応した機種として、タレス・グループによってATAS (発展型はCAPTAS) が開発されている。これは、可変深度ソナーとしての性格も備えており、また、TACTASSよりも小規模な設備で運用できるが、聴音モードでの探知距離はTACTASSに劣るほか、これと組み合わされるスフェリオン・ソナーも、小型ゆえに性能的にはSQS-53よりも劣っていることから、小型艦に装備できるようになっている一方で、対潜システム全体の性能はやや抑えられたものとなっている。

えい航式パッシブソーナー[編集]

海上自衛隊が配備している曳航ソナーであるえい航式パッシブソーナーは、アメリカの戦術曳航ソナーにほぼ匹敵するものであるとされており、通称も同じTACTASSである。

日本では、昭和50年代中盤にかけて技術研究本部第5研究所などにおいて要素研究を重ねており、これを踏まえて1982年(昭和57年)度および1983年(昭和58年)度に試作が行なわれ、1983年(昭和58年)度より1984年(昭和59年)度に技術試験、1985年(昭和60年)度に実用試験が行なわれた。技術試験および実用試験のうち、吊下揚収性能・探知性能試験は特務艦「むらさめ」の艦上で行なわれ、良好な成果が得られた。このことから、1986年(昭和61年)度に86式えい航式パッシブソーナーOQR-1として制式化された[1]。これはアメリカのSQR-18A(V)2、また改良型のOQR-2はSQR-19におおむね匹敵するものとされている。

搭載艦[編集]

 アメリカ海軍
ノックス級フリゲート
(一部艦がSQR-18A(V)1を後日装備)
スプルーアンス級駆逐艦
(初期建造艦では後日装備、当初はSQR-18A(V)2、のちに順次SQR-19に換装)
オリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲート
(初期建造艦では後日装備、当初はSQR-18A(V)2、のちに順次SQR-19に換装)
キッド級ミサイル駆逐艦
タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦
(後期建造艦でSQR-19を装備)
 カナダ海軍
ハリファックス級フリゲート (SQR-501 CANTASS)
 海上自衛隊
ヘリコプター護衛艦「くらま」(AN/SQR-18A)
はつゆき型護衛艦 (OQR-1を後日装備)
あさぎり型護衛艦 (OQR-1)
むらさめ型護衛艦 (OQR-2)
たかなみ型護衛艦 (OQR-2)
こんごう型護衛艦 (OQR-2)
あたご型護衛艦 (OQR-2D-1)
あきづき型護衛艦 (2代) (OQR-3)
 スペイン海軍
サンタ・マリア級フリゲート (SQR-19)

参考文献[編集]

  1. ^ 技術開発官(船舶担当) 『技術研究本部50年史』(PDF)、2002年、72-115頁。2012年8月25日閲覧。