成田新法事件

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最高裁判所判例
事件名 工作物等使用禁止命令取消等請求事件
事件番号 昭和61年(行ツ)第11号
1992年(平成4年)7月1日
判例集 民集46巻5号437頁
裁判要旨
  1. 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法3条1項1号は、規制区域内に所在する建築物その他の工作物が多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供され又は供されるおそれがあると認めるときは、運輸大臣は、当該工作物の所有者等に対し、期限を付して当該工作物をその用に供することを禁止することを命ずることができるとしているが、これは、憲法21条1項に反しない。
  2. 憲法31条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではないが、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解される。
  3. 使用禁止命令をするに当たり、その相手方に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定がなくても、本法3条1項が憲法31条の法意に反するものということはできない。
大法廷
裁判長 草場良八
陪席裁判官 藤島昭 坂上寿夫 貞家克己 大堀誠一 園部逸夫 橋元四郎平 中島敏次郎 佐藤庄市郎 可部恒雄 木崎良平 味村治 大西勝也 小野幹雄 三好達
意見
多数意見 草場良八 藤島昭 坂上寿夫 貞家克己 大堀誠一 橋元四郎平 中島敏次郎 佐藤庄市郎 木崎良平 味村治 大西勝也 小野幹雄 三好達(以上2.3.について)、他は全員一致
意見 園部逸夫 可部恒雄(以上2.3.について)
反対意見 なし
参照法条
憲法31条、21条、22条、35条、新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法3条1項1号
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成田新法事件(なりたしんぽうじけん、最高裁1992年平成4年)7月1日大法廷判決、民集46巻5号437頁)は、「新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法」(以下成田新法という。現在の名称は「成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法」)に基づき、三里塚芝山連合空港反対同盟所有の通称「横堀要塞」に対して、成田新法3条1項1号に基づく工作物使用禁止命令が1979年昭和54年)以降毎年更新され出されたが、その使用禁止命令の取消と損害賠償を求めた事件である。本件においては、成田新法が集会の自由等を制限し違憲であるという主張とともに、使用禁止命令を運輸大臣が出すに当たり何らの事前手続が規定されていないことも憲法31条に反するという主張もあり、特に行政手続において憲法31条が適用されるのかどうかが特に問題となったが、最高裁はこの点についての判断を明示せず、成田新法は憲法31条の法意に反しないとして合憲にしたにとどまり、行政手続に憲法31条が適用されるのか、されるとしてどこまで保障されるのかといった論点はなお残ったままである。

事案の概要[編集]

1978年(昭和53年)、新東京国際空港(現成田国際空港)の開港にあたり、当初の開港予定日である3月30日を目前に控えた3月26日に、いわゆる過激派集団が新空港内に火炎車を突入させ、管制塔内に乱入したことから、空港の開港は延期され5月20日になった。これを受けて、議員提案によりこのような事態に対処するため、新空港等における暴力主義的破壊活動を防止するため、空港周辺の工作物の使用禁止や封鎖及び除去の措置を定めた「新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法」(現在の名称は「成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法」)が同年5月13日公布され、即日施行された。

そして、翌年の1979年2月には、三里塚芝山連合空港反対同盟所有の通称「横堀要塞」に対して、成田新法3条1項1号に基づく工作物使用禁止命令が1979年(昭和54年)以降毎年更新され出されたが、その使用禁止命令の取消と損害賠償を求めた事件である。第1審、第2審とも、使用禁止命令取消については、1年ごとの更新のため、期限が過ぎたため訴えの利益がなくなったとして訴えを却下し、国家賠償請求についても棄却した。

最高裁の判断[編集]

全員一致、上告棄却(憲法31条との関係で園部逸夫、可部恒雄の各意見がある)、1985年(昭和60年)度分の工作物使用禁止命令については訴え却下。

成田新法の工作物使用禁止命令の憲法21条22条29条35条については違反しないという判断とともに、31条について多数意見は以下のように判断した。

 憲法三一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。

 しかしながら、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。

 本法三条一項に基づく工作物使用禁止命令を総合較量すれば、右命令をするに当たり、その相手方に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定がなくても、本法三条一項が憲法三一条の法意に反するものということはできない。

として、成田新法3条1項が憲法31条の法意に反しないとした。

影響[編集]

本件の判決について、最高裁が憲法31条との関連で後の判例で数多く引用される。

関連項目[編集]