愛染明王

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愛染明王(『図像抄』〈十巻抄〉より)
Dharma Wheel
密教
仏教
金剛乗仏教
時代・地域
初期 中期 後期
インド チベット 中国 日本
主な宗派(日本)
東密
※は、「真言宗各山会」加入
- 古義真言宗系 -
高野山真言宗
東寺真言宗
真言宗善通寺派
真言宗醍醐派
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新義真言宗
真言宗室生寺派
- 真言律 -
真言律宗
台密
〈日本〉天台宗
信仰対象
如来 菩薩 明王
経典
大日経 金剛頂経
蘇悉地経 理趣経
思想 基本教義
即身成仏 三密 入我我入
曼荼羅 護摩
東密
古義広沢流 小野流新義
関連人物
東密
金剛薩埵 龍樹
龍智 金剛智 不空 恵果
空海
真言律
叡尊 忍性 信空
台密
最澄 順暁 円仁 円珍
ウィキポータル 仏教
役行者像にも見える、非常に珍しい愛染明王の石像(篠山市御嶽登山道の愛染窟内。NHK連続テレビ小説甘辛しゃん」(1997年放映)のロケ地にもなった。)
愛染明王(仏像図彙 1783年)

愛染明王(あいぜんみょうおう)は、仏教の信仰対象であり、密教特有の尊格である明王の一つ。梵名ラーガ・ラージャ(Ragaraja)は、サンスクリット経典にその名は見られないが、チベットの経典や儀軌には散見され、中でも、チベット密教四大宗派に共通する後期密教のテキストである「プルパ金剛」(梵名;キラヤ、金剛は漢訳の際の称号)の儀軌や次第(例えば『ドゥジョム・テルサル』の灌頂儀軌・次第を始め、『ドゥジョム・リンポチェ全集』のグル・デワ・ダキニの「三根本法解説」等々)にはプルパ金剛十大忿怒尊の一尊として「ラーガ・ラージャ」が登場するので[1]、愛染明王はインドにおいてもポピュラーな忿怒尊であったことが伺われる[2]

なお、この「プルパ金剛」の真言と印は、日本最古の次第書である『寛平法皇の次第書』(別名;小僧次第)にも尊名は無いが梵字で真言が登場し印相も述べられており[3]、古次第に共通の重要な作法ともなっているので、愛染明王は日本密教とチベット密教を結びつける尊挌の一つに挙げることができる。

密号は「離愛金剛」。愛欲(小欲)を離れ、大欲に変化せしむ、の意である。

目次

由来・経典 [編集]

金剛頂経類に属する漢訳密教経典の金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経 愛染王品第五[4]に由来し、息災・増益・敬愛・降伏のご利益をもって説かれ、「能滅無量罪 能生無量福」とも説かれている。また、同経典で「三世三界中 一切無能越 此名金剛王 頂中最勝名 金剛薩埵定 一切諸佛母」とも讃えられ、これに基づいて金剛界で最高の明王と解釈される場合がある[5]

像容と信仰 [編集]

衆生が仏法を信じない原因の一つに「煩悩・愛欲により浮世のかりそめの楽に心惹かれている」ことがあるが、愛染明王は「煩悩と愛欲は人間の本能でありこれを断ずることは出来ない、むしろこの本能そのものを向上心に変換して仏道を歩ませる」とする功徳を持っている。

愛染明王は一面六臂で他の明王と同じく忿怒相であり、頭にはどのような苦難にも挫折しない強さの象徴である獅子の冠をかぶり、叡知を収めた宝瓶の上に咲いたの華の上に結跏趺坐で座るという、大変特徴ある姿をしている。

もともと密教における蓮華部の敬愛を表現した仏であるためその身色は真紅であり、後背に日輪を背負って表現されることが多い。 また天に向かって弓を引く容姿で描かれた姿(高野山に伝えられる「天弓愛染明王像」等)、馬に乗る八臂像(日蓮筆「愛染不動感見記」等)、双頭など異形の容姿で描かれた絵図も現存する。

愛染明王信仰はその名が示すとおり「恋愛・縁結び・家庭円満」などをつかさどる仏として古くから行われており、また「愛染=藍染」と解釈し、染物・織物職人の守護仏としても信仰されている。さらに愛欲を否定しないことから、古くは遊女、現在では水商売の女性の信仰対象にもなっている。

日蓮系各派の本尊曼荼羅)にも不動明王と相対して愛染明王が書かれているが、空海によって伝えられた密教の尊格であることから日蓮以来代々梵字で書かれている。なお日蓮の曼荼羅における不動明王は生死即涅槃を表し、これに対し愛染明王は煩悩即菩提を表しているとされる。

軍神としての愛染明王への信仰から直江兼続は兜に愛の文字をあしらったとも考えられている[6]

真言 [編集]

金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経 一切如来金剛最勝王義利堅固染愛王心品第二 [編集]

Om maha raga vajro snisa vajra satva jah hum bam hoh
オン マカ ラギャ バゾロ シュウニシャ バザラ サトバ ジャク ウン バン コク

金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経 愛染王品第五 [編集]

Hum taki hum jah
ウン タキ ウン ジャク

その他 [編集]

Hum siddhi
ウン シッチ

起源 [編集]

愛染明王(あいぜんみょうおう)の起源は、その梵名「ラーガ・ラージャ」を直訳すると「旋律の王」となる[7]。ここでいう「旋律」とはインド伝統の音楽の概念であって、西洋音楽とは異なり、密教に伝わる声明(しょうみょう)と同じルーツを持つ。密教の四種法である「敬愛法」は俗に鈎索鎖鈴(こうさくされい)と言われるように、対象に対して音楽を聞かせてよい気持ちにさせて引き寄せるところからインド音楽の「旋律」に譬えてこの名がある[要出典]愛染明王の経典が漢訳された当時の中国ではインド音楽に対する認知度は低く[要出典]、「ラーガ」の語には他に赤色や愛欲等の意味もあるため、「旋律」への愛縛(あいばく)を愛染に換えて「愛染(明)王」という訳語を用いたとも考えられるが[要出典]、学説的には不明である。

寺院 [編集]

愛染明王は守護尊(明王などの力のある尊挌を脇持や念持仏とすること)として祀られることが多いが、以下のように本尊としている例も存在する。

愛染明王を本尊とする寺院
その他、愛染明王を祀る代表的な寺院

美術館等 [編集]


脚注 [編集]

  1. ^ 『ドゥジョム・テルサル』はドゥジョム・リンパ(1835-1904)のテルマ(埋蔵経)で、ネパール版の『ドゥジョム・リンポチェ全集』にも収められている。この版は、ドゥジョム・リンポチェ(1904-1987)の校訂本であるが、原本はドゥジョム・リンパの発見によるサテル(地下の埋蔵経)の写本であり、伝承によるとグル・パドマサンバヴァ(漢名:蓮華生大師、8-9世紀)の直弟子であった女性の瑜伽行者イェシェ・ツォギャルの手になるものとされている。密教では、不空三蔵の伝えた金剛頂経の十八会にわたる経典の説話のように伝承の事項であっても、それが考古学や文献学によって考証や否定の証明がなされない間は、伝承を重んじ、一応それを目安としておくことになっているので、ここでは伝承上の資料とする。チベット密教では、インド伝来のニンマ派・サキャ派・カギュ派の三宗派が、いずれもこの「プルパ金剛法」を歴史上のグル・パドマサンバヴァの伝授によるとし、後のインド密教の資料も伝来している。ただ、プルパ金剛という尊格は、その梵名を「キラヤ」と言い、チベット密教での通常の呼び名を「プルパ」と言う様に、一般にテントを張る際の四隅に打ち込む「杭」に相当する密教の法具である「金剛橛」(こんごうけつ;プルパ杵、漢訳:普巴杵)と呼ばれる法具に起因することは、尊格の三昧形が「金剛橛」であることや、この尊格が中央の左右の第一手に「金剛橛」を手にして描かれることからも明らかである。現在の日本密教の事相は鎌倉時代に復興してできたものであるため、この「金剛橛」に馴染みがないが、グル・パドマサンバヴァと同時代の弘法大師空海の『御請来目録』によると、五鈷鈴・五鈷杵・三鈷杵・独鈷杵等の法具と共に「橛」(けつ:金剛橛のこと、現在は主に真鍮製が多いが当時は調伏を目的とするため鉄製)の名が記され、弘法大師空海の御請来になる現物は存在しないが鎌倉時代初期の写しが東京国立博物館に所蔵(非公開)されていて、チベット密教の伝承する法具に近い形をしていることからも、プルパ金剛と「プルパ金剛法」の発生の古さが伺われる。現在の日本密教が伝承する「橛」は、鎌倉時代から江戸時代に作られた装飾性を重視し蓮華をモチーフとした「八葉型」(はちようがた)と呼ばれる木製のものが主流であり、弘法大師空海の御請来型とは異なる意図の造形と材質をしているので、チベット密教の法具である「金剛橛」に違和感を抱く人も多い。しかし、例えばチベット密教特有の法具と思われている「九鈷杵」や「九鈷鈴」は、既に平安末期に日本に輸入されて現在はいずれも重要文化財に指定されており、日本密教でも秘仏とされる「大威徳明王」(ヤマーンタカ)の修法に東寺醍醐寺で使われていたので、今後は「プルパ金剛」とそのテキストの考証や法具の見直しによって、日本でも「九鈷杵」や「金剛橛」が一般に知られるようになると考えられる。
  2. ^ この項は、『秘宝 第6巻 東寺』・『秘宝 第8巻 醍醐寺』を参照。
  3. ^ 『寛平法王御作次第集成』を参照のこと。現在の次第では短かい真言が伝えられ、通称を「キリ呪」とも言う。
  4. ^ サンスクリット原典は発見されていない。
  5. ^ これに対して不動明王は胎蔵界で最高の明王と解釈される場合があり、たとえば浅草寺では両界の最高の明王として不動明王(胎蔵界)・愛染明王(金剛界)の両尊が祀られている。
  6. ^ 【イチから分かる】直江兼続 「信義ある智将」に残る謎 (3/4ページ) 産経ニュース 2009.5.6
  7. ^ 「ラーガ」は旋律のこと、インド音楽の旋律の「ラーガ」についてはWikipediaの「ラーガ」を参照のこと。また、「ラージャ」の意味は「王様」のことをいう。

参考文献 [編集]

  • 『寛平法皇御作次第集成』、武内孝善著、東方出版刊。
  • 『小僧次第』、古写本。
  • 『秘宝 第6巻 東寺』、佐和隆研著、講談社刊、昭和42年(1967年)。
  • 『秘宝 第8巻 醍醐寺』、佐和隆研著、講談社刊、昭和42年(1967年)。

関連項目 [編集]