応力拡大係数
応力拡大係数(おうりょくかくだいけいすう、Stress Intensity Factor)
とは、破壊力学において、き裂の先端付近の応力状態をより正確に予想するために使われる係数である。応力拡大係数は均質な弾性金属材料で使われる理論であり、脆性破壊判定の基準として有用である。
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限界値 [編集]
応力拡大係数は、脆性破壊が始まる破壊靭性
と、それ以下ではき裂の成長が極めて遅くなる下限界応力拡大係数を持つ。下限界応力拡大係数は、疲労に対する下限界応力拡大係数
と、応力腐食割れの下限界応力拡大係数
の2種類が存在する。これらの限界値は材料定数であり、実験的に求まるものである。
もし、一度
となり脆性破壊によるき裂の進行が始まると、き裂は極めて速い速度で伝播し、瞬間的に破断に至る。脆性破壊による重大事故として知られるものの中に、1943年、アメリカで起きたタンカー、スケネクタディー号の事故が有るが、これは静かな港内で突然真っ二つに割れるという劇的なものであった。こうした経験から、 限界応力拡大係数
は、破壊力学において重視され、最もよく使われる工業設計パラメータのひとつである。
応力場 [編集]
き裂を進展させる荷重は図1の開口形(モードI )、面内せん断形(モードII )、面外せん断形(モードIII )、あるいはその重ね合わせとして分類される。ここで言う面内、あるいは面外とは、き裂進展方向にx軸を、き裂面に垂直にy軸を設定した時の、x-y平面を基準とする呼び方である。応力拡大係数はそれぞれのモードに対し個別に定義され、
、
、
と表記される。
き裂近傍の点(
)における応力場は、これら3つの荷重モードの重ね合わせであり、式(1)で表される。
…式(1)
: 応力成分
: モードごとの応力拡大係数
: モードごとに、き裂先端との相対位置、応力成分によって定まる既知の関数
: き裂先端からの距離
: き裂進展方向と、き裂先端と点(
)を結んだ線のなす角度
ただし、応力拡大係数
に対し特異性を持たない
は式(1)に含まれない。
もし応力が既知であるなら、式(1)から応力拡大係数を求めることが出来る。
近似解 [編集]
応力拡大係数
は、き裂の大きさや形状、き裂からの距離、荷重のモデルとその大きさに依存する場の関数で、式(2)のように表現される。
…式(2)
: 公称応力
: き裂先端の曲率半径
: き裂の大きさ
しかし、通常問題になるのはその最大値であり、
のケースが主題となる。この時、応力拡大係数
はき裂の長さと荷重モデルの関数となり、図1において長さaのき裂の入った部材についての応力拡大係数は式(3)で示される。ただし、x方向はき裂の成長方向、y方向はき裂面に垂直方向である。
…式(3)
:
の公称応力
:
の公称応力
:
の公称応力
制限 [編集]
応力拡大係数は、他の工学パラメーターと同様に適用範囲に制限が存在する。応力拡大係数を用いて、き裂の評価をする際には、下記の条件を満たしているか注意を払う必要がある。
- 線形弾性体と仮定しうる材料であること。
- 小規模降伏状態にあること。小規模降伏状態とは、き裂先端部に塑性硬化部を持ち、かつその塑性域寸法がき裂寸法に対し十分に小さく、き裂先端を除けば弾性変形をしていると見なし得る状態のことである。
- 二次元的変位場と見なし得ること。
参考文献 [編集]
- The Stress Analysis of Cracks Handbook by Hiroshi Tada, P. C. Paris, and George Rankine Irwin; American Society of Mechanical Engineers; 3rd edition (February, 2000).