心神 (航空機)

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ATD-X 心神

心神(しんしん)は、日本防衛省技術研究本部(技本)が三菱重工業を主契約企業として開発を行っている先進技術実証用の航空機。正式名称は先進技術実証機(Advanced Technological Demonstrator-X, ATD-X)である。

目次

[編集] 概要

本機は将来の国産戦闘機に適用できる先進的な要素技術を実証をするために開発されるステルス研究機である。防衛省は「将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン」でF-2戦闘機の後継機に国産戦闘機を選択肢に入れるための先進軍事技術の研究開発の必要性を訴えており[1][2]、本機の開発により将来の国産戦闘機開発に繋がる先進的な要素技術の妥当性が実証され、その後も国産戦闘機開発に対する政治的・財政的・軍事的・技術的妥当性が認められれば、政府による正式な決定を経て国産戦闘機の開発が開始されることになる。

本機の開発においては、既に様々な研究開発で獲得した技術を投入して実物大模型のRCS試験や5分の1縮小サイズ無人モデルの飛行テストを成功させており、2009年(平成21年)度から実機の開発が始まっている。2014年(平成26年)度頃に三菱重工業社内での初飛行、2015年(平成27年)度頃に技本と航空自衛隊での飛行試験が予定されており、2016年(平成28年)度頃の開発完了を目指している。

[編集] 開発経緯

といった軍事における先進諸国の主力戦闘機の開発と配備は、ステルス性と高運動性能を備えた第5世代戦闘機に移っている。これまでにF-117 攻撃機B-2 戦略爆撃機といったステルス機を開発し運用してきたアメリカでは、本格的な第5世代機であるF-22 戦闘機の実戦配備を進めている他、F-35 戦闘機の飛行試験も開始している。またロシアではPAK FAを開発中であり、戦闘機開発能力を持つその他の国でも第5世代機に関する研究が行われている。

このような状況を受けて日本も将来の国産戦闘機開発を視野に入れた要素技術の研究開発に着手しており、それらの技術を実証するためにATD-Xと呼ばれる飛行試験用の実証機を製作する事になった。実証機の開発により航空自衛隊の防空レーダーなどにステルス機が実際どのように映るかを独自に解明し、高度な探知能力とステルス性と運動性を持つ将来国産戦闘機の実現を目指している。

第5世代戦闘機では多方向からの多様な脅威に対処する能力が必要となっており、レーダーや赤外線センサーなどの電子機器の性能向上が求められるが、戦闘機という機体の大きさの制約上、搭載する電子機器の大きさや消費電力、冷却能力も制約される。デジタル技術の発達速度は今後も続くと期待され、例えば米国製のF-22やF-35といった機体では、将来実現される技術の発展に伴って容易に搭載機器の性能向上が行えるようにモジュール方式で搭載されており、日本でも様々な研究試作が行われている。

[編集] 特徴

[編集] 機体の外形と構造

本機は双発機であり、低RCS(Radar Cross Section、レーダー断面積)を実現する為に、機体側面にチャイン(ストレーキ)を持ち、2つの垂直尾翼を外傾させ、機体構造部の多くに新複合材料が採用されている。機体サイズは約14mとなる見通しであるが、本機がF-22の全長18.92mに対して大幅に小型なのは、「研究実証機」という特性上、約8トンの離陸重量を実現する実証エンジンとこれに見合った機体規模で十分であるからである。また、機体形状は研究と試験の経過次第で、実用機の開発に至るまでに理想的なものへと変更される可能性があり、例えば本機では開発費を抑えるため、キャノピーF-1のものを流用するなどしている。

技本はRCS研究の一環として、実際に飛行する機体の大きさを持つ、本機の実物大RCS試験模型を三菱重工で制作し、2005年(平成17年)にフランス国防装備庁の電波暗室で電波反射特性の試験を行った。この試験において、実物大RCS試験模型は、レーダー画面では中型の鳥より小さく昆虫よりは大きく分析表示されるだけのステルス性を確保した[3]。この実物大RCS試験模型の写真は、2006年5月に技本ホームページ(外部リンク参照)に掲載され、初めて本機の姿が披露された。尚この試験は当初、米空軍の施設にて行う予定であったが、アメリカ側の許可が下りなかった為止むを得ず、フランス国防装備庁へ依頼したという経緯がある。

2006年春には実物大RCS模型の5分の1縮小サイズ無人モデル(炭素繊維強化プラスチック製・全長3m・全幅2m・重量45kgと想定される)が初飛行した。この機体は4機製作されており、飛行実験は北海道大樹町多目的航空公園で2007年11月まで計40回行われ、遠隔操作や自律飛行などの実証検証が行われた。この飛翔実験で得られたデータは技本で解析され心神の実機開発に利用されていると想定される。

2006年11月9日10日には東京都内において、平成18年度研究発表会が開催され、本機の32分の1スケール模型と「心神」の名称が発表された。マスメディアへの露出では、まず『航空ファン』2007年2月号が心神の特集記事を掲載し、次いで2007年8月11日付の中日新聞朝刊も1面トップ記事にて心神に関する報道を行った。テレビでは8月24日FNNスーパーニュースが独占報道として、心神の機体・エンジン・推力偏向装置・縮小模型をテレビ初公開した。5分の1縮小サイズ無人モデルの飛行実験は2007年(平成19年)9月11日に報道陣に公開された。

当初、心神の本開発は2008年(平成20年)度から開始する予定であったが予算計上は認められず、「高運動ステルス機技術のシステムインテグレーションの研究」として、概算要求の半額以下である70億400万円のみ認められた。そして、翌年の2009年(平成21年)度防衛予算で85億円の予算が認められ、技本において「先進技術実証機(高運動ステルス機)」の名目で、総額394億円をかける心神の本開発がスタートした。2009年(平成21年)度から2014年(平成26年)度まで研究試作を行い、2010年(平成22年)度から2016年(平成28年)度までに試験を実施し、心神の開発を完了する予定である[4]。開発2年目の2010年(平成22年)度予算では228億円が認められている。

[編集] センサー

心神に搭載する電子機器で特徴的ものとしては、機体に張り付ける薄いレーダーであるスマートスキンセンサが採用されたことである。これは1998年(平成10年)度から2003年(平成15年)度まで行われた「コンフォーマル・レーダ・システムの研究」の成果を基に開発されており[5]2006年(平成18年)度から、軽量・高強度な新複合材の胴体構造への適用に関する「将来小型航空機への適用技術に関する研究(スマートスキン機体構造の研究試作)」が開始された。2010年(平成22年)度にかけて試作、2011年(平成23年)度の完了を予定している。

もう一つのセンサとして、2002年(平成14年)度から2010年(平成22年)度まで、レーダ、ESM、ECM、通信の複数の機能を一つのアンテナで実現可能な高性能フェイズド・アレイ・レーダー「多機能(スマート)RFセンサの研究」が行われている[6]。さらに心神の次の段階の実用戦闘機への搭載を目指して、これを発展させてIRST機能も付加した「先進統合センサ・システムに関する研究」が2010年(平成22年)度から2016年(平成28年)度まで行われている[7]

[編集] アビオニクス

心神の実機開発に先立って、技本技術開発官(航空機担当)付第3開発室は、2000年平成12年)度から2008年(平成20年)度まで、三菱重工を主契約者として、優れた運動性能を備えると共に、レーダーに探知されにくい戦闘機の飛行制御等に関する研究として、「高運動飛行制御システムの研究試作」を三菱とともに開始し、ステルス性を高める為の低RCSな機体形状設計技術、通常の戦闘機では飛行不能な失速領域でも機体を制御し、高運動性を得るIFPC技術などの研究を行った。

飛行制御やマンマシンインターフェースには、技本が三菱電機を主契約として2002年(平成14年)より開始した「将来アビオニクスシステム研究試作」が反映される。試作、所内試験は2005年(平成17年)から2006年(平成18年)にかけて行われ、事業完了は2010年(平成22年)を予定している。[8]。パイロットやマシンによって入力された情報は、XP-1 次期固定翼哨戒機にも使用されたフライ・バイ・ライト (FBL) を経由して機体各部に伝えられることになる。

[編集] エンジン

搭載エンジンは、技本がIHIを主契約企業とした「実証エンジンの研究」によって開発された実証エンジンXF5-1である。XF5-1はアフターバーナーを備えたターボファン方式のジェットエンジンであり、推力重量比8程度、2基搭載時に推力合計約10t程度を発揮し、将来の国産戦闘機開発に繋げるものとしてF3エンジンの経験を基に開発された。1995年(平成7年)度から1999年(平成11年)度まで5回に分けて147億円で開発契約を結んで開発が開始され、研究試作は1995年(平成7年)度から2000年(平成12年)度まで、所内試験は1997年(平成9年)から2008年(平成20年)度まで行われ、燃焼器などの性能の高さを証明して開発を終了した[9]。技本へは1998年(平成10年)6月に初号機を納入、2001年(平成13年)3月までに計4基が引き渡された。XF5-1の研究成果の一部は、XP-1XF7-10エンジンへ移転している。

XF5-1に設置される推力偏向機構とレーダーブロッカ等は、三菱重工を主契約とした「高運動飛行制御システムの研究試作」によって開発されたものである。高運動飛行制御システムは、通常の戦闘機では制御不可能な失速領域においても機動制御を維持し、かつ高運動性を確保するもので、XF5-1の噴射口に3枚の推力偏向パドルを取り付けている。研究試作は2000年(平成12年)度から2007年(平成19年)度まで、所内試験は2002年(平成14年)度から2008年(平成20年)度まで行われ開発を終了した[10]。この開発スケジュールの中で、2003年(平成15年)度に試作品が製作され、2007年(平成19年)3月9日の完成審査において技本により妥当の判断を行われ、同年秋より浜松基地航空自衛隊第1術科学校にて試験が行われた。

これらの実証エンジンの開発成果を基に、心神の次の段階である実用戦闘機用エンジンの実現を目指して、先行的に2010年(平成22年)度から「次世代エンジン主要構成要素の研究」が始まっており、さらなる高推力重量比を目指して、エンジンコア部(高温化燃焼器、高温化高圧タービン、軽量圧縮機)の研究が始まっている。研究終了は2015年(平成27年)度を目指している。

[編集] 主要諸元

大きさは全機実大RCS試験模型の物[1]*。

  • 全長:14.174m
  • 全幅:9.099m
  • 全高:4.514m
  • 離陸重量:8t
  • エンジン:IHI XF5-1(アフターバーナー推力約5t)×2

[編集] 脚注

  1. ^ 「将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン」について 防衛省 2010年8月25日
  2. ^ 将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン~将来の戦闘機に必要な技術~ 防衛省技術研究本部
  3. ^ FNNスーパーニュース2007年8月24日
  4. ^ 「元気な日本復活特別枠」要望事項別説明資料「装備品など試作」 防衛省
  5. ^ 平成16年度 事後の事業評価 政策評価書一覧「コンフォーマル・レーダ・システムの研究」 防衛省
  6. ^ 外部評価書スマートRFセンサの研究 防衛省技術研究本部
  7. ^ 平成21年度 事前の事業評価 評価書一覧「先進統合センサ・システムに関する研究」
  8. ^ 海人社『世界の艦船』2007年5月号の航空装備研究所の紹介記事に、将来航空機用マン・マシン・インターフェイスを戦術環境で評価できるコックピット評価装置の写真が掲載されており、これが心神に搭載される電子機器の母体になると見られている。特徴としてはF-35と同様に大型液晶ディスプレイが採用されており、同じくヘッドマウントディスプレイの採用を前提に開発しているためかHUDを装備していない
  9. ^ 平成21年度 事後の事業評価 評価書一覧 「実証エンジンの研究」 防衛省
  10. ^ 平成21年度 事後の事業評価 評価書一覧 「高運動飛行制御システムの研究」 防衛省

[編集] 参考文献

  • 航空ファン』2007年2月号、2008年3月号 文林堂
  • 『J-Wings』2007年4月号(他各号) イカロス出版
  • 『中日新聞』2007年8月11日付朝刊 中日新聞社
  • 『「心神」飛翔への道:国産戦闘機とFX選定』日本経済新聞夕刊連載・2008年12月1日(月)~22日(月)[土・日を除く全16回]

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

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