心の理論
心の理論(こころのりろん、英: Theory of Mind)は、ヒトや類人猿などが、他者の心の動きを類推したり、他者が自分とは違う信念を持っているということを理解したりする機能。類似の概念は古くから断片的に想定されていたが、心の理論という用語は1978年にデビッド・プレマックとガイ・ウッドラフによる論文 "Does the chimpanzee have a theory of mind?" (チンパンジーには心の理論があるのか?)において初めて使用され、体系化された。
プレマックらはチンパンジーにも心の理論が存在すると主張したが、霊長類学者マイケル・トマセロらは批判的である。チンパンジーに心の理論が存在するか(以下の誤信課題をクリアできるか)どうかは議論が続いている。
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検査法 [編集]
検査は4-10歳頃までの子供を対象に、イラスト・人形等を使って行う。内容は「自分はある事実を知っているが、それを知らない他者はどう考えるか?」を問うもの。これを誤信課題(標準誤信課題)という。主な検査としては、以下の二つがある。
サリーとアン課題 [編集]
- サリーとアンが、部屋で一緒に遊んでいました。
- サリーはボールを、かごの中に入れて部屋を出て行きました。
- サリーがいない間に、アンがボールを別の箱の中に移しました。
- サリーが部屋に戻ってきました。
- 「サリーはボールを取り出そうと、最初にどこを探すでしょう?」と被験者に質問する。
正解は「かごの中」だが、心の理論の発達が遅れている場合は、「箱」と答える。
スマーティ課題 [編集]
- 前もって被験者から見えない所で、お菓子の箱の中に鉛筆を入れておく。
- お菓子の箱を被験者に見せ、何が入っているか質問する。
- お菓子の箱を開けてみると、中には鉛筆が入っている。
- お菓子の箱を閉じる。
- 「この箱をAさん(この場にいない人)に見せたら、何が入っていると言うと思う?」と質問する。
正解は「お菓子」だが、心の理論の発達が遅れている場合は、「鉛筆」と答える。
多くの場合、4、5歳程度になると、この2問に正解できるようになるが、心の理論の発達が遅れていると、他者が自分とは違う見解を持っていることを想像するのが難しいために、自分が知っている事実をそのまま答えてしまう。
心の理論の障害が想定される自閉症の子供は、高年齢になっても誤答する割合が高い。ただし、知的障害を伴う低機能自閉症の場合、質問の意味自体を理解できていない場合もある。
心の理論の発達 [編集]
- 18か月までに、「ふり」ができるようになる。
- 4歳までに、だますことが可能になる。精神遅滞の子供と自閉症の子供に、「箱の中にあるお菓子を他人に取られないようにする」という指人形の芝居を行ったところ、精神遅滞の子供では「騙し」と「サボタージュ」という方略をとることができたが、自閉症の子供では精神年齢を統制しても、「騙し」のみ成績が不良であった。
心の理論の神経基盤 [編集]
実証的な研究では、サルによる神経細胞活動の記録実験や、ヒト及びサルの脳機能イメージングによって、心の理論に関係する中枢領域が判明してきた。
サイモン・バロン=コーエンは、他者の心を読むための機構として、意図検出器(Intentionality Detector:ID)、視線検出器(Eye-Direction Detector: EDD)、注意共有の機構(Shared-Attention Mechanism: SAM)、心の理論の機構(Theory-of-Mind Mechanism: ToMM)という4つの構成要素を提案している。
また、心の理論は進化の過程でヒトにおいて突然発生したものではなく、他の生物でもその原型となる能力があるのではないかと考えられている。それらの能力としてC.D.フリスらは、
- 生物と非生物を区別する能力
- 他者の視線を追うことによって注意を共有する能力
- ゴール志向性の行動を再現する能力
- 自己と他者の行動を区別する能力
の四つを挙げている。
また彼らは、心の理論は脳の特定の局所部位の働きのみで成り立っているのではなく広範なネットワークで成り立っているのだろうとしながらも、特に心の理論を支える基盤となっている可能性のある部位として、上側頭溝(STS)、下外側前頭前野および前部帯状回/内側前頭前野を挙げている(右図)。
- STSでは、非生物の動きには反応しないのに顔や手の動き(biological motion)に対して反応する神経細胞が見出されている。また、STSには特定の方向への視線に反応する細胞や、他者が発した音や視覚には反応するが、自分で発した場合には反応しない細胞が見出されている。
- サルの腹側運動前野(F5)において、自己がゴール志向性の運動を行ったときにも、他者が同様の運動をしているのを見たときにも活動する神経細胞がある。これらはまるで鏡のように活動することから「ミラーニューロン」と名付けられている。この働きにより、他者の行動を心の中でリハーサルすることで追体験できると考えられている。ただし、サルにおいて心の理論に相当する能力があるのか問題であり、ミラーニューロンの機能と併せて議論の対象となっている。ヒトでは、この領域に相当するのは下外側前頭前野つまりブローカ野の一部(44野)に相当すると言われている。
- 前部帯状回/内側前頭前野は、自らの感情を自覚する課題を施行中に血流増加するという報告があり、情動の主座である辺縁系と前頭前野を連絡する働きがあると推測されている。
参考文献 [編集]
- “Inside the mind reader's tool kit: projection and stereotyping in mental state inference”. Journal of personality and social psychology 87 (3): 340-53. (2004). PMID 15382984.
- “Does the chimpanzee have a theory of mind?”. The Behavioral and Brain Sciences 1 (4): 515-526. (1978).
- "Interacting minds--a biological basis." (C.D.フリスによる総説)
- Heyes, C. M. (1998年). Theory of mind in nonhuman primates. Behavioral and Brain Sciences 21 (1): 101-134.
- サイモン・バロン=コーエン『自閉症とマインド・ブラインドネス』長野 敬・長畑正道・今野義孝訳、青土社、2002年。
- 板倉昭二「他者の心:メンタライジングを中心に」『認知科学への招待』大津由紀雄・波多野誼余夫編、研究社、2004年。
関連文献 [編集]
日本語のオープンアクセス文献
- 板倉 昭二 「霊長類における「心の理論」研究の現在」 霊長類研究, Vol. 15 (1999) No. 2 pp.231-242
- 鈴木 貴之 「 「心の理論」とは何か」 科学哲学, Vol. 35 (2002) No. 2 pp.83-94
関連項目 [編集]
外部リンク [編集]
日本語のページ
英語のページ
- (文献リスト)「Theory of Mind and Folk Psychology」 - 「心の理論と素朴心理学」について論じた文献のリスト。サイトPhilPapersより(英語)
