安全帯

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安全帯を使用した高所作業のようす

安全帯(あんぜんたい)とは、高い場所で作業を行う場合に使用する命綱付きベルトのことである。大まかには、命綱としてのロープ部分と、それを支持物に固定するためのフック、および墜落時に人体を保持するためのベルトから成っているが、人体の保持のためにロープだけではなくベルトも併用する点が「安全帯」という名の由来である。

安全帯使用の法的根拠[編集]

労働安全衛生法第21条2項は、「事業者は、労働者が墜落するおそれのある場所、土砂等が崩壊するおそれのある場所等に係る危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。」と定めており、同法省令の労働安全衛生規則第518条が、安全帯の使用について具体的に定めている。

墜落の危険性のある高所作業の原則として、「事業者は、高さが二メートル以上の箇所(作業床の端、開口部等を除く。)で作業を行なう場合において墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない。」(規則第518条1項) との定めがあるが、そうした「作業床を設けることが困難なときは、防網を張り、労働者に安全帯を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。」(規則第518条2項)と、安全帯の使用を明確に求めている。

安全帯の種類[編集]

一本吊り専用[編集]

胴ベルト型(旧:A種安全帯)
ベルトにランヤードを接続しただけのシンプルな安全帯である。最も基本的なタイプであり、日本では現在でも広範に使用されている。ランヤードどは、開閉できるフック、ベルトに通すためのD環や角環、B環などのベルト金具、そのフックと金具を繋ぐ綱、の一式をいう。綱はショックアブソーバ付きの巻取り式のタイプのものもある。フックは構造物、足場単管パイプに通す必要があるため比較的大きくなっている。腰への負担を減らすために、パッドを詰めたうえ幅も幾分広く取られたサポーターベルトや、胴に巻きつける補助ベルト、肩掛けベルトを併用することもある。
ハーネス型
「フルハーネス型」ともよばれる、胴部の他に腿や肩にもベルトを通し、全身を保持する格好の安全帯である。ハーネス型は胴ベルト型と比較した際、抜け落ちる心配が無い点、墜落時の荷重が胴部に集中しない点(内臓や脊髄の損傷が生じにくい)、吊られた際も自然な姿勢が保てるという点が優れていると言える。このため、諸外国においては安全帯といえばハーネス型が常識とされているが、近年は国内においても鉄塔工事や高層建築の現場を中心にその普及を見せている。なお、平成14年には厚生労働省「安全帯の規格」にもハーネス型の項目が盛り込まれた。フルハーネス型の使用の注意点として、ランヤードは必ずショックアブソーバ付きのものを選択することが挙げられる。
傾斜面用・垂直面用

U字吊り専用[編集]

主に電柱に登っての柱上作業などに使う。ランヤードは開閉できるフック、綱、綱の長さを調節できる伸縮調整器、ベルト金具(おもに角環)の構成になっている。さらに安全帯を体に装着したときの角環の位置の逆側(角環が右腰のときは左腰)にD環金具をベルトにつける。フックと綱を電柱にぐるっと回して、フックをD環に接続することで安全確保を行う。フックは比較的小さいタイプのものが使われる。

一本吊り・U字吊り兼用 (旧:D種安全帯)[編集]

安全帯の使用方法[編集]

親綱について[編集]

  • 親綱緊張器

使用上の注意[編集]

  • 胴部ベルトは腰骨の上で締めること。それより低位置であると抜け落ちの恐れが、高位置であると墜落時に内臓を圧迫する恐れがある。
  • 安全帯を使用しない場合、ランヤードは収納袋に入れるか首に掛けておくこと。ロープが出たままであると、引っ掛けて転倒・墜落事故のもととなる。
  • 胴ベルト型の場合、D環は身体の横より後方に来る様に調節すること。D環が身体の前方に来ていると墜落の際、腹部を頂に身体が折れ曲がる形となって危険、且つ後遺症のもととなる。
  • フックはD環より高い位置に掛けること。それより低い位置に掛けると落下距離が増大して危険である。また、墜落の際に下方の障害物と接触しない位置にする必要があるが、ショックアブソーバ付の製品を使用している場合は より落下距離が大きくなるので、特に注意が必要である。
  • 墜落時の衝撃によってフック本体が折れ曲がらない様な掛け方をすること。支持物に奥まで通さず、先端(外れ止め装置付近)のみで掛けることも禁止事項である。
  • ロープは鋭い角に触れないようにすること。墜落時の荷重により、切断する恐れがあるためである。角の部分にタオル等を巻くことも一つの解決法である。
  • 親綱使用時は1スパンにつき、作業者1名とすること。複数人が同一の親綱上で同時に作業すると、一人が墜落した際に他方も引き寄せられて危険である。
  • フックハンガーをD環として使用しないこと。強度が不足し、また「安全帯の規格」に違反した使用法でもある。
  • 体重・工具などを合わせた重量の合計が100kgを超える場合は、必ずショックアブソーバ付の安全帯を使用すること。衝撃荷重の限界である8.0kNを超える恐れがあるためである。

なお、安全帯の交換時期の目安は、ロープが2年・その他が3年である。

その他の機能[編集]

巻取(帯ロープ)式
安全帯メーカー・ポリマーギヤ社が、車のシートベルトをヒントに開発した方式であり、従来の三ツ打ち・八ツ打ちロープの代わりに帯状のロープを用いて、腰元の巻取り装置に収納できる様にした構造が特徴である。本方式によるランヤードの使用時は、常に巻き取られる状態にして繰り出し長を最短にする方法と、希望する分量を予め引き出しておく方法との選択が可能であり、巻取器本体のレバー操作によってその切換を行う。ロープの周囲への引っ掛かり防止や、落下距離を最短に抑えたい場合は常に巻き取られる状態にし、引っ張られる感覚が気になるなど作業性を重視したい場合は好みの量を引き出しておく、といった使い分けが考えられる。なお、巻取式についても、平成14年改定の「安全帯の規格」に規格が盛り込まれた。
ワンタッチバックル式
ショックアブソーバ付
二丁掛け(ダブルランヤード式)
単管パイプや親綱といった支持物の終端においてフックを掛け替える際の墜落事故防止のために考案された方式であり、通常作業用のメインランヤードに加え、短めのサブランヤードも付属している点が特徴である。使用方法は、メインフックの支持物の終端位置においてサブランヤードのフックを向こう側の支持物に掛け、そののちメインランヤードも移し替え、最後にサブランヤードを支持物から外して収納する、というものである。現在では、大手ゼネコンを中心に二丁掛け製品の使用義務化が推し進められるようになった。

そのほか、絶縁性を持たせたものや、アルミニウムを用いて軽量化を図ったもの、ロープそのものに伸縮性を持たせたもの(ショックアブソーバの代替となり、腰周りがすっきりする)、ロープのみ交換可能な製品も存在する。

工具差し・工具袋
作業に必要なドライバーやペンチなどの工具、ボルトやナットなどの材料をベルトに通した工具差し・工具袋などに収納して装着できる。建築現場では職種・作業内容によってさまざま工具・材料などを安全帯と一緒に腰に装着する光景が見られる。このようなことから、安全帯とそれに収納されている工具類を一括して「腰道具」と呼ぶ職人言葉がある。工具・材料を安全帯のベルトに直接刺して持ち歩くのは禁止されている。

豆知識[編集]

中国語ではシートベルトのことを安全帯と表記する。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]