妖星ゴラス

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妖星ゴラス
GORATH
監督 本多猪四郎(本編)
円谷英二(特技監督)
脚本 木村武
製作 田中友幸
出演者 池部良
久保明
白川由美
水野久美
志村喬
音楽 石井歓
撮影 小泉一(本編)
有川貞昌(特殊撮影)
富岡素敬(特殊撮影)
編集 兼子玲子
配給 東宝
公開 日本の旗 1962年3月21日
上映時間 88分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
英語
製作費 3億8千万円[1]
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妖星ゴラス』(ようせいゴラス)は、1962年3月21日に公開された日本特撮映画。製作、配給は東宝カラー東宝スコープ、多元磁気立体音響。同時上映は『紅の空』。

解説[編集]

謎の燃える怪星ゴラスと地球との衝突を回避するため、地球の公転軌道を変えようと奮闘する人々を描く。

円谷英二による東宝特撮映画50本目の集大成を目指して、構想3年、製作費3億8千万円、製作延日数300日、特撮パートが全体の1/3を占める超大作として製作された[1]

監督の本多猪四郎は撮影に入る前に、助監督の梶田興治とともに1週間あまり東京大学理学部天文学科へ通い、畑中武夫率いる畑中教室の堀教授に、「地球移動」という荒唐無稽な設定の科学的考証(後年における「SF考証」か「SF設定」)を依頼した。大きいとはいえ有限の質量を持つ物体であることに変わりはなく、非常に大きな力が必要ではあるが、それが必要に見合った十分な力であればニュートンの運動方程式に従って軌道は変わるため、地球の質量の概算値を元に、必要な力・運動量エネルギーは算出できる。堀は完全に実行可能と仮定してそれらを算出したが、劇中の「月がゴラスに吸い込まれる」という描写について「月が吸い込まれた時点で地球も吸い込まれているはず」として、映画的なフィクションであることを理解したうえで「興行でこの話題が出る際には必ずこの部分は“嘘”である、との注釈を入れて欲しい」と条件を付けた。

劇中で黒板に示される、地球移動にかかるエネルギーなどの計算式は、上記の依頼にもとづいた検証の際に堀が自ら書いたものである。

あらすじ[編集]

1979年[2]9月29日午後8時、土星探査の任務を負った日本の宇宙船 JX-1 隼号が、富士山麓宇宙港から打ち上げられた。しばらくして、パロマー天文台が質量が地球の6,000倍あるという黒色矮星ゴラス」を発見したと発表。隼号の園田艇長は、急遽ゴラス探査に向かった。しかし、質量こそ膨大だが大きさは地球の4分の3というゴラスの引力圏内に捉えられ、観測データの送信後ゴラスに飲み込まれる。そして隼号が遭難直前に送ったデータから導き出された結論は「ゴラスが今の進路を保つと地球に衝突する」という恐るべきものだった。

事態を危惧する日本宇宙物理学会の田沢博士と河野博士だが、政府も対策に本腰を入れようとせず、またこれを自分の問題として捉える人々も少なかった。再度のゴラス観測も思うに任せぬ中、田沢と河野は、園田博士の孫・速男の「ゴラスを爆破するか地球が逃げるか、その2つしかない」という言葉に活路を見出す。

田沢と河野は国連科学会議で、「南極に建設した巨大ロケット推進装置によって、100日間で地球を40万キロ移動させ、その軌道を変える」という「地球移動計画」を提案。当初はその実現性を疑問視されるが、アメリカソ連も似たような研究を行っていたことから計画は一気に進み、各国一丸となって建設に取り掛かることが決定。かくして世界中の技術が南極に結集し、巨大ジェットパイプが次々と建造されていく。しかし、工事現場で落盤が発生するなどの事故で、タイムロスも生じ始めた。

その頃、国連の要請を受けて日本が打ち上げた JX-2 鳳号がゴラスに接近。カプセル1号でゴラスに肉薄した金井の観測により、ゴラスの質量は地球の6,200倍へと増加しており、もはや爆破は不可能という結論が出される。地球を救う術は「南極計画」のみとなる一方で、金井は接近時のショックで記憶喪失となってしまう。

完成したジェットパイプ基地のジェット噴射は、地球を計算通りの速度で動かし始めた。世界が歓喜する中、田沢は「ゴラスの質量増加が続けば現在の施設だけでは追いつかなくなる」との不安を抱え、国連への追加投資を巡って河野と対立する。その間も、ゴラスは彗星や土星の輪を飲み込みながら地球に接近しつつある。さらに、南極に眠っていた巨大生物・マグマが突如目覚め、施設の一部に損傷を与えた。田沢らによりマグマは葬り去られるが、復旧作業も含めて72時間というタイムロスが生じる。

そして1982年2月、ついにゴラスと地球が最接近する日を迎えた。人々の尽力によりタイムロスは減ったが、それでも36時間分の移動距離が足りない。地球上ではゴラスの引力により、各地で天変地異が発生し、富士山麓宇宙港の宇宙船も次々と地中に飲み込まれていく。ジェットパイプも水没する中、運命の時が刻々と迫る。

登場キャラクター[編集]

妖星 ゴラス[編集]

ミニチュアはアクリル製で、電飾によって発光が可能だが、彗星や土星の輪、月を吸収するシーンは全て光学合成で描かれている。

ミニチュアは1990年代まで特殊美術倉庫に保管されていた。後に『超星神グランセイザー』(2003年)に流用されている[3]

南極怪獣 マグマ[編集]

  • 体長:50メートル
  • 体重:2万5,000トン

外見はセイウチに似ているが爬虫類という設定。脚本では鱗に覆われた「恐龍と表記されている。南極の地底に眠っていたが、妖星ゴラス回避のため建設された原子力ジェットパイプの熱で目覚め、基地の装置の一部を破壊。その後調査に来た国連のVTOL機のレーザー攻撃によって倒される。

頭部造形は利光貞三、胴体は八木寛寿、八木康栄による。スーツアクターは手塚勝巳中島春雄[5]。体色は褐色系、目は電飾で青色に発光する。ジェットパイプの炎が燃え移るのを防ぐため防火剤が塗られている[1]。2尺サイズのギニョールモデルも用意され、細かい動きはこちらでこなしている。ギニョール操作者は造形スタッフの開米栄三

特殊美術スタッフだった村瀬継蔵は、このマグマの牙の素材に、本邦で初めて「ポリ樹脂」を使用し、それまで表現できなかった鋭さを実現している。特技監督の円谷は「どこでそんな象牙見つけてきたんだ?」と驚き、新素材によるものであることを説明され、大喜びしたそうである。

「マグマ」の名称は一般公募による。怪獣マグマの唐突な登場は、クランク・アップ前になって東宝上層部から出された「せっかくの円谷特撮だから怪獣を出してほしい」との要求によるもの。監督の本多は抵抗したが、登場が決定となった後は、デザインなど怪獣のコンセプトについて積極的に関わっている。このマグマの登場シーンは当時の映画評などでも蛇足として不評であり、海外での公開ではカットされている。本作から特撮現場に参加した川北紘一によると、このマグマと志村らが絡む一連のシーンは、本編監督の本多ではなく、円谷が演出を行ったそうである。

準備稿では単に「恐龍」と記されており、爬虫類という設定はその名残と言われている[1]

着ぐるみは後に『ウルトラQ』のトドラへ改造されているほか、鳴き声はウルトラシリーズの怪獣の鳴き声に度々流用されている。

1966年7月19日に放送された『11PM』の大阪、よみうりスタジオで収録された「怪獣供養」ではマグマの遺影が飾られている[6]

他作品への登場
怪獣総進撃』の検討用脚本の段階で登場が予定されていた。
1966年に朝日ソノラマから発売されたソノシート『大怪獣戦 30怪獣大あばれ!!』収録の「宇宙怪獣対地球怪獣」に宇宙怪獣と戦う地球怪獣陸軍の一体として登場する[7]

登場メカニック[編集]

ジェットパイプ基地
特技監督の円谷英二から「とにかく大きな南極のセットを組んでくれ」と言われた特撮班の美術スタッフは、勢い余って500ある東宝第8スタジオいっぱいに南極の大地のセットを建造。その広さは照明スタッフから「どこに機材を置くんだよ」とぼやきが出るほどだった。そして円谷は、セットの端の方からミニチュアを少しずつ組みながら撮影を進行させ、南極のセットがミニチュアでぎっしり埋まったところで全体のロングショットを撮影した。特撮班のチーフ助監督だった中野昭慶の話によると、南極のシーンだけで撮影に2、3週間を要したという。また、ジェットパイプ噴射にはプロパンガスによる火炎が用いられ、風の影響を考えて屋内セットで撮影された。このためスタジオはものすごい熱さだったという。
プロパンガスの使用は井上泰幸の発案。高熱で対流が生じて炎がすべて中心よりに傾いてしまい、井上は現場で感じるほどの迫力は画面で描けなかったのではないかと語っている[8]
JX-1 隼号・JX-2 鳳号
日本国宇宙省管轄の宇宙船で、それぞれJX型ロケットの一番機と二番機。乗員は39名で、建造には当時の価格で11兆6000億円がつぎ込まれた。単段式のロケットであり、内部に1人乗りの観測用小型ロケット(劇中では「カプセル1号」と呼ばれていた)を格納し、胴体側面から射出することが出来る。
隼号は本来は土星探査のための宇宙船であったが、接近するゴラスを観測するために目的を変更する。ゴラスが地球の6,000倍もの質量を持つこと、そしてこの星が地球と衝突するという貴重なデータをもたらしたが、隼号自体がゴラスの引力圏に捉えられ、「万歳!」を連呼するクルーもろともゴラスに飲み込まれる。
鳳号は遭難した隼号の後を引き継いでゴラスの観測に当たる。その結果、ゴラスの破壊もしくは人為的な軌道変更は不可能との結論が出される。
隼号と鳳号の外観上の違いは各々の胴体側面に「JX-1 はやぶさ」「JX-2 おおとり」と記されている点と、隼号は銀色一色、鳳号は尾翼の補助エンジンより先の部分にオレンジ色の帯がペイントされているという点だけで、ロケット自体のデザインは全く同じである。しかし、映画公開当時の宣伝ポスターには、胴体に「JX-1」と記載されていながら、なぜか尾翼がオレンジ色のロケットが印刷されているものも存在する。
デザイン・造形は渡辺明井上泰幸。木、ブリキなどを素材に、1と3尺ほどの大きさのミニチュアが作られた。3尺のミニチュアは尾部からプロパンガスによる炎を吹き出すことができ、打ち上げシーンなどで用いられている。発射台のミニチュアはハンダ接合による。
これらのミニチュアは劇中小道具として、『怪獣大戦争』の鳥井哲夫の部屋や、『日本一のゴリガン男』の国防隊基地内に飾られている。そのうちの一つは円谷プロダクションのテレビドラマ『スターウルフ』の撮影で爆破されている[9]
国連VTOL機(ビートル機)
国連南極基地が保有するVTOLジェット機。主翼とカナード翼の翼端に、ティルトローター状のエンジンナセルを配置している。武装としてビーム砲を装備。なお、垂直尾翼には日の丸が描かれており、元々は日本籍の機体であると思われる。ゴラス接近に伴い発動された「地球移動計画」が行われている南極に現れた怪獣マグマの捜索・攻撃を行った。
郡司模型製作所に外注され、ブリキの叩き出し方式で製作された。後にTV番組『ウルトラマン』に登場したジェットビートルはほぼ同様の形状をしているが、同じ木型を使用して製作されたものであり、このミニチュアを流用したわけではない。なお、ジェットビートルの差違はエンジンナセルの有無と機体上部のアンテナの形状である。
宇宙ステーション群
隼号遭難後に、ゴラス観測のために打ち上げられた宇宙ステーション群。劇中には、ドーナツ型の宇宙ステーションが2基、正方形の宇宙ステーションが1基登場し、それぞれフランスポルトガルチェコの所属。地球が軌道変更を始めたことにより、鳳号と共に所属宇宙港へ退避した(ただし、ドーナツ型の内の1基は日本人クルーによって運用され、退避時には富士山麓宇宙港に着陸した)。いずれも、姿勢制御用のロケット・モーターを装備する。
ミニチュアは外形をパルサやブリキで、鉄骨部分はハンダづけで作られている。正方形の宇宙ステーションは、後に『怪獣大戦争』に再登場している。
国籍不明の宇宙船
ゴラスの引力圏に引き込まれた隼号が遭遇した宇宙船。隼号と同様にゴラスの調査に赴いていたものと思われるが、ゴラスの引力にとらわれてゴラスへと突入していった。
隼号の潜望鏡に棒状の姿が映ったのみであり、詳細な形状などは不明。

スタッフ[編集]

本編[編集]

特殊技術[編集]


※映画クレジット順

出演者[編集]

※映画クレジット順

※以下クレジット表記無し

劇中歌[編集]

俺ら(おいら)宇宙のパイロット
  • 作詞者:不詳、作曲:石井歓
  • 劇中の医務室のシーンにおいて伊東役の二瓶正典が一小節を口ずさんでいる。また富士山麓宇宙港を飛び立つヘリの中で金井(久保明)・若林(太刀川寛)・伊東(二瓶正典)らがフルコーラスを歌うシーン、鳳号の出発を前にパイロットらがキャバレーのフロアで生バンドの演奏をバックに歌いながらホステススクエアダンスを踊るシーンがある。

その他[編集]

  • 南極砕氷船が進むシーンでの氷原は、当時最新の素材だった発泡スチロールで作られている。また、ラストの水没した東京のシーンは、ビル群のセットを荒川に持ち込んで撮影されている[8][11]。ビル等の構造物のほとんどが木製で水に浮きやすかったため、撮影中によく流されたという。
  • 出演者の佐原健二は撮影時、足を骨折していた。

後年の影響[編集]

  • ゴジラ FINAL WARS』にて、地球に接近する天体として登場。同映画のDVDメニューによれば、モンスターXが乗ってきた隕石も妖星ゴラスという名前になっている。
  • 樋口真嗣によると、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』のヤシマ作戦の絵コンテを描く際には、ジェットパイプ基地建設シーンも参考にしたという。
  • SF作家山本弘2009年に発表したSF小説『地球移動作戦』は、この作品へのオマージュとして書かれた小説である(同書まえがきの献辞による)。

脚注[編集]

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  1. ^ a b c d 『東宝特撮映画大全集』 ヴィレッジブックス2012年、62 - 65頁。ISBN 9784864910132 
  2. ^ 隼号内の航路図と劇中の雑誌では1976年と表記されている。
  3. ^ 監修:川北紘一 『平成ゴジラパーフェクション』 アスキー・メディアワークス〈DENGEKI HOBBY BOOKS〉、2012年、160頁。ISBN 978-4-04-886119-9
  4. ^ 中島春雄 『怪獣人生 元祖ゴジラ俳優・中島春雄』 洋泉社2010年、346頁。ISBN 978-4-86248-589-2
  5. ^ 手塚がメインで演じた。当時撮影助監督だった中野昭慶の証言によるとジェットパイプ脇のマグマは中島が演じた模様。ただし中島にはマグマを演じた記憶はない[4]
  6. ^ 特撮ニュータイプ2012年4月号
  7. ^ 『ゴジラ大辞典』 笠倉出版社2004年、284頁。ISBN 4773002921 
  8. ^ a b キネマ旬報社(編) 『特撮映画美術監督 井上泰幸』 キネマ旬報社2012年、102頁。ISBN 978-4-87376-368-2
  9. ^ 「Pickup Interview 原口智生」『別冊映画秘宝 円谷プロSFドラマ大図鑑』 洋泉社〈洋泉社MOOK〉、2013年、150頁。ISBN 978-4-8003-0209-0
  10. ^ a b c d e f g h i j クレジット表記なし。
  11. ^ DVDのオーディオコメンタリーでは利根川と解説されている。

外部リンク[編集]