天の女王

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

天の女王ヘブライ語メレケト・ハ・シャマイム(מְלֶכֶת הַ שַּׁמַיִם )とは、旧約聖書エレミヤ書』に登場する女神。 なお、天の女王とは新共同訳聖書新改訳聖書における訳語で、文語訳聖書口語訳聖書では天后(てんこう)と訳される。

古代オリエントの女神の称号[編集]

ルーブル美術館所蔵の古代エジプトの女神イシスの像。息子ホルスに授乳しているところが表されている。ローマ帝国の時代にはエジプト神話の中からイシスに対する崇拝が特に強まり帝国全土に広がり、永遠の処女、天上の聖母と呼ばれた

古代オリエントにおいて、「天の女王」は有力な女神の称号として多用されたが(例えばメソポタミア神話の女神イナンナもそう呼ばれている)、『エレミヤ書』のこの女神はアスタルトを中心にアーシラトアナーヒターなどの女神が習合した豊穣の女神と考えられている。

『エレミヤ書』によれば、紀元前6世紀初頭にはこの女神がヘブライ人の間で広く崇められ、焼き菓子が供えられていたという(第7章第18節)。 また同第44章によれば、バビロン捕囚の際エジプトに逃れた人々も、天の女王などの神々への崇拝を続けており、その姿を象ったパンやぶどう酒などを供え、香を焚いて祀っていた。

エレミヤはこれを非難してヤハウェの「ヘブライ人は異教の神々を崇めたから自分の怒りに触れ、ユダとエルサレムの街が滅びたのだ」という言葉を伝える。しかしそう言われた人々は「天の女王への崇拝をやめたから、その加護を失って滅んだのだ」と反論している。それに対してエレミヤは再度、ヤハウェからの警告を伝え、エジプトのヘブライ人たちに下る裁きを預言している。

聖母マリアの尊称としての天の女王[編集]

正教会カトリック教会においては、「天の女王」は聖母マリアへの尊称として用いられている。

マリア崇敬の批判者には、女神への尊称としての「天の女王」と結びつける者がいるが[1][2]、マリア崇敬を行うキリスト教徒はこれを否定する。ダビデの息子ソロモンが母バト・シェバを王太后として尊重したのと同じ意味合いであり[3]、また旧約聖書では太后が王に劣らぬ存在として言及されており[4]、けして異教由来ではないとしている。

正教会における敬称[編集]

正教会では「女王」は生神女マリヤに対する尊称の一つとして用いられる。祈祷文には「女宰」(じょさい)とともに頻繁に登場する。

女王(にょおう)、至栄(しえい)の母たる童貞女よ、慶べ(よろこべ)、如何に滑なる(なめらかなる)能辯(のうべん)の口も辯(べん)を盡し(つくし)、宜しきに合ひて(かなひて)爾を歌ふ能はず、如何なる智慧も爾の産を悟るを得ず、故に我等心を一にして爾を讃栄す。

五旬祭の「常に福(さいわい)の代わり」[5]

ただしローマ・カトリックと異なり、聖母の被昇天の教義は正教会には無く、サルヴェ・レジーナ(幸いなるかな女王)などのローマ・カトリックが用いる各種の聖歌も正教会では用いられない。

カトリック教会における敬称[編集]

天の女王(ラテン語:Regina Caeli)は、ローマ・カトリックにおいても聖母マリアに与えられた称号の一つである。聖母マリアは天と地の女王と呼ばれる。この称号はカトリック教会の聖母の被昇天の教えからくる[要出典]

天の女王賛歌[編集]

レジーナ・チェリ(天の女王)、アヴェ・レジーナ・チェロールム(幸いなるかな天の女王)、サルヴェ・レジーナ(幸いなるかな女王)が歌われる。

「天の女王」への批判[編集]

上述のように、マリアにつけられた称号「天の女王」は他宗教でも用いられてきた歴史がある。この事は宗教的な動機からマリア崇敬を非キリスト教的・異教的と呼ぶ際にも指摘されることがある。1999年9月、エペソにおいて、プロテスタント信者により、「天の女王」と戦う霊の戦いの祭典「エペソの祭典」が開催された[6][7]。これは、「天の女王」を悪霊と捉え、世界各地の女神信仰と結び付け、それらの打破を目指す、というものであるが、この祭典を雑誌『ハーザー』で取り上げたマルコーシュ・パブリケーション社ウェブサイトの『天の女王との戦い』の書籍紹介ページではグアダルーペの聖母が女神の一形態として挙げられている。

脚注[編集]

  1. ^ カールトン・ケニー『クリスマスについての考察』暁書房35-40頁
  2. ^ 高木慶太、芦田拓也『これからの世界情勢と聖書の預言 改訂新版』いのちのことば社260頁
  3. ^ スコット&キンバリ・ハーン『ローマ・スイート・ホーム』ドン・ボスコ社247頁
  4. ^ Is Mary's Queenship Biblical?
  5. ^ 聖五旬祭主日 奉事式
  6. ^ ピーター・ワグナー著『天の女王との戦い』マルコーシュ・パブリケーション社
  7. ^ ハーザー』特集「エペソの祭典」1999年12月号

関連項目[編集]