大学祝典序曲

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スキッドモア大学管弦楽団による演奏

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大学祝典序曲ハ短調 作品80(だいがくしゅくてんじょきょく ドイツ語: Akademische Festouvertüre c-Moll op. 80)は、ブラームスの2つある演奏会用序曲のうちの一つ。

にぎやかで陽気な本作は、悲壮感をたたえた『悲劇的序曲』作品81と好対照をなしている。ブラームス自身、この作品を「スッペ風のポプリ」と呼んでいた(音楽用語のポプリとは、フランス語で一種のメドレー形式のことをさす)。

作曲の背景[編集]

ブラームスは1879年ブレスラウ大学から名誉博士号を授与された。当初ブラームスは、公開用の祝典ファンファーレを毛嫌いしていたことがあり、ただ感謝状を書いただけで満足していた。しかしながら、推薦人のひとりであった指揮者のベルンハルト・ショルツから、そのような儀礼には、もっと盛大な感謝のしるしを示すものだと説得された。大学当局は、ひとえにブラームスが音楽作品を提出してくれることを望んでいたのである。

そこでブラームスは1880年の夏に訪れていた保養地バート・イシュルで、名誉博士号の返礼として本作を作曲した。同年の9月にクララ・シューマンとの連弾で同時期に作曲した『悲劇的序曲』と共に披露しているため、8月中にはどちらも作曲を終えていたものと推測されている。

1880年12月6日ベルリンで『悲劇的序曲』とともに公開で試演された後、1881年1月4日に、ブレスラウ大学当局によって開かれた特別集会において、ブレスラウのオーケストラ協会を作曲者自身が指揮して初演。聴衆の中の教職員の多くは、悪ふざけで口惜しがってみせた。

構成[編集]

Allegro - L'istesso tempo, un poco maestoso - Animato - Maestoso

全体としては引用された学友歌と自作主題とを有機的につなぎ合わせ、かなり自由ではあるがソナタ形式を基本として構成されている。演奏時間は約10分。 曲はまずAllegro、ハ短調 2/2拍子の第1主題で開始され、ヴァイオリンが歯切れの良いリズムで奏でる。これが確保され、全合奏でスタッカートを用いた経過句を出すと、ティンパニの連打に乗って学生歌"Wir hatten gebauet ein stattliches Haus"を引用する。これが力を増すとその頂点でL'istesso tempo, un poco maestosoとなり、第1主題が壮大に行進曲調で奏される。これが静まり、ヴァイオリンの柔らかな経過句を経て第2主題がホ長調で現れる。これも学生歌"Landesvater"である。コデッタはAnimato、ト長調 2/4拍子となりここでも学生歌 "Was kommt dort von der Höhe?"を引用する。これをしばらく扱ってクライマックスを築いてから短い展開部へ入る。第1主題、経過句、コデッタなどの要素を中心に扱い、やや変形された第1主題の再現へつながる。学生歌、第2主題も自由な形で次々と再現され、最後にコデッタが力強く姿を見せると祝典の歓喜は頂点に達してコーダに入る。コーダはMaestoso、ハ長調 3/4拍子、学生歌"Gaudeamus igitur"に基づくもので熱気を高めて、壮大に曲を締めくくる。

引用された学生歌は次の4曲である[1]

  • "Wir hatten gebauet ein stattliches Haus"(『僕らは立派な学び舎を建てた』、民謡に基づく)
  • "Landesvater"(『祖国の父』)
  • "Was kommt dort von der Höhe?"(『あそこの山から来るのは何』、狐乗り (Fuchsritt) の歌)
  • "Gaudeamus igitur"(『ガウデアムス』、ラテン語で「いざ楽しまん」)

ブラームスは毒舌やブラック・ユーモアで有名であり、「学生の酔いどれ歌のひどくがさつなメドレー」を作って『大学祝典序曲』と名づけ、自分の任務を果たしたのだと語っている。だが本作品には音楽技法的に評価される点が多く、洗練された構成や暖かな抒情性、躍動感やユーモアによって、今日でも標準的なレパートリーの一つである。学生歌から適切な旋律を選択し、洗練された対位法主題労作の技法、緻密に構成された音色を用いて、創意ある洗練された構成へと仕上げている。

編成表
木管 金管
Fl. 2、ピッコロ Hr. 4 Timp. 1 Vn.1
Ob. 2 Trp. 3 バスドラムトライアングルシンバル Vn.2
Cl. 2 Trb. 3 Va.
Fg. 2、コントラファゴット Tub. 1 Vc.
Cb.

ブラームスの作品では、おそらく楽器編成が最も大掛かりなものの一つである。

録音[編集]

ブラームスの交響曲全集には収録されない場合も少なくないが、ブルーノ・ワルターはステレオ版の全集に収録しているほか、ブラームスを敬愛してやまなかったピエール・モントゥーが録音を残している。「ブラームスよりブルックナーが好き」と公言しているニコラウス・アーノンクールは本作をもっと評価すべきだと訴え、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との交響曲全集に本作を収録した。

大学受験ラジオ講座のテーマ曲として[編集]

ト長調による第2主題が、ラジオたんぱ文化放送で放送された大学受験ラジオ講座のテーマ曲に使われたため、日本ではその部分がとりわけ有名になっている。この「大学受験講座の音楽」という印象が強いため、NHKコント番組『サラリーマンNEO』の「サラリーマン語講座」のオープニングや、さだまさしの「恋愛症候群 - その発病及び傾向と対策に関する一考察 -」(恋愛を講義風に語る内容の歌)のイントロなどに使用されている。

脚注[編集]

  1. ^ 若杉弘指揮・東京都交響楽団の定期演奏会においてこの作品を取り上げた際、オリジナルの学生歌を晋友会の男声合唱のオブリガードつきで演奏したことがある。音楽的な効果を得る意図と、かつてドイツ・ユダヤの区別もなくビールを片手に歌いあっていた学生が、その後、一方がもう一方を虐殺するという悲劇があったことを忘れないように、という若杉の別の意図があったためである(当日、男声と管弦楽のためのワルシャワの生き残りも演奏された)。

外部リンク[編集]