大乗起信論

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大乗起信論(だいじょうきしんろん)は、大乗仏教に属する論書で、漢文で記されている。著者は馬鳴(アシュヴァゴーシャ)と伝えられている。

著者[編集]

漢訳本には冒頭に「馬鳴菩薩造」とあり、馬鳴(アシュヴァゴーシャ)作とされる。内容からすると、本書は、ナーガールジュナ(竜樹)やヴァスバンドゥ(世親)らの思想より後のものであることが明白であるので、いわゆる後1、2世紀に活躍し、『ブッダ・チャリタ』(Buddhacarita、仏所行讃)等の著者とされる同名の馬鳴と、本書の著者は別人と考えられる。そのため、本書の著者を後馬鳴と称することもある[1]。インド撰述の他の論書に引用されることがなく、チベット語訳も存在しないため、中国で撰述されたという説もある[2][3]

翻訳[編集]

550年頃(554年説もあり)に真諦によって翻訳された漢訳1巻と、実叉難陀による漢訳2巻がある。実叉難陀訳は、独立した訳ではなく真諦訳本を整理した、一種の改訳と考えられる[4]。そのため、本書の内容を扱う場合、専ら真諦訳が用いられる。古来より中国にて真諦訳を疑う説があるうえ、前述のように、インド撰述の他の論書への引用がなく、他語訳もないため、現代でも中国撰述説を唱える学者がいる。

概要[編集]

本書では、「大乗」(摩訶衍)について「衆生の心がそのまま大乗である」と述べ、「一般平凡な衆生の心に仏性がある」という「如来蔵」思想を説き、「大乗起信」とは、これへの信仰を起こさせるという意味である。本書は大乗仏教に属する論書であるが、本書で言う「大乗」という語は、一般に大乗仏教という場合の「大乗」とは必ずしも内容が同じではない。

本書は、漢訳では、因縁分第一、立義分第二、解釈分第三、修行信心分第四、勧修利益分第五という5章構成である。因縁分は「本書述作の動機」、立義分は「大乗という主題の中身と意義」を説く。解釈分はその「詳細な解説」を展開し、修行信心分は「大乗への信仰とその修行」について述べ、勧修利益分は、「修行の勧めと修行の效用」を説く。

本書は、いわゆる般若経などに説かれる自性清浄心と、いわばその発展思想である「如来蔵説」を述べ、これを「本覚」と呼んでいる。阿賴耶識に言及し、唯識説を展開するが、中国や日本の法相宗が主張する唯識説とはやや異なる。

注釈書[編集]

注釈書は数多くあり、中でも慧遠浄影寺)による『大乗起信論疏』2巻(浄影疏)と、元暁による『大乗起信論疏』2巻(海東疏)と、法蔵による『大乗起信論義記』3巻は、特に起信の三疏と言われている。

その他には、『大乗起信論義記』を修正した宗密による『大乗起信論疏』4巻(注疏)や、智旭による『大乗起信論裂網疏』6巻、子エイによる『起信論疏筆削記』などがある。

刊本[編集]

  • 『大正新脩大蔵経』32論集部
  • 『国訳一切経』印度撰述部5
  • 『昭和新纂国訳大蔵経』論律部9

関係文献[編集]

参考文献[編集]

  1. ^ 宇井伯寿 『大乗起信論』 岩波文庫、1936年
  2. ^ 宇井伯寿 『大乗起信論』 岩波文庫、1936年
  3. ^ 井筒俊彦 『意識の形而上学』 中公文庫、2001年、P.11。
  4. ^ 宇井伯寿・高崎直道 『大乗起信論』 岩波文庫、1994年

主な注解[編集]

  • 望月信亨『大乗起信論講述』(金尾文淵堂、1922年)
  • 望月信亨『講述大乗起信論』 (冨山房百科文庫、1938年)、上記の改訂版
  • 衛藤即応『大乗起信論講義』(大蔵経講座12、東方書院、1932年)
  • 宇井伯寿『大乗起信論』(岩波文庫、1936年)
  • 宇井伯寿・高崎直道『大乗起信論』(岩波文庫、1994年)。現代語訳と解説を加えた補筆・改訂版
  • 高崎直道『「大乗起信論」を読む』(岩波セミナーブックス:岩波書店、1991年)
  • 『高崎直道著作集第8巻 大乗起信論・楞伽経』 (春秋社、2009年)。
     第1部が上記の改訂版で、第2部が「大乗起信論」研究。
  • 篠田英雄『大乗起信論講説』(文一出版、1973年)
  • 平川彰『佛典講座22 大乗起信論』(大蔵出版、1973年.新装版2004年)
  • 柏木弘雄『大乗起信論の研究』(春秋社、1981年、新版1991年)、大著
  • 柏木弘雄『大乗とは何か 「大乗起信論」を読む』(春秋社、1981年)、現代語訳と詳細な解説。
  • 池田魯参『現代語訳大乗起信論』(大蔵出版、1998年)
  • 井筒俊彦『意識の形而上学 「大乗起信論」の哲学』(中央公論社、1993年、中公文庫、2001年)
  • 古賀英彦『訳注大乗起信論』(思文閣出版、2003年)

関連項目[編集]