夜想曲 (ドビュッシー)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

夜想曲』(やそうきょく、Nocturnes)は、クロード・ドビュッシーが、1897年から1899年にかけて作した管弦楽曲。「」・「」・「シレーヌ」の3曲からなる一種の組曲となっている。フランス語のまま『ノクチュルヌ』と呼ばれることもある。

タイトルについて[編集]

夜想曲」(ノクチュルヌ、ノクターン)はフィールドに始まりショパンが発展させた器楽曲の1ジャンルであるが、ドビュッシーの『夜想曲』のタイトルは、耽美主義のアメリカの画家ホイッスラーの、「ノクターン」と題された絵画のシリーズのうちの『青と銀色のノクターン』(1871年1872年)、もしくは『黒と金色のノクターン - 落下する花火』(1875年)から着想を得たと考えられている。他に、同じく耽美主義のイギリスの詩人スウィンバーンの詩『ノクチュルヌ』(1876年)からの着想であるという説もある。 ドビュッシー自身はタイトルについて、「印象と特別な光をめぐってこの言葉("夜想曲")が呼び起こす全てが含まれる。」と述べており、少なくとも従来の「夜想曲」との関連性は否定している。

作曲の経緯[編集]

『夜想曲』の前身と考えられている楽曲は2曲存在している。

1.『黄昏の三つの情景』(Trois scènes au crépuscule ) 

ドビュッシーが1892年9月9日にポニアトフスキ公にあてた手紙に登場する。スケッチのみに終わったが、音楽学者フランソワ・ルジュール(François Lesure)によって作品番号「L.83」が与えられている。

2. 独奏ヴァイオリンと管弦楽のための『夜想曲』

本項目で扱う『夜想曲』の初稿版と考えられている。1894年9月22日にヴァイオリン奏者・作曲家のイザイに当てた手紙に登場する。3つの楽章から成り、第1楽章は弦楽器のみ、第2楽章は管楽器(フルート、ホルン4、トランペット3)とハープ2、第3楽章は全合奏によって演奏される、というものであった。1896年に完成したが、初演も行われず、スコアも所在不明となった。ドビュッシーはこの作品について「絵画における、灰色で描く習作のようなもの」と説明している。

なお、この間にドビュッシーはペレアスとメリザンドに着手し(1893年)、『牧神の午後への前奏曲』を完成させている(1894年)。

初演[編集]

「雲」「祭」のみ、1900年12月9日カミーユ・シュヴィヤールの指揮でラムルー管弦楽団によって行われた。全曲初演も彼らが翌1901年10月27日に行った。日本初演は1927年12月17日奏楽堂にて、チャールズ・ラウトルップ指揮、東京音楽学校の管弦楽団によりなされた。

構成[編集]

1. 雲 (Nuages)
空の雲のゆっくり流れて消えていく様を描写したもの。冒頭に「セーヌ河の上に垂れこめた雲」を表す[1]クラリネットとバスーンの動機が現れる。この動きはムソルグスキーの歌曲『日の光もなく』からの借用であるという指摘がある[2]。6/4拍子のリズムに「汽船のサイレン」を表すコーラングレ[1]の旋律が4/4拍子のポリリズムで絡み、拍節感がぼやけさせられている。ソロを除き常に弱音器がつけられた弦楽器はディヴィジによって細分化され(ヴァイオリンは1st、2ndがそれぞれ6分割、合計12分割)、弱音器をつけたホルン、低音域のフルートなどと共にこの曲独特の「灰色」のテクスチュアを作る。中間部でハープを伴ったフルートが東洋的な五音音階の旋律を奏でるが、これは1889年パリ万国博覧会でドビュッシーが聴いた、ジャワガムランの影響であると考えられる[2]
2. 祭 (Fêtes)
祭の盛り上がりと祭の後の静けさが描かれている。ff空虚五度によるリズムが弦楽器によって刻まれ、木管楽器がスケルツォ風の主題を奏でる。活発な3連符のリズムに乗って進行する祭りの音楽が唐突に中断すると、遠くから幻影のような行列が近づいてくる。やがて祭りの主題と行列の主題が同時進行し溶け合うクライマックスを迎え、その後、諸主題を回想しながら消えるように曲を終わる。なお、終始部分ではトランペットにより次の「シレーヌ」の序奏がさりげなく予告されている。
3. シレーヌ (Sirènes)
「シレーヌ」とは、ギリシャ神話などに出てくる生き物である(セイレーンを参照)。この曲ではトロンボーン、チューバ、ティンパニと打楽器は使われていないが、歌詞のない女声合唱ヴォカリーズ)が加わられており、月の光を映してきらめく波とシレーヌの神秘的な歌声が、精緻なオーケストレーションによって表現される。なお、ドビュッシーが『』の作曲を開始するのはこれより後、1903年のことである。

楽器編成[編集]

曲ごとに使用楽器とオーケストレーションが異なる。

フルート2、オーボエ2、コーラングレクラリネット(B♭管)2、バスーン3、ホルン(F管)4、ティンパニハープ弦五部

フルート3(3番奏者はピッコロに持ち替え)、オーボエ2、コーラングレ、クラリネット(B♭管とA管)2、バスーン3、ホルン(F管)4、トランペット(F管)3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、吊りシンバルシンバル小太鼓、ハープ2、弦五部

シレーヌ

フルート3、オーボエ2、コーラングレ、クラリネット(A管とB♭管)2、バスーン3、ホルン(F管)4、トランペット(F管)3、ハープ2、女声合唱(ソプラノ8、メゾソプラノ8)、弦五部

脚注[編集]

  1. ^ a b ドビュッシーが友人パウル・プジョーに語った言葉。音楽之友社スコアのあとがき
  2. ^ a b グラウト/パリスカ『新西洋音楽史(下)』音楽之友社、2001年