夜叉ヶ池

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夜叉ヶ池
Pond Yasyagaike 2008-11-6.jpg
所在地 日本の旗 日本
福井県南条郡南越前町
位置
面積 0.0038[1][2] km2
周囲長 0.23[2][3] km
最大水深 7.7[2] m
水面の標高 1099[4] m
淡水・汽水 淡水湖(湧水)
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夜叉ヶ池(やしゃがいけ)は、福井県南条郡南越前町にある岐阜県揖斐郡揖斐川町との境界付近に位置する。古くから龍神伝説が伝えられている[5]。1986年に「岐阜県の名水50選[6]及び「飛騨・美濃紅葉三十三選 」に選定されている。

概要[編集]

福井県南条郡南越前町(旧今庄町)と岐阜県揖斐郡揖斐川町(旧坂内村)との境の、夜叉ヶ池山と三周ヶ岳との鞍部である標高1,099 mの稜線直下北西側に位置する[2]。周囲は原生林におおわれている。数十万年前に起きた地滑りによってできた窪地に雨水や周辺の山からの伏流水が溜まり、池になったと考えられている。

池からの河川の出口がなく、伏流水となって周辺に湧き出でるため[5]九頭竜川水系日野川支流である岩谷川の源流部に位置する[7]。昔より、雨乞いが行われていた池であり、畔には奥宮夜叉龍神社がある。岐阜県側の揖斐川町坂内川上の麓には、夜叉龍神社がある。

  • 周囲:230 m[2]
  • 最深部:7.7 m[2]

自然環境[編集]

夜叉ヶ池の固有種であるヤシャゲンゴロウが生息し、環境省[8]及び福井県[9]レッドリストの絶滅危惧I類の指定を受けている。またモリアオガエルクロサンショウウオアカハライモリなどが生息し、魚類は生息していない[5]。ヤシャゲンゴロウは、モリアオガエルやクロサンショウウオのオタマジャクシトンボヤゴなどをエサとして、池の生態系の頂点に立つ[5]アカモノカタクリミツバツチグリ、トクワカソウ、ニッコウキスゲ中部地方の低山でありながら亜高山植物が多い。池の西畔には2004年9月に木道が整備され[10]、生物の生息環境が保護されている[11]

地理[編集]

夜叉ヶ池山方面から望む夜叉ヶ池と三周ヶ岳
池の南東側に絶壁の「夜叉壁」がある

交通アクセス[編集]

岐阜県揖斐郡揖斐川町の池ノ又林道終点の夜叉ヶ池登山口駐車場から[12]約3km(徒歩約90分)。登山道には険しい箇所もあり、稜線直下名の急な岩場の斜面にはロープが設置されている。福井県側からも岩谷林道終点から登山道が整備されている[11]。積雪期には登山口への林道は冬期閉鎖され、適期は6-11月ごろ[10]

周辺の山[編集]

県境の変遷[編集]

夜叉ヶ池の位置は、昔より美濃国(岐阜県)と越前国(福井県)のどちらが所有するかで争いが発生している。1875年(明治8年)、両県の立会いのもと検分が行われ、夜叉ヶ池の住所は坂内村大字川上字池之又986番地とされ、岐阜県に属することとなり、1880年(明治13年)には公式の地図もそうなった。しかし、1909年(明治42年)に陸地測量部日本陸軍の地図作成部署)がこの地域を測量し、その結果を1913年(大正2年)に公式の地図に記載したさいは、両県の県境は分水嶺の稜線を引いたため、夜叉ヶ池は福井県側に属すこととなる。現在国土地理院の地図では福井県南条郡南越前町になっているが、岐阜県側は明治8年の検分結果を主張し、福井県側は明治42年の測量結果を主張している。

夜叉ヶ池の伝説[編集]

817年弘仁8年)、この年の美濃国平野庄(現岐阜県安八郡神戸町)は大かんばつに見舞われ、あらゆる作物は枯れる寸前であった。ある日、郡司の安八太夫安次は、草むらの中に小さな蛇を見つけ、ため息まじりで、「もしそなたが雨を降らせるのなら、私の大切な娘を与えよう。」と語った。

するとその夜、安次の夢枕に昼間の小蛇が現れ、「私は揖斐川上流に住む龍神だ。その願いをかなえよう。」と語った。すると、たちまちのうちに雨雲がかかって大雨が降り、作物は生き返り村は救われた。

翌日、約束どおり娘をもらう為、小蛇( = 龍神)は若者の姿に変えて安次の前に現れた。安次には3人の娘がいたのだが、安次が娘たちに事情を話すと、一番心がやさしい次女(三女の説もある)が、「村人を救っていただいたからには、喜んでいきます。」と答えた。驚いた安次は、「何か必要な物はないのか。」と問うと、娘は、「今、織りかけの麻布がありますから、これを嫁入り道具にいたします。」と答えた。

こうして娘は龍神の元へ嫁ぐことになり、麻布で身をまとい、若者( = 龍神)と共に揖斐川の上流へ向かっていった。

数日後、心配した安次は、娘に会う為に揖斐川上流へ向かった。やがて、揖斐川上流のさらに山奥の池に龍神が住むという話を聞き、その池にたどり着いた。安次は池に向かい、「我が娘よ、今一度父に姿を見せておくれ。」と叫んだ。すると、静かだった池の水面が波立ち、巨大な龍が現れた。龍は、「父上、これがあなたの娘の姿です。もうこの姿になったには人の前に現れる事はできません。」と告げ、池の中に消えていった。

池の畔にある奥宮夜叉龍神社

安次は龍となった娘を祀る為に、池のほとりと自宅に、龍神を祀る祠を建てた。

この娘の名を“夜叉”といい、池の名を娘の名より“夜叉ヶ池”と名づけたという(娘の名は不明で、後から池の名から“夜叉”とおくられたとの説もある)。

安八太夫安次の子孫は現在も岐阜県安八郡神戸町に健在であり、今は石原姓を名乗っている。岐阜県安八郡神戸町大字安次にある自宅には、安八太夫安次と夜叉を祭る夜叉堂がある。夜叉堂参拝する際、個人宅の為、事前に連絡し予約が必要である。

また、夜叉姫は、夜叉龍神社にて夜叉龍神という名で祀られている。

もう一つの伝説[編集]

福井県にも良く似た伝説がある。こちらの伝説では、越前国南条郡池ノ上の弥兵次という豪農が主人公である。内容は岐阜県側に伝わる伝説とほぼ同じである。

夜叉ヶ池伝説は古くから伝わっており、これを題材とした泉鏡花の戯曲『夜叉ヶ池』(岩波文庫ほか)もある。

脚注[編集]

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  1. ^ ヤシャゲンゴロウ”. 福井県. 2012年7月30日閲覧。
  2. ^ a b c d e f 夜叉ヶ池とパトロール (PDF)”. 近畿中国森林管理局福井森林管理署. 2012年7月30日閲覧。
  3. ^ ヤシャゲンゴロウと夜叉ヶ池 (PDF)”. 南越前町. 2012年7月30日閲覧。
  4. ^ 福井県のすぐれた自然 地形・地質編、p.150
  5. ^ a b c d 川上 (2009)、148-149頁
  6. ^ 岐阜県の名水”. 岐阜県. 2012年7月30日閲覧。
  7. ^ 地図閲覧サービス(夜叉ヶ池)”. 国土地理院. 2012年7月30日閲覧。
  8. ^ 植物絶滅危惧種情報検索(ヤシャゲンゴロウ)”. 生物多様性情報システム (2007年8月3日). 2012年7月30日閲覧。
  9. ^ 福井県レッドデータブック データベース・ヤシャゲンゴロウ”. 福井県自然保護課 (2002年). 2012年7月30日閲覧。
  10. ^ a b 島田 (2009)、98-99頁
  11. ^ a b 宮本 (2010)、54-55頁
  12. ^ a b 余呉 (2010)、262-263頁

参考文献[編集]

  • 絵物語 坂内伝説・夜叉ヶ池(坂内村教育委員会 桑原隆一作画 1997年)
  • 川上洋一 『絶滅危惧の生きもの観察ガイド 東日本編』 東京堂出版2009年8月ISBN 978-4490206760
  • 島田靖、堀井啓介 『改訂版 岐阜県の山』 山と溪谷社〈新・分県登山ガイド・改訂版〉、2009年12月。ISBN 9784635023702
  • 牧野 憲昭,亀谷 良治 『福井県のすぐれた自然 地形・地質編』 福井県県民生活部自然保護課、1999年
  • 美濃と飛騨のむかし話(岐阜県小中学校長会 1970年)
  • 宮本数男 『改訂版 福井県の山』 山と溪谷社〈新・分県登山ガイド〉、2010年3月15日ISBN 978-4-635-02369-6
  • 与呉日出夫 『改訂新版 名古屋周辺の山』 山と溪谷社〈週末登山コースの百科事典〉、2010年7月。ISBN 9784635180177

関連項目[編集]

外部リンク[編集]