夏への扉
『夏への扉』(なつへのとびら、原題"The Door into Summer") は、アメリカのSF作家ロバート・A・ハインラインが1956年に発表したSF小説。
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[編集] 概要
タイムトラベルを扱ったSF小説が直面する一般的な問題である、「自分自身との遭遇」、「未来からのタイムトラベルによる過去の変更」、「タイムトラベルを使って「将来の出来事」を変えることが倫理的かどうか」などを扱った初期のSF小説の一つである。また、「猫SF(or 猫小説)」の代表作としても知られる。
そのロマンティックなストーリーが日本のSFファンに愛され、日本のSFファンが海外の長編SFのベストを選ぶ企画では、しばしば本作が1位に選出されている(評論家・作家等が選ぶベストでは、そこまでの高い評価はされていない)。
タイムトラベル以外に扱われているガジェット(小道具)として、一般家庭への家事ロボットの普及がリアリティをもって扱われていることも特筆すべき点である。ロボットの行動のプログラミングや、特殊な機能・頻繁に利用する機能を登録する外部記憶媒体の概念(「メモリー・チューブ」)なども現実的で説得力に富んでいる。この他、現実のワープロ(もしくはCAD)に酷似した製図用タイプライターなども登場する。
青春アドベンチャーでラジオドラマ化されている。また、この作品をモチーフとした難波弘之の同名楽曲(『センス・オブ・ワンダー』(1979年・キングレコード SKS(S)-1032) 収録:吉田美奈子作詞/山下達郎作曲)がある。
また、2011年春に演劇集団キャラメルボックスが世界初の舞台化を行った。
[編集] あらすじ
注意:以降の記述で物語・作品・登場人物に関する核心部分が明かされています。免責事項もお読みください。
舞台は1970年のロサンゼルス。主人公ダンは親友のマイルズと会社を興し、ダンは開発を、マイルズは営業を担当し、業績は順調に伸ばしていく。そして株式会社設立のために美人秘書ベルを仲間に加え、ダンはベルと結婚話を進めるなど幸福の絶頂にあった。ダンは既存の技術をこねくり回し、家事用ロボット「文化女中器(ハイヤード・ガール、福島正実による訳語)」を発明。しかし、質のいい商品を送り出したいダンは、企業をいち早く大きくさせたいマイルズと運営方針をめぐって対立。またベルの裏切りによって会社を追い出され全てを失う。
失意のまま、愛猫のピートと共に冷凍睡眠で30年間の眠りにつく決意をするダンだったが、直前で考えを改め、2人に復讐しようとする。しかし返り討ちにあい、ピートは行方不明、ダンは麻薬を射たれて人事不省のまま冷凍睡眠に送り込まれる。
そして西暦2000年、ダンは目覚める。保険会社が倒産していたため財産をすっかりなくしていたダンは、自動車解体の職を経験しながら失った30年の知識を蓄え、文化女中器製造会社に転職する。その過程で自分の頭の中で思い描いていた新型の製図器がそっくりそのまま世の中に普及していることを知る。偶然と考えたダンだったが、特許の記録を調べてみれば自分と同姓同名の人物が1970年に特許を取得している。さらにマイルズは死に、かつての会社は文化女中器で成功しているものと思われたが、倒産していた。自分の記憶と事実の不整合に悩むダンは、同僚のチャックから軍事機密とされているタイムマシンの存在を知る。そのタイムマシンは、過去と未来のどちらに跳ぶのかわからない未完成の代物であったが、ダンは2分の1の確率に賭け、発明者の物理学者を半ば騙す形で時間旅行に挑戦し、無事2001年から1970年に跳ぶことに成功する。
過去の世界へ着陸する様子をサットン夫妻に目撃されてしまうが、事情を説明したダンはサットン夫妻に助けられながら、製図器の開発などに力を注ぐ。そして自分が未来に送り込まれた日になるとマイルズの家に赴き、ピートを保護、さらに彼らが奪い取った自分の発明品の新型ロボットを密かに奪回の上破壊。それよりも更に高性能なロボットを開発して、新企業設立計画とともにサットンに1970年で開発したものを託し、新企業を設立するよう勧める。冷凍睡眠の予定日、ダンはリッキィのいるキャンプ地へ行くと、もしまた会いたいと思えば冷凍睡眠をするようにと言い残しお別れをする。ピートと共に再び冷凍睡眠で2001年の世界へ舞い戻ったダンは、自分の会社と愛猫を取り戻し、真に自分を想ってくれる恋人を手に入れるのだった。
[編集] 登場人物
- ダニエル・ブーン・デイヴィス(ダン)
- 主人公。発明家で文化女中器の発明者。根っからの技術者肌で世事には疎いところがある。名前の由来はダニエル・ブーンで、父親が名づけたという。
- 護民官ペトロニウス(ピート)
- 主人公の愛猫。オス。喧嘩が強い。なお、邦訳では「護民官」とされているラテン語「Arbiter」は本来「審判者」程の意。この語に「護民官」の意はない。
- マイルズ・ジェントリイ
- 主人公の親友。元弁護士。主人公と一緒に会社を興すが裏切る。肥満のようだ。
- ベリンダ・シュルツ・ダーキン(ベル)
- 主人公の会社に雇われた女性事務員。マイルズを唆して主人公を裏切らせる。実は詐欺師。
- フレドリカ・ヴァージニア・ハイニック(リッキイ・ジェントリイ)
- マイルズの義理の娘(ただし籍は入っていない)。ピートと仲が良い。
- チャック・フロイデンバーグ
- 技師。西暦2000年の世界で主人公の友人となる。かつてトウィッチェルの助手をしていた。
- ヒューバート・トウィッチェル
- 大学教授。天才物理学者。タイムマシンの発明者だが冷遇されている。
- サットン夫妻
- 過去に舞い戻ったダンと最初に出会った。夫は現役弁護士で夫婦ともに主人公を疑わない誠実な人柄。実はヌーディスト。ダンの新たな親友となり彼の計画に従って新会社を設立する。
[編集] 出版
- 初出 - ファンタジー・アンド・サイエンス・フィクション誌 1956年10月号-12月号掲載
- ハードカバー版刊行 - 1957年
- 『夏への扉』 加藤喬訳、"講談社S・Fシリーズ"IV(1958年)
- 『夏への扉』 福島正実訳、"ハヤカワ・SF・シリーズ"(1963年)
- 『未来への旅』 福島正実訳、講談社"世界の科学名作"13(1965年)
- 『夏への扉』 福島正実訳、早川書房"世界SF全集"12(1971年)
- 『夏への扉』 福島正実訳、ハヤカワ文庫SF(1979年)
- 『夏への扉[英語版ルビ訳付]』 講談社"ルビー・ブックス"(2000年)
- 『夏への扉[新訳版] 』 小尾芙佐訳、早川書房(2009年) ISBN 978-4-15-209059-1
- 『夏への扉』 福島正実訳, ハヤカワ文庫 (2010年)(1979年版の新装版) ISBN 978-4-15-011742-9
- ^ ハヤカワ文庫2010年版解説