国民の父

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ジョゼ・ボニファシオ・デ・アンドラーダ・エ・シルヴァ、現在のブラジルではペドロ1世よりも重視されている
キューバ独立の父ホセ・マルティ
辛亥革命を主導した孫文中華民国(台湾)の国父
ムスタファ・ケマル・アタテュルク、トルコ共和国建国の父、「アタテュルク」は尊称

国民の父(こくみんのちち)は、多くの国家において、独立期や発展期に活躍した象徴的な人物や政治的な指導者を賞賛する際に使われる呼称である。英語からの訳語であるこの呼称の他、似た概念を表す呼称として「祖国の父」、「国家の父」、「建国の父」、「独立の父」、「国父」があり、それぞれニュアンスが異なる。

各呼称のニュアンスの違い[編集]

「建国の父」や「独立の父」はもっぱら建国や独立そのものに多大な貢献をした人物を指す呼称だが、その他は必ずしもそうではなく、国家の発展に貢献した人物を指すこともある。「祖国の父」及び「国家の父」は後述のpater patriaeの訳語として使われるほか、一般的な呼称としても用いられる。日本語中国語では漢語の「国父」がしばしば使われる。「国父」は「藩主の父」を表す称号として島津久光が用いたが、後に"Father of the Nation"の訳語として使われるようになり、特に中国語からの影響で孫文を指す用例が最も多く、定着している。

概説[編集]

その生涯から読み取られる英雄らしさや道徳的権威としてのありかたによって、こうした人物は国家や国民国史を記述する際のキーパーソンにされ、愛国心の源に、また尊敬や崇拝の対象にされる。国父の肖像は国家の象徴となり、紙幣切手記念碑、あるいは地名や空港名、大学名などに使われる。いくつかの権威的な国家では、国父に対するカルト的な個人崇拝が確立されることもある。

古代ローマ元老院は、最も尊敬すべき市民に対し祖国の父pater patriae)の称号を授与していた。キケロ執政官として国家転覆の陰謀を未然に防いだことからこの称号を得た他、有名なところでは歴代ローマ皇帝達は長年皇帝として活躍した場合など、元老院からこの称号を贈られていた。皇帝の肖像の入った硬貨にしばしば「PP」と書かれているのはこの「pater patriae」の略である。

一旦「国父」とされた人物の全てが永久に名声を維持する訳ではなく、歴史の見直しなどによってその地位が揺らぐことがある。例えば、ヨシフ・スターリンは、ソビエト連邦の指導者の地位にあった時代、数千万のソビエト人民の父として称えるプロパガンダがなされていた。彼が死んだ後、指導者スターリンのいない生活など考えられないし耐えられないと考えた国民が多かっただろうことは、後追い自殺が続発したことからも伺える。やがて彼が行った政治的抑圧が明るみに出て、後継者ニキータ・フルシチョフによる非難が行われ、ウラジーミル・レーニンと枕を並べて安置されていたスターリンの遺体はレーニン廟から撤去されるに至った。

他の例では、アイルランド独立運動の指導者でアイルランド共和国大統領を長年務めたエイモン・デ・ヴァレラが挙げられる。多くのアイルランド人は彼を国父と見ていたが、1980年代以降の歴史の再評価で、他の独立指導者(マイケル・コリンズなど)にスポットが当てられるに従い、デ・ヴァレラの評価は下がっている。

マハトマ・ガンディーインドの国父(राष्ट्रपिता)として、孫文は中華民国台湾)の国父(國父)として、国家から公式に称されている。トルコの近代化の父ムスタファ・ケマル・パシャは、トルコ大国民議会から「父なるトルコ人」という意味のアタテュルクという姓を贈られた。

2003年にハーミド・カルザイ大統領が起草したアフガニスタン憲法草案では、廃位されたかつての王であるザーヒル・シャーに「ババ=エ=ミラート(国父)」の称号が贈られた。この異例の措置は、王政復活を切望するアフガン人に対する配慮であると解釈されている。

国民の父の一覧[編集]

人名
アフガニスタン ザーヒル・シャー
アルバニア スカンデルベク
アルジェリア アフメド・ベンベラ
アンティグア・
バーブーダ
サー・ヴェア・バード
アルゼンチン マヌエル・ベルグラーノ
ホセ・デ・サン=マルティン
アルメニア 幻視者グレゴリオス
オーストラリア サー・ヘンリー・パークス(Henry Parkes)
オーストリア カール・レンナー
フランツ・ヨーゼフ1世
バハマ サー・リンデン・ピンドリング(Lynden Pindling)
バングラデシュ ムジブル・ラフマン
バルバドス エロール・バロー(Errol Barrow)
ボリビアコロンビア
エクアドルパナマ
ペルーベネズエラ
シモン・ボリーバル
アントニオ・ホセ・デ・スクレ
ボツワナ サー・セレッツェ・カーマ(Seretse Khama)
ブラジル ペドロ1世
ジョゼ・ボニファシオ・デ・アンドラーダ・エ・シルヴァ(José Bonifácio de Andrade e Silva)
ミャンマー(ビルマ) アウン・サン
ブルンジ ルイ・ルワガソレ(Louis Rwagasore)
カンボジア ノロドム・シハヌーク
カナダ サー・ジョン・A・マクドナルド
ジョルジュ・エティエンヌ・カルティエ
(George-Étienne Cartier)
中央アフリカ バルテレミー・ボガンダ(Barthélemy Boganda)
チリ ベルナルド・オイヒンス
ホセ・ミゲル・カレーラ(José Miguel Carrera)
中華民国中華人民共和国 孫文
コートジボワール フェリックス・ウフェボワニ(Félix Houphouët-Boigny)
クロアチア アンテ・スタルチェヴィッチ(Ante Starčević)
キューバ カルロス・マヌエル・デ・セスペデス
(Carlos Manuel de Céspedes)、
ホセ・マルティフィデル・カストロ
チェコスロヴァキア
チェコ
カール4世
トマーシュ・マサリク
ドミニカ共和国 フアン・パブロ・ドゥアルテ(Juan Pablo Duarte)
東ティモール シャナナ・グスマン
エジプト サアド・ザグルール(Saad Zaghlul)、
ガマール・アブドゥン=ナーセル
エチオピア メネリク1世
エルサルバドル ホセ・マティアス・デルガード(José Matías Delgado)
フィジー カミセセ・マラ(Ratu Sir Kamisese Mara)
フィンランド カール・グスタフ・エミール・マンネルヘイム
フランス シャルル・ド・ゴール第五共和政)、
ナポレオン・ボナパルト第一帝政)、
ジャンヌ・ダルク
シャルルマーニュ神聖ローマ帝国およびフランク王国)、
ウェルキンゲトリクス
ガンビア ダウダ・ジャワラ(Dawda Jawara)
ドイツ コンラート・アデナウアードイツ連邦共和国)、
オットー・フォン・ビスマルクドイツ帝国)、
オットー1世神聖ローマ帝国)、
カール大帝神聖ローマ帝国東フランク王国)、
アルミニウス(Arminius)
ガーナ クワメ・エンクルマ
ギリシャ イオアニス・カポディストリアス
ギニア セク・トゥーレ
ハイチ トゥーサン・ルーヴェルチュールジャン=ジャック・デザリーヌ(Jean-Jacques Dessalines)
ホンジュラス フランシスコ・モラサン(Francisco Morazán)
ハンガリー アールパード(Árpád)、
ラヨシュ・コシュート(Lajos Kossuth)
アイスランド ヨゥン・シグルズソン(Jón Sigurðsson)
インド マハトマ・ガンディー
インドネシア スカルノ
イラン ルーホッラー・ホメイニー
アイルランド マイケル・コリンズエイモン・デ・ヴァレラ
イタリア ジュゼッペ・ガリバルディ
ジュゼッペ・マッツィーニカミッロ・カヴール
イスラエル テオドール・ヘルツル
ケニア ジョモ・ケニヤッタ
コソボ イブラヒム・ルゴヴァ
ラオス ペサラート王子(Phetsarath)
レソト モショエショエ1世(Moshoeshoe I)
マラウイ ヘイスティングズ・カムズ・バンダ
マレーシア トゥンク・アブドゥル・ラーマン
マルタ マンウェル・ディメク(Manwel Dimech)
モーリタニア モクタル・ウルド・ダッダ
モーリシャス サー・シウサガル・ラングーラム
メキシコ ミゲル・イダルゴベニート・フアレス
モンゴル チンギス・ハーン
ダムディン・スフバートルモンゴル人民共和国
モンテネグロ ミロ・ジュカノヴィチ(Мило Ђукановић)
モロッコ ムーレイ・イドリース1世(Moulay Idriss I)
ナミビア サム・ヌジョマ
オランダ オランダウィレム1世、オラニエ公、ナッサウ伯
日本国 神武天皇
ニカラグア アウグスト・セサル・サンディーノ
ナイジェリア ンナムディ・アジキウェ(Nnamdi Azikiwe)
古朝鮮 檀君
大韓民国 李承晩
金九
北朝鮮 金日成
パキスタン ムハンマド・アリー・ジンナー
パレスチナ自治区 ヤーセル・アラファート
フィリピン ホセ・リサール
ポーランド ミェシュコ1世
ポルトガル アフォンソ1世
ロシア ピョートル大帝
セントルシア サー・ジョン・コンプトン(John Compton)
セントビンセントおよびグレナディーン諸島 ジェームズ・ミッチェル(James F. Mitchell)
サウジアラビア アブドゥルアズィーズ・イブン=サウード
セネガル レオポルド・セダール・サンゴール
セルビア ステファン・ネマニャ聖サヴァ(Свети Сава)
シエラレオネ サー・ミルトン・マルガイ
シンガポール 李光耀 (リー・クアンユー)
南アフリカ共和国 ヤン・ファン・リーベックアパルトヘイト時代)
ネルソン・マンデラ(現在)
旧ソビエト連邦 ウラジーミル・レーニン
スリランカ ドン・スティーブン・セーナーナーヤカ
(Don Stephen Senanayake)
スーダン イスマイル・アル=アズハリ(Ismail al-Azhari)
スウェーデン ビルイェル・ヤール(Birger jarl)
グスタフ1世 (スウェーデン王)
タンザニア ジュリウス・ニエレレ
テキサス共和国 スティーブン・オースティン
チュニジア ハビーブ・ブルギーバ(Habib Bourguiba)
トルコ ムスタファ・ケマル・アタテュルク
トルクメニスタン サパルムラト・ニヤゾフ
ウガンダ ミルトン・オボテ
ウクライナ クィイとその兄弟(Kyi, Schek and Khoryv)
アラブ首長国連邦 ザーイド・ビン=スルターン・アール=ナヒヤーン
アメリカ合衆国 アメリカ合衆国建国の父を参照
ウルグアイ ホセ・ヘルバシオ・アルティガス(José Gervasio Artigas)
フアン・アントニオ・ラバジェハ
ウズベキスタン ティムール
西サハラ エル・ワリ(El Ouali Mustafa Sayed)
ユーゴスラビア アレクサンダル1世
ヨシップ・ブロズ・チトー
リベリア ジョセフ・ジェンキンス・ロバーツ(Joseph Jenkins Roberts)

関連項目[編集]