国旗及び国歌に関する法律
| この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。 |
| 国旗及び国歌に関する法律 | |
|---|---|
日本の法令 |
|
| 通称・略称 | 国旗国歌法、日の丸・君が代法 |
| 法令番号 | 平成11年8月13日法律第127号 |
| 効力 | 現行法 |
| 種類 | 公法 |
| 主な内容 | 国旗・国歌の制定 |
| 関連法令 | 元号法 |
| 条文リンク | 総務省法令データ提供システム |
国旗及び国歌に関する法律(こっきおよびこっかにかんするほうりつ、平成11年8月13日法律第127号)は、日本の国旗・国歌を定める日本の法律。1999年(平成11年)8月13日に公布・即日施行された。国旗国歌法(こっきこっかほう)と略される。
目次 |
[編集] 概説
国旗国歌法は本則2条、附則3項、別記2により構成される法律である。
- 第1条 国旗は、日章旗とする。
- 第2条 国歌は、君が代とする。
- 附則 施行期日の指定、商船規則(明治3年太政官布告第57号)の廃止、商船規則による旧形式の日章旗の経過措置。
- 別記 日章旗の具体的な形状、君が代の歌詞・楽曲。
[編集] 審議経過
- 6月11日 「国旗及び国歌に関する法律案」(所管・総理府本府)が閣議決定され、閣法第115号として衆議院に提出(併せて参議院に予備審査のため送付)される。
- 6月29日 衆議院本会議において内閣官房長官野中広務が趣旨説明。衆議院内閣委員会(委員長・二田孝治)に付託
- 7月1日 衆議院内閣委員会において内閣官房長官野中広務が趣旨説明
- 7月6日 沖縄県那覇市、広島県広島市において地方公聴会開催
- 7月7日 北海道札幌市、石川県金沢市において地方公聴会開催
- 7月8日 衆議院内閣委員会において中央公聴会開催(公述人:慶應義塾大学法学部教授・弁護士・小林節、関西大学文学部講師・上杉聰、エッセイスト・林四郎、日本大学法学部教授・百地章、東京都立大学前総長・名誉教授・山住正己、障害児を普通学校へ全国連絡会世話人・元中学校教師・北村小夜)
- 7月16日 衆議院内閣委員会において参考人意見聴取(参考人:元長野オリンピック儀典アドバイザー・吹浦忠正、作曲家・中田喜直、國學院大學文学部教授・文学博士・阿部正路、京都産業大学日本文化研究所所長・所功、全日本教職員組合中央執行委員長・山口光昭、東京大学名誉教授・フェリス女学院大学名誉教授・弓削達)
- 7月21日 衆議院内閣委員会文教委員会連合審査会が開催される。衆議院内閣委員会において河村たかしほか4名から「国旗及び国歌に関する法律案に対する修正案」(題名を国旗法とし国歌に関する条項を削る内容)が提出され、起立少数により否決の後、原案が起立多数により可決。菅直人ほか2名から「国旗及び国歌に関する法律案に対する修正案」が本会議に提出される。
- 7月22日 衆議院本会議で、菅直人ら提出の修正案が起立少数で否決された後、原案を記名投票により採決。投票総数489、賛成403、反対86で可決。参議院に送付
- 7月28日 参議院本会議において内閣官房長官野中広務が趣旨説明。参議院国旗及び国歌に関する特別委員会(委員長・岩崎純三)に付託
- 7月29日 参議院国旗及び国歌に関する特別委員会において内閣官房長官野中広務が趣旨説明
- 8月3日 参議院国旗及び国歌に関する特別委員会において参考人意見聴取(参考人:東京大学大学院総合文化研究科教授・石田英敬、武蔵野女子大学教授・杉原誠四郎、明星大学人文学部教授・感性教育研究所所長・高橋史朗、中央大学教授・東京大学名誉教授・前日本教育学会会長・堀尾輝久)
- 8月4日 宮城県仙台市、愛知県名古屋市において地方公聴会開催
- 8月6日 参議院国旗及び国歌に関する特別委員長・岩崎純三が委員辞任。後任の委員長に筆頭理事・鴻池祥肇が互選される。
- 8月9日 参議院国旗及び国歌に関する特別委員会において中央公聴会開催(公述人:埼玉大学教養学部教授・長谷川三千子、新潟国際情報大学教授・石川眞澄、財団法人日本オリンピック委員会副会長・上田宗良、日本高等学校教職員組合中央執行委員長・升井勝之)。江田五月から「国旗及び国歌に関する法律案に対する修正案」が同委員会に提出され、挙手少数により否決の後、原案が挙手多数により可決。参議院本会議で、峰崎直樹ほか1名から「国旗及び国歌に関する法律案に対する修正案」が提出され、ボタン式投票により採決。投票総数239、賛成54、反対185で否決された後、原案をボタン式投票により採決。投票総数237、賛成166、反対71で可決。奏上
- 8月13日 公布、即日施行
原案への賛成は自由民主党、自由党、公明党の与党3党及び民主党の一部による。民主党は原案の採決において党議拘束を外している。
[編集] 法律制定の背景
1996年頃から、公立学校の教育現場において、当時の文部省の指導で、日章旗(日の丸)の掲揚と同時に、君が代の斉唱が事実上、義務づけられるようになった。しかし、反対派は日本国憲法第19条が定める思想・良心の自由に反すると主張して社会問題となった。埼玉県立所沢高等学校では卒業式・入学式での日章旗と君が代の扱いを巡る問題が生じ、1996年より数年にかけて、教育現場及び文部省を取り巻く関係者に議論を呼んだ。また1999年には広島県立世羅高等学校で卒業式当日に、君が代斉唱や日章旗掲揚に反対する公務員である教職員と文部省の通達との板挟みになっていた校長が自殺。これらを1つのきっかけとして法制化が進み、本法が成立した。
当時首相であった小渕恵三は、1999年6月29日の衆議院本会議において、日本共産党の志位和夫の質問に対し以下の通り答弁した。
- 「学校におきまして、学習指導要領に基づき、国旗・国歌について児童生徒を指導すべき責務を負っており、学校におけるこのような国旗・国歌の指導は、国民として必要な基礎的、基本的な内容を身につけることを目的として行われておるものでありまして、子供たちの良心の自由を制約しようというものでないと考えております。」
- 「国旗及び国歌の強制についてお尋ねがありましたが、政府といたしましては、国旗・国歌の法制化に当たり、国旗の掲揚に関し義務づけなどを行うことは考えておりません。したがって、現行の運用に変更が生ずることにはならないと考えております。」
一方で、当時文部省教育助成局長であった矢野重典は、1999年8月2日の参議院国旗・国歌特別委員会で、公立学校での日章旗掲揚や君が代斉唱の指導について「教職員が国旗・国歌の指導に矛盾を感じ、思想・良心の自由を理由に指導を拒否することまでは保障されていない。公務員の身分を持つ以上、適切に執行する必要がある」と表明している。
[編集] 国旗国歌についての議論
日本で展開されている国旗・国歌に関する論争は、民主主義・社会主義といった国家の枠組みや思想信条を超え、日本以外の国で確認されておらず、世界的に、事実上、日本固有の論争となっている[独自研究?]。
国旗国歌を擁護する意見は、主に保守派から主張されることが多い。しかし、論者によってニュアンスの違う意見がいくつかある。例えば、明治以来の伝統を重視しているもので、戦後も広く国民の間に親しまれ定着しているという意見などがある。
サッカーのFIFAワールドカップやオリンピックなど、国際競技大会での『君が代』演奏の機会があるスポーツ分野では、日本を代表するスポーツ選手と自国への応援として自発的に日章旗(日の丸)が振られ、勝利の感慨の中で『君が代』が歌われる光景は古くから見られる。
一方反対の立場からは、スポーツの応援の場での強制でない自主的な行動は国際的にも評価されるものだが、自国への自負心が他国への優越感―「偏狭なナショナリズム」へと行き過ぎる危険もあり、教育現場での義務化は他国のそれへの尊重につながるわけではなく、逆に自国旗・自国歌、ひいては自民族を誇り自分がその一員である事に拠り所を求める民族主義に発展する危険な傾向であるとする意見が出ている。
賛成派は教育行政が学校の教員に国旗・国歌の指導を強制することは日本国憲法第19条が定める「思想・良心の自由」と矛盾するものではないと主張し、反対派は憲法違反であると主張する。このような事情から、次の項目にあるように裁判で争われることがある。
[編集] 公立学校と国旗国歌について
国歌(君が代)の「起立・斉唱」に関連した最高裁判所判決すべて「校長の職務命令は思想及び良心の自由を保障した憲法19条に違反しない(合憲)」という判断を示した。また、「起立・斉唱」命令や「起立」命令は「思想及び良心の自由を間接的に制約したとしても合憲」という命令の正当性が幅広く認められた。最高裁の全小法廷が合憲で一致。職務命令違反による処分の基準に関しては、戒告処分は裁量権の範囲内で妥当とするものの、それより重い減給や停職に関しては慎重な扱いを求めた。
[編集] 職務命令と関連判決
[編集] 確定判決
- 2007年2月27日最高裁判所判決
-
詳細は「日野「君が代」伴奏拒否訴訟」を参照
- 東京都日野市の市立小学校の入学式で1999年4月に国歌(君が代)のピアノ伴奏するようもとめる職務命令を拒否した音楽教師が、それを理由とする戒告処分が違法であり取り消すように東京都教育委員会を訴えた裁判の判決が、2007年2月27日に最高裁第3小法廷で下された。それによると、「校長の職務命令は思想及び良心の自由を保障した憲法19条に違反しない」、その職務命令は「特定の思想を持つことを強制したり、特定の思想の有無を告白することを強要したりするものではなく、児童に一方的な思想を教え込むことを強制することにもならない」とされ、教師側の敗訴が確定した[1]。
| 最高裁判所判例 | |
|---|---|
| 事件名 | 再雇用拒否処分取消等請求事件 |
| 事件番号 | 平成22年(行ツ)第54号 |
| 2011年(平成23年)5月30日 | |
| 判例集 | 民集 第65巻4号1780頁 |
| 裁判要旨 | |
|
公立高等学校の校長が教諭に対し卒業式における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立し国歌を斉唱することを命じた職務命令は,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,当該教諭の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するということはできない。 (1) 上記の起立斉唱行為は,学校の儀式的行事における慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するものであり,「日の丸」や「君が代」が戦前の軍国主義等との関係で一定の役割を果たしたとする当該教諭の歴史観ないし世界観を否定することと不可分に結び付くものではなく,上記職務命令は,その歴史観ないし世界観それ自体を否定するものとはいえない。 (2) 上記の起立斉唱行為は,学校の儀式的行事における慣例上の儀礼的な所作として外部からも認識されるものであって,特定の思想又はこれに反する思想の表明として外部から認識されるものと評価することは困難であり,上記職務命令は,当該教諭に特定の思想を持つことを強制したり,これに反する思想を持つことを禁止したりするものではなく,特定の思想の有無について告白することを強要するものともいえない。 (3) 上記の起立斉唱行為は,国旗及び国歌に対する敬意の表明の要素を含む行為であり,上記(1)の歴史観ないし世界観を有する者がこれを求められることはその歴史観ないし世界観に由来する行動と異なる外部的行為を求められることとなる面があるところ,他方,上記職務命令は,高等学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義,在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿い,かつ,地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえた上で,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図るものである。 |
|
| 第二小法廷 | |
| 裁判長 | 須藤正彦 |
| 陪席裁判官 | 古田佑紀 竹内行夫 千葉勝美 |
| 意見 | |
| 多数意見 | 全員一致 |
| 意見 | 竹内行夫 須藤正彦 千葉勝美 |
| 反対意見 | なし |
| 参照法条 | |
| 憲法15条2項,憲法19条,地方公務員法30条,地方公務員法32条,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)18条2号,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)28条3項,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)36条1号,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)42条1号,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)51条,国旗及び国歌に関する法律1条1項,国旗及び国歌に関する法律2条1項,高等学校学習指導要領(平成11年文部省告示第58号。平成21年文部科学省告示第38号による特例の適用前のもの)第4章第2C(1),高等学校学習指導要領(平成11年文部省告示第58号。平成21年文部科学省告示第38号による特例の適用前のもの)第4章第3の3 | |
- 2011年5月30日最高裁判所判決
- 東京都立高校の卒業式で、国歌(君が代)斉唱時の起立を命じた校長の職務命令が「思想・良心の自由」を保障した憲法19条に違反しないかが争点となった訴訟の上告審判決。最高裁第2小法廷が「憲法に違反しない(合憲)」と判断し、教師側の敗訴が確定した[2]。「起立」を命じた職務命令について最高裁が初めての合憲判断[3]。また、「都が戒告処分を理由に再雇用拒否したのは裁量権の範囲内」とした二審・東京高裁判決を支持、損害賠償請求も棄却し、原告全面敗訴となった。
- 国歌斉唱の起立命令に対する合憲判断としては初[4]
- 卒業式などでの国歌斉唱の起立は「慣例上の儀礼的な所作」と定義した
- 起立を命じた職務命令は「個人の歴史観や世界観を否定しない。特定の思想の強制や禁止、告白の強要ともいえず、思想、良心を直ちに制約するものとは認められない」と指摘
- 2011年6月6日最高裁判所判決
- 公立学校の卒業式などで国歌(君が代)斉唱時に教諭を起立させる校長の職務命令をめぐる訴訟の上告審判決。最高裁第1小法廷は、「思想・良心の自由」を保障した憲法19条には違反しない(合憲)との判断を示した。そのうえで、損害賠償などを求めた元教職員らの上告を棄却。元教職員側の敗訴が確定した[5]。5月30日の最高裁判決に続く「起立」に関する合憲判断。
- 2011年6月14日最高裁判所判決
- 学校行事で教職員に国旗(日の丸)へ向かって起立し、国歌(君が代)を斉唱するよう指示した校長の職務命令が、憲法19条の保障する思想・良心の自由に反し違憲かどうかが争われた訴訟の上告審判決。最高裁第3小法廷は、「思想・良心の自由」を保障した憲法19条には違反しない(合憲)との判断を示した。そのうえで、戒告処分取り消しなどを求めた現・元教職員らの上告を棄却。現・元教職員側の敗訴が確定した[6]。第1、第2小法廷も既に合憲の判決を出しており、最高裁の全小法廷が合憲で一致した。
- 2011年6月21日最高裁判所判決
- 入学式などで国歌(君が代)斉唱時に起立しなかったとして戒告処分を受けた広島県立高校の教職員と遺族ら45人が、県教委に「命令は違憲で処分は懲戒権の逸脱、乱用だ」として処分取り消しを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷は21日、請求を退けた一、二審判決を支持したうえ、「起立命令は合憲」と判断、上告を棄却。教職員らの全面敗訴が確定した[7]。東京都以外の件では初めての最高裁判決であり、『国旗及び国歌に関する法律』制定のきっかけとなった1999年の「広島県立世羅高校校長自殺事件」から12年目の年に、その広島県の件で最高裁が「起立命令は合憲」という判断を示した意味は大きい。
- 2011年6月21日最高裁判所決定
- 式典で国旗に向かって起立し、国歌斉唱を強制されるのは思想、良心の自由を侵害しているとして、神奈川県立高などの教職員ら130人が県を相手取り、起立斉唱の義務がないことの確認を求めた訴訟で、最高裁第3小法廷は上告を退ける決定をした。「訴え自体に理由がない」と却下した2審東京高裁判決が確定した[8]。
- 2011年7月4日最高裁判所判決
- 卒業式で国歌(君が代)斉唱時に起立を命じた校長の職務命令をめぐる2件の訴訟で、最高裁第二小法廷は4日、「命令は思想・良心の自由を保障した憲法に違反しない(合憲)」との判断を示し、再雇用不合格や戒告処分の取り消しを求めていた東京都内にある学校の教諭らの上告を棄却する判決を言い渡した。先行した4件の最高裁判決と同じ判断で、同種の訴訟での敗訴確定は5、6例目となる。この日の判決も、職務命令について間接的に思想と良心の自由の制約になり得るものの、「教育上の行事を円滑に進行する命令の目的や内容などを総合的に比較すれば、制約を許容できる必要性、合理性がある」と過去の判決を踏襲した。判決は4人の裁判官全員一致の意見[9][10]。
- 2011年7月7日最高裁判所判決
- 平成16年3月、東京都立板橋高校の卒業式で、国歌斉唱の命令に反対し、保護者に不起立を呼びかけて式典を妨害したとして、威力業務妨害罪に問われた元同校教諭、藤田勝久被告(70)の上告審判決で、最高裁第1小法廷は7日、被告側の上告を棄却した。罰金20万円とした1審東京地裁、2審東京高裁判決が確定する。5人の裁判官全員一致の結論。同小法廷は「表現の自由は重要な権利として尊重されるべきだが、憲法も絶対無制限には保障しておらず、公共の福祉のため必要、合理的な制限は認められる」と指摘。その上で「被告の行為は、静穏な雰囲気の中で執り行われるべき卒業式の円滑な遂行に看過し得ない支障を生じさせ、社会通念上許されない」とした[11]。
- 2011年7月14日最高裁判所判決
- 卒業式などで国歌(君が代)斉唱時に起立を命じた校長の職務命令をめぐり、東京都と北九州市の教職員らが起こした3件の訴訟の上告審判決で、最高裁第一小法廷は14日、いずれも「職務命令は思想・良心の自由を保障した憲法に違反しない(合憲)」との判断を示した。先行した6件の最高裁判決と同様の判断で、教職員らの上告を棄却した。教諭側の敗訴が確定したのは計9件となった。定年後の再雇用を取り消されたり、戒告などの処分を受けた教職員らが地位確認や処分の取り消し、慰謝料の支払いなどを求めていたものの、それらをすべて棄却する教職員らの全面敗訴[12][13]。
- 2012年1月16日最高裁判所判決
- 入学式や卒業式で国旗(日の丸)に向かって起立して国歌(君が代)を斉唱しなかったため懲戒処分を受けた東京都立学校の教職員が処分取り消しを求めた3件の訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は16日、「職務命令違反に対し、学校の規律や秩序保持の見地から重すぎない範囲で懲戒処分をすることは裁量権の範囲内」との初判断を示し、1度の不起立行為であっても戒告処分は妥当とした。一方、不起立を繰り返して処分が重くなる点は「給与など直接の不利益が及ぶ減給や停職には、過去の処分歴や態度から慎重な考慮が必要」と判断。戒告を取り消した2件の2審判決を破棄して教職員の逆転敗訴とする一方、停職となった教職員2人の内1人の処分を重すぎるとして取り消した(もう1人に関しては過去の処分歴などから取り消しを認めなかった)[14][15]。最高裁は今回初めて曖昧だった処分の基準を明確にした。
[編集] 係争中
東京都教育委員会(都教委)は2003年10月、「卒業式での国旗掲揚及び国歌斉唱に関する職務命令」として、「国旗は壇上向かって左側に掲げる」「式次第に国歌斉唱の題目を入れる」「国歌はピアノ伴奏をし、教職員は起立して国旗に向かって起立し斉唱する」などという項目を作成し、違反した場合は服務上の責任を問われるという、「国旗掲揚・国歌斉唱の義務」を各都立高校に通達した。だが、職務命令に従わない教職員がいたことから、都教委は従わなかった教職員に対し処分を行った。
- 2011年1月28日東京高等裁判所判決
- 処分された教職員のうち401人は、「国歌斉唱の起立・強制は、憲法で保障された思想及び良心の自由を犯している」として、都と都教委を相手取り、2004年1月から順次「強制される必要はないことの確認」と「処分を撤回する」ことを求め東京地方裁判所(東京地裁)に提訴した。2006年9月21日にでた東京地裁判決では、教職員1人につき3万円の慰謝料支払いを都に命じた。
- この判決を不服として都教委は2006年9月29日、東京高等裁判所(東京高裁)に控訴した。控訴審判決が2011年1月28日に東京高裁であり、一審・東京地裁判決を全面的に取り消し、教職員ら原告側逆転敗訴の判決を言い渡した。
- 国旗の掲揚や国歌の斉唱は、従来、全国の公立高校の式典で広く実施されている。入学式などの出席者にとって、通常想定されかつ期待されるものである。
- スポーツ観戦では自国ないし他国の国旗掲揚や国歌斉唱に、観衆が起立することは一般的である。教職員らが日の丸に向かって起立し、君が代を歌ったとしても、特定の思想を持っていることを外に向けて表明することにはならず、思想・良心の自由を侵害したとはいえない。
- 式典の国旗掲揚、国歌斉唱を指導すると定めた学習指導要領に基づいている。一方的な観念を子供に植え付ける教育を強制するものではない。
- 教職員は全体の奉仕者である地方公務員であり、法令等や上司の職務命令に従わなければいけない立場である。
- 一律に起立、斉唱するよう求めた都教育長通達には合理性があり、教育基本法が禁じる『不当な支配』にも当たらない
- として、入学式や卒業式で日の丸に向かって起立し、君が代を斉唱するよう義務付けた東京都教育委員会の通達は合憲と判断した。逆転敗訴に対し原告側は上告。
[編集] 関連事項
- 2006年度の卒業式では、中村正彦・都教育長の指導「卒業式の来賓は慎重に検討し、適切に人選せよ」を受けた各校長が、君が代斉唱を拒否した経験のある元職員・担任を式から締め出した。久留米高校では校長が、前校長の出席拒否を教育長答弁に基づくものである旨言明しており、“異論の排除ではないか”との声が出ている[16]。
- 2010年3月4日、北海道教職員組合日高支部において国旗国歌を入学式や卒業式から排除するため「『日の丸君が代』強制に反対するとりくみについて」という闘争マニュアルを配布していたことが発覚[17]。同問題が国会で取り上げられ川端達夫文部科学大臣は「学習指導要領から国旗国歌を大事にと指導しており、北海道教育委員会と連携して指導する」と述べた[18]。
[編集] 各界の反応
[編集] 今上天皇
東京都教育委員会委員を務める米長邦雄は2004年秋の園遊会に招待された際、今上天皇に対し「日本中の学校において国旗を掲げ国歌を斉唱させることが、私の仕事でございます」と発言した。米長のこの発言に対し、今上天皇は「やはり、強制になるということでないことが望ましいですね」と述べた。
翌2005年、記者会見で「昨年の秋には天皇陛下ご自身が国歌斉唱と国旗掲揚についてご発言を述べられました。学校でこれらのことを強制的にさせることはどうお考えでしょうか」という質問に対し、「世界の国々が国旗、国歌を持っており、国旗、国歌を重んじることを学校で教えることは大切なことだと思います。国旗、国歌は国を象徴するものと考えられ、それらに対する国民の気持ちが大事にされなければなりません。オリンピックでは優勝選手が日章旗を持ってウィニングランをする姿が見られます。選手の喜びの表情の中には、強制された姿はありません。国旗、国歌については、国民一人一人の中で考えられていくことが望ましいと考えます」と発言している。
[編集] その他著名人など
2006年9月21日の地裁判決については、原告側は「画期的な判決」と評価した。一方、東京都知事石原慎太郎は「この裁判官は教育現場を何にも分かっていない」と批判した。また、東京都議会議員土屋敬之(当時民主党)は、10月24日に判決を言い渡した裁判官の罷免を求める集会を主宰した。
2007年2月20日、日本弁護士連合会は2003年10月の都教委の通達に基づく処分取り消しと、“教職員に一定の思想を強制するもので憲法違反”としてその都教委の通達廃止を求める「警告」を教育委員会に対し行なった[19]。
[編集] 脚注
- ^ 戒告処分取消請求事件最高裁判所判決
2007年7月7日 第三小法廷判決
平成16(行ツ)328
“判決全文 (PDF)”. 判例検索システム. 最高裁判所. 2011年5月30日閲覧。
“判決情報”. 判例検索システム. 最高裁判所. 2011年5月30日閲覧。 - ^ 再雇用拒否処分取消等請求事件最高裁判所判決
2011年5月30日 第二小法廷判決
平成22(行ツ)54
“判決全文 (PDF)”. 判例検索システム. 最高裁判所. 2011年5月30日閲覧。
“判決情報”. 判例検索システム. 最高裁判所. 2011年5月30日閲覧。 - ^ “君が代訴訟、起立命じる職務命令「合憲」 最高裁初判断”. 朝日新聞. (2011年5月30日)
- ^ “「国際常識を身につけるため、国旗、国歌に敬意を」 国歌斉唱時の起立命令は合憲 最高裁が初判断”. 産経新聞. (2011年5月30日)
- ^ 損害賠償請求事件最高裁判所判決
2011年6月6日 第一小法廷判決
平成22(オ)951
“判決全文 (PDF)”. 判例検索システム. 最高裁判所. 2011年6月15日閲覧。
“判決情報”. 判例検索システム. 最高裁判所. 2011年6月15日閲覧。 - ^ 戒告処分取消等,裁決取消請求事件最高裁判所判決
2011年6月14日 第三小法廷判決
平成22(行ツ)314
“判決全文 (PDF)”. 判例検索システム. 最高裁判所. 2011年6月15日閲覧。
“判決情報”. 判例検索システム. 最高裁判所. 2011年6月15日閲覧。 - ^ 戒告処分取消請求事件最高裁判所判決
2011年6月21日 第三小法廷判決
平成22(行ツ)372
“判決全文 (PDF)”. 判例検索システム. 最高裁判所. 2011年6月22日閲覧。
“判決情報”. 判例検索システム. 最高裁判所. 2011年6月22日閲覧。 - ^ “国旗国歌の起立命令 神奈川県の教職員も敗訴確定”. 産経新聞. (2011年6月22日) 2012年1月18日閲覧。
- ^ “君が代斉唱不起立訴訟2件に「合憲」 最高裁判決”. 朝日新聞. (2011年7月4日)
- ^ “国旗国歌訴訟 都内の2件も「合憲」判決”. 産経新聞. (2011年7月4日)
- ^ 威力業務妨害被告事件最高裁判所判決
2011年7月7日 第一小法廷判決
平成20(あ)1132
“判決全文 (PDF)”. 判例検索システム. 最高裁判所. 2011年7月15日閲覧。
“判決情報”. 判例検索システム. 最高裁判所. 2011年7月15日閲覧。 - ^ “君が代起立命令訴訟、また3件合憲判決 最高裁”. 朝日新聞. (2011年7月14日)
- ^ “君が代起立 北九州も合憲、教職員ら上告棄却”. 読売新聞. (2011年7月14日)
- ^ “君が代不起立:「処分は裁量権の範囲内」 最高裁が初判断”. 毎日新聞. (2012年1月16日) 2012年1月18日閲覧。
- ^ “戒告処分は裁量範囲内=減給以上は原則認めず―君が代不起立訴訟で初判断・最高裁”. 時事通信. (2012年1月16日) 2012年1月18日閲覧。
- ^ “卒業式来賓、校長が選別 都立高 恩師も「お断り」”. 朝日新聞. (2007年3月10日)[リンク切れ]
- ^ “【北教組問題】日高支部が「国旗国歌排除マニュアル」”. 産経新聞. (2010年3月4日) 2010年3月7日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “文科相、北教組指導へ 国旗国歌排除マニュアル問題で”. 産経新聞. (2010年3月5日) 2010年3月7日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “「君が代」不起立4教諭処分、日弁連が取り消し求める”. 読売新聞. (2007年2月21日)[リンク切れ]
[編集] 関連項目
- 思想・良心の自由 - 日本国憲法第19条
- 教育基本法
- 学習指導要領
- 皇民化教育
- 日野「君が代」伴奏拒否訴訟
- 根津公子
- 横山洋吉
- 日本教職員組合
- 大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱に関する条例
[編集] 外部リンク
- 国旗及び国歌に関する法律(平成十一年八月十三日法律第百二十七号)
- 国旗及び国歌に関する関係資料(文部科学省)
- 本会議での記名投票結果(衆議院)
- 本会議でのボタン式投票結果(参議院)
- 大日本帝国国旗法案