囲い罠

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囲い罠(かこいわな、英語:corral trap)とは、囲い状の構造物の中に複数の野生動物(主に哺乳類)を閉じ込めて一度に捕獲するのことである。

概要[編集]

囲い罠はシカなどの大型哺乳類やイノシシウサギなどの大量捕獲に利用される[1]。罠は木材もしくは立木を支柱として金属板や木版、布、ネットなどで取り囲まれた常設の構造物となっている[2]。大掛かりな囲い罠も多く、北アメリカビッグホーンの捕獲では2エーカー(8000平方m)もの面積の巨大な囲い罠が設置され[3]、日本の数少ない事例としては北海道洞爺湖中島でエゾシカ捕獲に使用された囲い罠は総周囲長が300mを超える[4]。囲い罠には動物が出入りできる侵入口(ゲート)が備え付けられており、一定の数の動物が中に入るのを確認した後、侵入口を閉じて捕獲する。侵入口の閉じ方はさまざまで、手動で閉じるものもあれば遠隔操作によって閉められるものもある[2]。また、外からは自由に侵入できるが、罠の中からは脱出できないような仕組みをもつ場合もある[5]。構造的には「屋根のない大型の箱罠」といえる[3]

動物を誘き寄せる餌には、アルファルファなどの乾草やリンゴ類、水などが利用される[2]。中に閉じ込められた動物は複数の人間が勢子として追い込むなどして行動を制限し、麻酔などで動きを封じる。さらに囲い罠の一方を漏斗状に狭めて暗室やクローバー式罠などの箱罠を組み合わせることで捕獲をより安全に行えるよう改良がなされる[2]

アルパインキャプチャー[編集]

アルパインキャプチャーは囲い罠の一種であるが、その形態や捕獲方法が通常の囲い罠とは大きく異なる。基本的に六角形もしくは四角形を構成するかたちで6本もしくは4本の支柱が立っておりそれぞれを結ぶように布やネットがはられているが、その布やネットは最初の段階では地面に下ろされていて四方のどこからでも動物が出入りできる状態にある[6]。ある程度まとまった数の動物が誘引されて罠内に入り込むのを確認すると同時に、外部からワイヤーを直接引っ張るか、遠隔操作をすることで下りていた布・ネットが一斉に立ち上がり、動物を捕らえるという仕組みになっている。

利点と欠点[編集]

箱罠括り罠といった基本的に一個体しか捕獲できない罠と異なり、囲い罠は一度に大量の動物を捕獲することが可能で優れた捕獲効率を示す。北海道洞爺湖中島では囲い罠によってエゾシカを一度に100頭以上捕獲することに成功している[4]。そうしたメリットがある一方で、囲い罠自体や誘因に用いる大量の餌が高額となりコストが高く、設置にも時間や人力を浪費し、広い場所が必要となるなどデメリットも多く指摘されている[5]。アルパインキャプチャーを利用することで簡便性はある程度向上されるが、アルパインキャプチャーは雨風や雪に弱く気象に左右される問題がある[7]。また、箱罠と同様に捕獲や保定によるストレス捕獲性筋疾患を発症したりするほか[8]、囲い罠内で動物が暴れまわり怪我をするなどして結果的にその動物が死亡する事例も報告されている[3]

規制[編集]

日本国内では囲い罠を用いた動物(哺乳類・鳥類)の捕獲には、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律に従ってわな猟免許を所有した者が罠を設置しなければならない[9]

免許不要で捕獲できる囲い罠設置の条件

農林業の従事者は、県または市町村の許可等を受けずに、「囲い罠」を用いて野生獣を捕獲することができます。ただし、以下の4項目すべてを満たす場合に限られます。4項目すべてを満たさずに、野生鳥獣を捕獲した場合、法律に違反し、罰則規定が適用されることがありますので注意しましょう。

1.使用する猟具が「囲い罠」であること

「箱罠」や「くくり罠」など、囲い罠以外の罠は使用できません。なお、檻などで作られた箱の中に獲物が入ってトリガーが作動すると、出入口が閉まって獲物を閉じ込める罠のことを箱罠と呼びますが、天井面の半分以上が開口しているものは箱罠ではなく囲い罠として扱われます。

2.「自らが事業として行っている」作物等の被害防止目的であること

事業(販売等)目的でなく、専ら自家消費のために栽培している作物等の被害防止では認められません。自らが事業として行っている作物等の被害防止目的で使用する場合に限り、「囲い罠」は法で定める猟法から除外されます。

3.捕獲する鳥獣が「狩猟鳥獣」であること

「囲い罠」で捕獲できるのは、狩猟することが認められている狩猟鳥獣に限られます。その他の野生鳥獣を捕獲することはできません。

4.「狩猟期間」に「狩猟可能区域」で捕獲すること

捕獲できるのは、「狩猟期間」に、鳥獣保護区や公道など狩猟が禁止された場所を除く「狩猟可能区域」である場合に限られます。

参考文献[編集]

  1. ^ Nova J. Silvy (2012-02). Nova J. Silvy. ed. The Wildlife Techniques Manual: Research (7th edition ed.). The Johns Hopkins University Press. ISBN 978-1421401591 
  2. ^ a b c d 日本野生動物医学会・野生生物保護学会(監修)鈴木正嗣(編訳)『野生動物の研究と管理技術』文永堂出版、2001年11月。ISBN 978-4830031854 
  3. ^ a b c 伊藤健雄梶光一丸山直樹「シカ・カモシカの捕獲法」『哺乳類科学』第29巻第1号、1989年、106-112頁。 
  4. ^ a b 高橋裕史梶光一田中純平淺野玄大沼学上野真由美平川浩文赤松里香「囲いワナを用いたニホンジカの大量捕獲」『哺乳類科学』第44巻第1号、2004年、1-15頁。 
  5. ^ a b Corral Traps for Feral Hogs AgriLIFE EXTENSION
  6. ^ 宇野裕之梶光一鈴木正嗣山中正美増田泰「アルパインキャプチャーによるニホンジカの大量捕獲法の検討」『哺乳類科学』第36巻第1号、1996年、25-32頁。 
  7. ^ 高橋裕史梶光一吉田光男釣賀一二三車田利夫鈴木正嗣大沼学「シカ捕獲ワナ アルパインキャプチャーシステムの改良」『哺乳類科学』第42巻第1号、2002年、45-51頁。 
  8. ^ 鈴木正嗣「捕獲性筋疾患(capture myopathy)に関する総説 —さらに安全な捕獲作業のために—」『哺乳類科学』第39巻第1号、1999年、1-8頁。 
  9. ^ 池田啓花井正光「野生獣類の捕獲と関連法令上の手続きについて」『哺乳類科学』第28巻第2号、1988年、27-38頁。 

関連項目[編集]