四精霊

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四精霊(しせいれい)は、

  • パラケルススなどが四大元素の各元素を、象徴寓喩を用いつつ精霊として記述した説明体系
  • 「4 elements」を「四元素」や「四大元素」と訳さず、「四精霊」と訳したもの。

概説[編集]

16世紀の錬金術師パラケルススが、アリストテレスの四元素説を下敷きにして、著書『ニンフシルフピグミーサラマンダー、ならびに霊的媾合についての書』(いわゆる『妖精の書』)の中で提唱したという。

その後様々な人々で用いられるようになった。

フランスのAbbé de Villarsなども説明に用いている。説明には次のような相違点がある。

クリーチャー 対応するエレメント
パラケルススによる説明
対応するエレメント
フランスのAbbé de Villarsによる説明
ウンディーネ(仏: Ondine
ノーム (Gnome)
サラマンダー
フェニックス
エルフ 空気
シルフ 空気
ニンフ

サラマンダー[編集]

火の精霊。 ラテン語のsalamandra(サンショウウオ)が語源とされるが、これは一部のサンショウウオが焚き火や野火などに遭遇すると湿った地面に潜り表面の粘液で火傷を防ぐ性質があるため、まるで火の中から這い出たように見えることに由来する。 プリニウスの『博物誌』10巻には、サラマンドラは斑点を持つ小さなトカゲで、雨が降ると現れるが晴れると姿を消し、体が冷たく火に遭うと溶けると記録されているが、これはサンショウウオに関する記述と考えられている。 また、『博物誌』11巻にはピュラリスというキプロスの炉の炎の中でしか生きられない動物が登場しており、中世の精霊サラマンドラの記述はこちらに近い。上記の通り、炎を操る特徴からファイヤー・ドレイクと同一視され、ドラゴンとして扱われることもある。

フレッド・ゲティングスによれば、火中に住むトカゲで、別名はウルカヌス(ローマの鍛冶の神)、アエトニキ、ロラマンドリなどである。

容姿には諸説あるが、一般的にはプリニウスにならって小型のトカゲのそれである。火竜(かりゅう)といわれることもあり、ファイヤー・ドレイクと同一視されることもある。

錬金術において、鉛のような病める金属が金に転換されるまさにその温度に至る時に炉に現れるとされ、錬金術の書物の挿絵には炉の温度のヒントとしてサラマンダーが暗号のように描かれる例が多い。 また、爬虫類や両生類ではなく蚕のように繭を作る虫という考えもあり、中世には石綿の布をサラマンダーの糸で織った布と偽って販売していた事例も確認されている。 サラマンダーの布は洗濯を必要とせず、どれほど汚れても火中に投じるだけで白々と輝くような新品同様の姿に戻るとされる。 また、トカゲに似たはサラマンダーは火山地帯に住んでおり、その皮は決して燃えないため高価であるが、危険な火山地帯で火傷をせずサラマンダーを捕らえるにはサラマンダーの皮の手袋と長靴が必要である。

ポープの『髪盗人』には、情熱的な女は死後サラマンダーになるとされており、美しい女性の姿で登場している。

ウンディーネ[編集]

パラケルススの『妖精の書』によればニンフの一種であり、水の精霊。 名はラテン語のunda(波)と女性形の形容詞語尾-ineから来ており、「波の乙女」「波の娘」というほどの意味。

フレッド・ゲティングスによれば、パラケルススにならって別名をニンフとしており、星気面という精神世界に住まう虹色に輝くアストラル体で透視能力者にしか見えないとされている。

基本的に人間と変わらない容姿であるとされ、人間と結婚して子をなしたという伝説も多く残されている。 『妖精の書』によれば、形は人間に似るが魂がなく人間の愛を得てようやく人間と同じく不滅の魂を得るとされる。 しかし、水の近くで男に罵倒されれば水中に帰らねばならず、夫が別の女性に愛を抱くと夫を必ず殺さねばならないなど、その恋には制約が多い。 シュタウフェンベルクの男が水の精と婚約したが、次第に婚約者を疎ましく思うようになり別人と結婚式を挙げたせいで水の精の呪いで死んだという話が『妖精の書』に紹介されている。 この伝説が元になった創作物で騎士フルトブラントとウィンディーネの悲恋を描いたフーケの小説『ウィンディーネ』が有名で、ウンディーネを題材にした作品にはこの小説をもとに書かれたものが多い。 派生作品のうち主なものだけでも、ジャン・ジロドゥの戯曲『オンディーヌ』、ホフマンの歌劇『ウィンディーネ』、チャイコフスキーの歌劇『ウィンディーネ』、ボードレールに絶賛されたベルトランの詩集『夜のガスパール』のうち一篇の散文詩「ウィンディーネ」、前期の詩集をイメージしたラヴェルのピアノ曲『夜のガスパール』第1曲「ウィンディーネ」、ドビュッシーのピアノ曲『プレリュード』第2集第8曲「オンディーヌ」、ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ作曲、フレデリック・アシュトン振り付けのバレエ『オンディーヌ』などがある。

主題として扱われてはいないが、その他の文学作品にもしばしば登場している。 ゲーテの『ファウスト』では、ファウストの呪文に登場。 ポープの『髪盗人』では心優しい女性が死ぬとウンディーネになるとされ、ヒロインである少女ベリンダの守護精霊として登場している。

シルフ[編集]

風の精霊。 名はラテン語のsylva(森)とギリシャ語のnymphe(ニンフ。妖精)の合成語から来ており、「森の妖精」というほどの意味。

フレッド・ゲティングスによれば、別名をネヌファ、シルウェストレという。

『妖精の書』によれば、形は人間に似るが魂がなく人間の愛を得てようやく人間と同じく不滅の魂を得るとされる。 ただし、その姿は普通の人間の目には見えず、 女性形でシルフィードとも呼ばれる。中世の魔術書には多くこの精霊に会う方法が言及され、それによると「教会の尖塔」「高山の山頂」など高い場所に行くことが必要であるとされている。 20世紀初頭の実在の魔道師、ダイアン・フォーチュンは、高所恐怖症であるにもかかわらず高山の頂上に登ってシルフに会うことができた、と言われている。

ただし、シルフィードとは、人間とシルフの間にできた子供だとする説もある。

文学における風の精霊としてはギリシャ語に由来するarielアリエル(神の炉)に語源を持つエアリエルのほうが名高い。 シェイクスピアの『テンペスト』でプロスペローの使い魔として大活躍するほか、ポープの『髪盗人』ではシルフとエアリエルを同一視してシルフの一体の個体名をエアリエルとし、虚栄心の強い女が死ぬとシルフになると説いた。 ミルトンの『失楽園』ではエアリエルは堕天使とされ、そのためかシルフは伝承では明確な性別を持たず中性的な容姿で描かれることが多い。 ヘルマン・フォン・ロヴィンショルド作曲オーギュスト・ブルノンヴィル振り付けのバレエ『ラ・シルフィード』、ショパン作曲ミハイル・フォーキン振り付けのバレエ『レ・シルフィード』のなどの影響で、現在はほっそりした少女のイメージが強い。

ノーム[編集]

地の精霊。 名はギリシャ語のgenomus(地に住まう者)に由来する。 ノームとは正確には男性形であり、女性はノーミードやノーミーデスと呼ぶ。

フレッド・ゲティングスによれば、旧名をピグミー(小人族)といって老人の姿をしており、石のノームと樹木のノームの二種がいるとされる。

土は富や知恵をそのうちに内包するというイメージから、貴金属の製造方法を求める錬金術師などに特に召喚を望まれた。 一般的に鍛冶が得意であるとされており、錬金術師の書いた魔術書などには彼らに剣造を依頼する方法が記されている。 ヨーロッパでは北欧から黒海周辺までノームに似た小人の目撃報告がなされており、だいたい身長は15cmぐらいだと言われている。 こうした小人は北米大陸でもまれに目撃されたことがある。 カナダでは地方新聞にアイスランド移民が故郷からついてきたノームの近縁である北欧の小人ニスの恋人を募集する記事を載せたことがあり、カナダに多いアイスランド移民やアメリカに多いアイルランド移民など小人伝説にゆかりの深い国からの移民から伝承が伝わったと思われる。

また、アメリカで広く用いられる庭飾りの小人もノームと呼ばれる。

ポープの『髪盗人』では、真面目ぶって淑女ぶりたがる女は死後に醜い女の姿をしたノームへ落ちるとされる。

文学作品(特に児童文学によく扱われる)では数多くある土の精霊の総称ではなく、一種族として扱われることが多い。 ヴィル・ヒュイゲンの『ノーム』では北欧のニスという妖精の近縁として赤い円錐形の帽子を被って手仕事に励んで生活する一族でグノームとも呼ばれる。寿命は400歳を超えると言われ、女性でも250歳を超えると髭が生えてくるという。マンリー・ホールの『秘密の博物誌』では土の服を身に付けて働く勤勉な一族とされる。J・K・ローリングのハリーポッターシリーズでは魔法使いの子供たちが親の言いつけで庭のノーム(庭小人)を捕らえては捨てる姿が描かれている。