哲学者サッカー

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哲学者サッカー(てつがくしゃサッカー、The Philosophers' Football Match)は、イギリスのコメディ・グループであるモンティ・パイソンスケッチ・コメディー

概要[編集]

1972年ミュンヘン夏季オリンピックの際にミュンヘン・オリンピアシュタディオンにおいて、ギリシャドイツを代表する哲学者たちの間でサッカーの試合が行なわれた、という設定で展開される。おもな登場人物(役者)は、アルキメデスジョン・クリーズ)、ソクラテスエリック・アイドル)、ヘーゲルグレアム・チャップマン)、ニーチェマイケル・ペイリン)、マルクステリー・ジョーンズ)、カントテリー・ギリアム)であった。

主審(レフェリー)は孔子で、砂時計で時間を計る。トマス・アクィナス聖アウグスティヌス光輪を頭上に載せている)が線審(副審)と務める[1]。ドイツ・チームの監督はマルティン・ルターである。試合が始まると、哲学者たちはピッチ上で輪を描くように歩きながら自説を考える[1]。ドイツ・チームに「驚きの大抜擢」で加えられたサッカー選手のフランツ・ベッケンバウアーは少なからずピッチ上で当惑する。

このスケッチの撮影はミュンヘングリュンヴァルダー・シュタディオン (Grünwalder Stadion) で行なわれた[2]。この話は『空飛ぶモンティ・パイソン ドイツ版』(1972年)の第2作の一部として放送され、後には『モンティ・パイソン・ライブ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル』(1982年)の中でも流用された[3]。また、このスケッチは『ベスト・オブ・モンティ・パイソン』にも収録されている。

展開[編集]

試合が開催されるが、プレーヤーは皆、哲学的思想に没頭して、ボールに触ろうともしない。そんな中、ニーチェは、主審である孔子に対し、「論語には自由意志が無い」と主張し、イエローカードを受ける。孔子は「名を書に残す」と応じる。試合が進まないため、途中で放送はレスリングの中継へと切り替わる(間に別のスケッチ:『1人レスリング』が挿入される)。

後半になると、ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインに代わってカール・マルクスが入るが、ゲームの進捗のためには何も寄与しない。

試合終了直前の1分間の間に、アルキメデスが「Eureka !(分かったぞ!)」と叫んで走り出し初めてボールを蹴りドイツ側のゴールに向かう。つられて他のギリシア哲学者たちも走り出す。この試合唯一の得点は、アルキメデスが上げたクロスボールにソクラテスが飛び込んでヘディングで決めたものだった。

スケッチの終幕ではドイツ側が判定に抗議する。ヘーゲルが、現実は非自然的倫理のアプリオリな付属物に過ぎない、と主張し、カントが、定言命法により存在論的には現実は想像の内にしか存在し得ない、との説を譲らず弁じる中で、マルクスがオフサイドをアピールするが、主審の孔子は取り合わない。しかしスローモーション再生の結果、1990年まで有効であったルールに則って、ソクラテスがオフサイドであったことが明らかにされる。

登場人物[編集]

スケッチの中では、古代ギリシアの哲学者たちの名もドイツ語における綴りで表示されていた。

ドイツ代表 ギリシャ代表
マルティン・ルター監督 不明(監督)
ゴットフリート・ライプニッツゴールキーパー プラトン(ゴールキーパー)
イマヌエル・カント エピクテトス
ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル[4]キャプテン アリストテレス
アルトゥル・ショーペンハウアー ソポクレス[5]
フリードリヒ・シェリング アクラガスエンペドクレス
フランツ・ベッケンバウアー(サッカー選手) プロティノス
カール・ヤスパース エピクロス
カール・シュレーゲル[6] ヘラクレイトス
ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン デモクリトス
フリードリヒ・ニーチェ ソクラテスキャプテン
マルティン・ハイデッガー アルキメデス
カール・マルクス (補欠)

(ウィトゲンシュタインは、オーストリア人である。)

2010年の哲学サッカー[編集]

この有名なモンティ・パイソンのスケッチにインスピレーションを受け、また、その時点で存命だったモンティ・パイソン出演者たちの全面的な協力を得て、2010年5月9日にロンドン北部にあるウィンゲート・アンド・フィンチリーFCの本拠地ザ・ハリー・エイブラハム・スタジアム (The Harry Abrahams Stadium) で、「哲学者サッカー」を記念する再現戦が行なわれた[7]

原作を、ロンドンの実際のサッカー場で再演するという遊び心に満ちた企画は、小学生たちの教育にあたる団体であるザ・フィロソフィー・ショップ (The Philosophy Shop) が発案したものであった。この団体は、子どもたちの論理的に考える能力を学校教育の初期段階から広げる取り組みのひとつとして、大学で哲学を専攻した卒業者に、5歳から11歳までの子どもたちを対象に実践的に哲学を教える機会を与えている。

哲学者A・C・グレイリング (A. C. Grayling) と、元イングランド代表監督グラハム・テイラー (Graham Taylor) が、この行事の監督に任命され、競技/上演には、 マーク・スティール (Mark Steel)、トニー・ホークス (Tony Hawks)、アーサー・スミス (Arthur Smith)、アリアン・シェリン (Ariane Sherine) といったコメディアンたちに加え、ジュリアン・バッギーニ (Julian Baggini)、ナイジェル・ウォーバートン (Nigel Warburton)、サイモン・グレンディニング (Simon Glendinning)、スティーヴン・ロー (Stephen Law)、アンジー・ホッブス (Angie Hobbs)、マーク・ヴァーノン (Mark Vernon) といった哲学者たち、さらにはイギリス全国の大学から参加した学者たちが加わった。この試合のサポーターたちの中には、BBC Radio 4 の番組『Thinking Allowed』のプレゼンターである社会学者ローリー・テイラー (Laurie Taylor) や、BBCジョン・ハンフリーズ (John Humphrys)、教育者で作家のアンソニー・シェルドン (Anthony Seldon) らも加わっていた。

出典・脚注[編集]

  1. ^ a b Gener, Randy. (May 1, 2006) American Theatre The French Misconnection, or What Makes a Writer French. Volume 23; Issue 5; Page 42.
  2. ^ Beer, Roman. (2011) Kultstätte an der Grünwalder Straße. Die Geschichte eines Stadions Page 129, Publisher: Die Werkstatt. ISBN 978-3-89533-780-2
  3. ^ Larsen, Darl. (2003) Monty Python, Shakespeare and English Renaissance Drama. Page 45, Publisher: McFarland & Company. ISBN 0-7864-1504-5
  4. ^ 作中でヘーゲルは、Georg "Nobby" Hegel と言及されている。ここでの Nobby は「粋なやつ」といった含意の英語の表現。
  5. ^ 作中でソポクレスは、"Chopper" Sophocles と言及されている。ここでの Chopper は「(斧などを)振り回すやつ」といった含意の英語の表現。
  6. ^ 作中で Karl Schlegel と言及されている Karl Wilhelm Friedrich von Schlegel は、日本語では「フリードリヒ・シュレーゲル」とされることが多い。
  7. ^ Who's the thinker in the white?”. The Guardian (2010年4月28日). 2013年11月9日閲覧。

外部リンク[編集]