名の変更届

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名の変更届(なのへんこうとどけ)とは戸籍上の氏名のうち、「名」を変更するための届出手続。「名」とは姓名の「名」(いわゆる「下の名前」)の意味である。家庭裁判所の許可を受けて市区町村役場に届け出ることによって効力が生じる。戸籍事務は第1号法定受託事務なので、法務省地方支分部局である法務局が管理する。

法的根拠[編集]

手続根拠は戸籍法第107条の2に規定されており、「正当な事由によってを変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。」としている。「正当な事由」があるかどうかは、当該事件について家庭裁判所の家事審判官(裁判官)が判定する。

戸籍法107条の2[編集]

正当な事由によって名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない[1]

手続[編集]

申立人は、名を変更しようとする本人である。15歳以上であれば自分で申請可能だが、15歳未満の場合は法定代理人親権者等)が本人に代わって申立てを行う。申立は、申立人の住所地を管轄する家庭裁判所に「名の変更許可申立書」を提出することにより行う。

申立書の他、以下のものの提出が求められる。

  • 収入印紙 800円分(申立書に貼る。)
  • 郵便切手(80円切手数枚程度)
  • 申立人の戸籍謄本 1通
  • 名を変更する「正当な事由」があることを証明できるような資料

「名を変更する正当な事由があることを証明できるような資料」とは、たとえば、通称として永年使用したことを理由とする場合には、そのことが明らかになるような手紙類(年賀状でもよい)、卒業証明書名簿などである。申立人自身やその家族以外の筆跡であって、作成された時期が郵便消印等により明らかなものが望ましく、また、過去から最近に至るまで通称の使用が継続していることがわかるように、時期がずれたものが多数(年賀状なら各年ごとに1 - 2枚)あるとよい。

実際に申立てを考えている場合は、まず、家庭裁判所の家事受付・家事相談窓口などと書かれた窓口に行き、事情を説明すれば、必要な資料等について助言してもらえるので、その後に申立書および添付資料を用意して申立てするのがよい。申立書を提出すると、通常、その日のうちに、詳しい事情を聴かれるが、後日、裁判所から書面で照会されたり呼び出して改めて事情を尋ねられることもある。許可されたら、名の変更を許可する審判書の謄本が申立人宛てに1週間程度で特別送達で郵送される。

許可されたら、その審判書の謄本を添付して、本籍地か住所地のどちらか一方の役所に「名の変更届」を提出する。本籍地でない役所に提出する場合は、戸籍謄本 1通の添付も必要である。

許可例[編集]

名の変更が許可される事由の例として、具体的には以下のものがある。

  • 営業上の理由による襲名[2][3]
  • 代々の当主が世襲名を名乗っている場合の世襲による改名で、(芸名ではなく)「戸籍上の本名まで変更」する必要がある場合[4]
  • 神官僧侶になる場合、または還俗する場合[2][3][5]
  • 難解や難読な名前[3][5]
  • いじめや差別を助長する、珍奇な名前[3][5]
  • 親族や近隣に同姓同名がいて混乱をきたす[6][3][5]特に農村部の集落では、住民の大部分が同姓である場合が多く(区別のため集落内では姓ではなく屋号で呼ばれることもある)、同姓同名を理由とする改名の申請も多い[要出典]
  • 帰化した際に日本風の名に改める必要がある[3]
  • 異性とまぎらわしい[5]、もしくは性別を変更したなどのため、本人の外見と名前の性別が食い違って不便である[8]
  • 永年使用[9]していた「通称」を(戸籍上での)本名にしたい[5](実例として「妹尾河童(元の名は肇)」や「はたともこ(元の姓名は漢字表記で秦知子)」がある。大川隆法も「中川隆」から改めた)。
  • 出生届時の誤り。[10]
    • 人名用漢字の追加により、「本来使用したかった文字」へ変更。[11]
  • 名前そのものに問題はないが、過去の経緯から著しい精神的苦痛を想起し、日常生活に支障を及ぼす。
    • 幼少時に近親者から虐待を受けており、当時を思い出す戸籍名の使用が心的外傷に悪影響を与える[12]
    • 親の昔の恋人と同じ名を付けていたことが発覚し、円満な家庭環境を害する恐れが強い[13]

なお、日本の裁判所は、子供の命名に関する問題について、

  • 親権者がほしいままに個人的な好みを入れて恣意的に命名するのは不当で、子供が成長して誇りに思える名をつけるべき[14]
  • 難解、卑猥、使用の著しい不便、特定(識別)の困難などの名は命名することができない[14]
  • 社会通念に照らして明白に不適当な名や一般の常識から著しく逸脱したと思われる名は、戸籍法上使用を許されない場合がある[15]

といった見解を示している。

脚注[編集]

  1. ^ 筑豊合同法律事務所HP
  2. ^ a b 明治6年・太政官指令
  3. ^ a b c d e f 昭和23年・最高裁判所回答甲三七号
  4. ^ 明治8年・内務省指令
  5. ^ a b c d e f 「名の変更許可申立書」[1]における「申立ての実情」欄の例示列挙事由
  6. ^ 明治5年・太政官布告
  7. ^ 昭和58年3月30日・神戸家庭裁判所
  8. ^ 従来、性同一性障害による改名は永年使用を事由として申し立てることが多かったが、永年使用を証明せず診断書の提出のみで変更を認められるケースも出てきた(平成16年10月5日・札幌家庭裁判所)
  9. ^ 芸名ペンネームなどをはじめ、おおむね5~10年以上の使用実績があり、その人物を表象する名前として広く周囲に認知されていることが目安となる。
  10. ^ 昭和47年2月22日・大阪家庭裁判所。なお、この判例では、生後3ヶ月で許可が下りており、従前の名は社会的な使用実績がほぼなかった。
  11. ^ 平成2年8月15日・高松高等裁判所。なお、この判例では、生後7ヶ月で許可が下りており、命名当初から改正人名漢字の施行日を見越して代替的に類似する字で届け出られ、実生活では本来名付けるつもりの字を使用していた。
  12. ^ 平成9年4月1日・大阪家庭裁判所
  13. ^ 昭和37年5月25日・前橋家庭裁判所。なお、この判例では、生後2ヶ月で許可が下りており、従前の名は社会的な使用実績がほぼなかった。
  14. ^ a b 昭和38年11月9日・名古屋高等裁判所
  15. ^ 平成6年1月31日・東京家庭裁判所八王子支部

関連項目[編集]