受動的攻撃行動

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受動的攻撃行動(じゅどうてきこうげきこうどう、英語: Passive-aggressive behavior)は、怒りを直接的には表現せず、緘黙や義務のサボタージュ、あるいは抑うつを呈して相手を困らせるなど、意識的無意識的にかかわらず後ろに引くことで他者に反抗する(攻撃する)行動である。受動攻撃性パーソナリティ障害とは、『精神障害の診断と統計マニュアル』第4版の付録において提案される研究用案であり、これらの対人様式が固定化され、適切な要求に対して、拒否的な態度や受身的な反抗をとるという様式を伴っていると説明している[1]

受動攻撃性パーソナリティ障害[編集]

受動的攻撃行動
概要
分類および外部参照情報
ICD-10 F60.8
ICD-9-CM 301.84

受動攻撃性パーソナリティ障害(じゅどうこうげきせいパーソナリティしょうがい、英語: Passive-aggressive personality disorder ; PAPD)は、拒絶性パーソナリティ障害英語: Negativistic personality disorder ; NPD)とも呼ばれる、受動的な抵抗と拒絶的な態度で攻撃的感情を表現するパーソナリティ障害の一類型である。DSM-III-RではII軸に分類されていたが、DSM-IVでは受身的攻撃行動をいかに分類するかという更なる研究上の要求のために付録へと移動された。

概要[編集]

受動攻撃性パーソナリティ障害は、ため息や仕事を振らない、無視など不機嫌な気持ちになると受け身的なやりかたで攻撃感情を表現し、あてつけや抵抗を示すために、対人関係に広く支障をきたしてしまう[2]。しかしこうした態度は通常両価的であることが多く、反抗的な態度をとる一方で、時には謝ったりなだめたりと動揺を示すことがある。他人への依存と自己主張の願望との間で葛藤に陥り、自信を失うことも多い。

診断基準[編集]

DSM-IV-TR(研究用基準案)[編集]

A. 適切な行為を求める要求に対する拒絶的な態度と受動的な抵抗の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち4項目(またはそれ以上)によって示される。

  1. 日常的な社会的及び職業的課題を達成することに受動的に抵抗する。
  2. 他人から誤解されており適切に評価されていない不満を述べる。
  3. 不機嫌で論争を吹っかける。
  4. 権威のある人物を不合理に批判し軽蔑する。
  5. 明らかに自分より幸運な人に対して、羨望と憤りを表現する。
  6. 個人的な不運に対する愚痴を誇張して口にし続ける。
  7. 敵意に満ちた反抗と悔恨の間を揺れ動く。

B. 大うつ病エピソードの期間中にのみ起こるものではなく、気分変調性障害ではうまく説明されない。

— アメリカ精神医学会精神障害の診断と統計マニュアル、IV-TR[1]

権威ある者との問題などは子どもの場合には反抗挑戦性障害と診断されるが、ここで提案されている案は、大人でのみ考慮されるものである[1]非適応的で、臨床的に著しい苦痛や機能の障害を呈している必要がある[1]

ICD[編集]

ICD-10精神と行動の障害においては、F60.8他の特定のパーソナリティ障害において、単に受動的-攻撃的を含む、とその名称が示されているのみである[3]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d アメリカ精神医学会 2004, pp. 756–757.
  2. ^ 市橋秀夫 2006, p. 86.
  3. ^ 世界保健機関、(翻訳)融道男、小見山実、大久保善朗、中根允文、岡崎祐士『ICD‐10精神および行動の障害:臨床記述と診断ガイドライン』(新訂版)医学書院、2005年、217頁。ISBN 978-4-260-00133-5 世界保健機関 (1992) (pdf). The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders : Clinical descriptions and diagnostic guidelines (blue book). World Health Organization. http://www.who.int/classifications/icd/en/bluebook.pdf 

参考文献[編集]

一般向け書籍

  • 市橋秀夫『パーソナリティ障害(人格障害)のことがよくわかる本』講談社、2006年。ISBN 9784062594080 

関連項目[編集]