反磁性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
反磁性(はんじせい、Diamagnetism)とは、磁場をかけたとき、物質が磁場の逆向きに磁化され、反発する効果をもつ磁性のことである。反磁性体の磁化率は負となる。反磁性体は自発磁化をもたず、磁場をかけた場合にのみ反磁性の性質が表れる。反磁性は、1778年にバーグマン (S. J. Bergman) によって発見され、その後、1845年にファラデーがその性質を「反磁性」と名づけた。
反磁性は実はすべての物質が有している大変一般的な現象である。なぜなら内殻電子を含む、原子中の対になった電子は必ず弱い反磁性を生み出しているためである。しかし、強磁性や常磁性といった他のスピンによる磁性を有する物質においては、反磁性は弱すぎて性質が隠されてしまう。磁性として反磁性がよくあらわれている物質のことを、反磁性体とよぶ。
ほとんどの物質において反磁性は非常に弱いが、超伝導体は例外的に強い反磁性を持つ(後述)。標準状態において最も強い反磁性をもつ物質はビスマスである。
目次 |
[編集] 歴史
1778年、バーグマン (S. J. Bergman) がビスマスとアンチモンが磁場に反発することを発見した。その後、1845年にファラデーはすべての物質は本来、印加磁場に対して何らかの反磁性的な反応をすると考え、「反磁性」という用語を作った。
1933年、マイスナーは超伝導状態の物質は、非常に強い反磁性を有することを発見した。この現象はマイスナー効果として知られている。
[編集] 反磁性の効果
[編集] 反発
物質の持つ反磁性による効果として、反磁性体に磁石などを近づけたとき反発する現象がある。これは、蛇口から細く静かに出した水に強力な磁石を近づけると、磁石を避けるように水が曲がるという実験により確認することができる。この振る舞いは、弱い二つの磁石の同極同士を近づけたときと似ている。しかし反磁性を持つ物質に現れる反発力は近づける磁石の極性によらず、どちらの極にも反発するという点で決定的に異なっている。
このような違いはなぜ現れるのかと言うと、反磁性という性質が、外部磁場の影響により、物質自体が周りの磁場を打ち消す方向の極性の磁石になるという性質であるからである。このようにして現れた物質の磁力は、外部磁場が存在すると言うこと自体に由来しているため外部磁場の消滅と共に消滅する。また、反磁性体に強い磁場を印加しても、その反磁性体が(強磁性体のように)自発磁化を持つことはない。
[編集] 浮上
反磁性による反発力を利用して、非常に強い磁場をかけると、反磁性体を磁気浮上させることができる。例えば実験室などで15~20T程度の磁場を発生させ物質にかけると、水を多く含んだりんごや卵、生物などを浮かすことができる。また、反磁性の強い熱分解カーボンやビスマスなどは、磁力の強いネオジム磁石を用いた室温実験でも十分浮上させることができる。
[編集] 反磁性の強さ
| 物質名 | χm=Km-1×10-5 |
|---|---|
| ビスマス | -16.6 |
| 炭素 (ダイヤモンド) |
-2.1 |
| 炭素 (グラファイト) |
-1.6 |
| 銅 | -1.0 |
| 鉛 | -1.8 |
| 水銀 | -2.9 |
| 銀 | -2.6 |
| 水 | -0.91 |
反磁性による力は一般的に小さいため、本来反磁性体であるはずの物質が、物理を専門としない人に非磁性であると誤解されている場合がある。例えば反磁性の性質を示す代表的な物質として水や銅、木などがある。また、石油やプラスチックのような大半の有機物も反磁性を示す。さらに水銀や金、ビスマスのように内殻電子の多い重い金属にも反磁性を示すものが少なくないが、これらは非磁性であるとみなされていることが多い。しかし普段は反磁性体と意識しないような物質についても、非常に強い外部磁場のもとではその反磁性が強くあらわれる。(反磁性の効果を参照)
反磁性体は1よりも小さい透磁率と、0よりも小さい磁化率を有する。よって磁場に反発するが、反磁性は非常に弱い性質のため、日々の生活で確認することはできない。例えば、水の磁化率はχv = −9.05×10−6である。最も強い反磁性を有する物質はビスマスであり、その磁化率はχv = −1.66×10−4である。また、熱分解グラファイト(熱分解黒鉛)は一次元的なχv = −4.00×10−4という磁化率を有するという報告がある。しかしこれらの強い反磁性体においても、その磁化率は常磁性体や強磁性体の磁化率に比較すると非常に小さいオーダーである。
超伝導体はその内部から完全に磁場を排除する(マイスナー効果)ため、完全反磁性体 (χv = −1) と考えられている。
[編集] 超伝導体の完全反磁性
例外的に強い反磁性を持つのが超伝導体である。超伝導体は第一種超伝導体と第二種超伝導体にわけられるが、このうち第一種超伝導体の内部には磁束が侵入できない(マイスナー効果)。すなわち第一種超伝導体の内部では完全に磁場が打ち消されており、磁化率がちょうど-1である。このような性質を完全反磁性という。
第二種超伝導体は強力な磁石の上に静止して浮上する。このとき、第二種超伝導体は完全反磁性(マイスナー効果)の性質により浮力を得て、更に第二種超伝導体のピン止め効果によって静止力を得ている。
[編集] 反磁性の原因
反磁性の起源は、古典的には、次のようになる。物質に磁場を与えると、物質中の電子などは磁場からローレンツ力を受けて円運動をし(電磁誘導)、一種の電流が流れる。この電流はレンツの法則に従い、外部磁場とは逆向きで外部磁場の強さに比例する磁場を生み出す。(より厳密に古典的な計算を行うと、反磁性的な性質は打ち消しあって無くなる(ボーア=ファン・リューエンの定理: 古典論ではいかなる反磁性・強磁性も説明できない)。量子論的な取り扱いをした場合にのみ反磁性の効果が生じるのである。)
よって、すべての物質は電子を持つのでその磁性には多かれ少なかれ反磁性の寄与がある。しかし、この反磁性の大きさは極めて小さい。ほとんどのものは磁化率にして10-5程度のオーダーしかない。そのため、常磁性や強磁性などをもたらすような要素、すなわち不対電子によるスピンが存在する場合にはその影に隠れてほとんど見えなくなる。不対電子が存在しない物質は、弱い反磁性体となるが、その弱さのため非磁性と誤解されることも多い。
この円運動の挙動はジョゼフ・ラーモアによって研究され、さらにポール・ランジュバンによって定式化されたので、これをラーモア反磁性、もしくはランジュバンの反磁性という。
なお、金属中の自由電子については量子論的な取り扱いによる定式化がレフ・ランダウによってなされている。そのため、金属の電子による反磁性は、ランダウ反磁性とよばれている。
付け加えると、すべての導体は磁場中を動くときと、外部磁場を変化させたときに実質的に反磁性を示す。電子にローレンツ力が働き、電子が円運動をして誘導電流が生じるためである。この誘導電流は、外部磁場の変化とは反対向きの誘導磁場を生じさせ、導体の運動や外部磁場の変化に抵抗する。
[編集] 反磁性磁場配向
ベンゼン環の面に対して垂直に磁場をかけると、レンツの法則によって磁場を打ち消そうとベンゼン環に沿って電流が流れる。これにより、ベンゼン環などを含む有機物では、他の物質よりも大きな反磁性が発生することがある。
更にグラファイトのようなベンゼン環の集まりの物体には、磁場に対してねじれ力が働く。これが反磁性磁場配向である。実際には、反磁性磁場配向を観測するには、強力な磁場が必要である。
[編集] 参考文献
- ^ Nave, Carl L.. "Magnetic Properties of Solids". HyperPhysics. 2008-11-09 閲覧。
[編集] 外部リンク
- 強磁場超伝導材料研究センター (東北大学金属材料研究所) → 研究成果のページに反磁性による磁気浮上の映像がある。
- 磁気浮上鉄道の模型が反磁性を利用して浮上している動画
- カエルや他の反磁性体が強磁場中で浮上する動画(英語)
- 熱分解グラファイトが浮上する動画
- ビスマスのブロックの間でネオジム磁石が浮上する動画


