南海9000系電車

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南海9000系電車
南海9000系 6両編成
2018年9月、貝塚 - 二色浜駅間)
基本情報
製造所 東急車輛製造
製造年 1985年 - 1988年
製造数 32両
主要諸元
編成 4・6両編成
軌間 1067 mm
電気方式 直流1,500V
架空電車線方式
最高運転速度 110 km/h
設計最高速度 115 km/h
起動加速度 2.5 km/h/s
減速度(常用) 3.7 km/h/s
減速度(非常) 4.0 km/h/s
全幅 2744 mm
車体 ステンレス
主電動機 複巻整流子電動機
MB-3280-BC
かご形三相誘導電動機
TDK-6314-A[1]
主電動機出力 160 kW
200 kW(更新車)[1]
駆動方式 WNドライブ
歯車比 5.31 (85:16)
編成出力 1,280 kW(4両編成)
2,560 kW(6両編成)
1,600 kW(更新車・4両編成)
2,400 kW(更新車・6両編成)
制御方式 バーニア抵抗制御界磁チョッパ制御
ハイブリッドSiC素子VVVFインバータ制御(更新車)
制御装置

いずれも日立製作所

VMC-HTR-20B
VFI-HR1421K(更新車)[1]
制動装置 回生制動併用電気指令式ブレーキ
保安装置 南海型ATS
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南海9000系電車(なんかい9000けいでんしゃ)は、南海電気鉄道の一般車両[2]通勤形電車)の一系列である。

概要

長年に渡る特急急行を中心とする優等列車の運用で車体の老朽化が目立ち始めていた旧1000系の置き換えを名目として[注 1]1985年から1988年にかけて6両編成2本、4両編成5本の計32両が東急車輛製造で製造された。

南海本線系統向けとしては初の採用例となる、オールステンレス製車体を備える20m級両開き4扉通勤車である。車両の基本設計は高野線8200系をベースとしている。

車両概説

車体

旧塗装

8200系で初採用された有限要素法による軽量ステンレス構造車体を備える。但し、車体には従来通り側板にコルゲーションが施されている。窓配置も従来通りクハがd1D2D2D2D1、モハが2D2D2D2D1(d:乗務員扉、D:客用扉)で、モハは車端部の窓が1枚の方が難波方となる。

正面形状については、同系列と同様外周部にFRP製の縁飾りが設けられたが、左右の妻窓の高さが屋根近くまで拡大され、いわゆる額縁スタイルとなっている。車両番号は運転台上部の窓内部にバックがダークグリーンに塗装された上で表記された。もっとも、左右の腰板部に配されたシールドビームによる前照灯尾灯、それに貫通路上部に設置された行先表示幕などの形状・配置は8200系と同一である。また、踏切事故対策としてスカートが装着された。

高野線用ステンレス車が無塗装であったのに対し、本系列は南海本線用であり、誤乗防止の観点から一般車の腰板部に塗られていたのと同じグリーンの着色フィルムによる識別帯が前面と側面の窓下に貼付された。

車体の車両番号は南海伝統の欧風書体のものだが、本系列が最後の採用となった。

1993年より、関西国際空港開港に伴う新CI戦略に伴い車体塗装がオレンジとブルーの新塗装に変更された。この際に前面窓内の緑色も黒に変更された[3]。座席モケットは灰色、カーテンはベージュ色に交換された(カーテンは原形が存置された車両もある)。

車内

クハ9501形の車内

8200系と同様のロングシートであるが、全体のカラースキームが暖色系に変更され、座席のモケットは当時南海標準の臙脂色、青色のカーテンが設置された。座席の仕切りがパイプ製から木目模様の入った仕切り板に変更されている。

冷房装置冷凍能力10500kcal/hの三菱電機CU-191を各車4基ずつ搭載し、8200系と同様天井に横流ファンが設置されている。

運転台のレイアウトは大幅に変更され、マスコンとブレーキを分けた横軸2ハンドル形とされ、デスク上に速度計などの計器を埋め込んだデザインとなった。

主要機器

主制御器日立製作所VMC-HTR-20B界磁チョッパ制御器を、モハの奇数車に2基の東洋電機製造PT-4803-A下枠交差式パンタグラフとともに搭載する。この制御器は、型番のVMCが示す通り日立製作所特有のバーニア制御器をベースに界磁制御器をチョッパ制御器で置き換えたものであり、使用線区の線形の相違などもあって、同じ界磁チョッパ制御ながら三菱電機製の制御器を搭載した8200系とは機能や特性がやや異なっている。

1986年10月竣工の9507Fからは主制御器に故障記憶モニタが付加され、故障内容のみならず、発生時刻まで記憶できる様にした(1次車も後に付加)[4]

主電動機は8200系用MB-3280-ACの実績を基に改良が施された三菱電機MB-3280-BC[注 2]直流複巻式電動機をモハに各4基ずつ装架する。

台車は従来通り2枚の板ばねで軸箱を支持する平行支持板式(SU式)ダイレクトマウント空気ばね台車である、住友金属工業FS-392B(モハ)・092(クハ)を装着する。

ブレーキは8200系までのHSC系電磁直通空気ブレーキに代わり、本系列では三菱電機MBS-R回生制動併用電気指令式ブレーキ[注 3]を採用した。これにより直通管とブレーキ管の2本の空気管引き通しが不要となり、元空気溜管1本で済むようになったため、空制系の保守作業が大幅に簡素化されている。そのため、先頭連結器にブレーキ指令用の空気管の穴はあるものの、配管されていないため使用は不可能となっている。また、南海線の車両としては初の回生ブレーキ付きの車両である[5]

編成

登場時、本系列は以下の2形式3種で構成されていた。

  • モハ9001形(奇数) 中間電動車 (M1)
  • モハ9001形(偶数) 中間電動車 (M2)
  • クハ9501形 制御車 (Tc)

モハ9001形は奇数車と偶数車でペアを組む1C8M制御車で、難波方の奇数車にパンタグラフと主制御器を、和歌山市方の偶数車に140kVA級静止形インバータ(SIV)電源と空気圧縮機、それにバッテリーをそれぞれ搭載する。

1986年10月竣工の9507Fは暫定的に6両編成(9507 - 9007 - 9008 - 9009 - 9010 - 9508)で落成したが、翌1987年5月に先頭車2両(9509・9510)が落成したため、9009 - 9010の2両は9509Fへ編入された[6]。1988年3月竣工の9013 - 9014は当初9501Fに組み込まれていた[注 4]が、1990年に中間電動車を番号順に揃えるため9511Fへ編入された[6]

編成表(1990年 - 更新工事まで)

4両編成
← 難波
関西空港・和歌山市 →
クハ9501
(Tc)
モハ9001
(M1)
モハ9001
(M2)
クハ9501
(Tc)
竣工日
9501 9001 9002 9502 1985年3月29日
9503 9003 9004 9504 1985年4月3日
9505 9005 9006 9506 1985年4月3日
9507 9007 9008 9508 1986年10月21日
9509 9009 9010 9510 1987年5月26日[注 5]
6両編成
← 難波
関西空港・和歌山市 →
クハ9501
(Tc)
モハ9001
(M1)
モハ9001
(M2)
モハ9001
(M1)
モハ9001
(M2)
クハ9501
(Tc)
竣工日
9511 9011 9012 9013 9014 9512 1987年5月26日[注 6]
9513 9015 9016 9017 9018 9514 1988年3月8日

更新工事

更新車(9501F)

本系列は登場から30年以上が経過しており、設備の老朽化が進んでいること、増加する訪日外国人旅行客の需要に対応する接客設備の整備が必要であること、車両故障時の冗長性確保が出来ず4両単独での運転に制約があること、界磁チョッパ装置の更新部品が調達困難な状況にあることといった問題があった。

これらに対処するため、2019年より9501Fを皮切りに更新工事が開始された[7][8]2023年7月までに全ての編成への施工が完了した[9]。本工事により4両単独運転にかかる制約は解消され、日常的に単独運転が可能となった。

更新内容は以下の通りである。

特別企画「NANKAI マイトレイン」

「NANKAI マイトレイン」特別塗装

上述の更新工事に先立ち、車内の快適性を高め、利用客とともにブランドイメージを共創することを目的とした「NANKAI マイトレイン」プロジェクトが2018年より開始された。

その一環として同年2月、和歌山大学空間デザイン研究室講師の川角典弘監修のもと、南海電鉄社員プロジェクトチームが策定した4種類の内装デザイン案がなんばCITYにて展示され、利用客へのアンケート調査が行われた[10]。 本アンケートの集計により「わが家のリビングにいるような」をコンセプトとする、木目を基調とした内装デザインが選定された。また藍色の吊革を採用するなど、部品単位でもアンケートの結果がなるべく反映されることになった[11]

更新工事が完了した9501Fは、本企画の完成第1号として、プロジェクトのイメージカラーであるオレンジ色を配した特別な外装に期間限定で変更され、2019年4月25日より運行を開始した[12][13]。なお運行期間は当初1年を予定していたが、実際には2年間運行された[14]

編成表(更新工事後)

← 難波
関西空港・和歌山市 →
形式[1] クハ9501

(Tc1)

モハ9001

(M1)

モハ9002

(M2)

クハ9502

(Tc2)

更新竣工日[9]
搭載機器 CP CONT, SIV, PT×2 CONT, CP SIV
車両番号 9501 9001 9002 9502 2019年4月25日
9503 9003 9004 9504 2020年5月8日
9505 9005 9006 9506 2019年11月6日
9507 9007 9008 9508 2020年11月4日
9509 9009 9010 9510 2021年5月22日
← 難波
関西空港・和歌山市 →
形式[1] クハ9511

(Tc1)

モハ9011

(M3)

サハ9812

(T)

モハ9013

(M1)

モハ9014

(M2)

クハ9512

(Tc2)

更新竣工日[9]
搭載機器 CP CONT, SIV, PT×2 CP CONT, SIV, PT×2 CONT, CP SIV
車両番号 9511 9011 9812
(9012)
9013 9014 9512 2023年7月6日
9513 9015 9816
(9016)
9017 9018 9514 2022年7月28日
凡例
  • CONT:VVVFインバータ制御装置
  • PT:集電装置
  • SIV:静止形インバータ
  • CP:空気圧縮機

※ ()内は改番前の車番。

運用

4両編成(更新以前)

4両編成の新造直後は、主に単独で普通運用に充当されていたが、7000系と同様に主要機器を1基ずつしか搭載しておらず単独走行中の故障時のシステム冗長性が確保できないため、4両単独での運用が忌避されるようになった[15]。このため前述の更新工事が施工されるまでは2編成を併結した8両編成で、急行空港急行・羽倉崎以北の区間急行で運用される場合が殆どであった[15][注 7]。ただし車両運用に収拾がつかない場合は、単独で普通運用に入ることがあった。

本系列はブレーキ指令の読替装置を搭載していないため、従来のHSC系電磁直通ブレーキを搭載する7000系・7100系3000系10000系との併結は不可能である。1000系とは1992年から併結対応改造が施工された[4]ものの、1000系との併結運転は試運転を除き実施されていない。

一方、2011年に登場した特急「サザン」座席指定車の12000系とはブレーキ方式が共通していたことから、実際に併結運転が可能となった。2015年12月10日に12000系と併結して運用されて以降、「サザン」の自由席車にも用いられている[16]。2018年8月21日から9月22日までは、特別企画として「泉北ライナー」専用車両の泉北高速鉄道12000系と併結して「サザン」の自由席車運用に充当された[17]

平日朝ラッシュ上り(難波行き)の8両編成の急行・空港急行のうち、難波方から4両目は女性専用車両となるため、和歌山市・関西空港方先頭車(クハ9501形偶数)には女性専用車両ステッカーが貼られている。

4両編成(更新以後)

更新工事を終えた編成は、制御装置、補助電源装置、空気圧縮機等の主要機器を編成中に2基ずつ搭載し故障時の冗長性を十分に確保したことから、4両編成単独での運用を恒常的に行えるようになったほか、8000系や8300系との併結が可能となり[7]、運用の自由度が大幅に向上した。また引き続き12000系とも併結を行っており、普通車から特急「サザン」の自由席車まで幅広く活躍している。

6両編成

南海線では旧1000系以来[注 8]となる貫通固定編成で、運用上の制限は無いため、6両編成が充当されるすべての種別の運用に区別なく使用されている。なお、この6両編成は併結を行わず単独でのみ運用されるため、電気連結器を装備しておらず、また女性専用車両の設定対象外である。分割併合を行わないため、記念やイベント宣伝等ヘッドマークの掲出対象になることが多い。

参考文献

  • 南海電気鉄道車両部車両課「新車ガイド2 南海線にもステンレスカー 9000系デビュー」『鉄道ファン』1985年7月号(通巻291号)、交友社、1985年、117-123頁。

脚注

注釈

  1. ^ 旧1000系の淘汰に当たっては、座席指定車を旧1000系からの機器流用車である10000系で置き換え、一般車を旧1000系とシステムを同じくする7000系・7100系で置き換える措置がとられた。これは次世代通勤車として新技術を盛り込んだ本系列は、システムの相違から10000系と併結運転できず、単独運用とする必要があるためである。
  2. ^ 端子電圧375V時定格出力160kW。
  3. ^ 制御器の回路簡略化のため、回生失効時にはそのまま空制が動作するように構成されている。
  4. ^ 組成順は9501 - 9001 - 9002 - 9013 - 9014 - 9502となっていた。
  5. ^ 9009と9010は1986年10月21日
  6. ^ 9013と9014は1988年3月8日
  7. ^ このように運用上の制約があった頃は、都合上1編成が予備車となり[15]羽倉崎検車区に留置されていた。2015年以降はこの1編成を一部座席指定の特急「サザン」運用に回すことで予備体制は解消された。
  8. ^ 旧1000系は2扉クロスシート車であり、4扉ロングシート車では初となる。

出典

  1. ^ a b c d e 「南海電気鉄道 現有車両主要諸元表」『鉄道ピクトリアル』2023年10月臨時増刊号(通巻1017号)、電気車研究会、2023年、280-281頁。なお編成表の形式名は、文献によって表記が異なる場合がある。
  2. ^ 現在の車両 - 鉄道博物館 - 南海電気鉄道
  3. ^ 「南海電気鉄道ダイヤ改正」『鉄道ファン』1992年10月号(通巻378号)、交友社、1992年、106頁。
  4. ^ a b 「私鉄車両めぐり〔153〕南海電気鉄道」『鉄道ピクトリアル』1995年12月臨時増刊号(通巻615号)、電気車研究会、1995年、239-240頁。
  5. ^ 南海電気鉄道車両部、諸河久、岩堀春夫『日本の私鉄 南海』 11巻、保育社〈カラーブックス〉、1991年6月、53頁。ISBN 978-4586508112 
  6. ^ a b 湯浅憲明「私鉄車両めぐり〔139〕 南海電気鉄道(補遺)」『鉄道ピクトリアル』1990年5月号、電気車研究会、1990年、104-105頁。 
  7. ^ a b 「車両総説」『鉄道ピクトリアル』2023年10月臨時増刊号(通巻1017号)、電気車研究会、2023年、57頁。
  8. ^ 「南海電気鉄道 現有車両プロフィール2023」『鉄道ピクトリアル』2023年10月臨時増刊号(通巻1017号)、電気車研究会、2023年、245-246頁。
  9. ^ a b c 「南海電気鉄道 現有車両履歴表」『鉄道ピクトリアル』2023年10月臨時増刊号(通巻1017号)、電気車研究会、2023年、294頁。
  10. ^ お客さまと車両作りを一緒に考えるプロジェクト「NANKAI マイトレイン」を実施します - 南海電気鉄道ニュースリリース 2018年1月25日 (PDF)
  11. ^ NANKAI マイトレイン 特設サイト”. 南海電気鉄道ホームページ. 2023年11月23日閲覧。
  12. ^ NANKAI マイトレイン 4月25日(木)から運行開始! -南海電気鉄道ニュースリリース 2019年4月17日 (PDF)
  13. ^ 南海9000系リニューアル車両が報道陣に公開される - 交友社『鉄道ファン』railf.jp鉄道ニュース 2019年4月25日
  14. ^ 柴田東吾『大手私鉄サイドビュー図鑑12 南海電鉄』イカロス出版、2023年、86-87頁。
  15. ^ a b c 「南海電気鉄道 列車運転の興味」『鉄道ピクトリアル』2008年8月臨時増刊号(通巻807号)、電気車研究会、2008年、206-207頁。
  16. ^ 南海9000系と12000系が併結運転される - 交友社『鉄道ファン』railf.jp鉄道ニュース 2015年12月11日
  17. ^ 泉北12000系が特急“サザン”として運転開始 - 交友社『鉄道ファン』railf.jp鉄道ニュース 2018年8月20日

関連項目