医療保険制度改革 (アメリカ)

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医療保険制度改革(いりょうほけんせいどかいかく)は、アメリカ合衆国で試みられているユニバーサルヘルスケア制度の取り組み。バラク・オバマ2008年アメリカ大統領選挙で公約として掲げた。オバマが大統領に就任し、上下両院で民主党が優位となった議会を通過し、2010年3月に大統領が署名して成立(完全実施は2014年以降)したことから、オバマケアとも呼ばれる。主に二つの法律からなる[1]。 アメリカ議会予算局の試算では、以後10年間で、保険加入者は3100万人増加し、加入率は83%から94%に上昇するが、費用も9400億ドルに昇る[2]2014年1月1日オバマケアでの保険適用始まる。[3]

背景[編集]

アメリカの診療は自由診療が基本である。高額な医療費に備え、各自が民間の保険会社と契約を行うが、低所得者は保険料の支払いが困難となること、医療費のかさむ慢性病患者等は更新を拒否されたりする弊害があり、医療の恩恵を享受できない国民が少なからず存在していた。アメリカの自己破産の原因の6割は医療費が原因である。さらに、その医療費が原因で破産した者の8割は医療保険に入っていたとも言われている。高額な医療費と、質の悪い保険のため、身体的のみならず、経済的にも病気や怪我に苦しめられるアメリカ人は多い[4]

こうした問題は、20世紀中頃からアメリカ合衆国の政治上の問題とされ、古くはセオドア・ルーズベルトトルーマンニクソン、1990年代にはビル・クリントンなどが新たな健康保険制度の創設に向け取り組みを行っていたが、財政上の問題(フリーライダーの存在とモラルハザード等)などから次々と頓挫し続けてきた歴史がある[5]

医療保険システムの萌芽[6][編集]

私的な医療保険の仕組みは,19世紀ヨーロッパにおいてギルドや工場等において見られるようになった。 アメリカにおいては20世紀はじめにヨーロッパからの移民が病気のときの給付を行う小さな互助組織を形成し始め,同時期にメトロポリタンライフとプルデンシャルが葬式費用と終末期医療費用を含んだ生命保険を売り始めた。この個人向け医療保険は週ごとの給料日に保険料を徴収するなど大変な運営費用がかかったため、大きな広がりを見せることはなかった。 アメリカにおける私的医療保険の成長は、病院にかかる費用の上昇と医療サービス提供側のイニシアティブによってもたらされた。1920年代には、病院は死ぬためのところではなく元気になるためのところになっていたが、未だ多くの患者が入院費用を支払えずにいた。大恐慌の最中、このような入院費用をカバーする私的医療保険プランが広がったが、この医療保険プランは特定の病院にかかる費用に限ってカバーするものだった。 この中で、アメリカ病院協会(The American Hospital Association)により州全体にわたって病院を自由に選ぶことができるブルークロス(Blue Cross)病院保険プランを提供され始めた。1939年にはカリフォルニア医師協会(The California Medical Association)が医師のサービスをカバーするブルーシールドプラン(The Blue Shield plan)を開始した。1940年までに39のブルークロスに600万人を超える人々が加入するようになった。このように、アメリカにおける医療保険の広がりは患者側ではなく、安定した収入源を求める医療提供者側のイニシアティブによってもたらされたものであった。

職域医療保険の成長と商業医療保険会社の進出[7][編集]

職場をベースとした医療保険は第二次世界大戦中の労働力不足の中で、フリンジベネフィットとしての医療保険を提供する雇用主が増えたことにより広まった。賃金と価格統制により賃金上昇が妨げられる中、フリンジベネフィットについては増やすことができたからである。戦後、労働組合はこの流行に乗ってヘルスベネフィットについて交渉するようになった。この結果、病院保険プランへの集団で加入件数が1940年の1200万件から1988年には14200万件に増加したのである。 このような雇用をベースとした医療保険の成長により、商業的保険会社が医療の分野に進出し、"The Blues"と競争するようになった。商業的保険会社は、それまでのコミュニティベースで加入者が等しく保険料を払っていた仕組みの中に、リスクの低いグループとリスクの高いグループに異なる保険料を提示する経験的な格付け(experience rating)の仕組みが導入された。既存のブルークロスなどもこれに追随せざるを得なくなったため、被保険者間の再分配の仕組みが弱まり、老人や病人にとっては医療保険はどんどん高くて手が届かないものになっていった。

メディケア・メディケイドの導入[8][編集]

上述の職域医療保険の成長の陰で、老人や貧困層は医療保険の恩恵を授かれずにいた。1950年後半には、高齢者層の15%弱が無保険であった。このような状況の中、1965年に高齢者のための医療制度メディケアと、貧困層のための医療制度メディケイドが導入された。メディケアには、病院への支払いをカバーするメディケアパートA、医師への支払いをカバーするメディケアパートB、メディケアでカバーされない部分について私的医療保険を購入する場合の保険料を補助するメディケアパートC(the Medicare Advantaged Program、2003年導入(後述))、処方薬をカバーするメディケアパートD(2003年導入(後述))があり、パートAは主に雇用主と被用者から支払われる社会保障税によってまかなわれている。パートBとパートDは連邦税と加入者の月々の保険料によってまかなわれている。メディケイドは州により運営されているプログラムで、連邦税と州税が財源である。

2003年のThe Medicare Modernization Act(MMA、メディケア現代化法)は、私的医療保険の役割の拡大(パートC)、処方薬給付の導入(パートD)という二つの大きな変更をもたらした。メディケアの問題の一つとしてかねてより、メディギャップ(Medigap、控除部分や自己負担部分が大きくメディケアだけでは医療費のすべてをまかないきれないという、実際の医療費とメディケアによる給付のギャップ)が指摘されていた。カイザー家族財団によれば、メディケアは平均的な加入者の医療費の48%しかカバーしておらず(2006年)[9] 、2010年には、30%近くの加入者が以前の勤め先から追加的な医療保険を提供されており、およそ20%がメディギャッププランと呼ばれる私的医療保険を追加購入し、24%がメディケアパートCに加入し、19%がメディケアとメディケイドの両方に加入している[10]。メディケアパートCは私的医療保険の保険料を補助するが、加入者にとっては、より少ない自己負担額と引き換えに、その私的医療保険と契約している医療機関のサービスしか受けられなくなることから、医療機関の選択の自由がある程度制限されることになるため、メディケアパートCにはパートA、Bよりも多くの拠出が行われている。

2010年医療保険改革法成立[編集]

2000年代にはいると、医療の高度化が進み保険料も高額化。国民の6人に1人が医療保険に入れない状態となり問題は深刻化。[11]破産の原因が医療費支払いに起因することも珍しくなくなった[12]。2010年3月、オバマ大統領は選挙公約を実現する形で医療保険改革法を成立。低所得者に補助を行うことにより、国民の健康保険加入率を抜本的に向上させる内容であった。しかし、住民から保険料を強制的に徴収すること、2014年までに保険加入を義務づけないとメディケア給付を打ち切るとした点について各州が反発。26州が連邦政府を訴え、2011年1月31日にはフロリダ州では法律に対して違憲判決が出される結果となり、保険制度の実効性が疑問視されるようになっている[13]

合憲[編集]

2012年6月28日、連邦最高裁は根幹部分である国民の保険加入を義務付ける条項を認める判決を下した。ロバーツ長官を含む5人が支持、ケネディ判事ら4人が不支持[14]

予算案不成立と政府閉鎖[編集]

オバマケアの2014年実施に関して、共和党が多数を占める下院は1年延期をする予算案を可決したが、民主党が多数を占める上院が予定通りの実施を求める予算案を可決したため、予算案が2013年9月に不成立となることが決定し、同年10月から17年ぶりに2週間以上にわたって政府閉鎖となった。10月半ばが期限の連邦政府債務限度額引上げ法案は可決され、連邦政府による債務不履行(デフォルト)は土壇場で回避された。

関連項目[編集]

出典[編集]

  1. ^ Patient Protection and Affordable Care Act 」と 「Health Care and Education Reconciliation Act of 2010
  2. ^ “上院医療改革法案、10年で赤字1270億ドル削減-CBO試算(Update1)”. bloomberg. (2009年11月19日). http://www.bloomberg.co.jp/news/123-KTBUFX6TZ01V01.html 
  3. ^ http://www.afpbb.com/articles/-/3005903
  4. ^ 早川幸子 (2013年10月3日). “アメリカの自己破産の6割は医療費が原因…。 海外旅行先の高額な医療費に気をつけよう!|知らなかったでは損をする!医療費節約の裏ワザ”. ダイヤモンド社. http://diamond.jp/articles/-/42401 2014年3月2日閲覧。 
  5. ^ オバマの医療改革の行方(富士通総研2009年3月2日)2012年5月31日
  6. ^ Bodenheimer,T. and Grumbach, K.(2012) "Understanding Health Policy: A clinical Approach" Sixth Edition. McGraw-Hill books.ISBN 978-0-07-177052-1
  7. ^ Bodenheimer,T. and Grumbach, K.(2012) "Understanding Health Policy: A clinical Approach" Sixth Edition. McGraw-Hill books.ISBN 978-0-07-177052-1
  8. ^ Bodenheimer,T. and Grumbach, K.(2012) "Understanding Health Policy: A clinical Approach" Sixth Edition. McGraw-Hill books.ISBN 978-0-07-177052-1
  9. ^ Kaiser Family Foundation.(2010)The Medicare Spending and Financing.
  10. ^ Kaiser Family Foundation.(2010). Medicare at a glance.
  11. ^ オバマケア【Obama-care】デジタル大辞泉
  12. ^ Illness and injury as contributors to bankruptcy.」(the journal Health Affairs)
  13. ^ 米医療保険制度改革法、連邦地裁が違憲判決ウォールストリートジャーナル2011年2月1日)2012年5月31日閲覧
  14. ^ “UPDATE4: 米最高裁、医療保険改革法の国民の保険加入義務付けに事実上の合憲判断”. ロイター. (2012年6月29日). http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPJT818116720120629 
  15. ^ http://www.nytimes.com/2012/03/30/opinion/krugman-broccoli-and-bad-faith.html?_r=2&smid=tw-NytimesKrugman&seid=auto Broccoli and Bad Faith](ニューヨークタイムズ2012年4月29日)

外部リンク[編集]