細菌性髄膜炎
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細菌性髄膜炎(さいきんせいずいまくえん、英: Bacterial meningitis)は、細菌感染によって起こる中枢神経系の感染症。別名として、化膿性髄膜炎(かのうせいずいまくえん、英: Septic meningitis)とも呼ばれる。通常結核性髄膜炎はこの細菌性髄膜炎に含めない。
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[編集] 疫学
細菌性髄膜炎の一つである髄膜炎菌性髄膜炎は世界的に分布し、流行地域ごとに菌のタイプ(血清型)は異なる。世界全体としては毎年30万人の患者が発生し、3万人の死亡例が出ている。流行の多発地帯は、アフリカ中央部の西はセネガルから東はエチオピアまでの地域が該当し、当該地域は「髄膜炎ベルト」とも言われている。主に乾期(12~6月)のサバンナ地帯で多くの発症が報告される。欧米先進国でも時に局地的な流行がある。
[編集] 臨床像
[編集] 病態生理
脳や脊髄(あわせて中枢神経系と呼ぶ)は、脳・脊髄に近い側から軟膜・クモ膜・硬膜という3層の膜に包まれて保護されている。これらの膜をまとめて髄膜と呼ぶ。このうち軟膜は脳・脊髄にぴったりと張り付いており、硬膜は頭蓋骨に密着し、クモ膜は硬膜に密着している。クモ膜と軟膜の間には液体(脳脊髄液)の入った空間(クモ膜下腔)がある。
細菌性髄膜炎とは、この髄膜・脳脊髄液に細菌が侵入し、感染したことで起こる病気である。
細菌はもともと鼻の奥(鼻咽腔という)の粘膜に定着していたものが、何らかの契機に血液内に侵入し、血液から中枢神経系に侵入したものと考えられる。このため、細菌性髄膜炎には敗血症・菌血症を必ずといっていいほど合併する。
- (一部例外あり…モンディーニ奇形や二分脊椎に伴う先天性皮膚洞など、中枢神経系と体外との隔壁が不完全となる奇形では、その部分から直接中枢神経系に感染することがある。このことは髄膜炎の起炎菌を明らかにすることで推定される)。
[編集] 起炎菌
年齢や基礎疾患によって起炎菌が異なる。
- 新生児・乳児期早期
- 大腸菌、B群レンサ球菌など母体由来の細菌が起炎菌となる。リステリアによる髄膜炎も発生する。
- 乳幼児
- 日本の場合、インフルエンザ桿菌b型(略してHib)が最も多く、次いで肺炎球菌が多い。日本では髄膜炎菌は極まれにしか見られないが、日本以外の諸国(特に先進国[誰?])では、これらの細菌に対しては有効なワクチンが使用されているため、髄膜炎菌が最も多い起炎菌である国が多い。
- 学童期 - 壮年期
- 日本の場合、細菌性髄膜炎に罹患することがまれな年代である。肺炎球菌、髄膜炎菌が起炎菌となりうるが、頭部外傷に続発するものでは黄色ブドウ球菌のほか非典型的な細菌が起炎菌となりうる。
- 老年期
- 肺炎球菌、リステリアが多い。
[編集] 髄膜炎菌
髄膜炎菌( Neisseria meningitidis )は1887年に Weichselbaum によって、急性髄膜炎を発症した患者の髄液から初めて分離。13種類の血清型に分類されている。
[編集] 症状
発熱、頭痛、嘔吐、不機嫌(乳幼児の場合)などがみられ、症状が進行すると痙攣や意識障害も現れる。
発熱は細菌感染の一般的な症状であるが、髄膜炎では脳脊髄液の圧力(脳圧)が高まり、脳自体に浮腫を伴うこともあるため、その刺激や血流の不足によって嘔吐、意識障害などの症状が現れると考えられている。
[編集] 検査
髄膜炎の診断のためには、背中(腰の辺り)から針を刺し(腰椎穿刺)、脳脊髄液を採取する必要がある。細菌性髄膜炎の場合、脳脊髄液を顕微鏡で観察するとたくさんの白血球(炎症細胞)と細菌が確認できる。
脳脊髄液を遠心した沈渣をグラム染色した上で観察し、細菌の形や色素での染まり方などから、原因となった細菌を推定することができる。インフルエンザ桿菌b型、肺炎球菌、髄膜炎菌、B群レンサ球菌などではラテックス凝集法による抗原検索を用いることで、30分程度で起炎菌を特定できる。
最終的な確定診断は脳脊髄液の培養で細菌が発育することを確認するが、これには1-2日かかる。さらに1-2日で、細菌の抗菌薬に対する感受性も判明する。
抗菌薬が十分効いていることを確かめるために、治療を開始した翌日にもう一度脳脊髄液を採取し、培養で細菌が発育しないことを確認する。
その他、血液検査では強い炎症反応を認める。血小板減少などを合併することもある(後述のDICの検索が必要)。頭部のCTで脳浮腫を認める場合もある。
[編集] 治療
抗菌薬による強力な治療が必要である。通常の感染症よりも大量に抗生物質を使用する(βラクタム系抗生物質を用いる場合、常用量の2倍程度を用いる)必要がある。
先述したとおり、治療開始翌日に再度腰椎穿刺を行い、培養が陰性であることを確認する必要がある (Second tap) 。Second tapの培養が陽性となった場合には、薬剤感受性などを元に抗菌薬の増量または変更・追加を必要とする。
患者が小児である場合、難聴の合併を予防するため、デキサメサゾン(合成ステロイド)を2日間併用することが多い。しかしデキサメサゾンの有効性についてエビデンス(科学的根拠)があるのは、インフルエンザ桿菌b型による細菌性髄膜炎の場合のみである。
脳浮腫を抑え、血流を改善するために多糖類(マンニトール、グリセリン)の投与を行う。
[編集] 成人のemprical therapy
市中発生では数年前まではアンピシリン(ビクシリン)とセフトリアキソン(ロセフィン)であったが耐性菌の増加に伴いカルバペネム系が用いられる傾向がある。この場合はカルバペネム系の単剤療法となる。
- パニペネム・ベタミプロン(カルベニン):1回1g、1日4回、合計4g/day(保険適用は2g/dayまで)
- メロペネム(メロペン):1回2g、1日3回、合計6g/day(保険適応は2g/dayまで)
- 院内発生や免疫抑制下(50歳以上やアルコール依存者)ではMRSAやリステリアもカバーするため以下の3剤併用とすることがある。なおセフトリアキソン(ロセフィン)はセファチキシム(クラフォラン)1回2g、1日4回、合計8g/day(保険適応は4g/dayまで)に変更可能である。
- セフトリアキソン(ロセフィン):1回2g、1日2回、合計4g/day(保険適応は4g/dayまで)
- バンコマイシン(バンコマイシン):1回0.5g、1日4回、合計2g/day(保険適応は2g/dayまで)
- アンピシリン(ビクシリン):1回2g、1日6回、合計12g/day(保険適応は4g/dayまで)
- また抗生物質投与前10~20分または同時投与でデキサメタゾンを投与することがガイドラインでは推奨されている。
- デキサメサゾン(デカドロン):0.15mg/Kgで1日6時間ごと (36mg/60Kg/day) を2~4日投与
- 治療中止はガイドライン上は髄液所見が正常化後さらに1週間の投与をしたら終了とされている。髄液細胞50/mm3以下で血清CRP正常化で投与を中止しても再燃しないという報告もある。再発予防としては原因となった疾患(中耳炎、副鼻腔炎、脊椎硬膜下膿瘍、脳室シャント、カテーテル、手術創)などを可能なかぎり治療、除去するといったことである。
[編集] 合併症
- 播種性血管内凝固症候群 (Disseminated intravascular coagulation: DIC)
- 髄膜炎を発症した当日から1-2日程度、まだ病勢が強い時期に起こる合併症。血管の中で小さな血液の塊がたくさんできるため、血小板や凝固因子(血を固めるタンパク質)が減少し、出血しやすい状態になる。微小血栓が塞栓することにより、各種臓器の虚血・障害が懸念される。
- 血液の凝固を抑える薬(蛋白分解酵素阻害薬)による治療を行う。
- 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群 (SIADH)
- 尿量を減少させるバソプレッシン (Vasopressin, Anti-diuretic hormone: ADH) というホルモンが、体の状態に対して不適切に多く分泌されてしまう状態。血液中の電解質が希釈されるため、水分制限が必要になる。
- 脳梗塞
- 髄膜炎を発症してから数日が経過し、治療が順調であれば熱も下がり意識障害などの症状がなくなった頃に起こる合併症。極まれな合併症であるが、致命的になったり麻痺などの後遺症を残す危険がある。血栓性の動脈炎や、血管の攣縮(血管平滑筋が痙攣的に収縮し、血管の内腔が著しく狭くなる)が原因になると考えられる。
- 硬膜下水腫・膿瘍
- 発症から1-2週間でみられる、クモ膜と硬膜の間に、液体や膿(うみ)が溜まってしまう合併症。特に膿が溜まっている場合には、手術により排膿する必要が起こることもある。また、水腫の場合でも量が多く、脳を圧迫してしまうような場合、液体を腹腔に逃がすシャントという管を挿入する手術が必要になることもある。
[編集] 予後
数%の死亡率があるが、ほとんどは発症から24時間以内に致命的になる劇症型(または電撃型)と呼ばれる病型によるものである。劇症型以外では、適切な治療が行われれば死亡率は非常に低くなる。
後遺症は10%程度に見られる。後遺症の内容はてんかん、発達の遅れ、難聴、麻痺などさまざまである。
[編集] 関連法規
2003年11月施行の感染症法一部改正により、5類感染症全数把握疾患に指定。
[編集] 出典
[編集] 外部リンク
- 細菌性髄膜炎の診療ガイドライン 日本神経感染症学会
- 髄膜炎 メルクマニュアル
- 髄膜炎菌Neisseria meningitidis岡山県立大学 山本耕一郎研究室