化学結合

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化学結合(かがくけつごう)は分子結晶中で原子の間を結び付けている力である。多くの簡単な化合物では価電子理論と酸化数の考え方で分子の構造と構成を説明できる。同様に、古典物理学(電磁気学)の理論で多くのイオン性構造が説明できる。分子同士の相互作用は化学結合ではなく、分子間力と呼ばれる。

複雑な化合物、例えば金属複合体では価電子理論は破綻し、その振る舞いの多くは量子力学を基本とした理解が必要となる。これに関してはライナス・ポーリング(Linus Pauling)の著書、The Nature of the Chemical Bondで詳しく述べられている。

種類[編集]

次に化学結合の種類を示す。

  1. 分子(金属)の内部構造を構成する化学結合(分子内結合)
  2. 分子(原子)集団を構成する化学結合

分子内結合[編集]

分子内結合では、エネルギー的な選り好み(すなわち、低いエネルギーを好む)によって価電子(分子軌道)が選択される。物質を構成する原子の間にある電子密度が局在したり、非局在化したりする要因によって結合の種類は認識される。

共有結合では関与する電子の密度は結合軸周辺に分布して、個々の原子には所属しない。そして、原子に局在することなく分子軌道として知られる現代の共通理論が記述する形状をとった電子密度分布が分子内に横たわっている。 純粋なイオン結合とは違って、共有結合は異方向性の性質を示す。

それに対してイオン結合の場合は、電子は主にそれぞれの原子に所属し、全体的な電荷は物質を構成する個々の原子殻に明確に割り当てられている。原子間に(実際の所はイオン間に)作用する力は、大局的に見ると等方向的に連続した静電ポテンシャルの性質を示す。共有結合の複雑さは重厚な量子力学の考えをして理解される。

また、どっちつかずの状況は存在していて、結合が分極したイオン性と電子が(相互の原子から)非局在化した電子対の性質を混ぜ合わせた様な性質を示すこともある。したがって電気陰性度の異なる原子間の共有結合には永久分極による静電相互作用による力も合わせて作用するので、その作用の寄与する分をイオン結合性と言い表すこともある。すなわちイオン結合性の共有結合している二つの原子を無限遠まで引き伸ばすとその極限ではイオン結合になるので、共有結合とイオン結合とで二分化されるものでもない。

分子間の化学結合[編集]

分子間に生じる化学結合は、静電相互作用(イオン結合)と分子間力に基づく。イオン性分子は明確な電荷を有するために、その静電相互作用によるイオン結合はおおよそ古典物理で記述可能である。しかし、中性分子(あるいはイオン性分子もその性質を併せもっているが)が持っている双極子モーメントや、分極の誘導や配向、あるいはロンドン分散力により生じる分子間力によって一定距離では引力が、接近しすぎると斥力が作用する。理想気体には存在せず実在気体に存在する引力をファンデルワールスが提唱したことから気体以外の分子間力もファンデルワールス力と呼ばれることが多く、分子間力に基づく化学結合もファンデルワールス結合(-けつごう、Van-der-Waals Bonding)と呼ぶ場合が多い。

分子間力による一時的な静電相互作用はイオン結合によるものに比べて1/10~1/1000の強度しかない。しかし、高分子や分子クラスターに関与する非イオン性の原子は数が膨大であるから、分子間力に基づく化学結合も積み上げられると結合力としてかなりの影響力を持つ。すなわち、分子を繋ぎ止めている分子内結合を別にして、分子間力は物質を構成する分子をひきつける力を提供し物体の形状や特性を表現することになる(記事 分子間力に詳しい)。

水素結合とは分極に基づく分子間力であるが、その結合の要因となる分子構造に特徴があるために分子間力とは別に扱われることが多い。また、水素結合などの極性分子が形成するクラスターは、極性分子と強く結合しない非極性分子をクラスターから排斥する。そして極性分子クラスターが大量に存在する環境では、非極性分子を集合させる見かけ上の力が作用しているように見えるので、これを疎水結合と呼び分子間の化学結合とみなす場合もある。

電気陰性度と結合[編集]

同種元素間の場合は核電荷の有効核遮蔽が等価なため、二つの核の中間点を中心として電子の波動関数も対称になっている。その結果二つの核および共有結合を形成する電子に電荷の偏りは見られない。

一方、異種元素間の場合は核電荷の有効核遮蔽が等しくないために、つぎに示す二つの効果により、結合を挟んで電荷の偏りが発生する。軌道のエネルギー準位は有効核遮蔽によりその値が変化するため、電子の空間分布も有効核遮蔽の大小でその動径成分の分布が変化する。また、もともと有効核遮蔽が異なるのであるから、正電荷の分布も原子間の中心よりずれを生じている。つまり、電気陰性度と有効核遮蔽とは相対する概念であり、有効核遮蔽が弱いものほど電気陰性度は強く、電子はより核の近傍に分布する。

言い換えると異種元素間の結合は結合性σ結合による寄与の他に電荷の偏りに起因するイオン結合性の寄与を併せ持っている。一般に、電気陰性度の差が1.7以下の原子間の結合は共有結合性が支配的であり、それ以上の場合はイオン結合性が支配的になる。

単結合・多重結合[編集]

前述の様に、原子間に結合が生成する場合、相対する原子の原子価が結合に割り振られる。言い換えると、原子価が相互に割り振られると電子対を形成し、相互の原子間で共有される場合は共有結合となり、電気陰性度が大きくことなると一方の原子に電子対が占有される為にイオン結合となる。

1組の原子間の結合に関与する原子価は1価とは限らず、複数の原子価で結合が生成する場合もある。結合の生成に関与し原子価の数、すなわち結合生成に寄与している電子対の数を結合の多重度と言い、多重度に応じて次のように化学結合は呼び表される。

  • 単結合(たんけつごう、single bond)- 多重度が1の結合。一重結合(いちじゅうけつごう)とも呼ぶ
  • 二重結合(にじゅうけつごう、double bond) - 多重度が2の結合
  • 三重結合(さんじゅうけつごう、triple bond) - 多重度が3の結合
  • 四重結合(よんじゅうけつごう、quadruple bond) - 多重度が4の結合
  • 五重結合(ごじゅうけつごう、Quintuple bond) - 多重度が5の結合
  • 六重結合(ろくじゅうけつごう、Sextuple bond) - 多重度が6の結合

結合の多重度は原子価を元にした概念的な分類であるが、実際の共有結合においては、σ結合π結合との組み合わせにより単結合と多重結合(二重結合と三重結合)とが構成される。単結合にはπ結合が関与しないため、単結合と多重結合とでは反応性や物理化学的特性が異なる。d電子を持つ金属錯体に可能な四重以上の結合ではδ結合が関与する。(記事 共有結合に詳しい)

関連項目[編集]