円分体

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円分体 (えんぶんたい、: cyclotomic field) は、有理数体に、1 の m(>2) 乗根 \scriptstyle\zeta(\ne\pm 1) を添加した代数体である。 円分体およびその部分体のことを円体ともいう。


以下において、特に断らない限り、\zeta_n = e^{2\pi i/n} とする。


性質[編集]

\mathbb{Q}(\zeta_m) は、\mathbb{Q}(\zeta_{p_1^{e_1}}),\ldots,\ \mathbb{Q}(\zeta_{p_r^{e_r}})合成体であり、
\mbox{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_m)/\mathbb{Q})\cong (\mathbb{Z}/m\mathbb{Z})^{\times}\cong (\mathbb{Z}/p_1^{e_1}\mathbb{Z})^{\times}\times\cdots\times (\mathbb{Z}/p_r^{e_r}\mathbb{Z})^{\times}
が成立する。また、円分体 \scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_m) で分岐する有理素数[1]は、\scriptstyle p_1,\ldots,\ p_r に限る。
  • \scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_m)\cap\mathbb{R} = \mathbb{Q}(\zeta_m + 1/\zeta_m) である。この\scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_m + 1/\zeta_m) を、最大実部分体または実円分体という。
  • 一意分解整域である円分体 \scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_m) \scriptstyle(m\not\equiv 2 (mod 4))[2]は、m = 3, 4, 5, 7, 8, 9, 11, 12, 13, 15, 16, 17, 19, 20, 21, 24, 25, 27, 28, 32, 33, 35, 36, 40, 44, 45, 48, 60, 84 だけである。
  • 特に、23 以上の素数 p に対して、円分体 \scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_p) は一意分解整域ではない。
  • 類数が 2 である円分体 \scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_m) \scriptstyle(m\not\equiv 2 (mod 4)) は、m = 39, 56 だけである。


円分体の判別式[編集]

m を 3 以上の整数とし、円分体 \scriptstyle K = \mathbb{Q}(\zeta_m) とする。

(1) m が素数のとき

K判別式判別式は、(-1)^{(m-1)/2}m^{m-2} である。


(2) m = p^h (p は素数、h は 2 以上の整数)のとき

K の判別式は、\scriptstyle\varepsilon p^{p^{h-1}(h(p-1)-1)} である。但し、

\varepsilon = \begin{cases}-1 & (p=h=2,\mbox{ or }p\equiv 3\ (\mbox{mod }4)), \\ +1 & (p = 2, h\ge 3,\mbox{ or }p\equiv 1\ (\mbox{mod }4)). \end{cases}


(3) \scriptstyle m = p_1^{e_1}\cdots p_r^{e_r} (\scriptstyle r\ge 2,\ p_1,\ldots,\ p_r は相異なる素数、\scriptstyle e_1,\ldots,e_r\ge 1) のとき

D_i を、円分体 \scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_{p_i^{e_i}}) の判別式としたとき、 K の判別式は、

\prod_{i=1}^r D_i^{\varphi(m)/\varphi(p_i^{e_i})}

である。


アーベル拡大体の埋め込み[編集]

クロネッカー=ウェーバーの定理 (Kronecker-Weber's theorem)

K を有理数体上のアーベル拡大体としたとき、ある整数 \scriptstyle m\ge 3 が存在して、

K\sub\mathbb{Q}(\zeta_m)


例えば、二次体はアーベル拡大体であるので、クロネッカー=ウェーバーの定理より、ある円分体の部分体になる。


クロネッカー=ウェーバーの定理は、基礎体が有理数体であるときを考えているが、基礎体を虚二次体にしたときも、同様なことが成立するかを問うたのが、クロネッカーの青春の夢である。

円分体と初等整数論[編集]

フェルマーの最終定理[編集]

素数 p に対して、

x^p + y^p = z^p

の右辺を、\scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_p) 上で分解すると、

(x + y)(x + \zeta_p y)\cdots (x + \zeta_p^{p-1} y) = z^p

となる。 ラメ (G. Lamé)、コーシー (A. Cauchy)らは、上記右辺を考察し、フェルマーの最終定理が成立することを証明したと発表した。しかし、クンマー (E. E. Kummer)は、彼らの証明は、右辺の分解が一意的であることが前提になっており、p=23 のとき、それが成立しないことを示した。 そのため、p=23 (円分体の性質にある様に、23 以上の全ての素数) の場合、別の方法をとる必要がある。

クンマーは、素元の分解が一意でなくとも、ある性質をもつ素数である場合、彼らの証明のアイデアを生かしながら、フェルマーの最終定理が成立することを証明した。

クンマーにより考察された素数は、以下の性質を持ち、正則素数 と呼ばれる。

  • 素数 p は、円分体 \scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_p)類数を割り切らない。


正則素数に対しては、以下の補題が成立し、クンマーは、この補題を用いて、ベキが正則素数の場合のフェルマーの最終定理を証明した。

クンマーの補題

素数 p が正則素数であれば、円分体 \scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_p) の単数 ε を、\scriptstyle\varepsilon\equiv a\ (\operatorname{mod}\ (1-\zeta_p)^p) となる有理整数 a が存在するようにとると、 \scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_p) の単数 \scriptstyle\varepsilon_0 が存在して、\scriptstyle\varepsilon = \varepsilon_0^p と表される。


正則素数についての詳細は、正則素数 を、フェルマーの最終定理については、フェルマーの最終定理を参照のこと。


平方剰余の相互法則[編集]

ガウス (C. F. Gauss)は、今日、ガウス和と呼ばれる1のベキ根の指数和を考察することにより、平方剰余の相互法則第1補充法則第2補充法則を示した。[3] さらに、\scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_3),\ \scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_4) 上のガウス和を考察することで、3次、4次剰余の相互法則を得ることができる。クンマーは、円分体に対する深い考察により、高次のベキの剰余に関する相互法則を与えた。 高次ベキの剰余の相互法則は、その後、フルトヴェングラー (P. Furtwängler)により全ての素数に対して与えられ、さらに、類体論の結果を用いて、高木、アルティン (E. Artin)、ハッセ (H. Hasse)らにより、より一般の形での相互法則が得られた。

円分体の類数[編集]

円分体の類数の性質[編集]

以下において、p を奇素数とする。

円分体 \scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_m) の類数を h(m)、最大実部分体 \scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_m+1/\zeta_m) の類数を h_2(m) とすると、 h(m) = h_1(m)h_2(m) (h_1(m) は有理整数)と表すことができる。 このとき、h_1(m)第1因子または相対類数h_2(m)第2因子または実類数という。


第1因子については、以下の様な性質がある。

  • 素数 p に対して、ph(p) を割り切る必要十分条件は、p が第1因子を割り切ることである。
つまり、第1因子が p で割り切れないならば、p は正則素数である。
この性質により、第1因子はフェルマーの最終定理との関連で多くの研究がなされている。
  • 素数 p に対して、p が第1因子を割り切る必要十分条件は、p^2 が、\scriptstyle\sum_{j=1}^{p-1}j^{2k} を割り切る様な整数 k \scriptstyle (1\le k\le (p-3)/2) が存在することである。
  • h_1(p) が奇数であるならば、h_2(p) は奇数である。


クンマーは、第1因子の増大度に対して、\scriptstyle\lim_{p\to\infty}h_1(p)/\gamma(p) = 1 と予想した。 但し、\scriptstyle\gamma(p) = p^{(p+3)/4}/(2^{(p-3)/2}\pi^{(p-1)/2})[4]

この予想が成立するかは不明であるが、例えば、以下のことが知られている。

\lim_{p\to\infty}\frac{\log(h_1(p)/\gamma(p))}{\log p} = 0


第2因子に対しては、以下の様な性質がある。第1因子よりも取り扱いが難しいため、第2因子の性質はあまり分かっていない。

  • q を素数とし、n>1 とする。p = (2qm)^2+1 が素数であるならば、h_2(p)>2 である。

ヴァンディヴァー (H. S. Vandiver)は、ph_2(p) を割り切らないと予想した(ヴァンディヴァー予想)。現在でも、この予想が正しいかは不明である。


円分体の類数公式[編集]

円分体の類数を求めるには、h(m)=h_1(m)h_2(m) より、第1因子と第2因子を求めればよい。[5]

  • 第1因子
  • h_1(m) = \frac{\delta}{(2m)^{\frac{1}{2}\varphi(m)-1}}\prod_{\chi\in S}\sum_{n=1}^{m-1}\chi(n)n
ここで、
\delta = \begin{cases} 1 & (m\not\equiv 0\ (\mbox{mod }4)), \\ \frac{1}{2} & (m\equiv 0\ (\mbox{mod }4)), \end{cases}
S は、\chi(-1) = -1 を満たす、法 m に関する指標の集合とする。


特に、m が素数 p の場合、以下の形で表される。
  • h_1(p) = \frac{1}{(2p)^{(p-3)/2}}\left|\prod_{\chi\in S}\sum_{k=1}^{p-1}\chi(k)k\right|


m が素数のとき、以下の様な式がある。
  • h_1(p) = \frac{1}{(2p)^{(p-3)/2}}|G(\eta)G(\eta^2)\cdots G(\eta^{p-2})|
ここで、η は、1 の原始 p-1 乗根とし、\scriptstyle G(X) = \sum_{j=0}^{p-2}g_jX^j
但し、g を、法 p に対する原始根としたとき、\scriptstyle j=0,1,\ldots,p-2 に対して、\scriptstyle 1\le g_j\le p-1 は、\scriptstyle g^j\equiv g_j\ (\operatorname{mod}\ p) を満たす正整数とする。


  • p の倍数ではない整数 r に対して、\scriptstyle 1\le R(r)\le p-1 を、\scriptstyle r\equiv R(r)\ (\operatorname{mod}\ p) を満たすようにとる。
また、\scriptstyle 1\le r'\le p-1 を、\scriptstyle rr'\equiv 1\ (\operatorname{mod}\ p) を満たすようにとる。
M_p = (R(rs'))_{r,s=1,2,\ldots,(p-1)/2} [6]とおくと、
h_1(p) = \frac{1}{p^{(p-3)/2}}|\mbox{det} M_p| である。


  • 第2因子
  • h_2(m) = \frac{2^{\frac{1}{2}\varphi(m)-1}}{R}\prod_{\chi\in T}\sum_{n=1}^{[\frac{m-1}{2}]}\chi(n)\log|1-\zeta_m^n|
ここで、R は、\scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_m)単数基準T は、\chi(-1) = 1 を満たす、法 m に関する指標のうち、単位指標ではない指標の集合とする。


特に、m が素数 p の場合、以下の形で表される。
  • h_2(p) = \frac{2^{(p-3)/2}}{R}\prod_{k=1}^{(p-3)/2}\left|\sum_{j=0}^{(p-3)/2}\eta^{2k^j}\log|1-\zeta_p^{g^j}|\right|
ここで、η は、1 の原始 p-1 乗根、g は、法 p に対する原始根とする。


m が素数のとき、以下の様な式がある。
  • \scriptstyle k=2,3,\ldots,(p-1)/2 に対して、\delta_k = \sqrt{\scriptstyle\frac{(1-\zeta_p^k)(1-\zeta_p^{-k})}{(1-\zeta)(1-\zeta^{-1})}} [7] とおく。
g を法 p に関する原始根とし、\delta=\delta_g とおく。
また、σ を、\scriptstyle\sigma(\zeta_p) = \zeta_p^g を満たす、\scriptstyle\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_p)/\mathbb{Q}) の生成元とする。
M = (\log\sigma^{i+j}(\delta))_{i,j=0,1,\ldots,(p-5)/2}
とおくと、
h_2(p) = \frac{2^{(p-3)/2}}{R}|\mbox{det}M|
但し、R は、\scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_p)の単数基準とする。


注釈[編集]

  1. ^ 有理整数である素数のこと。
  2. ^ m=4k+2 としたとき、\scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_m)=\mathbb{Q}(\zeta_{2k+1}) であるので、\scriptstyle m\not\equiv 2 (mod 4) としてよい。
  3. ^ この証明は、彼による4番目の証明である。(1801-1805年に証明)
  4. ^ \scriptstyle h_1(p) = \gamma(p)\prod_{\chi\in S}L(1,\chi) が成立するので、ディリクレのL関数の積が 1 に収束することと同値である。
  5. ^ 実際は、円分体に対して、直接類数公式で求めるのが普通である。
  6. ^ マイレ(Maillet)の行列という。
  7. ^ δk は、\scriptstyle\mathbb{Q}(\zeta_p) の正の実数である単数であり、クンマー単数または円単数と呼ばれる。


参考文献[編集]

  • 高木, 貞治 『代数的整数論 第2版』 岩波書店、東京、1971年
  • ボレビッチ, Z. I.・シャハレビッチ, I. R. 『整数論 (下)』 佐々木義雄訳、吉岡書店、京都、1972年
  • リーベンボイム, P. 『フェルマーの最終定理 13講 第2版』 吾郷博顕訳、共立出版、東京、1989年
  • 倉田, 令二朗 『平方剰余の相互法則 -ガウスの全証明』 日本評論社、東京、1992年
  • 河田, 敬義 『数論 -古典数論から類体論へ-』 岩波書店、東京、1992年
  • ノイキルヒ, J. 『代数的整数論』 足立恒雄(監修)・梅垣敦紀訳、シュプリンガー・フェアラーク東京、東京、2003年
  • Masley, J. M. (1975). “Solution of the class number two problem for cyclotomic fields”. Invent. Math. 28: 243-244. 


関連項目[編集]