優先権

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優先権制度を利用した特許出願の例。甲は、X国において発明aについて特許出願Aをした(2008年4月)。さらに甲は、Y国において、X国でした特許出願Aを基礎として優先権を主張し、同一発明aについて特許出願Bをした(2008年12月)。一方、乙は、甲とは独立に同一発明aを考えついたので、2008年6月に発明aについて特許出願Cをした。このとき、Y国では、甲の出願Bが乙の出願Cの後となるが、出願Bは、出願Cの存在を理由として拒絶されず、逆に出願Cは出願Bの存在を理由として拒絶される。

産業財産権法における優先権(ゆうせんけん)とは一般に、ある出願(先の出願、第1国出願、基礎出願など)に対し、同じ出願人(もしくはその承継人)による同一性のある別の出願(後の出願、第2国出願など)が、先の出願と後の出願との間の期間に行われた行為(例:他出願、当該発明の公表・実施等)によって不利な取り扱いを受けない権利。(先の出願の時にされたものと取り扱われる、あるいは出願日の遡及は誤り。)出願人(承継人)の有する権利であり、存続期間(優先期間)は限定されている。優先権は、優先権を認める何れかの国に出願をした時点で発生(成立)する。優先権を主張する場合は、先の出願から優先期間内に後の出願をし、その後の出願の際に先の出願を特定して優先権を主張する意思を表示する必要がある。先の出願以後に他人が同じ発明について出願をした、または実施した(普通なら先使用権が発生する)としてもそれを無効とする効果がある。後の出願より時間的に早い先の出願の日(優先日)を基準に新規性進歩性などの特許要件が判断されるので、審査において有利となる。すなわち、優先権を主張した後の出願に対する先行技術としては、後の出願時点で公知の技術ではなく、先の出願時点で公知とされていた技術を意味することになる。

具体的には、

  • 国際的優先権:単に優先権といえばこれを意味する。条約や国際協定に基づき、最初に出願した国(第1国)とは異なるの国(第2国)において、第1国出願時に出願したと同じ取扱いがなされる(ただし、出願日は遡及しない)。
  • 国内優先権:国内法規で規定され、同じ国で先の出願と同一性のある後の出願が、先の出願の時に出願したとみなされる。

の二つがあり、一般には異なる目的で利用されている。

国際的優先権[編集]

工業所有権の保護に関するパリ条約#優先権制度も参照

条約等に基づく国際的な優先権は、ある国で行われた特許実用新案意匠商標の出願に対し、その出願人(または承継人)が別の国でも先の出願の時点で出願したと同様に取り扱われる権利である。後の出願の際に先の出願を基礎として指定し優先権を主張する必要がある。この優先権は、基本的には工業所有権の保護に関するパリ条約に定められているので、パリ優先権ともいう。 特許制度は各国ごとに規定されており、特許権の効力も各国の国内にしか及ばないので(属地主義)、発明等により特許等を受ける権利が発生しても、特許を取得するには必要な全ての国で出願しなければならない。しかし、他国に出願するためには、各国語への翻訳や必要書類の準備、代理人の選定などに時間がかかるため、この間に他者に先を越されれば権利を取得できず著しく不利益となる。これを避けるために優先権制度が設けられた。

パリ条約では、同盟国で特許、実用新案、意匠、商標を出願した者またはその承継人は、特許及び実用新案については12箇月、意匠及び商標については6箇月の期間、優先権を有すると規定する(4条A(1)、C(1))。またこの優先期間中に他の同盟国に対して同一内容の出願を行った場合には、当該同盟国において新規性、進歩性の判断や先使用権などについて、第1国出願時に出願したものとして取り扱われると規定する(4条B)。優先権の基礎となる先の出願は複数であってもよく、その内最先の出願日が優先日とされる。なお、先の出願と後の出願の内容が必ずしも全く同じ物でなく、後の出願に新たな構成部分が含まれることも認められる(4条F)。

さらに、世界貿易機関(WTO)の「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPs)の2条第1項では、パリ条約の優先権を拡張している。これは、「WTO加盟国は(パリ条約に加盟しているいないにかかわらず)パリ条約の第1~12条および第19条を遵守する」というものであり、従って優先権はこれらの国に対しても適用される(「パリ条約の例による優先権」)。中華民国台湾)はパリ条約と特許協力条約には加盟していないがWTOに加盟しているので優先権が認められる(かつては日本との協定により互いに優先権が認められていた)。

日本では特許法43条にパリ優先権、43条の2にパリ条約の例による優先権が規定され、実用新案法意匠法商標法にこれら(一部を除く)が準用される。

ただし、パリ条約では同盟国での優先権を規定しているのみで、具体的な国際的出願方法を規定していないため、優先期間内に必要とする全ての国に出願手続をする必要がある。

植物品種育成者権の出願に関しても、UPOV条約12条(日本の種苗法11条)で同様の優先権が認められている。

他の条約・協定による優先権[編集]

国際的出願における優先権は、パリ条約19条の「特別の取極」に当たる特許協力条約(PCT)、欧州特許条約(EPC)やユーラシア特許条約のような条約・協定により、基本的にはパリ条約に基づく優先権として規定されている。

特許協力条約[編集]

特許協力条約(PCT)は世界の多くの国が締約しており、国際出願といえば普通はPCTによる出願を意味する(2条(vii);その他の条約等によるものは広域出願という)。8条(1)で、国際出願(PCT出願)に関する優先権主張を認めている。優先権主張の条件と効果は指定国の国内法令による。PCT出願では、パリ条約のみによる出願と異なり、優先権の基礎になる最初の出願から12月の優先期間内にいずれかの締約国で対象国を指定した国際出願をすれば(現在は明記しなければ全締約国を指定したものとみなす:PCT規則4.9(a))、その時点で優先日に指定各国へ出願したのと同じ効果が得られる。国際出願自体を優先権の基礎としてもよい(国際出願の日が優先日となる)。さらに、各国の国内手続(翻訳文の提出など)はその後の国ごとに決められた期限内(例えば日本では優先日から30月以内)に行えばよいので、パリ条約のみによる出願よりも時間的余裕がある。日本では特許法184条の3、実用新案法48条の3に、PCTによる優先権に関連した規定がある。

なお、優先権を主張して出願したのと同じ国を指定国とした場合(自己指定)、その国内における優先権が主張できることになるが、実際には国内法規による(国内優先権制度があれば認められる:8条(2)(b))。

欧州特許条約[編集]

欧州特許条約(EPC)では第87条から第89条で特許や実用新案の出願等に関する優先権を規定している。第87条(1)は、パリ条約同盟国またはWTO加盟国内またはそれらへの最初の出願から12月の優先権を認めている。第89条は優先日が欧州特許への出願日とみなされる効果を規定している。審査と登録はまとめて行われるが、その後の運用は各国に任される。

国内優先権[編集]

一部の国では国内における優先権(国内優先権)を法的に定めている。これは元来、国際的に認められた優先権制度に関して国内的にもバランスをとるという意味がある。

例えば、日本では特許法41条、実用新案法8条に国内優先権が規定されている。これにより、ある出願(先の出願)から1年以内に、それを基礎として指定し別の出願をすることができる(複数の出願を指定することもでき、その場合最先の出願日が優先日になる)。先の出願から1年3月経過すると先の出願は取り下げたとみなされる(特許法42条1項、実用新案法9条1項。なお先の出願をPCT・国内で共に優先権の基礎としていた場合には、国内でのみなし取り下げとともに国際的にも取り下げたとみなされるので、PCT出願時に日本への指定を除外するか、PCT出願後に日本への指定を取り下げる必要がある)。

先の出願と後の出願には内容の同一性が必要であるが、後の出願内容は先の出願内容を基本として発展させた形であることが認められる。出願後の補正では新規の内容の追加は認められないのに対し(特許法17条の2第3項)、優先権を主張して新たに出願する場合にはこれが可能である。しかも、新規性や進歩性の判断は先の出願時点に遡って行われるので、優先期間に先の出願内容に相当する発明等が公知化または他者により出願されても、それらを理由として拒絶されることはない(特許法41条2項)。従って、先の出願後にその内容を上位概念に拡張できる(より広い権利が期待できる)ことがわかった場合や、本質的に共通する複数の出願を統合したい場合などに、国内優先権がよく利用される。ただし、新規追加部分に関しては国内優先権は認められないので(特許法第41条2項参照)、新規追加部分の新規性や進歩性の有無は、後の出願の出願時を基準として判断される。平成14年(行ケ)第539号「人工乳首事件」 (PDF) は、実施例を補充し特許請求の範囲は実質上変更していないにもかかわらず、国内優先権の主張が否認された例として評価されている裁判例である。


特許権の存続期間は後の出願を起点とするので、先の出願から見れば国内優先権の主張により特許権を「延命」させる効果がある。

参考文献[編集]

  • 国内優先権制度の活用ガイド(創英知的財産研究所著、経済産業調査会)
  • 優先権

関連項目[編集]