信用創造

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信用創造(しんようそうぞう、: Money creation/Credit creation)は、銀行の貸出によってマネーサプライ(通貨供給量)が増加すること。あるいは、金融機関のおこなう「決済機能の提供」と「金融の仲介機能」が作用して信用貨幣が増加する機能を指す。銀行貨幣経済において果たしている重要な機能のひとつ。

概要[編集]

銀行は預金を受け入れ、その資金を誰かに貸し出す。その過程で信用創造は発生する。以下は、そのプロセスの例である。

  1. A銀行は、X社から預金1000円を預かる。
  2. A銀行は、1000円のうち900円をY社に貸し出す。
  3. Y社は、Z社に対して、900円の支払いをする。
  4. Z社は、900円をB銀行に預ける。

この結果、預金の総額は1900円となる。もともと1000円しかなかった貨幣が1900円になったのは、上記2.の結果として、Y社が900円の債務を負い返済を約束することで900円分の信用貨幣が発生したことになるからである。この900円の信用貨幣(預金)は返済によって消滅するまでは通貨(支払手段)としても機能する。このことはマネーサプライ(現金+預金)の増加を意味する。

さらに、この後B銀行が貸出を行うことで、この仕組みが順次繰り返され、貨幣は増加していく。このように、貸出と預金を行う銀行業務により、経済に存在する貨幣は増加する。

信用創造と景気循環[編集]

設備投資による借り入れなどが増加する景気のよい時期には、自然と貨幣が増加する。一方、設備投資が一巡し、新たな借入よりも返済が多くなれば、景気は落ち着き、貨幣は減少する。

このように信用創造は、貨幣需要(資金需要)にあわせて変動し、景気(名目GDP)と正の相関をもつことが想定される。マネーサプライ(現金+預金)と名目GDP(物価×実質GDP)の比をあらわすものには貨幣の所得速度がある。

尚、このようなプロセスで発生した信用貨幣の価値は、期限に借り手が遅滞なく返済や利子支払いをおこなうことを前提としており、恒常的な業績不振などにより借り手側の信用が急速に失われたり、経理上の不具合で十分な担保価値や引当金が計上されていないことなどが判明すれば信用不安が生じる。これが金融機関の健全性や預金の支払能力に対する不安にまで波及したとき、大規模な金融危機が発生する。新たな借入よりも返済が多くなったり、信用創造が収縮すると経済全体の取引が低調となる(いわゆる不況)。

信用創造と不良債権[編集]

増加した信用貨幣の価値を保証しているのは、本源的に銀行ではなく、借手である。なぜなら、借手が返済不能に陥れば、その部分の信用貨幣の信用が喪失されるからである。またそれが予見されれば、銀行も新たな貸付けをためらうから、信用創造は抑制される。

その点で、借手が滞りなく債務(銀行にとっては債権)を返済することが、信用創造の前提になっている。債務の返済が滞っている(あるいは滞りそうな)ものを不良債権というが、不良債権が存在するとその分の信用創造を阻害することになり、景気循環や経済成長に悪影響をもたらすといわれる。

破綻処理[編集]

なお、貸付のうち不良債権の割合が増加していき、預金者がその銀行の預金の安全性に疑問をもつと、預金の引出しが起こる。このとき銀行が、それを賄うような資金調達ができなくなれば、その銀行は破綻する(取り付け騒ぎ)。これは、そもそもの貸出・信用創造の前提に「統計的に一度に引き出しが殺到しない」ことがあるためで、この前提が崩れた場合、手持ちの資金では預金債務を償還できない。

破綻した銀行から借入をしていた一般の事業会社は、この破綻によって新たな資金調達が困難になり、連鎖的に倒産する可能性がある。さらに、この事業会社が他の金融機関から借入をしていたとすると、その別の金融機関でも不良債権が発生することになり、その金融機関の健全性も損なわれる。つまり、銀行の貸付先が似通っている場合、ある銀行の破綻が別の銀行へ波及することがある。この連鎖が大規模に発生したものが金融危機である。

こうした金融危機を避けるためには、不健全な貸付けを行い、安全性に疑問のある銀行を、あらかじめ市場から退場させ連鎖を断ち切っておく必要がある。そのため、日本においては日本銀行金融庁が、定期的に、また状況によっては随時、銀行の財務内容を検査している。財務の健全性に疑問がある場合、予防的に公的資金の注入が行われる。また、すでに実質債務超過であるなど、破綻が避けられない場合、強制的に株式を買取る一時国有化などの処理によって、突然の破綻を事前に回避する。この場合は、資産査定によって、国が強制買取した株価を決定すること(現在の特別危機管理銀行制度では常に無償)で株主責任を明確化し、経営陣の交代及び旧経営者に対する民事提訴及び刑事告訴などによって経営責任も明らかにすることになる。

信用創造と与信業務[編集]

金融機関は、決済手段(貨幣)の貸し付けの見返りとして貸出金利、決済手数料などを徴収するわけであるが、借り手はその費用を支払って余りある清算利得が期待できるため決済手段の貸し出しを要請する。信用経済は借り手の与信担保力をもとに成立しており、通常は商品取引などが円滑にすすみ決済がすべて終了し、貸付金が金融機関に返済されることで完結する。信用創造は貸付金の返済を前提として成立している。

さて、決済に使用されている貨幣は、受取人(賃金労働者等)が貯蓄などの目的で金融機関に持ち込み預金証書に変換することがあるが、その過程で金融機関の提供した信用貨幣は借り手の返済を待たずに金融機関に還流する。この預かり金はそもそも預金主(ここでは賃金労働者等)のものであって、金融機関はその保管業務を受託しているだけであるため、本来は預金証書の額面分の貨幣は全額を当該金融機関が金庫などで保管するべきであって、これを勝手に流用することは不法行為にあたる。しかし長い商慣行や立法により、預金利息の給付と厳格な元本保証を担保に金融機関での流用は法的に許認可されている(貯蓄銀行業務)。そこで金融機関は、預金者を貸し手として借り手との金融仲介機能をおこない、さらなる信用の創造をおこなう。

なお売掛・買掛金や賃金等の月末・期末決済の慣習、手形やCP、個人同士や個人・法人間あるいは法人間での金銭貸借の増加、株式会社等の設立、株式債券の発行、金銭貸借・債券などの保証や保険契約(CDS等)など、広い意味で信用の決済手段への具象化に関する契約の形態は非常に多種多様であるが、一般には貯蓄銀行機能を媒介したものを「信用創造」と呼び、掛信用や賃金慣習、直接投資による与信創造は信用創造と呼ばれることは稀少である。これは貯蓄銀行機能を媒介とした信用創造は、中央金融当局が比較的容易に調査・計数把握することが可能であるのに対して、金融機関を介しない経路については実効的な把握はきわめて困難なことによる。(参照:公証人内容証明郵便登記

信用創造とファイナリティ[編集]

信用創造によって創造された預金通貨は、電子マネーと同様、取引を最終的に完了させるファイナリティ(支払完了性)を有しない。そこで異なる銀行間での決済の完了は、最終的にはファイナリティを有する現金通貨(日銀当座預金)の移動によることになる。

信用創造と準備預金制度[編集]

銀行などの金融機関は準備預金制度によって、顧客から預かっている預金額の一定割合(準備率)を日本銀行の当座預金に積み立てることを義務付けられている。

日本銀行など中央銀行が、市中の銀行に資金を供給すると信用創造によってマネーサプライが増加するが、どこまで増加しうるかの上限は準備率に依存している。以下では準備率が10%であった場合を例に説明する。

  • 中央銀行がA銀行に100万円の資金を供給する。
  • A銀行はこの資金をX社に融資し、X社がB銀行に保有している預金口座に振り込む。
  • B銀行が預かる預金が100万円となり、B銀行はこの10%にあたる10万円を日銀の当座預金に預け入れる。
  • B銀行は残りの90万円をY社に融資し、Y社がC銀行に保有している預金口座に振り込む。
  • C銀行が預かる預金が90万円となり、C銀行はこの10%にあたる9万円を日銀の当座預金に預け入れる。
  • C銀行は残りの81万円をZ社に融資し、Z社がD銀行に保有している預金口座に振り込む。
  • D銀行が預かる預金が81万円となり、D銀行はこの10%にあたる8.1万円を日銀の当座預金に預け入れる。
  • D銀行は……

という連鎖が起こり、結局A銀行、B銀行、C銀行、D銀行、……という銀行が預かっている預金額の合計は、中央銀行が供給した資金100万円の1/0.1=10倍となる。 準備率を1%にすれば、銀行部門全体が預かっている預金額の合計と中央銀行が供給した資金の倍率は100倍になる。

日本銀行など中央銀行が準備率を変更して市中にある資金量の調節を試みることは、準備率操作と呼ばれる。

別の説明[編集]

たとえば100万円の現金が預金されたものとする。準備率が10%であれば、この100万円の現金を日銀当座預金に回した上、借り手の口座に預金900万円を創設することにより、900万円を融資することができる。この結果、預金額は1000万円となる。尚、バランスシートの上では、負債の側では預金された現金100万円+創設された預金900万円、資産の側では日銀当座預金100万円+融資残高900万円となる。

現金比率[編集]

マネーサプライ(現金+預金)に占める現金の割合を現金比率と呼ぶことがある。預金に対する現金の割合である現金預金比率との混同に注意が必要である。また、いずれの用語も財務分析の場面では異なる意味で使用されることが多い。例えば現金比率を1/6(現金預金比率が1/5)とした場合、例中のY社は借り入れた90万円のうち15万円を現金として保有し、残りの75万円をC銀行に預け入れることになる。

貨幣乗数[編集]

現金通貨と民間金融機関が保有する中央銀行預け金の合計をマネタリーベースと呼び、マネタリーベースとマネーサプライの比を、貨幣乗数と呼ぶ。この貨幣乗数は(準備率+現金比率)-(準備率×現金比率) の逆数として計算される。たとえば、準備率1/10、現金比率1/6の場合、貨幣乗数は4となる。この貨幣乗数は信用乗数と一致する。

信用創造とマネーサプライ[編集]

間接金融のもとでは、貸手の債権は仲介業者の債務となる。仲介業者は多数の貸手間の債権移転を振り替えることができる。これは流動性の高さを意味する。そのため貸手は債権を現金相当物とみなすようになる。このようにして間接金融の活動は信用創造を起こし、市中のマネーサプライを増加させる。

インフレーション[編集]

銀行の信用創造機能が過剰に働き、銀行が過度に貸付を行うことで、貨幣の流通量が増大する。最終的には需要インフレに帰結する。信用インフレ。

信用創造とイノベーション[編集]

既存のマネーを持たない起業者のイノベーションを可能とするためには、信用創造により創造されたマネーを必要とする。具体的には起業者が銀行から貸出を受けることをシュンペーターは重視した。

関連項目[編集]