体温計

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体温計(たいおんけい)は、動物温度体温)を計測するための温度計人間の体温を測ることを目的したものでは概ね32℃から42℃までの範囲を測定できる。42℃以上を測定できない(電子式では「H℃」などと表示される)のは、体温が42℃を超えるような生命の危機に瀕した状態においては正確な体温を測定することにあまり意味がないためである。

水銀体温計

歴史[編集]

最初に体温計を考案したのはイタリアサントーリオ・サントーリオ1609年1612年説もある)のことである。サントーリオ・サントーリオはガリレオ・ガリレイの同僚であり、その発明である温度計を使って人体の温度を測定したことで知られている。

表示方式による分類[編集]

アナログ式[編集]

液体気体の熱膨張によって測定し、刻印されている目盛りから体温を読み取る。測定液には水銀を利用した棒型のものが一般的である。長く使用されていたが、使用前の目盛を最低温度以下に戻す操作に強く何度も振る必要があるなど手間がかかる、損傷(特に前述の目盛を最低温度以下に戻す操作で発生しやすい)した際に毒性を持つ水銀が流出するなどの安全性の問題などから、次項のデジタル式の高精度化や低価格化が進むに連れ、少なくなりつつある。

デジタル式[編集]

サーミスタ赤外線検知回路、それを制御するマイコンを組み込んだ電子回路によって測定する。形状はアナログ式同様に使えるよう、薄型の棒状に近いものが多く、体温は小型の液晶ディスプレイなどの表示装置を通じて読み取る。電子回路を持つため動作には電源が必要で、ボタン電池乾電池などを用いる。出現当初は水銀式に比べ価格が高く、精度も劣っていたが、価格の低下と精度の改善が進められ、また使用前のリセットの手間がない(電源オンでリセットされるか、リセットボタンを押すだけ)など使いやすいことから、現在では家庭のみならず医療機関病院診療所)でも主流となっている。

動作原理による分類[編集]

気体の熱膨張式[編集]

イタリア人のサントーリオ・サントーリオにより開発された、初期の体温計の方式。より簡便で精度の高い水銀式やデジタル式が普及したため、現在では全く使用されない。

水銀式[編集]

水銀式体温計
留点

1866年に開発された方式。ガラスの管の中に金属水銀を封入したもので、管内に封入された水銀が熱膨張するのを目盛から読み取る。水銀溜りの出口には留点と呼ばれる細いくびれが設けられており、水銀の逆流を防いで、温度が下がっても目盛りが下がらないように工夫されている。使用後は本体を振り、慣性力によって目盛り上に上昇した水銀を水銀溜まりに戻してリセットする。日本初のガラス製水銀体温計は1883年(明治16年)に山口県防府市の薬局店主柏木幸助によって作られ販売された。

体温計に使用される水銀は、液体のまま経口摂取してもほとんど消化されずに便として排出されるため無害であるが、気化した蒸気を吸い込むと身体に悪影響を及ぼすため取り扱いには注意が必要である。たとえば破損した水銀体温計やこぼれ出た水銀をそのまま放置しておくと徐々に水銀が気化し、肺を通じて人体に取り込まれ、主に腎臓や神経に悪影響を及ぼす(水銀中毒)。乳幼児の体温を測定する場合などは破損事故が発生することが多いため、特に注意が必要となる。

灯油・アルコール式[編集]

安全性の観点から、水銀式の原理をそのままに、水銀に代わって着色した灯油・アルコールを使用したものも存在する。一般的に精度の面で水銀使用のものに劣る。電子式の普及によりこのタイプの体温計は従来よりもあまり使用されなくなってきている。

サーミスタ式[編集]

電子体温計

サーミスタは熱により抵抗値が変化する素子である。これを利用して電子回路により体温を測定し、測定値を表示するタイプ。一般には1980年代に登場し、内蔵したボタン電池を動力源としている。測定値を数値化して内部に記録することにより基礎体温の変化を監視できるような付加機能をもった機種もある。計測が終わると内蔵されたスピーカーから出る電子音で計測が終わったことを知らせる機能がついているものもある。

サーミスタ式には以下の二種類の計測方式があり、外箱や取扱説明書に明記されている。

実測式
センサー部分の温度をそのまま表示するタイプ。センサーの温度が体温と等しくなった時点で初めて計測完了となるため、3前後の時間を要するが、より正確な体温を表示する。
予測式
実測式とは異なり計測開始からのセンサー部分の温度上昇のカーブから最終的な温度を予測・計算の上で体温の表示を行うタイプ。数十秒で体温を表示できるが、あくまで予測値であるため正確性にやや難のある機種もあり、予測式の体温計を嫌う医師もいる。数学者の西山豊は予測式電子体温計の問題点を指摘し(1987年)、計量法の改正で意見を述べている(1992年)[1]

予測式としての計測終了の合図があった後も計測を継続したり、モードを切り替えたりすることで実測式として機能する機種もある。

赤外線式[編集]

赤外線式耳体温計

人体表面から出ている赤外線を検知することにより、黒体放射の原理から体温を測定する(放射温度計の原理)。頚部などに計器を当てることによって瞬時に測定できるタイプがこれに相当する。安静を保つことのできない乳幼児の体温を測定することもできる。他の方式と比べて高性能であるが、その分高価である。額で測定可能な医療用体温計である Thermofocus pro® の例では、海外では$100前後、日本国内では2万5千円前後で販売されている(2013年現在)。

また、他の方式では3分程度の体温の変動を平準化した値が得られる(電子式体温計では測定時間中の変動から3分間の変動を予測して計算を行っている)ことに対し、赤外線式では測定した瞬間の体温が得られるため測定結果に誤差が生じることがある。これは安静でない状態の体温であることが多いため他の方式よりも若干高めの値が得られることが多い。また、動作原理上(物理的な意味で)測定誤差が生じやすい問題もある。

形状による分類[編集]

棒状[編集]

水銀式はこの形状のものが多い。サーミスタ式・赤外線式の家庭用のものも棒状となっている。

プローブ+レシーバ式[編集]

温度測定センサの入ったプローブと、データ表示部・データ記録部のレシーバがケーブルで接続されているものである。基礎体温の記録機能があるものなど、高機能なものはこのような形状となっている。

測定方法[編集]

舌下温(口腔温)[編集]

舌の下に体温計を挟んで計測する方法。より体の中心に近い体温を測定できる。

咥え方が不十分で外気温の影響を受けたりすると正確な体温が測定できないため、舌下の奥までしっかりと挿入し、中央についている膜(舌小帯)の左右どちらかに当てて固定する。完全な平衡温度に達するには、5分以上を要する。基礎体温の記録は原則として舌下温で行う。米国や一部の欧州では舌下での測定が主流で、歯ブラシのように個人個人が自分の体温計を所有する習慣の国もある。

腋下温(腋窩温)[編集]

腋の下の凹み(腋窩)に体温計を挟んで計測する方法。

病院や医務室などの公共の場所で体温計を共有する場合、衛生面を考慮して選択される。また、日本では、家族で体温計を共有することによる抵抗感、水銀体温計の破損に対する危惧等から、家庭でも腋下温を採用するのが主流である。発汗があったり、しっかりと体温計を挟み込んでいなかったりすると正確な体温が測定できないため注意を要する。舌下温よりもやや低く測定されることが多い。完全な平衡温度に達するには、10分以上を要する。

直腸温[編集]

肛門に体温計を挿入して計測する方法。舌下温よりもさらに体の中心に近い体温を測定できる。

外気による体表温度への影響を最も受けにくく正確性が高いため、死体の検視検案や生命に危険を及ぼす重度の高体温・低体温の診察に有用である。しかし、意識のある人では羞恥心や不快感をもよおす場合が多く、舌下や腋下での計測が難しい(姿勢を保っていられない)乳幼児や体の自由がきかない患者、あるいは全身麻酔での手術中の体温を計測するときに行うのが普通である。通常、腋下温や舌下温よりもやや高く測定される。完全な平衡温度に達するには、3~5分以上を要する。欧州(特に北部)では直腸での測定が主流で、歯ブラシのように個人個人が自分の体温計を所有する習慣の国もある。

鼓膜温[編集]

耳穴に赤外線式の体温計を挿入して計測する方法。中心体温の中でも特に、脳温に近い値を測定できる。

数秒で瞬時に計測でき、安静を保つことが難しい乳幼児や、救急現場で着衣の傷病者に対して早急に概況把握するときに利便性がある。ただ、挿入の角度などによって誤差が大きくなりやすいため、正確性には劣る面がある。腋下温よりもやや高く測定されることが多い。

参考文献[編集]


関連項目[編集]