伊藤忠商事

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伊藤忠商事株式会社
ITOCHU Corporation


大阪本社


東京本社
種類 株式会社
機関設計 監査役会設置会社[1]
市場情報
東証プライム 8001
1950年7月11日上場
略称 伊藤忠(いとちゅう)、CI
本社所在地 日本の旗 日本
東京本社 107-8077
東京都港区北青山2丁目5番1号
伊藤忠商事東京本社ビル
大阪本社 530-8448
大阪府大阪市北区梅田3丁目1番3号
ノースゲートビルディング[注釈 1]
本店所在地 530-8448
大阪府大阪市北区梅田3丁目1番3号
ノースゲートビルディング
設立 1949年(昭和24年)12月1日
業種 卸売業
法人番号 7120001077358 ウィキデータを編集
事業内容 繊維機械金属エネルギー化学品食料、生活資材、情報通信保険物流建設金融など
代表者 岡藤正広
代表取締役会長兼会長執行役員CEO
石井敬太
(代表取締役社長兼社長執行役員兼COO
小林文彦
(代表取締役兼副社長執行役員兼CAO
鉢村剛
(代表取締役兼副社長執行役員兼CFO
都梅博之
(代表取締役兼副社長執行役員)
中宏之
(代表取締役兼執行役員兼CSO
資本金 2534億4800万円
(2021年3月31日現在)[2]
発行済株式総数 15億8488万9504株
(2021年3月31日現在)[2]
売上高 連結:10兆3626億2800万円
単独:3兆5753億6900万円
(2021年3月期)[2]
営業利益 連結:4034億1400万円
単独:151億2000万円
(2021年3月期)[2]
経常利益 連結:5124億7500万円
単独:3058億9200万円
(2021年3月期)[2]
純利益 連結:4014億3300万円
単独:△713億4100万円
(2021年3月期)[2]
純資産 連結:3兆8702億4000万円
単独:9287億6200万円
(2021年3月期)[2]
総資産 連結:11兆1784億3200万円
単独:3兆1582億4700万円
(2021年3月期)[2]
従業員数 連結:110,698人
単独:4,112人
(2023年3月31日現在)
支店舗数 国内7店 海外86店
決算期 3月31日
会計監査人 有限責任監査法人トーマツ[3]
主要株主 日本マスタートラスト信託銀行(信託口)9.28%
ビーエヌワイエム アズ エージーテイ クライアンツ ノン トリーテイー ジヤスデツク 5.64%
日本カストディ銀行(信託口)5.63%
CP WORLDWIDE INVESTMENT COMPANY LIMITED 4.26%
日本生命保険 2.29%
みずほ銀行 2.09%
(2020年9月30日現在)
主要子会社 伊藤忠テクノソリューションズ(株)56.6%
伊藤忠食品(株)51.7%
関係する人物 瀬島龍三
吉田多孝
外部リンク 伊藤忠商事株式会社
特記事項:単独従業員数は他社への出向者などを含む。
本社欄は東京本社、本店欄は大阪本社所在地[4]
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伊藤忠商事株式会社(いとうちゅうしょうじ、: ITOCHU Corporation)は、大阪府大阪市北区東京都港区に本社を置く大手総合商社。登記上の本店は大阪本社。

日経平均株価およびTOPIX Core30JPX日経インデックス400の構成銘柄の一つ[5][6][7]。コーポレート・スローガンは「ひとりの商人、無数の使命」(英: I am One with Infinite Missions)。

概要[編集]

戦前伊藤忠財閥の中核企業であった。伊藤忠財閥は、多数の紡織会社を傘下に持つ繊維財閥であったため、繊維部門の売り上げは群を抜いており、かつては世界最大の繊維商社であった。傘下に有力企業を多数抱えており、現在は祖業である繊維の他に、食料や生活資材、情報通信、保険、金融といった非資源分野全般を強みとしている。

銀行との融資・資本関係としては太平洋戦争以前から旧住友銀行(現三井住友銀行)と親密であったが、戦後住友系列より徐々に離脱し、旧第一銀行(現みずほ銀行)に接近。第一勧銀グループからの流れを受けて、現在は三金会のメンバーに属している。

単体従業員数が大手総合商社(伊藤忠商事、三菱商事三井物産住友商事丸紅)で最少ながら、2015年度(2016年3月期決算)には最終利益で三菱商事を抜き、総合商社業界でトップとなった。しかし、これは資源価格下落により資源分野からの収益が大きい三菱商事と三井物産が創業以来初の最終赤字となったことも大きく、社長の岡藤正広は「不戦勝で土俵にあがったようなもの」と述べている[8]

社員の健康増進を図る健康経営を推進している[9]。朝型勤務の奨励[10]、がんの早期発見・がん先端医療の無償化などの社員のがん治療との両立支援[11][12]などが報じられている。

2018年4月、岡藤が会長兼最高経営責任者(CEO)に就任。大手商社で会長がCEOを務める体制は異例であり、岡藤の注力した中国最大の国有複合企業「中国中信集団」(CITIC)との提携が、効果の面で課題が残っているためで、当面は「二頭体制」としている[13]

歴史[編集]

1858年初代伊藤忠兵衛が麻布(あさぬの)の「持下り」行商を開始したことをもって創業としている。同業の丸紅とは同じ起源となっている。その後、いったん丸紅と分割されたものの、戦時中に再度合併(大建産業)、戦後の財閥解体措置により再度両社は分割され、1949年に現在と直接つながる伊藤忠商事株式会社が設立された。

百貨店業への進出と挫折[編集]

1962年には創業者・中林仁一郎の死後、経営が悪化していた京都市百貨店丸物(現在の近鉄百貨店の前身企業のひとつ)」の株式を日興証券から取得した。これは京都岐阜東京(池袋)(現・池袋パルコ)・豊橋の4店舗に伊藤忠の商品を流すことで、国内販売網を強化し、消費物資の輸入自由化に対処することが主な狙いだった[14][15]。提携の一環としてスーパーマーケット「マックストア」を大阪近郊に展開している。

また、丸物に出資する以前には金沢市百貨店丸越」(現在の金沢エムザ)とも資本提携しており、丸物や丸越の筆頭株主である名古屋鉄道(名鉄)とも提携することでレジャー部門の強化ももくろんでいた。レジャー部門において、当社はアメリカン・マシン・アンド・ファウンドリー社の日本国内における独占販売・賃貸権を有していたからである[14]

しかし、いずれの目論見も失敗し、当社は丸物の所有株式売却と提携解消を示唆。京阪神地域には阿倍野・上本町の2店しか百貨店を持たなかった近畿日本鉄道(現在の近鉄グループホールディングス)が救済を表明したため、1966年に全株式を売却した[注釈 2][15]。ただし、後身の近鉄百貨店は資本関係のなくなった現在も取引先の一つである[16]

沿革[編集]

伊藤忠商事 旧大阪本社
画像左が大阪本社が入居していた旧・伊藤忠ビル(現・大阪御堂筋ビル)、画像右は大阪センタービル
大阪市中央区久太郎町四丁目1番3号)

歴代社長[編集]

初代伊藤忠兵衛

ビジネス戦略[編集]

主要子会社及び関連会社[編集]

2022年3月31日現在[22]太字:連結子会社

繊維カンパニー[編集]

機械カンパニー[編集]

金属カンパニー[編集]

  • 伊藤忠メタルズ株式会社(東京都港区)
  • 日伯鉄鉱石株式会社(東京都港区)
  • 伊藤忠鉱物資源開発株式会社(東京都港区)
  • 伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社(東京都中央区)

エネルギー・化学品カンパニー[編集]

  • タキロンシーアイ株式会社(大阪府大阪市北区):東証プライム上場
  • 伊藤忠エネクス株式会社(東京都港区):東証プライム上場
  • 伊藤忠石油開発株式会社(東京都港区)
  • 伊藤忠ケミカルフロンティア株式会社(東京都港区)
  • 伊藤忠プラスチックス株式会社(東京都千代田区)
  • 伊藤忠リーテイルリンク株式会社(東京都中央区)
  • 日本サニパック株式会社(東京都渋谷区
  • ケミカルロジテック株式会社(東京都港区)
  • 株式会社エネアーク(東京都千代田区)
  • 日商LPガス株式会社(東京都千代田区)
  • ソレイジア・ファーマ株式会社(東京都港区):東証グロース上場
  • 日本南サハ石油株式会社(東京都港区)
  • 釧路石炭販売株式会社 (北海道釧路市)

食料カンパニー[編集]

住生活カンパニー[編集]

情報・金融カンパニー[編集]

第8カンパニー[編集]

その他関連会社[編集]

  • 伊藤忠フィナンシャルマネジメント株式会社(東京都港区)
  • 伊藤忠人事総務サービス株式会社(東京都港区)

主な海外拠点[編集]

広報活動[編集]

不祥事・事件・問題・批判[編集]

東芝機械ココム違反事件

1987年、東芝機械がココム規制に違反してソ連に大型工作機械を不正に輸出した事件で、仲介した伊藤忠商事は、3か月の輸出停止処分を受けた。

不正会計疑惑

2016年7月27日、米国の投資ファンドであるグラウカス・リサーチ・グループ(Glaucus Research Group California, LLC.)は、伊藤忠商事の会計処理に不正があり株価が50%下落すると主張するレポートを出した[25][26]。これに対し伊藤忠商事は、反論の文書を開示した[27]。その後、株価は10%程度下げたものの不正は立証されず、1か月後には上昇に転じる。同時に行っていた空売りで利益を出そうとしていたグラウカス・リサーチ・グループの計画は失敗した。

中国スパイ事件

2018年に中国の国家安全局に拘束され、起訴されていた40代の男性社員に対し、現地広州市の中級人民法院(地裁)が2019年11月15日、「中国の安全に危害を与えた罪(国家機密情報窃盗罪)」で懲役3年の実刑判決、と財産没収15万元(約230万円)を言い渡たされたことが外務省により判明。日中の関係筋によると、判決では「公的機関の内部情報を違法に入手した」と認定され、伊藤忠商事社員の被告男性は上訴はせず、実刑判決が確定。これに対して伊藤忠商事は「関係する皆様にご心配をおかけし、申し訳ありません。」などのコメントを発表した[28][29][30]。2021年2月22日に刑期を終え、出所したことが明らかとなった[31]

吉野家#BSEによる米国産牛肉輸入停止の影響

伊藤忠商事が輸入にかかわった牛肉に危険部位が入っていたことが問題になった。

ダグラス・グラマン事件
プロロジスパーク岩沼1火災

日本アクセスなどが入居する物流施設「プロロジスパーク岩沼1」において、2020年4月30日に火災が発生し、延床面積4万m2の建屋が全焼した[32]

関連項目[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 大阪に本社を置いていたが、1960年代半ばから大阪と東京の2本社体制を敷き、1970年代には大阪本社の機能の多くは港区の東京本社に移管された。
  2. ^ 実際、同社は京都近鉄百貨店と社名変更して以後、ジェイアール西日本伊勢丹の進出などが理由で経営が悪化し、近鉄百貨店と経営統合した。近鉄傘下の子会社が近鉄の名称で出店した草津の店舗のみ残存。
  3. ^ それまでは「C.Itoh & Co., Ltd.」または「Chu Ito & Corporation」と表記していた。
  4. ^ 中央設備エンジニアリングより社名変更(「商号変更および新コーポレートロゴのお知らせ」を参照)。
  5. ^ 伊藤忠商事が愛知万博のマスコットのライセンスなどを担当した[24]

出典[編集]

  1. ^ 組織図 - 伊藤忠商事株式会社
  2. ^ a b c d e f g h 2021年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)” (PDF). 伊藤忠商事株式会社 (2021年5月10日). 2021年6月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月30日閲覧。
  3. ^ コーポレートガバナンス報告書 (PDF) 伊藤忠商事 2021年12月14日閲覧
  4. ^ 本社地図”. 伊藤忠商事. 2017年9月28日閲覧。
  5. ^ 構成銘柄一覧:日経平均株価 Nikkei Inc. 2021年10月8日閲覧。
  6. ^ 「TOPIXニューインデックスシリーズ」の定期選定結果及び構成銘柄一覧 (PDF) jpx.co.jp 2020年10月7日公表 2021年10月8日閲覧。
  7. ^ JPX日経400・JPX日経中小型 jpx.co.jp 2021年10月8日閲覧。
  8. ^ “伊藤忠が時価総額で逆転、29年ぶりに三井物産を抜く-資源事業で明暗”. Bloomberg. (2016年3月29日). https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-03-29/O4IZ9V6JTSEC01 2023年9月8日閲覧。 
  9. ^ 伊藤忠が乗り出す「全員健康経営」とは何か 東洋経済オンライン 2016年6月15日
  10. ^ “早朝勤務なぜ広がる 残業減のほか思わぬ経済効果も”. 日本経済新聞. (2015年3月25日). オリジナルの2016年6月5日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20160605161752/https://style.nikkei.com/article/DGXKZO84745930T20C15A3TJP001# 2023年9月8日閲覧。 
  11. ^ “伊藤忠、がんセンターと提携 社員の治療を支援へ”. 朝日新聞デジタル. (2018年8月24日). オリジナルの2017年8月24日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20170824171403/https://www.asahi.com/articles/ASK8R7X8GK8RUBQU015.html 2023年9月8日閲覧。 
  12. ^ がん患者の治療と仕事の両立への優良な取組を行う企業表彰 東京都福祉保健局 2018年2月26日
  13. ^ 産経新聞朝刊2018年1月19日「伊藤忠社長に鈴木氏 二頭体制 岡藤氏が会長CEO」
  14. ^ a b “会社:伊藤忠が丸物と提携”. 毎日新聞 (毎日新聞社): p. 4. (1962年8月30日) 
  15. ^ a b 渡辺一雄 (作家)『新風 ある百貨店の挑戦』経営書院 1995年11月30日。ISBN 4-87913-564-X
  16. ^ 繊維月報 VOL.648(伊藤忠商事大阪本社、2014年)
  17. ^ 『ヘッド(HEAD)』ブランド 新庄剛志氏とのイメージキャラクター契約についてニュースリリース | 伊藤忠商事株式会社、2018年7月10日閲覧。
  18. ^ 大阪本社移転に関するお知らせ” (PDF). 伊藤忠商事株式会社 (2010年5月18日). 2011年10月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月29日閲覧。
  19. ^ 伊藤忠、ビッグモーターの買収を決定 会社分割で中古車事業を承継 新会社は4月後半に発足”. 日刊自動車新聞 (2024年3月6日). 2024年3月7日閲覧。
  20. ^ 伊藤忠商事、社長に石井敬太専務執行役員、化学品部門から初 | 化学工業日報”. 2021年3月3日閲覧。
  21. ^ 伊藤忠商事 公式ページ 非資源から分かる伊藤忠
  22. ^ 統合レポート主要子会社及び関連会社」を参照
  23. ^ きょうの、あきない | TBSテレビ
  24. ^ 先端技術分野・新規事業等への取組 愛・地球博マスターライセンシーオフィス(AMLO)の取組” (PDF). 株主のみなさまへ 第82期 中間事業報告書 伊藤忠商事株式会社. p. 8. 2013年7月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月29日閲覧。
  25. ^ Glaucus Research Group California, LLC.
  26. ^ 伊藤忠を日本初の標的に、空売り投資家グラウカスが会計手法批判(ブルームバーグ)2020年11月18日閲覧。
  27. ^ 伊藤忠CFO、「不正会計」指摘に怒りの大反論(日経ビジネス)2020年11月18日閲覧。
  28. ^ “中国で拘束の伊藤忠商事の社員 懲役3年の実刑判決 現地裁判所”. NHKニュース. (2019年11月26日). オリジナルの2019年11月26日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20191126100519/https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191126/k10012191671000.html 2023年9月8日閲覧。 
  29. ^ “伊藤忠社員に懲役3年 拘束日本人、実刑9人目―中国”. 時事通信. (2019年11月26日). オリジナルの2020年9月14日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20200914095226/https://www.jiji.com/jc/article?k=2019112600887&g=int 2023年9月8日閲覧。 
  30. ^ “伊藤忠社員、中国で懲役3年などの判決…菅氏「出来る限り支援」”. 読売新聞オンライン. (2019年11月26日). オリジナルの2019年11月28日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20191128143917/https://www.yomiuri.co.jp/world/20191126-OYT1T50227/amp/ 2023年9月8日閲覧。 
  31. ^ “中国で国家機密情報窃盗罪、伊藤忠社員が刑期を終え出所…帰国へ”. 読売新聞オンライン. (2021年2月22日). https://www.yomiuri.co.jp/national/20210222-OYT1T50203/ 2023年8月14日閲覧。 
  32. ^ 株式会社ロジスティクス・パートナー. “プロロジスリート/火災被害の物流施設、近く解体へ”. 物流ニュースのLNEWS. 2021年7月24日閲覧。

参考文献[編集]

  • 早川隆 『日本の上流社会と閨閥(伊藤忠家 近江行商人から巨大商社へ)』 角川書店 1983年 107-110頁

外部リンク[編集]