代数的データ型

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代数的データ型: Algebraic data type)とはプログラミング、特に関数型プログラミング型システムにおいて使われるデータ型である。それぞれの代数的データ型のには、1個以上のコンストラクタがあり、各コンストラクタには0個以上の引数がある。

代数的データ型の値(データ)の感覚的な説明としては、引数で与えられた他のデータ型の値を、コンストラクタで包んだようなもの、である。コンストラクタに引数がある代数データ型は複合型(他のデータ型を組み合わせて形成する型)である。

概要[編集]

Haskellにおける、葉に整数型の値を持つ(分岐は部分木しか持たない)、二分木の例で説明する。以下のようなdata宣言で、データ型を宣言する。

data Node = Leaf Integer | Branch Node Node
  deriving (Show)  -- 表示させて確認するために付加してあるもので、必須ではない。

この宣言でNodeという名前の型を宣言している(Haskellでは型名の先頭は大文字でなければならない)。縦棒("|")で区切って、各コンストラクタによる形を並べる。LeafとBranchはコンストラクタ(データコンストラクタ)である。コンストラクタLeafは1個のIntegerを引数として取り、Branchは2個のNodeを引数として取る(再帰データ型の例にもなっている)。Haskellではコンストラクタの名前も、先頭は大文字でなければならない(ここでは避けたが、型とコンストラクタに同じ名前を使っても構わない)。

Haskellインタプリタghciで、この型の値を入力し表示させた例を示す。

*Main> Leaf 1
Leaf 1
*Main> Branch (Branch (Leaf 1) (Leaf 2)) (Branch (Leaf 3) (Leaf 4))
Branch (Branch (Leaf 1) (Leaf 2)) (Branch (Leaf 3) (Leaf 4))

中のデータにアクセスするにはパターンマッチを使う。ここで定義した型の木の深さを返す関数の例で次に示す。

depth tree = case tree of
  Leaf _     -> 1
  Branch a b -> 1 + max (depth a) (depth b)

応用[編集]

基本的な代数データ型としては、多くの関数型言語において、言語組み込みのリスト型が用意されており、空リストのためのコンストラクタに相当するリテラルと、追加したい要素と残りのリストを引数に取るコンストラクタ(Lispのen:cons)に相当する、中置演算子風のコンストラクタ( ":" など)が言語組み込みで用意されている。

代数的データ型の特殊な例として、直積型(1つのコンストラクタだけを持つ)と列挙型(引数なしの多くのコンストラクタを持つ)がある。

前述の二分木の例において、コンストラクタLeafは Integer -> Node という型を、コンストラクタBranchは Node -> Node -> Node という型を持つ。型のみを見た場合、関数と同じ型をしている。しかし、関数とは違いコンストラクタは単にそこにあるだけのものであり、評価(実行)されるものではなく、オブジェクト指向言語におけるコンストラクタとは異なる。式として見た場合、関数に引数を適用する式は簡約可能だが、コンストラクタによる式は全体としてはそれ以上簡約できない、値をあらわす式である。

関数型言語で抽象データ型を実現する手法のひとつに、モジュールシステムによるスコープ制限を利用して、コンストラクタを掩蔽し、型のみを公開する、という手法がある。データコンストラクタそのものの代わりに、相当する引数をとって、目的の型の値を返すような、コンストラクタを抽象化した関数を定義し、そちらの関数を公開する。この関数が、オブジェクト指向言語におけるコンストラクタに相当する。

他の言語での例[編集]

OCamlではヴァリアント型と言い、前述の二分木と同等のデータ型は、次のように書く。

 type node = Leaf of int | Branch of node * node

また、伝統的なMLではdatatypeというキーワードを使う。いずれも、ofの後に1個しか型を指定できないので、Branchのように組み込みの直積型であるタプルを併用する必要がある。MLでもコンストラクタの先頭は大文字だが、型名の先頭は小文字である。

Haskellの場合と同様にして、インタプリタ上で値を作る例と深さを返す関数の例を示す。

# Leaf 1;;
- : node = Leaf 1
# Branch (Branch (Leaf 1, Leaf 2), Branch (Leaf 3, Leaf 4));;
- : node = Branch (Branch (Leaf 1, Leaf 2), Branch (Leaf 3, Leaf 4))
let rec depth tree = match tree with
  Leaf _        -> 1
| Branch (a, b) -> 1 + max (depth a) (depth b)

Visual Prologでは次のように書く。

 domains
 tree =
 empty();
 leaf(integer Leaf);
 node(tree Left, tree Right).

この例では、leafとnodeの他に、空の木を示すemptyがある。

理論[編集]

集合論において代数的データ型と等価なものとして直和がある。この集合の各元はタグ(コンストラクタと等価)とそのタグに対応する型のオブジェクト(コンストラクタの引数と等価)で構成される。

一般に代数的データ型は直積型の総和であり、再帰的に定義されることもある。各コンストラクタは直積型のタグとなって他と区別されるか、1つしかコンストラクタがない場合は、そのデータ型自体が直積型となる。さらにコンストラクタの引数の型が直積型の要素となる。引数のないコンストラクタは空に対応する。データ型が再帰的であるなら、その直積型の総和は再帰データ型となり、各コンストラクタによって再帰データ型が構成される。

例えば、以下のような Haskell のデータ型

  data List a = Nil | Cons a (List a)

型理論的に表すと次のようになる。

\lambda \alpha. \mu \beta. 1 + \alpha \times \beta

コンストラクタは次のようになる。

\mathrm{nil}_\alpha = \mathrm{roll}\ (\mathrm{inl}\ \langle\rangle)
\mathrm{cons}_\alpha\ x\ l = \mathrm{roll}\ (\mathrm{inr}\ \langle x, l\rangle)

この Haskell の List 型を型理論の別の形式で表すと、次のようになる。

\mu \phi. \lambda a. 1 + \alpha \times \phi\ \alpha

\mu\lambda が2つの定義で順序が入れ替わっている点に注意されたい。前者の形式は再帰型を本体とする型関数の定義であり、後者は型の再帰関数定義である。型変数 \phi は、これが \beta のような基本型ではなく関数型であることを示している(\phi はギリシャ文字で "f" に相当する)。また、型本体の中の引数型 \alpha に関数 \phi を適用しなければならない。

List の例の用途から考えると、これら2つの定式化に大きな違いはないが、後者の形式は「入れ子データ型; nested data type」と呼ばれる表現を可能とする。入れ子データ型とは、オリジナルとパラメータ的に異なる再帰型を派生させるものである。詳しくは、 Richard Bird、Lambert Meertens、Ross Paterson らの研究を参照されたい。

参考文献[編集]

この記述は GNU Free Documentation License のもとに公開されているコンピュータ用語辞典『 Free On-line Dictionary of Computing (FOLDOC) 』に基づいています。