五十嵐悠紀

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五十嵐 悠紀
人物情報
生誕 森 悠紀
1982年[1]
日本の旗 日本
居住 日本の旗 日本
出身校 お茶の水女子大学
東京大学大学院工学系研究科
学問
研究分野 CG手芸
研究機関 筑波大学
明治大学
お茶の水女子大学
博士課程
指導教員
鈴木宏正[2]
指導教員 藤代一成
五十嵐健夫
学位 博士(工学)
主な業績 コンピュータによる手芸設計支援
学会 情報処理学会[3]
主な受賞歴 IPA 天才プログラマー[4]独創性を拓く先端技術大賞 文部科学大臣賞[5]、黒田チカ賞[6]科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞[7]
公式サイト
Yuki IGARASHI (nee Yuki MORI)
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五十嵐 悠紀(いがらし ゆき、旧名森 悠紀(もり ゆき)[8]1982年(昭和57年)[1] - )は、日本の計算機科学者サイエンスライターぬいぐるみビーズあみぐるみなど、手芸をサポートするソフトウェアを開発。2005年度下期IPA「天才プログラマー」[4][注 1]。第24回独創性を拓く先端技術大賞 学生部門文部科学大臣賞(部門最優秀賞)や第1回黒田チカ賞の受賞者[5][6]。三児の母として子育てをしながらウェブサイトの連載記事もこなす[9][10]

お茶の水女子大学卒業、東京大学大学院修士課程博士後期課程修了(博士(工学)東京大学2010年[2][11]。学位取得後は日本学術振興会特別研究員(PD、RPD - 筑波大学)、明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科専任講師准教授を経て[1][11]、2022年4月現在お茶の水女子大学に所属[3]。IPA未踏プロジェクトマネージャや情報処理学会会誌編集委員会委員長も歴任した[1][11][3]

来歴・人物[編集]

生い立ち[編集]

子供時代はピアノ[12]パン作り、手芸などをやりながらも、父の影響でハンダ付けやキャッチボールなど幅広く経験し[13]科学館博物館にもよく連れていてもらっていた[12][注 2]。父が週末に持ち帰るパソコンが好きで、学校で習うよりも前にローマ字を習得していたという[13]鷗友学園女子中学校・高等学校に通学し、中学時代から数学が得意であった[13]。また、高校時代は部活動でバンドを組み、習い事ピアノのコンクールにも出場していた[14]

大学・大学院時代[編集]

お茶の水女子大学理学部情報科学科に進学[13]2005年には卒業研究の内容で計算機科学の国際学会ACMの「Student Research Competition Grand Finals」1位を受賞する[8]。また、五十嵐は2004年・2005年と情報処理推進機構(IPA)の未踏ソフトウェア創造事業に取り組んでいたが、2005年は「ぬいぐるみモデラー」のプロジェクトで「天才プログラマー」[注 1]の認定を受ける[8]

東京大学大学院に進学し、2007年に結婚して翌年に妊娠[8]。2009年に最初の出産を経験する。東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻 博士課程では鈴木宏正の元で、コンピュータによる手芸設計支援の研究に従事。この間、こどもたちを対象とするアウトリーチ活動を企画し、日本科学未来館館長の毛利衛に掛け合い、同館での講習会を実現させている[16][17]

2010年3月に博士課程を修了し、学位を取得[2]。同研究で2010年度・第24回独創性を拓く先端技術大賞において、「コンピュータを用いた手芸設計支援に関する研究」のテーマで学生部門の最優秀賞である文部科学大臣賞を受賞した[5]。手芸関係のソフトウェアは家庭科学習支援への応用も検討している[18]

筑波大学・明治大学時代[編集]

2010年4月[19]より日本学術振興会特別研究員として筑波大学 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻 非数値処理アルゴリズム研究室(NPAL)で研究をしつつ、各種連載をこなす[20]。研究ではポップアートカードやペーパークラフトステンシルテンプレートなどの支援ソフトウェアの開発にも取り組み[21][22]、学会では女性研究者の会合も企画・運営している[23][24][25]

2013年4月から明治大学総合数理学部 先端メディアサイエンス学科で講師を兼任し、2015年4月より専任講師となる[11]。学外では育児[26]PTA活動[27]、女子学生の進路[28]といった男女共同参画に関連した記事も執筆し[29][30]、IPA未踏プロジェクトマネージャも務めている[30][31]。また、2015年には「第1回 黒田チカ賞」[注 3]を受賞している。

2017年には『AI世代のデジタル教育』[33]、2019年には『スマホに振り回される子 スマホを使いこなす子』[34]といった書籍を出版。2017-2020年度には科研費研究として「着物と帯結びのための3次元グラフィックス技術の研究」が採択され、着物着付けを支援するシステムの開発に取り組んだ[35]半幅帯にも着目し、「帯結びエディタ」や「組み替え帯」を提案している[35]

お茶の水女子大学時代[編集]

2022年4月現在、お茶の水女子大学理学部情報科学科准教授[7]情報処理学会では会誌編集委員会の編集委員長を務める[3]

著作[編集]

学位論文[編集]

  • 五十嵐悠紀『コンピュータを用いた手芸設計支援に関する研究』東京大学〈博士学位論文(甲第25776号)〉、2010年3月24日、NAID 500000535994

著書[編集]

(単著)

  • 『AI世代のデジタル教育 6歳までにきたえておきたい能力55』河出書房新社、2017年、ISBN 978-4309253671
  • 『スマホに振り回される子 スマホを使いこなす子 (ネット社会の子育て)』ジアース教育新社、2019年、ISBN 978-4863715103
  • 『縫うコンピュータグラフィックス ぬいぐるみから学ぶ3DCGとシミュレーション』オーム社、2021年、ISBN 978-4274227172

(共著)

業績[編集]

主な受賞歴[編集]

  • 2005年度 - IPA 天才プログラマー「ぬいぐるみモデラーの開発」[4]
  • 2010年度 - 独創性を拓く先端技術大賞(学生部門)文部科学大臣賞「コンピュータを用いた手芸設計支援に関する研究」[5]
  • 2010年度 - 船井情報科学振興財団 第10回FFIT奨励賞「3次元モデリングと力学シミュレーションを融合したインタラクティブデザイン」[37]
  • 2010年度 - 日本ソフトウェア科学会 第15回論文賞「あみぐるみのための 3 次元モデリングと製作支援インタフェース」[38]
  • 2015年度 - お茶の水大学賞 第1回黒田チカ賞「コンピュータを用いたインタラクティブ3次元形状モデリングに関する研究」[6]
  • 2016年度 - 情報処理学会 マイクロソフト情報学研究賞「手芸のための対話的な形状デザイン手法」(2016年度)[39]
  • 2017年 - 第23回連合駿台会学術奨励賞「クラフトを対象としたインタラクティブデザインに関する研究」[40]
  • 2022年 - 令和4年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰「手芸と工芸のための形状デザインおよび製作支援に関する研究」[7]

競争的資金[編集]

主な論文・解説[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ a b 「天才プログラマー」は一般名詞ではなく、IPAが未踏ソフトウェア創造事業で認定している名称[15]
  2. ^ 父親は自動車会社でCADシステムの研究開発に従事していた[12]
  3. ^ 黒田チカの名を冠した「お茶の水女子大学賞」の一つで[32]、受賞理由は「コンピュータを用いたインタラクティブ3次元形状モデリングに関する研究」[6]。研究業績だけでなく、男女共同参画の取り組みや女性研究者のロールモデル提供についても評価された[6]
  4. ^ 著者一覧 - 金森由博、井尻敬、堀田一弘、五十嵐悠紀、德吉雄介、安田廉、山本醍田、向井智彦、梅谷信行(NCID BB10003775)。

出典[編集]

  1. ^ a b c d 中納 2017, p. 3.
  2. ^ a b c 五十嵐悠紀 2010.
  3. ^ a b c d 情報処理学会・学会誌「情報処理」 (2022年4月1日). “編集長就任のご挨拶”. 情報処理学会誌編集委員長の独言(ひとりごと)五十嵐悠紀. note. 2022年4月2日(UTC)閲覧。
  4. ^ a b c 「天才プログラマー/スーパークリエータ」の認定者”. 2005年度下期未踏ソフトウェア創造事業. 情報処理推進機構. 2021年4月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年1月25日(UTC)閲覧。
  5. ^ a b c d 第24回(2010年度)独創性を拓く 先端技術大賞 受賞者”. 産経新聞社. 2020年7月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年1月25日(UTC)閲覧。
  6. ^ a b c d e 平成27年度「第1回 黒田チカ賞」選考結果報告”. 男女共同参画. お茶の水女子大学. (2016年3月28日). 2017年9月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年1月25日(UTC)閲覧。
  7. ^ a b c 令和4年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞”. 文部科学省. 2022年4月9日(UTC)閲覧。
  8. ^ a b c d 荒井 2008, p. 1.
  9. ^ Yahoo!ニュース 2020, 執筆者紹介.
  10. ^ JBPress 2020, コラムニスト紹介.
  11. ^ a b c d 五十嵐 悠紀 (Yuki Igarashi) - 経歴”. researchmap. (2020年5月31日) 2020年7月11日閲覧。
  12. ^ a b c 荒井 2008, p. 2.
  13. ^ a b c d 甲斐 2012.
  14. ^ コンピュータグラフィックス 趣味のぬいぐるみづくりが研究テーマにつながった! 五十嵐悠紀先生インタビュー 明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科”. みらいぶ+. 河合塾. 2020年7月11日閲覧。
  15. ^ 天才プログラマー/スーパークリエイター”. 情報処理推進機構. 2014年10月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年4月9日(UTC)閲覧。商務情報政策局情報処理振興課「特別寄稿 天才プログラマーを発掘する-三年目を迎えた未踏ソフトウェア創造事業」『経済産業ジャーナル』第35巻第9号、2002年9月、22-25頁。 
  16. ^ 加藤 2013, p. 4.
  17. ^ 五十嵐ほか 2009, pp. 6–8.
  18. ^ 五十嵐・鈴木 2012.
  19. ^ 五十嵐・鈴木 2012, p. 18.
  20. ^ 五十嵐悠紀 (2014年12月11日). “2週間前に出産した私が200km離れた学会に子連れで参加できたワケ~ロボットがつなぐ未来”. 2015年3月9日閲覧。
  21. ^ 五十嵐悠紀 2013.
  22. ^ 五十嵐・五十嵐 2012.
  23. ^ ワーキングママから学ぶ、仕事と育児でストレスを溜めない3つの意識+α【連載:五十嵐悠紀】”. エンジニアtype (2013年3月18日). 2015年6月13日閲覧。
  24. ^ 五十嵐悠紀、高岡詠子「会誌編集委員会女子部」、『情報処理』第56巻第1号、2014年12月、108-109頁。NAID 110009851284
  25. ^ この5年で女性のキャリア支援はどう変わったか~育児サポートや女子会普及の一方で課題も【連載:五十嵐悠紀】”. エンジニアType. 2016年6月13日閲覧。
  26. ^ 五十嵐悠紀 (2016年5月31日). “「やってよかった」こうすれば辛くないPTA役員”. Yahoo! news. https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c1714132377c49156f5cd50a7ef954a7626017cf 2016年6月17日閲覧。 五十嵐悠紀 (2016年3月8日). “育児と仕事の両立に必要なのは「受援力」”. Yahoo!news. https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/539c25177f1e02cdcb95251f216ff1e3512c5326 2016年6月17日閲覧。 
  27. ^ 「やってよかった」こうすれば辛くないPTA役員 ―働くお母さんのための実践的アドバイス―”. JBPress. 日本ビジネスプレス. (2016年5月31日) 2022年4月9日(UTC)閲覧。
  28. ^ 五十嵐悠紀 (2016年3月16日). “もっと多くの女子学生がソフトウェア分野に興味を持つためには”. Yahoo!news. 2017年9月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年4月9日(UTC)閲覧。
  29. ^ Yahoo!ニュース 2016, 執筆者紹介.
  30. ^ a b JBPress 2016, コラムニスト紹介.
  31. ^ 2016年度PMからのメッセージ”. 情報処理推進機構. 2018年1月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年6月13日閲覧。“2020年度未踏IT人材発掘・育成事業プロジェクト成果”. 未踏・セキュリティキャンプ. 情報処理推進機構. 2021年6月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年1月25日(UTC)閲覧。
  32. ^ お茶の水女子大学賞「黒田チカ賞」”. 男女共同参画. お茶の水女子大学. (2016年3月28日) 2022年4月9日(UTC)閲覧。
  33. ^ NCID BB24308464
  34. ^ NCID BB29054545
  35. ^ a b c 2019 年度 実績報告書 着物と帯結びのための3次元グラフィックス技術の研究”. KAKEN. 国立情報学研究所. 2022年1月25日(UTC)閲覧。“2020 年度 実績報告書 着物と帯結びのための3次元グラフィックス技術の研究”. KAKEN. 国立情報学研究所. 2022年1月25日(UTC)閲覧。
  36. ^ ソーシャルメディア論 つながりを再設計する|青弓社”. 2017年9月9日閲覧。
  37. ^ 第10回 FFIT研究奨励賞受賞者”. 船井情報科学振興財団. 2015年10月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年1月25日(UTC)閲覧。
  38. ^ 研究論文賞”. 表彰. 日本ソフトウェア科学会. 2021年12月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年1月25日(UTC)閲覧。
  39. ^ マイクロソフト情報学研究賞”. 表彰. 情報処理学会. 2017年3月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年1月25日(UTC)閲覧。
  40. ^ “『連合駿台会報』第335号、2017年3月、1頁、2022年1月25日(UTC)閲覧。
  41. ^ 明治大学 研究・知財戦略機構 (2016年11月21日). “JSTの戦略的創造研究推進事業「さきがけ」に総合数理学部の五十嵐悠紀専任講師が採択されました”. 研究・知財戦略機構 ニュース一覧 2016年度. ニュース一覧. 2022年4月2日(UTC)閲覧。
  42. ^ 【先端数理科学研究科先端メディアサイエンス専攻】博士後期課程2年の越後 宏紀さん、小林稔教授、五十嵐悠紀准教授の論文が情報処理学会論文誌ジャーナルにおいて論文誌ジャーナル特選論文に選出”. 先端数理科学研究科 ニュース一覧 2021年度. 明治大学. (2022年3月23日) 2022年4月2日(UTC)閲覧。

参考文献[編集]

関連文献[編集]

外部リンク[編集]

(連載記事)

(インタビュー・講演動画)