二口女

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二口女(ふたくちおんな)は、日本妖怪の一つで、後頭部にもう一つのを持つという女性の妖怪。触手のように使い、後頭部の口から食べ物を摂取する。

日本の民話に度々登場する。正体は山姥とも言われ山里の農村を舞台にする話が多い。

夫の逃走に絡んで端午節句に飾る菖蒲の由来を説明する話の型が有名。

民話「飯食わぬ嫁」[編集]

話の型によって細部に違いある。

最も有名なのは福島県の話である。
村のある家は非常にけちで物を食わせるのが惜しいからと嫁も取らずに暮らしをしていた。
その家に1人の女性が現れものを食わないから嫁にしてほしいと願い、嫁となる。嫁は本当に何も食べずによく働き、非常に満足していたがなぜか蓄えた米は減る一方だった。
仕事に出かけた振りをして嫁の留守を覗いたところ、嫁は髪を解いて後頭部にぱっくりと開いた口に次々と握り飯をばくばく放り込んでいた。
その上、口から「やあうまい、握らばうまい」と聞こえてきた。
仰天して嫁を離縁しようとしたところ、正体がばれたことに気づいた嫁は山姥の姿に戻って夫を風呂桶に入れ山に連れ去ろうとした。
夫は山道で頭上の枝に飛びつき逃走に成功、香りの強い菖蒲の生えた湿原に身を潜めて山姥の追跡から逃れたという。その山姥は菖蒲の力で溶けて死んでしまった。

民話からの解題[編集]

二口女の民話は、吝嗇を戒めるものであると同時に、一見貞淑そうな女性が裏で恐ろしい本性を持っていることがあるという恐怖を示唆するもの。

この民話はほぼ全国に伝承されているものの、東日本西日本では内容がやや異なっている。前述のように二口女を山姥や鬼女の類とし、菖蒲のお陰で山姥から逃れられる話は、主に東日本に伝わるものであり、山姥が襲ってきた日が5月5日であったことが、端午の節句に鬼を追い払うために家に菖蒲を挿す風習の由来とされている[1][2]

西日本では女の正体をクモとしている。相手が逃げたことを知った女は、仲間に「今夜、クモになってあいつを殺しに行く」と話すが、密かにこれを耳にしており、その夜、家に現れたクモを囲炉裏の火にくべて殺してしまう。これが「夜のクモは親に似ていても殺せ」という諺の由来ともいわれている[1][2]。クモがやってきたのが大晦日であり、これを由来として大晦日に火を絶やしてはならないという風習に結びついているケースもある[2]

また嫁に食事を出すのが惜しいという家が結果的に失敗するという笑話として、子供向けに語られたものとする見方もある[2]

『絵本百物語』の二口女[編集]

竹原春泉画『絵本百物語』より「二口女」

江戸時代の奇談集『絵本百物語』にある「二口女」では、以下のような二口女の奇談が述べられている。

下総国(現・千葉県)のある家に後妻が嫁いだ。夫には先妻との間に娘がいたが、後妻は自分の産んだ娘のみを愛し、先妻の子にろくな食事を与えず、とうとう餓死させてしまった。

それから49日後。夫が薪を割っていたところ、振り上げた斧が誤って、後ろにいた妻の後頭部を割ってしまった。おびただしく出血したものの命に別状はなかったが、やがて傷口が人間の唇のような形になり、頭蓋骨の一部が突き出して歯に、肉の一部が舌のようになった。この傷口はある時刻になるとしきりに痛み出し、食べ物を入れると痛みが引いた。

さらに後、傷口から小さな音がした。耳を澄ますと「心得違いから先妻の子を殺してしまった、間違いだった」と声が聞こえたという。

同書では、江戸時代の古書にある奇病「人面瘡」を引き合いに出し、悪い行いをした者が人面瘡を患った話があることから、この二口女も道に外れた行いをしたための悪病だと述べている[3]。このため、同書はこうした妖怪を通じて人道を説いているものとする説もある[4]。下総の奇談として語られているものの、実際には『絵本百物語』の著者である桃山人の創作と指摘されている[5]

『絵本百物語』の二口女はもとは人間であるが、前述のような民話の「飯食わぬ嫁」は山姥などの妖怪であり、双方は異なるものだとする解釈もある[6]。一方で同書の挿絵では、二口女は悪病を患っただけの人間にもかかわらず、髪を操って食べ物を後頭部の口に運んでおり、まるで妖怪のような表現がなされているが、実際には『絵本百物語』には前述のようにそのような妖怪めいた行動は行っておらず、挿絵を描いた絵師・竹原春泉が、言わば「悪のり」で描いたものと見られている[5]

脚注[編集]

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  1. ^ a b 那谷光代 「食わず女房」『日本昔話事典』 稲田浩二他編、弘文堂1977年、704-706頁。ISBN 978-4-335-95002-5
  2. ^ a b c d 花部英雄 「食わず女房」『日本伝奇伝説大事典』 乾克己他編、角川書店1986年、338頁。ISBN 978-4-04-031300-9
  3. ^ 桃山人 『竹原春泉 絵本百物語 桃山人夜話』 多田克己編、国書刊行会1997年、51-52頁。ISBN 978-4-336-03948-4
  4. ^ 『竹原春泉 絵本百物語』、139頁。
  5. ^ a b 多田克己 「改題 絵本百物語」『桃山人夜話 絵本百物語』 角川書店〈角川ソフィア文庫〉、2006年、189頁。ISBN 978-4-04-383001-5
  6. ^ 村上健司編著 『日本妖怪大事典』 角川書店〈Kwai books〉、2005年、287-289頁。ISBN 978-4-04-883926-6

関連項目[編集]