乱数放送

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乱数放送(らんすうほうそう、暗号放送、英名Numbers Station)とは、数字、(アルファベット通話表を使った)文字、あるいは単語等の羅列を組み合わせた乱数ワンタイムパッド)を用いて作成した暗号により、特定の相手に対して情報を伝達しようとする発信源不詳のラジオ放送のことである。

概説[編集]

どこでこれらの信号が発信されているか、あるいはそれらが何の目的で発信されているかは公には知られていない。乱数放送は絶えず現われては消えるが、放送時刻と周波数は、一週間、一か月、一年間などを目途に、スケジュールに沿って運用されているものも多い。

通常、乱数放送には、送受信者間の距離の関係から、遠距離伝播が可能な短波帯が用いられる。電波型式は、AMSSBCWなど、用途、設備、利用者の通信技量などに応じて様々な型式が用いられる。

1990年代以降、乱数放送の活動は微増している。

発信源とその目的[編集]

これらの放送は、行政機関が「現場」にいるエージェントと連絡する単純かつ極めて簡単な方法として稼働していると推測されている。その証拠として、乱数放送はソ連8月クーデター1991年)のような特殊、異常な政治的な偶発事象の際に、定常的な放送とは異なる若干の変更や、予定外の放送を発信している。また、これらの放送の一部は北朝鮮の放送のように、非合法の薬の密輸と関係があるかもしれないと推測する説もある。

政府或いは放送局は、それらの存在を認知したりその存在理由を喋ろうとはしない。「デイリー・テレグラフ」の1998年の記事では、貿易産業省(英連合王国でラジオ放送を統制する行政機関)の報道官の次のような言葉が紹介されている。

「これら(乱数放送)はご推察の類のものです。不可解に思う必要はありません。言うなれば、これらは一般消費者向けのものではないのです」

放送」と言われる所以は、他国へ侵入しているエージェントへの秘匿通信が目的であること、且つ、エージェントが大掛かりな送信設備を持つことが出来ないと言う理由から、不特定多数が聴取可能な「放送」という形を取らざるを得ないと言うことが最大の理由である。双方向通信が出来る場合とは、その運用形態は根本的に異なる。

暗号放送自体はごく一般的に各国で行われているが、日本周辺でも韓国、北朝鮮、中国台湾が現在も積極的に使用している[要出典]。 北朝鮮の有名な音声による「A3放送」(電波型式A3―つまりAMを用いていた為この名がある)は南北首脳会談が開催された2000年以来行われていないが、実際はCWによる放送の方が活発、大規模で、こちらは現在も継続して観測されている。また、2008年後半より韓国発の暗号放送が活発化している。

近年では北朝鮮の対外放送である平壌放送がこの乱数放送を用いて日本国内に潜伏するエージェントに向けた指令を送信していたと言う事例が話題となった。 日本人拉致事件に関する指令もこの放送によって行われていた[要出典]。また、大韓航空機爆破事件(1987年)の実行犯である北朝鮮の金賢姫工作員が、乱数放送を利用して本国からの指令を受け取っていたことが判明している。

世界的には冷戦の象徴の一つとして暗号放送が例に挙げられることがある。イギリスドイツフランスアメリカロシアイスラエルエジプトなどでも行われているが、紛争を抱える国と、これらとなんらかの関連をもつ国に多く見られるようである。アメリカは衛星通信に移行したとみられ、短波を利用した暗号放送はここ数年観測されていない。電波の強さから、アメリカは日本国内に送信所を持っていたと言われている。

なお、乱数放送はその放送の特徴により、しばしばファンによってあだ名を与えられる。例えば、最もよく知られた乱数放送のひとつ「リンカーンシャー・ポーチャー英語版」は、MI6によって運営されていると考えられており、放送開始直後と、放送の最後にその名前のフォークソングを演奏する。「マグネティック・フィールド」も同様、放送の開始直後と最後に、フランスの電子ミュージシャン、ジャン・ミシェル・ジャールの音楽を演奏する。「アテンシオン」は、送信の始めにスペイン語のフレーズ「¡Atencion! ¡Atencion!」を付ける。

様式[編集]

一般に、細かな相違があるものの、乱数放送は基本的な書式に従う。一般の通信と比べて特殊なものではなく、送信者、受信対象者を特定するために必要な情報と、伝文内容がそれぞれの書式に従って放送されるだけである。伝送は正時あるいは30分に始まるものが多い。

大抵の場合、放送の冒頭部(しばしばそこからその放送の非公式のニックネームが取られる)は、その放送自身と、放送の受取人を表す何らかの種類の認証子を含む。送信者の特定には数値やアルファベット通話表の「コードネーム」(例えば「Charlie India Oscar」、「250 250 250」)、特徴的なフレーズ(例えば"¡Atencion! ¡Atencion!", "1234567890")、音楽や電子音(例えば "リンカーンシャー・ポーチャー", "マグネティック・フィールド")などが利用される。イスラエルの音標文字放送の場合のように、その冒頭は後に続くメッセージの特性あるいは優先度を意味することがある(例えば伝文が次に続かないことを示している「Charlie India Oscar - 2」)。伝文の本体を放送する前に、その冒頭部を一定の回数繰り返すものが多い。

冒頭部にその伝文の数字の組数の宣言があるものもあり、それからその組の伝文内容が列挙される。伝文は通常4つあるいは5つの数字、アルファベットの羅列である。通常、各組について2度それぞれの伝文を読むか、あるいは全体としてその全部の伝文を繰り返すことによって、復唱される。これらの伝文は一般にワンタイムパッドで暗号化されていると思われる。すなわち、それらを解読するための正しいキーを持っていない限りランダムに生成された文字あるいは数字から理論的に解読できないような暗号に変換されている。伝文の長さは様々であり、全ての放送について長さを揃えるもの、内容によって変化するものがある。

一部の放送は1回の伝達の間に複数の伝文を送る。この場合もちろん、それぞれの情報について上記のプロセスの一部またはすべてが繰り返される。

最後に、すべての伝文が送られた後、(その放送が使う言語が何であれ)「終わり」を意味する単語で終了する(例えば「メッセージ終わり、通信終わり」;「ende」;「fini」;「final」;「konec」)。いくつかの放送、特に旧ソ連に起源すると思われるものは一連のゼロ、例えば「000 000」で終わる。他のものは音楽あるいは他の種々な音で終わる。

伝送テクノロジー[編集]

ほとんどの乱数放送は場所を特定されることはなかったが、使われた技術は歴史的に(今までは)明確であり、10kWから100kWまでの出力を使っているストック短波送信機を用いていた。また、冷戦の間にウラル山脈の反対側で西ヨーロッパのエージェントと連絡を取っていたソビエト社会主義共和国連邦は500kW送信機を使ったという十分な証拠があった。[要出典]

振幅変調・周波数可変のクラスB(プッシュプル式)HF送信機が乱数放送の主力だった。これらの放送の運用ではエネルギーコストは問題でなかったから、多相変調器やPDM変調器は使われなかった。これはデジタル・ラジオ・モンディエール(DRM)のマルチメディア能力の導入で将来変化するかもしれない。

DRM多重通信の中で放送されるそれぞれのデータサービスは、SDC データフィールドで信号化される。そして最大2048の異なったデータサービスを可能にする11ビット固有認識コードを持っている。このデータはそのMSCデータグラムの一部として伝達される。[1]

ドイツの Welle DRM PADサービスはおよそ800ビット毎秒のデータレートを持っている。MSCラジオテキストデータは80ビット毎秒のレートにおいて送られる。エージェントへの伝達のためのフィールドでは、80ビット毎秒は十分である。

放送においての手違い、無線方向探査の結果、および短波帯電波伝播の知識は、同じく乱数放送の場所についての手がかりを提供してくれる。例えば「アテンシオン」は、ラジオ・ハバナ・キューバと同じ周波数で放送してしまい、キューバからの送信であることが判明したことがある。

若干の放送では、トーンが背景に聞こえる。このような場合、暗号化された伝文は、おそらくバーストトランスミッションのような技術を使って、トーンを変調することによって送られていて、声は正しい周波数に調整することへの手助けであるかもしれないと考えられている。

録音と音楽への利用[編集]

1997年、乱数放送を録音した4枚組CD「The Conet Project: Recordings of Shortwave Numbers Stations (ザ・コネット・プロジェクト: 短波乱数放送の録音)」[2]がイギリスの Irdial-Discsレコードレーベルからリリースされた。

乱数放送の音源を使用した楽曲もある。たとえば、ステレオラブの「Pause」、ポーキュパイン・トゥリーの「Even Less」、クロマ・キーの「Even the Waves」、ウィルコの楽曲など(ウィルコのアルバム『ヤンキー・ホテル・フォックストロット』は、そのサンプリングされたメッセージにちなんで名を付けられた)である。スコットランド出身のテクノバンドボーズ・オブ・カナダは早い時期に乱数放送に影響を受けたほか、ペル・ウブスコット・クラウスは乱数放送の熱心なファンで、いくつかの楽曲で乱数放送をフィーチャーした。また、DJシャドウはアルバム『Endtroducing...』でThe Conet Projectをサンプリングした。日本では石野卓球が高名なフレーズ‘Yankee Hotel Foxtrot’をモチーフにした「Y.H.F.」なる曲を発表している(ソロアルバム『CRUISE』収録)。

キャメロン・クロウも映画「バニラ・スカイ」のシーンでその「プロジェクト」の一部をフィーチャーした。彼は混乱の感覚を作るために乱数放送の録音を使ったと述べた。

乱数放送の例[編集]

ここでは特に、日本で良好に受信出来る(出来た)乱数放送についてまとめる。日本由来のものは今のところ確認されていない。

通称名 運用国 送信地 電波形式 送信形式 運用状況
A3放送 北朝鮮 北朝鮮 AM 伝文形式:3+2文字(数字)、読み上げ:男性/女性、朝鮮語 廃止
遊撃隊行進曲系統 北朝鮮 北朝鮮 CW/A2 例:"VVV $$$ $$$ $$$ DE $$$ $$$ QTC..." 運用中
CQ系 北朝鮮 北朝鮮 CW 例:"VVV CQ 747.135" R5 運用中
韓国語乱数放送 韓国 韓国 AM 伝文形式:3+2文字または2+2文字(数字)、読み上げ:女性、朝鮮語 運用中
広州呼叫 中国 中国 AM 読み上げ:女性、北京語 停止中
北京呼叫 中国 中国 AM 読み上げ:女性、北京語 運用中
星星広播電台 台湾 台湾 AM 読み上げ:女性、北京語 運用中
Counting Station (Cynthia) アメリカ アメリカ、日本、その他 USB ID:3文字(数字)+1234567890.....、読み上げ:女性、英語 停止中
Cherry Ripe イギリス オーストラリアダーウィン市 USB Cherry Ripe+ID:5文字(数字).....+5文字(数字)、読み上げ:女性、英語 運用中

日本が戦前を含めてこうした専用放送形式の暗号を採用しないのは、伝統的に電波を発する事で軍事施設の位置を知られるのを嫌う傾向が背景にある。実際に短波(特に20MHz以下)は数Wの出力で易々と地球を一周することがアマチュア無線によって証明されており、指向性アンテナを使用した2方位受信によっておおよその位置は把握できる。日本の総務省総合通信局(旧電波監理局)は数Wの違法局でも固定局であれば場所を特定する能力があるとされる。更に戦前・戦中の外務省暗号(パープル暗号)や戦中の海軍暗号が連合国に殆ど解読されていた事、逆に陸軍のそれは換字式暗号を併用する事で相対的に連合国側の手を焼かせたとされる事から、乱数暗号を嫌う風潮もある[要出典]

関連項目[編集]

脚注[編集]

外部リンク[編集]