中華民国旅券

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2009年に中華民国が発給したバイオメトリック・パスポートの表紙。2003年には「TAIWAN」という英文表記が記載された(中国語では記載されず)。中華民国外交部は理由について「『中華民国』とだけ書かれた旅券は中華人民共和国の旅券と混同され不便なため」と説明[1]

中華民国旅券繁体字中華民國護照注音符号:ㄓㄨㄥ ㄏㄨㄚˊ ㄇㄧㄣˊ ㄍㄨㄛˊ ㄏㄨˋ ㄓㄠˋ)は、中華民国台湾地区に居住し中華民国戸籍に登録されている自国民および海外華僑に対して発給する旅券である。中華民国は台湾として認知されてきたことから、中華民国旅券は台湾の旅券という認識が一般化している。

中華民国旅券取得要件[編集]

1982年に発給された中華民国旅券

中華民国は中国大陸の全域を統治する政体として1912年1月1日に建国された国家である。1945年10月15日、中華民国は連合国軍最高司令官総司令部が発した一般命令第一号英語版に基づき台湾に進駐し、同年10月25日の台湾光復式典によって台湾を自国領に編入した。1949年の国共内戦を経て、中華民国の実効統治領域は台湾地区のみとなり、中国大陸は中華民国に代わり中華人民共和国が統治するようになった。中華民国憲法は中華人民共和国の存在を認めていないため、憲法上は、中華民国こそが中国を代表する唯一の正統な政府となる。中華民国の統治領域は中華民国憲法増修条文において「自由地区」(台湾地区)と称され、それ以外の地域は大陸地区と称される。中華民国憲法は中華民国政府に対し、国内の特定地域のために、それ以外の地域に効力が及ばない法律を制定することを認めている。

台湾地区に居住し中華民国戸籍に登録されている中華民国の国民は、中華民国旅券を取得する適格性を有する。とはいうものの、中華民国旅券がその所持人を中華民国の国民であると示していたとしても、それをもって同人が中華民国の戸籍を有する公民であると結論づけることはできない。中華民国国籍法によれば、国籍と戸籍には関わりがないからである。さらには、中華民国旅券の所持人が必ずしも台湾地区の居住権を保有しているわけでもない。

台湾の公民に加えて、一部の海外華僑も中華民国旅券を取得する適格性を有する。その対象者は中華民国旅券を所持する両親のもとに海外で生まれた者、中国大陸および香港ならびにマカオで生まれ海外居住権を有する者、1997年以前の香港および1999年以前のマカオで旅券を取得した華人居住者、2002年以前に華人であるという事実のみに基づいて旅券を取得した者を含める。

中国大陸および香港ならびにマカオの華人居住者は、憲法上は中華民国の国民であるため、彼らもまた特別な状況下では中華民国旅券を取得しうる。中華民国憲法が及ばない外国にて現地の永住権を保有する者であり、かつ中華人民共和国の旅券を保有しない者に交付される。その特別な状況とは、2002年の旅券条例施行細則第十八条の規定によれば、「政治、経済、社会、教育、科学技術、文化、体育、華僑事務、宗教および人道上の特別な事情を考量」と定められている[2][3]。返還前の香港とマカオに居住していた華人は海外華僑として扱われたことから、中華民国憲法の及ばない外国にて生計を確立させるという要件を満たす必要もなく、中華民国旅券を取得する適格性を有した。

中華民国国籍法の定めるところによれば、2002年に修正された旅券条例施行細則の発布以前は、華僑身分証明書を取得した華人であれば台湾地区の居住歴および同地区への来訪歴の如何を問わず中華民国国籍を取得し中華民国旅券の交付を受ける要件を備えていた。2002年の修正以降は、旅券条例施行細則第十三条に基づいて、華僑身分証明書はそれ単体では中華民国国籍を証明する文書としては認められなくなった(中華民国旅券交付申請者本人の出生証明書および父母のいずれかが中華民国国籍を有することを証明する文書の添付が必要とされる)[2][3]。なお、華僑身分証明条例第三条の定めにより、中華人民共和国旅券中国語版の所持人は華僑身分証明書を取得する適格性を有さない[4][5]

中華民国旅券は、台湾地区で居住権を持つ者に対して自動的に交付されるものではない。台湾地区で中華民国戸籍に登録され中華民国旅券を持つ者のみが、台湾内での出入境管理から除外される。それ以外の中華民国旅券の所持人は、台湾への到着時に上陸査証(中国語落地簽證; 英語Landing Visa[6][7]を発給されるか、または入境を拒否される。台湾地区で中華民国戸籍に登録されている公民にのみ発給される中華民国国民身分証中国語版は、投票などの公民権を行使する際に用いられる。海外華僑の旅券は、台湾地区で中華民国戸籍に登録されている公民の旅券とは異なり、もっぱら各国の中華民国大使館領事館台北経済文化代表処などの中華民国在外機構のみが発給し、台湾地区にて発給されることはない。海外華僑の旅券には、華僑であることを示す特別な印が付される。ただし兵役に就いている者は除外される[要出典]。中華民国戸籍を有する旅券の所持人には、中華民国国民身分証の統一番号(中国語統一編號)を持つ者も含まれる。英国旅券を持つ者が、必ずしも英国の居住権を保有しているわけではないことに似ている。

中華民国旅券の有効期限は通常は十年間であるが、十四歳以下の者は五年間であり、兵役未就役の男性は三年間とされている[8][9][10]

様式[編集]

1946年に発給された中華民国旅券
中華民国外交部部長の要請文

普通旅券の表紙は深緑色で、箔押しがなされている。中華民国の国章と、「中華民国」および「旅券」を示す語が、中国語英語で表紙に印刷されている。1971年10月25日アルバニア決議を機に、中華民国は国際社会から「中国」ではなく「台湾」として認知されてきた。そのため台湾人旅行者は、中華民国旅券を見た外国の入国審査官から中華人民共和国の国民であると誤解され困難を経験する場合があった。2003年9月中華民国総統陳水扁の指示により、一般大衆の支持を得て、「『中華民国』とだけ書かれた旅券は中華人民共和国の旅券と混同され不便なため」[1]、中華民国旅券の表紙に「台湾 (TAIWAN)」の語が英文にて記載されることとなった(中国語では記載されず)。張俊雄行政院長は、中華民国立法院での質問に対し、本件は海外への渡航を平易にするものであり、国号を変更するものではないと述べている。

中華民国旅券の表紙をめくると、最初のページには以下の要請文が印刷されている。

中華民國外交部部長茲請各國有關機關對持用本護照之中華民國國民允予自由通行,並請必要時儘量予以協助及保護。
The Minister of Foreign Affairs of the Republic of China requests all whom it may concern to permit the national of the Republic of China named herein to pass freely and in case of need to give all possible aid and protection.

(日本語)中華民国外交部部長は本旅券の所持人である中華民国の国民を自由に通行させ、かつ、同人に必要な保護扶助を与えられるよう、各国の関係機関に対しここに要請する。

中華民国旅券は中国語と英語で記述される。1990年代の半ばまで、中華民国旅券には省籍欄が掲載されており、本人の籍貫(父方の出身地)のが記載されていたが、台湾本土化運動の高まりを受けて本欄は削除された。しかしながら、出生地欄は今なお掲載されており、大陸地区または台湾地区のどちらで出生したとしても、その出生地の省と県が記載される。

中華民国旅券は、ISO 3166-1にて定められた三桁の国名コードのうち、台湾を示す「TWN」で発給国を示している。なお、中華人民共和国旅券中国語版香港特別行政区旅券中国語版マカオ特別行政区旅券中国語版にはすべて中国を示す「CHN」が記載される。

2008年11月25日中華民国外交部は同年12月29日よりバイオメトリック・パスポートの発給を開始すると発表した[11]。表紙の「台湾」の英文記載は維持される。

利用の制約[編集]

中華民国が国交を維持している国々は22ヶ国のみであるが、今もなお、中華民国旅券は世界中の国々から有効な外交文書として取り扱われている。なお、旅券面への直接の押印を避けている国々(ラオスネパールベトナム)もある。中華人民共和国に配慮してのこととされてはいるが、それらの国々では、中華民国旅券にステープラーで留めた別紙に査証を発給し、入国と出国の記録はその別紙の査証に押印される。また、マレーシア政府は、中華人民共和国旅券にマレーシア査証を直接発給し押印すると定めたことにより、中華民国旅券に対しては2009年3月から別紙査証の発給方式を採用した。

台湾問題のため、中華人民共和国および中華民国は他方が発給した旅券を互いに承認しておらず、また大陸地区と台湾地区との往来を正規の海外渡航ともみなしていない。台湾人が大陸地区を来往するには、中華民国旅券のほかに、台湾居民来往大陸通行証という渡航文書も取得しなければならない。台湾居民来往大陸通行証の交付を申請する際には有効な中華民国旅券が必要となる。また、大陸地区への入境時には、来往者の身分を証明するために審査官から台湾居民来往大陸通行証の提出を求められる。

香港特別行政区政府は、香港に入境する台湾人に対して、中華民国旅券または台湾居民来往大陸通行証のどちらでも有効としている。中華民国旅券の場合は、旅券とは別に査証(中国語預先簽證; 英語Pre-arrival Visa)が必要となり押印されるが、旅券には押印されない。台湾居民来往大陸通行証の場合は、従前は有効な入境許可が正式に必要とされた。しかし2009年4月27日より、香港特別行政区政府商務及経済発展局は台湾居民来往大陸通行証の所持人に対して、30日間を上限とした査証免除入境を認可することとなり、入境許可は必要とされなくなった。また、押印は台湾居民来往大陸通行証に直接なされる[12]

マカオの場合、マカオの統治がポルトガルから中華人民共和国へと移行してもなお、マカオ当局は中華民国旅券を有効な旅行文書であると取り扱ってきたが、入境審査官は中華民国旅券に直接押印するわけではなかった。その代わり、マカオ当局は出入境カードに入境を押印し、出境時には出入境カードに出境を押印して、出入境カードを回収する。マカオ当局は中華民国旅券の所持人に対して、マカオへの30日間の査証免除による滞在を許可している。

中国、香港、マカオの各当局は中華民国旅券を認めず、台湾人の旅行者については、単に自国民が国内を旅行しているにすぎないとしている。しかしながら、各当局は台湾人に対し、押印こそしないものの中華民国旅券それ自体の提示は求めており、また台湾居民来往大陸通行証の提示を求めることも欠かしていない。ただし、台湾人旅行者がマカオを出境(空港の国境検問所を通過)して中国、香港、台湾以外の他国へ行く場合に限り、マカオ当局は中華民国旅券に押印している。このような行為は一つの中国の原則に反するともされるが、マカオ当局は国際的な規約および慣習を遵守し、台湾人旅行者が外国の入国審査官から出自を問われた場合に便宜を図るために行っていると述べている。

シェンゲン圏とカナダへの渡航[編集]

欧州連合シェンゲン圏は、2010年の初期から中期にかけて、台湾人の査証要件を撤回するであろうとされていた[13]。2010年11月22日より、カナダへの査証免除での渡航が認められた[14]2011年1月11日より、シェンゲン圏各国への査証免除での渡航が認められるようになった[15]

米国への渡航[編集]

中華民国旅券における米国のB-1(短期商用)査証[16]およびB-2(短期観光)査証[17]の発給拒否率は、2006年の時点において、3.1%であった[18]。2007年の時点では、4.6%まで悪化している[19]。どちらの数値も、ビザ免除プログラムが要求する10%よりも低い。しかし、米国のB-1およびB-2査証の発給拒否率の低さは、ビザ免除プログラムへの参加資格を自動的に付与するものではないとされる。ビザ免除プログラムへ参加を希望する国は、アメリカ合衆国国務省が別途課す諸要件を満たしていなければならない。すなわち、「ビザ免除プログラムに参加するためには、希望国はさまざまな安全保障策とその他の要件を満たさねばならない。それは、ビザ免除プログラムに対応した法律の施行と、安全保障に関連したデータを米国と共有することと、無記名または紛失したか盗難された旅券については遅滞なく報告することである。ビザ免除プログラム参加国は、同時に、高度な反テロリズム、法律の施行、入国審査、安全保障基準文書の維持が求められる」である[20]

その後、2012年11月1日よりビザ免除プログラムの対象に中華民国旅券所持者を加えると発表した。[21]

脚注[編集]

  1. ^ a b 共同通信 (2003年9月1日). “台湾が新旅券を発行「TAIWAN」と表記” (日本語). 47NEWS. 全国新聞ネット. 2010年7月25日閲覧。
  2. ^ a b 中華民国外交部領事事務局 (2005年9月14日). “護照條例施行細則” (国語 (中国語)). 2010年7月27日閲覧。
  3. ^ a b 中華民国外交部領事事務局 (2002年2月27日). “Enforcement Rules of the Passport Act” (英語). 2010年7月27日閲覧。
  4. ^ 中華民国行政院僑務委員会 (2004年7月28日). “華僑身分證明條例” (国語 (中国語)). 2010年7月27日閲覧。
  5. ^ 中華民国行政院僑務委員会 (2002年2月27日). “Overseas Compatriot Identity Certification Act” (英語). 2010年7月27日閲覧。
  6. ^ 中華民国外交部領事事務局. “落地簽證” (国語 (中国語)). 2010年7月30日閲覧。
  7. ^ 中華民国外交部領事事務局. “Landing Visas” (英語). 2010年7月30日閲覧。
  8. ^ 台北駐大阪経済文化弁事処 (2009年3月23日). “領事業務” (日本語). 2010年7月30日閲覧。
  9. ^ 中華民国外交部領事事務局 (2005年9月8日). “護照條例” (国語 (中国語)). 2010年7月31日閲覧。
  10. ^ 中華民国外交部領事事務局. “Passport Act” (英語). 2010年7月30日閲覧。
  11. ^ 中華民国外交部 (2009年4月23日). “台北駐大阪經濟文化辦事處でIC旅券の申請受付を開始” (日本語). 中華民国行政院新聞局. 2010年7月31日閲覧。
  12. ^ 自由時報電子報 (2009年4月16日). “持台胞證赴港 可停留七天” (国語 (中国語)). 2010年8月8日閲覧。
  13. ^ Banks, Martin (2009年11月2日). “Taiwan: MEP wins visa-free status for Taiwan visitors” (英語). Dods. 2009年11月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年9月5日閲覧。
  14. ^ ザイロン チャイナプレス (2010年11月24日). “カナダ:台湾非商用旅客にビザ免除待遇を開始” (日本語). ユナイテッドスペース. 2011年1月25日閲覧。
  15. ^ 中華民国外交部 (2010年12月23日). “台湾へのEUシェンゲン・ビザ免除措置が2011年1月11日に発効” (日本語). 中華民国行政院新聞局. 2011年1月25日閲覧。
  16. ^ 商用ビザ” (日本語). 駐日アメリカ合衆国大使館. 2010年9月10日閲覧。
  17. ^ 観光ビザ” (日本語). 駐日アメリカ合衆国大使館. 2010年9月10日閲覧。
  18. ^ ADJUSTED REFUSAL RATE - B-VISAS ONLY: BY NATIONALITY - FISCAL YEAR 2006 (PDF)” (英語). アメリカ合衆国国務省. 2010年9月10日閲覧。
  19. ^ ADJUSTED REFUSAL RATE - B-VISAS ONLY: BY NATIONALITY - FISCAL YEAR 2007 (PDF)” (英語). アメリカ合衆国国務省. 2010年9月10日閲覧。
  20. ^ How does a country qualify to participate in the Visa Waiver Program (VWP)?” (英語). アメリカ合衆国国務省. 2010年9月10日閲覧。
  21. ^ 米、台湾にビザ免除 「経済関係の大きな前進」

関連項目[編集]

外部リンク[編集]