中継放送

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中継放送(ちゅうけいほうそう)とは、テレビラジオ放送局などの演奏所以外の場所において放送番組内容(番組素材)の制作を行う必要が生じた場合、その場所(現場)に、臨時にスタジオ副調整室の機能のほとんど、もしくはその一部を設けて番組素材のほとんど、もしくはその一部を制作し、その音声映像通信回線を用いて一度、演奏所に送り、演奏所の副調整室受けサブと呼ばれている)もしくは主調整室において最終加工し、主調整室経由で放送するものをいう。一般的には中継と呼ばれる。

概要[編集]

テレビ中継放送現場の例

本来の電気的意味における中継、すなわち長距離の伝送路を伝わり、弱くなった信号増幅するというのではなく、番組素材が通信回線を経由、「中継ぎ」して放送されることからこの名前がある。この中継ぎする通信回線のことを特に中継回線という。送られてくる素材をリアルタイムで加工し、番組として放送するものを生中継放送、送られてくる素材を加工して番組としたものを、一度VTR等の記録媒体に記録して放送するものを中継録画(録画中継)もしくは中継録音(録音中継)放送という。なお、現場において制作した番組素材を通信回線を用いずに現場で直接、記録媒体に記録して演奏所に持ち帰り、番組として放送するものは収録放送といい、演奏所のスタジオや副調整室を用いて制作、記録したものと同じ扱いとして中継放送とは区別している。

テレビジョン中継放送[編集]

テレビ中継車

現場は不定であり、その都度いちいち必要な機材をばらばらに集めて現場にスタジオや副調整室の機能を構築するのは大変である。そこで通常、副調整室機能や必要な番組素材制作用機材を予め搭載したテレビ中継車を用いる。大規模な番組素材制作が必要な場合には、一箇所でテレビ中継車を複数連結して用いたり、複数箇所に分散してテレビ中継車を配置する、あるいは電源を確保するための電源車を加えたり、テレビ中継車が搭載している番組素材制作用機材のみでは足らない場合には、不足分の機材を運ぶ機材車も必要となる。番組素材制作の規模に応じてこれらを臨機応変に組み合わせる。なお最近では携帯電話回線の進歩と、機材の小型・軽量化により、簡易な番組素材制作の場合には、テレビ中継車を用いない場合もあるようになっている。

テレビジョン中継放送システム[編集]

番組には現れないが、用いる中継回線によりテレビジョン中継放送のシステムはおよそ以下の様に分けられる。

自営マイクロ波回線による中継放送
自社で所有する制作用マイクロ波回線を用いて行うもの。現場にテレビ中継車を置き、映像音声を加工して、自社所有のFPUと呼ばれる可搬型マイクロ波送信機により、演奏所に番組素材として送る。
人工衛星回線による中継放送
自社や系列各社共同で所有する人工衛星回線を用いて行うもの。現場にテレビ中継車を置き、映像、音声を加工して、可搬型地球局という人工衛星通信装置を用い、人工衛星に搭載されているトランスポンダーを経由させて、演奏所に番組素材として送る。可搬型地球局本体は近年ずいぶん小型化され、少し大きめの旅行鞄に収まるくらいのものもあるが、小型化した分、併せて最低限必要な番組素材制作用機材を現場に運ぶのが効率的であるため、まとめて自動車に搭載するのが普通である。これが「SNG車」である。通常規模の番組素材制作の場合には、テレビ中継車+SNG車という形態となるが、報道番組用などの簡易な番組素材制作の場合にはSNG車だけで事足り、テレビ中継車を使わない場合が多い。一方、近年では従来規模のテレビ中継車に可搬型地球局本体を併せて搭載した「SNG中継車」が登場、かなりの規模の番組素材制作までSNG中継車のみで対応できるようにもなっている。
また、衛星携帯電話の通信速度の高速化により、インマルサットBGANを用いたテレビ中継も報道番組を中心に数を増やしている。これらは画質面で従来のFPUやSNGに劣るものの、それらの1/10以下のコストで導入出来ること、また片手で持ち運びが出来る簡便性という利点がある。
有線回線(公衆電気通信回線)による中継放送
電話会社の所有する臨時テレビジョン回線を用いて行うもの。現場にテレビ中継車を置き、映像、音声を加工して、電話会社の所有する光回線、マイクロ波回線、人工衛星回線などを経由させ、演奏所に番組素材として送る。

ラジオ中継放送[編集]

ラジオカー

テレビジョン中継放送の場合と同様に、副調整室機能を搭載したラジオ中継車を用いる。(ラジオ中継車は、音声中継車、音声車などとも呼ばれる。特に音声車と呼ぶ場合、演奏所の副調整室と同等の調整機能を有したものを示すことが多い。)大規模な番組素材制作が必要な場合には、テレビジョン中継放送の場合と同様に常設の中継機器を設置したり、一箇所でラジオ中継車を複数連結して用いたり、複数箇所に分散してラジオ中継車を配置する、あるいは電源を確保するための電源車を加えたり、ラジオ中継車が搭載している番組素材制作用機材のみでは足らない場合には、不足分の機材を運ぶ機材車も必要となる。しかし今日、ラジオ番組はテレビ番組よりも、より速報性が求められるようになってきていること、音声であり、比較的簡易な設備で足りる場合が多いことから、むしろ多様な現場状況に即応できるように、異なるタイプの番組素材制作用機材を必要最小限度としていくつも搭載した、いわゆるラジオカーによる場合が多くなっている。ラジオ中継放送はテレビジョン中継放送以上に、より臨機応変に細かくおこなわれる。なお最近では携帯電話回線の進歩により、簡易な番組素材制作の場合には、ラジオカーすら用いない場合もあるようになっている。

ラジオ中継放送システム[編集]

番組には現れないが、用いる中継回線によりラジオ中継放送のシステムはおよそ以下の様に分けられる。

なお通常はメインの回線が何らかの事情で急に使用できなくなったときのために、別系統のバックアップの回線を用意している。 例えばABCラジオ甲子園球場からの中継の場合、通常は光回線を使い、バックアップに4Wの電話回線を使用している[1]

自営無線回線による中継放送
自社で所有する制作用無線回線を用いて行うもの。現場にラジオ中継車を置き、加工した音声を自社所有のVHFもしくはUHF帯の音声送信機により、演奏所に番組素材として送る。近年では音声専用のFPUも登場している。受信基地まで電波が直接届かない場合は、中継ぎの中継車を間に入れて2段中継となることもある。
電話回線(公衆電気通信回線)による中継放送
電話会社の所有する電話回線を使って行うもの。現場にラジオ中継車や常設の中継設備を置き、加工した音声を電話回線により、演奏所に番組素材として送る。以前は常設の専用回線や電話回線、臨時2W(ツーワイヤー)・臨時4W(フォーワイヤー)と呼ばれる臨時専用電話回線(臨時専用線)を使っていたが、ISDNの登場により一般の電話回線網のひとつである臨時加入電話回線を使用してISDNコーデックでPCM化して伝送するものが多くなった。なお4Wや一般加入電話は安価なバックアップ回線として現在もよく使用されている。
携帯電話回線による中継放送
携帯電話の音声のみならず、モバイルデータ通信回線を使用する機材も市販されており、短時間の屋外中継で使用している放送局もある。
IP伝送による中継放送
帯域保証のメタル回線・光回線で、IPコーデックを使ってIP伝送するもの。野球場やサテライトスタジオ・地方局の東京支社スタジオ等の使用頻度が高い場所において、従来の電話回線の置き換えとして導入されている。
ラジオカーによる中継放送
ラジオカーはそのベースとして普通自動車を用いたものが多く、一般的に中型自動車大型自動車をベースとするラジオ中継車の小型・簡易なものであり、音声制作に必要な機材の搭載量は最低限のものであるため、その制作能力はラジオ中継車に及ばない。その代わりに小回りが利き、中継回線の選択性が高いのが特長である。ケース・バイ・ケースで必要最小限度の機材により現場の音声を加工して、自営無線回線を使った音声送信機もしくは一般の有線電話回線、または携帯電話回線などを臨機応変に用いて、演奏所に番組素材として送る。

連絡回線[編集]

テレビ、ラジオとも、特に大規模な中継放送を行う場合には、現場と演奏所の緊密な連絡が必要である。このため、連絡のための回線が別途構築される。プロデューサーディレクターが連絡を取るための回線を制作連絡回線、技術スタッフが連絡を取るための回線を技術連絡回線と呼び、大規模な中継放送を行う場合にはそれぞれ別に構築される。連絡回線は有線、無線と様々である。近年、複雑でテンポアップされた番組構成に対応するため、番組素材を演奏所に送る回線(放送素材回線、本線ともいう。)よりも連絡回線のほうがより複雑な構成となってきている。番組制作は多くのスタッフのチームワークにより成されるものであり、特に中継放送の場合、その番組内容の良否はスタッフの意思疎通がいかに円滑に行えるかにかかっていると言っても過言ではなく、連絡回線は中継放送の生命線である。また進行台本・原稿等を送受信するためにFAX専用の回線を用意することもある。

その他[編集]

駅伝中継
ヘリコプタの利用
ヘリコプタに必要な機材を積み込んで、副調整室の機能の一部あるいは電波中継所として使う場合がある。駅伝マラソン中継放送などの場合、選手と並走する移動中継車からのマイクロ波などを受け、映像や音声を調整して、マイクロ波などにより受信基地に送る役割をさせることがある。これを「ヘリスター」と呼ぶ。速報性を要求される、事件事故災害現場からの報道などのため、テレビジョン放送を行う放送局の多くが自社でヘリコプタを契約し、ヘリコプタには最低限の機材を常時搭載し、またヘリコプタからの番組素材を安定して受けるため、GPSなどを用いた自動追尾装置を備えた受信基地を持っているのが普通となっている。

詳細はヘリコプターテレビ中継システムも参照。

駅伝、マラソンなどのテレビジョン中継放送における番組素材伝送技術の進歩
テレビジョン中継放送において、FPUを用いるものでは従来そのアンテナとして、鋭い指向性を有するパラボラアンテナ八木・宇田アンテナを用い、受信基地への番組素材伝送を行ってきたが、駅伝やマラソンなどにおいて、選手と並走する移動中継車からの番組素材伝送は、正確に受信基地を狙ってアンテナを向け続ける必要がある。この作業は従来、人手(マイクロマンなどと呼ばれる操作員)によっており大変である。近年ではデジタル変調技術の進歩により、携帯電話などと同様に、無指向性アンテナを用いて、複数の受信基地に番組素材を伝送、リレーする方式がとられるようになり、無人化されるようになってきている。

関連項目[編集]

参考文献等[編集]

脚注[編集]

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  1. ^ 田中太郎(朝日放送 技術局技術制作センター)「ABCラジオのプロ野球中継の取り組み」、『放送技術』第62巻(2009年9月号)、兼六館出版、2009年8月