中全音律
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中全音律(ちゅうぜんおんりつ)(英: meantone temperament)は、西洋音楽の代表的な音律の一つである。
なるべく多くの長三度を純正音程にするために、五度音程を僅かに狭くすることにより得られる。15~19世紀に鍵盤楽器の調律で広く使用された。ミーントーン、四分法、中間律とも呼ばれる。1523年にアロンが発表したものが有名で、これを特にアロンの中全音律(1/4コンマミーントーン)と呼ぶ。本記事ではこの音律について記述する。
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[編集] 歴史
イギリスでは14世紀中頃から三和音を多用した曲が多く作曲され、3度と5度の両方を純正にとる純正律が流行した。しかし副三和音の一部が使用出来なかったり転調が出来ないため、次第に5度よりも3度を純正にとる音律の研究が盛んになった。ラミスは自著 Musica practica(『実践的音楽』 1482年)の中で「中全音律が広く鍵盤楽器に用いられている」と述べているので、15世紀にはこの音律が一般化したと考えられる。特にイギリス、スペインでは15世紀初期には使用されていた可能性が高い。その具体的な調律法はアロン(1523年)によって発表された。この音律はのちにプレトリウスを先駆けとし、シュニットガー、クープラン、ラモーらによって改良され多くのヴァリエーションが出来た。特に改良型中全音律は17-18世紀ヨーロッパの鍵盤楽器に広く用いられた。さらにキルンベルガー第3法は理論の項目で述べるような欠点を補い、すべての調での演奏を可能にしたウェルテンパードな調律法である。
なお、神戸松蔭女子学院大学チャペルのオルガンはラモーの調律法に類似した中全音律に調律されている。シュニットガーの音律に近いがこちらはヘ長調が純正となる。平島達司オリジナルの調律法ではあるが17〜18世紀フランスのオルガンに多く用いられたであろう調律法であることは中全音律の歴史的変遷から考察して明白である。
[編集] 理論
鍵盤楽器以外の楽器(フレットのある弦楽器を除く)や声楽では演奏の際、常に微調節しながら純正に響く音程で演奏するが鍵盤楽器はオクターブ内は12という限られた数の音しか出せないのでそれができない。しかし純正律に調律すると実用にならないので妥協策として五度音程を若干狭めて和声で重要な長三度音程をなるべく多く純正にとることで純正に近い響きでの演奏を可能にした音律である。当然、純正律より使える調が幾分か多くなる。
5度を重ね合わせて12音を作る際に、5度の周波数比を、ピタゴラス音律のような純正な5度(周波数比 1.5)ではなく純正よりもわずかに狭くして周波数比1.49535とすることにより、5度を4回重ね合わせてできる長3度の音程の周波数比が
- 1.495354 / 4 = 1.25 ( 4:5 )
のように純正になるようにした音律。
長3度の音程が純正で完全に澄んだ響きであり、5度も純正からの誤差は半音の1/20ほどなので、比較的美しく響く。そのため、長調の主和音は美しく響くので、和音を重視した音楽を美しく演奏する事ができる。
しかし、この5度を11回重ねて作った12音の最初と最後の音の間の5度は、半音の2/5程度のずれがあり、非常に濁った響きになる。また、その濁った5度を含んだ4つの5度を重ねて出来た長3度も同様に濁った響きになる。これらの濁った響きは実用にならないため、濁った音程を使用する事がないように、演奏する曲の調性に応じて、調律を変更する必要がある。また、作曲の際、中全音律を用いて演奏することを想定する場合は、濁った音程を使わないように注意を払う。そうすることで中全音律の利点を活かすことができる。
[編集] 調律法
以下に代表的なアロンの中全音律(1/4コンマミーントーン)の調律法を記述する(ハを基準)。
- こうしてミーントーン五度が完成。
- ミーントーン五度から長三度を取る
- 仕上げ
- 出来上がった中央の十二音を基準に鍵盤の両側全域へ純正な八度に合わせていく。
[編集] 和音の響き
中全音律は不等分調律であるので純正に響く音程だけでなく濁った音程も出てきてしまう。これが17世紀以降になると使用可能な調と使用不可能な調という考え方が出来てくる原因となった。以下、ハ音を基準に調律した場合の三和音の響きについて示す。
純正な三和音
不快な三和音
(この三つの短三和音は古くから陰鬱感が漂うとされる)
極端に不快な三和音
- 長三和音
- 変イ長調の主和音(減四度+短三度音程)
- 短三和音
- 嬰ト短調の主和音(短三度+減四度音程)
16世紀から使われ始めた調
17世紀以降に不快な和音の響きを生かした調
18世紀中期以降のソナタ形式の特徴を生かした調
- 長調
- ニ長調、ハ長調、ト長調、ヘ長調、変ロ長調、変ホ長調、イ長調
- 短調
- ニ短調、ハ短調、ト短調、イ短調
詳細解説
ルネサンス時代までは鍵盤楽器だけの演奏であっても純正な音程が好まれたので、音階中の音を純正に近くとった。そのため濁った調で作曲されることはなく、鍵盤にない音を弾く場合には純正に演奏するために調律替えを行った。しかし、バロック時代になると、鍵盤曲では鍵盤曲特有の響きを生かすために、歌劇・カンタータ等の劇作品では劇的な表現を可能にするために調律替えをせずに濁った和音の響きも巧みに生かした曲が書かれるようになった。具体的には和声的解決感と対位法的書法を考慮した調選択がなされた。つまり主和音の響きがよく、対旋律の主和音の響きが良い調が使えたのである。なお、主旋律の三和音が若干濁っていても対旋律の三和音が純正であればその調は使えた。短三和音の場合はもともと純正に響く間柄ではなかったので、大きく狂った短三度の場合、短三和音の陰鬱な特徴を強調する事となり、これは使用可能であった。しかし、極端に狂った五度を含むものはさすがに使用できなかった。
古典派時代になると、調性感のさらなる発達により、主和音のみならず属和音の響きも良いことが要求され、これに当てはまる調が楽曲の主調となった。これはソナタ形式における第二主題の導入と持続低音の重要性によるところが大きい。なお、19世紀末まで中全音律は作曲家にもよるが、鍵盤作品やピアノ協奏曲で使用されていた。
→改良型中全音律を参照
[編集] 調律替え
17世紀初期までは鍵盤曲を演奏するために、それ以降は作曲家によっては調律替えを行うことが19世紀末までしばしば行われた。調律替えによる響きの変化の具体例を以下に説明する。
参考 弦楽器の響き
| 長調 | 変ハ | 変ト | 変ニ | 変イ | 変ホ | → | 変ロ | → | ヘ | → | ハ | → | ト | → | ニ | → | イ | → | ホ | → | ロ | 嬰ヘ | 嬰ハ | |||||||
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| ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | |||||||||||||||||||||||
| 短調 | 変イ | 変ホ | 変ロ | ヘ | → | ハ | → | ト | → | ニ | → | イ | → | ホ | → | ロ | → | 嬰ヘ | → | 嬰ハ | 嬰ト | 嬰ニ | 嬰イ |
備考
黒に黄色の文字は開放弦が全くないために極めて暗く曇った響きのする調であり。さらに嬰種短調の場合は重嬰記号が出現するので非常に弾きづらい。桃色に白抜き文字は主和音の響きが暗く曇った調である。赤い字は主音・属音・下属音の五度が開放弦なので最も明るく華やかな響きのする調であり、青い字は第二音・第三音・第六音の五度が開放弦で、それらの三度も開放弦なので最も柔らかく穏やかな響きのする調である。斜体字は属音の五度の響きが悪いが和声解決の良い使用可能な調である。右向き矢印は属調転調、上向き矢印は平行調転調を示す。
鍵盤楽器の響き
| 長調 | 変ハ | 変ト | 変ニ | 変イ | 変ホ | → | 変ロ | → | ヘ | → | ハ | → | ト | → | ニ | → | イ | → | ホ | → | ロ | 嬰ヘ | 嬰ハ | |||||||
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| 短調 | 変イ | 変ホ | 変ロ | ヘ | → | ハ | → | ト | → | ニ | → | イ | → | ホ | → | ロ | → | 嬰ヘ | → | 嬰ハ | 嬰ト | 嬰ニ | 嬰イ |
| 長調 | 変イ | 変ホ | 変ロ | ヘ | ハ | → | ト | → | ニ | → | イ | → | ホ | → | ロ | → | 嬰ヘ | → | 嬰ハ | → | 嬰ト | 嬰ニ | 嬰イ | |||||||
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| ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | |||||||||||||||||||||||
| 短調 | ヘ | ハ | ト | ニ | → | イ | → | ホ | → | ロ | → | 嬰ヘ | → | 嬰ハ | → | 嬰ト | → | 嬰ニ | → | 嬰イ | 嬰ホ | 嬰ロ | 重嬰ヘ |
| 長調 | 重変ホ | 重変ロ | 変ヘ | 変ハ | 変ト | → | 変ニ | → | 変イ | → | 変ホ | → | 変ロ | → | ヘ | → | ハ | → | ト | → | ニ | イ | ホ | |||||||
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| 短調 | 変ハ | 変ト | 変ニ | 変イ | → | 変ホ | → | 変ロ | → | ヘ | → | ハ | → | ト | → | ニ | → | イ | → | ホ | ロ | 嬰ヘ | 嬰ハ |
| 長調 | ヘ | ハ | ト | ニ | イ | → | ホ | → | ロ | → | 嬰ヘ | → | 嬰ハ | → | 嬰ト | → | 嬰ニ | → | 嬰イ | → | 嬰ホ | 嬰ロ | 重嬰ヘ | |||||||
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| ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | |||||||||||||||||||||||
| 短調 | ニ | イ | ホ | ロ | → | 嬰ヘ | → | 嬰ハ | → | 嬰ト | → | 嬰ニ | → | 嬰イ | → | 嬰ホ | → | 嬰ロ | → | 重嬰ヘ | 重嬰ハ | 重嬰ト | 重嬰ニ |
| 長調 | 重変ト | 重変ニ | 重変イ | 重変ホ | 重変ロ | → | 変ヘ | → | 変ハ | → | 変ト | → | 変ニ | → | 変イ | → | 変ホ | → | 変ロ | → | ヘ | ハ | ト | |||||||
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| ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | |||||||||||||||||||||||
| 短調 | 重変ホ | 重変ロ | 変ヘ | 変ハ | → | 変ト | → | 変ニ | → | 変イ | → | 変ホ | → | 変ロ | → | ヘ | → | ハ | → | ト | ニ | イ | ホ |
備考
黒に黄色の文字は主和音が極端に広い五度のために激しい狼音を伴う最悪な響きの調であり、桃色に白抜き文字も主和音の響きが悪い調である。ともに使用不可とされた。そして、赤い字は属和音が極端に広い五度のために激しい狼音を伴う調であり、属調転調は困難とされた。また、斜体字は属和音の響きが悪いが和声解決の良い使用可能な調である。右向き矢印は属調転調、上向き矢印は平行調転調を示す。
ほとんど全ての作曲家はハ音を基準に調律して作曲・演奏していたと推測される。ただし、ショパンは独自のピアニスティックな思想に基づき、合理的な運指を念頭に置いたので嬰ヘ(変ト)音を基準に調律して作曲・演奏したと言われている。なお、彼は音階練習はロ長調から教え始めたという。
[編集] 分割鍵盤
分割鍵盤とは主に16世紀から17世紀初期にかけて楽曲中で常に純正な長三度の響きを実現させるため、派生音鍵や幹音鍵の一部もしくは全部を分割した鍵盤をさす。エンハーモニック鍵盤(英:enharmonic keyboard)ともいう。これによって調律替えの手間を省くことが出来た。最も多く普及したタイプはト鍵とイ鍵の間の派生音鍵が嬰トと変イに、ニ鍵とホ鍵の間の派生音鍵が変ホと嬰ニに分かれているものである。特にヘンデルは合奏・協奏での純正な演奏を好んだので、1オクターヴ内に17個の鍵のあるオルガンとハープシコードを所有していたことで有名である。その仕組みは、嬰ハ/変ニ、嬰ニ/変ホ、嬰ヘ/変ト、嬰ト/変イ、嬰イ/変ロの各派生音鍵とさらにホとヘの間に嬰ホ(小さな鍵)までを分けた。おそらく、弦楽合奏で頻繁に使われるシャープ及びフラットが3個までの調が純正に演奏出来るように設計されたと考えられる(しかし、当時はまだイ長調はシャープ2個で表記されていたという事実も認めなくてはならないので定かではない)。
[編集] 関連項目
- 音律
- 人物
- 楽曲
[編集] 参考文献
- 平島達司 『ゼロ・ビートの再発見』「平均律」への疑問と「古典音律」をめぐって ショパン ISBN 4883641783
- 平島達司 『ゼロ・ビートの再発見』 技法篇「古典音律」の解釈と実践のテクニック ショパン ISBN 9784883641802

