三菱ふそう・6R系エンジン

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三菱ふそう・6R系エンジンは、三菱ふそうトラック・バスが製造する車両に搭載される直列6気筒DOHC24バルブディーゼルエンジンである。本稿では同系エンジンの根幹となっているダイムラー・トラックグループの大型エンジンシリーズについても記述する。

HDEPの概要[編集]

ダイムラー・トラックグループでは、メルセデス・ベンツ、三菱ふそう、デトロイトディーゼルの3社で設計の大きく異なる大型商用車用エンジンを多数擁していたが、世界各地域の自動車排出ガス規制への対応をめぐる開発費の抑制を図るため、3社共同で“Heavy-Duty Engine Platform”(HDEP)[1]と称する基幹エンジン群を開発、これをベースに各地域に応じた小変更を加え市場に投入することとした。2007年、デトロイトディーゼルのDD15型を皮切りに市販が開始された[1]

HDEPは以下の4種類の直列6気筒エンジンで構成される。建設機械などのオフロード分野で用いるMTU向けユニットはメルセデス・ベンツ向けのOM47xをベースとしている[2]

種別 内径×行程
[mm]
排気量
[cc]
外形寸法
(全長×全幅×全高)
[mm][3]
乾燥重量
[kg][3]
定格出力
[kW/rpm][3]
最大トルク
[N・m/rpm][3]
燃料消費率
(定格出力点/最大トルク点)
[g/kWh][3]
名称(登場年次)
メルセデス・ベンツ[4] MTU 三菱ふそう デトロイトディーゼル[5]
11L級 125×145 10676 1325×955×1230 990 320/1700 2100/1300 200/192 OM470LA(2012) 6R1100[6] 6R20(2017)
13L級 132×156 12808 1375×980×1260 1140 390/1700 2450/1300 198/190 OM471LA(2011) 6R1300[7] 6R10(2010) DD13(2009)
15L級 139×163 14840 DD15[8](2007)
16L級 139×171 15569 1425×1005×1290 1277 460/1700 2900/1300 190/188 OM473LA(2013) 6R1500[9] DD16(2009)
製造拠点 ドイツの旗マンハイム 本体製造:ドイツの旗マンハイム[10]
補機取付:日本の旗川崎
アメリカ合衆国の旗レッドフォード
ミシガン州ウェイン郡
供給先 メルセデス・ベンツ
ゼトラ
三菱ふそう フレイトライナー
ウェスタンスター
ピアース
MCI
バンホール[11]

ボアピッチは異なるが基本設計は共通とされ、HDEPグループ内の部品共用率は90%に達している[1]。いずれも気筒あたり4バルブDOHC水冷4ストローク、直接噴射式、インタークーラーターボ付きである。高筒内圧力に対処すべく、シリンダヘッドやクランク周りなど各部の剛性を高めており、従来型の直列6気筒より重量が増加している[12]。DOHC化は将来のVVT採用を考慮したものである[13]。15・16L級はターボコンパウンドによる排熱回収で高効率化を図っている。

環境対策として、燃料噴射系に最大噴射圧2500bar[14]ボッシュ製増圧式コモンレールシステム「X-Pulse」[15](CRSN4.2)、排気再循環系に大容量EGRクーラー・連続制御式EGRバルブ、後処理装置に尿素SCRDPF[16]を組み合わせた「BlueTecシステム」を採用。2009年に「EPA2010」、2010年に「平成21年排出ガス規制」、2011年に「Euro 6」と、米日欧の世界3大自動車排出ガス規制に適合している。MTUのオフロード用エンジンは「Stage IV」(欧州)、「Tier 4 Final」(米国)両規制に適合する。

6R10型[編集]

エアロエース(LKG-MS96VP)に搭載された6R10

三菱ふそうの6R10型エンジンは、13L級のHDEPをベースとしたもので、吸排気管やオイルパンなどが日本専用設計となっている。当初は日本独自の仕様として過給器にVGターボ三菱重工業製)を用いていたが、2014年より他の13L級ユニットと同タイプのアシンメトリックターボ[17]ツインスクロールターボの一種)に切り替えられている。

このエンジンも欧州系の例にもれずコンロッドが斜め割になっている。

ボルボD11や6M70のようにコンロッドボルトを2本にして斜め割を回避するようなことはやっていない。

また、クランクキャップもOM502のようにブロックからキャップの倒れを抑える為にボルトで固定することもしていない。コスト重視のエンジンである。

日本への供給は13L級に限られていたため、350-520PSと他ユニットより出力帯が広かった[18]

三菱ふそうの大型トラック「スーパーグレート」のマイナーチェンジに伴い、6M70型エンジンの代替として2010年4月に登場。9月より同社の大型観光バス「エアロエース」(UDトラックスへのOEM供給車「スペースアローA」も含む)にも搭載された。その後、スーパーグレートは2017年のモデルチェンジで7.7Lの6S10型と10.7Lの6R20型に移行、エアロエースも同年に7.7Lの6S10型に移行した。

ラインアップ[編集]

最大トルクの“α”はVGターボ仕様、“β”はアシンメトリックターボ仕様。

型式 圧縮比 最高出力(ネット値
[kW(PS)/rpm]
最大トルク(ネット値)
[N・m(kgf・m)/rpm]
搭載車種 製造期間 備考
6R10(T2) 17.3 257(350)/1800 α:1810(185)/1100
β:1810(185)/1200
FU
FS(50系除く)
FV(ダンプのみ)
FY
MS(AS)
2010-
6R10(T3) 279(380)/1800 FU
FS
FV
FY
2010-
6R10(T4) 309(420)/1800 FU(50系除く)
FS
FV
FP-R
MS(AS)
2010-
6R10(T5) 279(380)/1800 α:2160(220)/1100
β:2160(220)/1200
FU(50系除く)
FS(50系除く)
2010- 12段INOMAT-II専用
6R10(T6) 338(460)/1800 FP-R
FV-R
2010- 12段INOMAT-II専用(FP-R)
6R10(T7) 382(520)/1800 α:2160(220)/1100
β:2500(255)/1200
FV-R 2011-
6R10(T8) 338(460)/1800 β:2500(255)/1200 FV-R 2014- 12段INOMAT-II専用

6R20型[編集]

三菱ふそう・6R20形エンジンは11L級HDEPをベースとし、ポスト・ポスト新長期規制対応のために開発された。6R10と同様にアシンメトリックターボを採用しつつ、第2世代「X-Pulus」システムと称する250MPaまで高められたコモンレールシステムを採用している。また排気量において6R10比2.2L減、質量において170kg減のダウンサイジングを達成している。

ラインナップ[編集]

型式 排気量 最高出力(ネット値
[kW(PS)/rpm]
最大トルク(ネット値)
[N・m(kgf・m)/rpm]
製造期間 備考
6R20(T1) 10676 265(360)/1,600 2,000(204)/1,100 2017-
6R20(T2) 290(394)/1,600
6R20(T3) 315(428)/1,600 2,100(214)/1,100
6R20(T4) 338(460)/1,600 2,200(224)/1,100

脚注[編集]

  1. ^ a b c World Premiere for the “Heavy-Duty Engine Platform” from Daimler Trucks
  2. ^ The new MTU Series 1000 to 1500 (PDF)
  3. ^ a b c d e MTU向けの数値。
  4. ^ Mercedes-Benz UK - Driveline - Engine
  5. ^ Diesel Engines - Detroit
  6. ^ Diesel Engine 6R 1100 for Agriculture and Forestry Application with EPA Tier 4 and EU Stage IV Certification
  7. ^ Diesel Engine 6R 1300 for Agriculture and Forestry Application with EPA Tier 4 and EU Stage IV Certification
  8. ^ ターボコンパウンド付きはDD15TC。
  9. ^ Diesel Engine 6R 1500 for Agriculture and Forestry Application with EPA Tier 4 and EU Stage IV Certification
  10. ^ Mannheim, Mercedes-Benz Plant
  11. ^ 北米のみ。
  12. ^ 6R10型は、6M70型より約140kg重い。
  13. ^ 排気ガスの昇温によるDPF内粒子状物質の燃焼促進を目的に、2012年に登場したベンツの中型商用車用エンジンOM93xに同機構が採用された。
  14. ^ 現状では2100bar程度で使用。
  15. ^ デトロイトディーゼルでの名称は「ACRS」(Amplified Common Rail System)。
  16. ^ MTU向けユニットはDPFを省略している。
  17. ^ 形状の異なる2つの排気ガス流路を有し、その各々にウェイストゲートバルブを設けたターボチャージャー。
  18. ^ OM471LAは420-510HP、DD13は350-470HP。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • 講談社ビーシー『fullload』VOL.1 「三菱ふそう 新型スーパーグレート」
  • シー・エム出版社『コマーシャルモーター』2008年1月号 「三菱ふそうの今後を担う、ダイムラーグループの「HDEP」エンジン」

外部リンク[編集]