ヴィラソロ代数

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数学物理学においてヴィラソロ代数(ヴィラソロだいすう、英語: Virasoro algebra)は円周上定義される複素多項式ベクトル場の中心拡大として与えられる無限次元複素リー環で、弦理論において広く用いられる。名称は物理学者のミグエル・ヴィラソロen に由来する。

定義[編集]

ヴィラソロ代数c および Ln + Ln が実であるような可算無限個の元 {Li | iZ} ∪ {c} で張られる複素線型空間で、基本関係式は

[c,L_n]=0, \quad [L_m,L_n]=(m-n)L_{m+n}+\frac{c}{12}(m^3-m)\delta_{m+n,0}.

で与えられる。ここでの中心元 cセントラルチャージと呼ばれる。

ヴィラソロ代数は、円周上の多項式ベクトル場全体の成す複素ヴィット環の中心拡大である。円周上の実多項式場全体の成す実リー環は円周上の微分同相全体の成すリー環の稠密な部分リー環である。

弦理論におけるエネルギー・運動量テンソル世界面の共形群の生成元すべてを含むので、2つのヴィラソロ代数の直積の交換関係に従う。これは、共形群が前方および後方光円錐の分離微分同相に分解されるからである。世界面の微分同相不変性はエネルギー・運動量テンソルが消えることをも意味している。このことはヴィラソロ制限enとして知られ、量子化された理論では、すべての状態について成り立つのではなく、物理的な状態(ノルムが正の状態)にだけ成り立つ(グプタ-ブロイラー量子化en参照)。

表現論[編集]

ヴィラソロ代数の最低ウェイト表現は、Li (i ≥ 1) で 0 になるような L0 および c の固有ベクトル v によって生成される表現である。v における L0 および c の固有値にはしばしば h, c が用いられる(ヴィラソロ代数の元としての c とその固有値 c とに同じ文字 c が使われている)。どの複素数の組 (h, c) についても、それらを固有値に持つ既約最低ウェイト表現が一意に存在する。

最低ウェイト表現がユニタリであるとは、正定値内積で Ln の随伴が Ln なるものを持つことである。固有値 h, c を持つ既約最低ウェイト表現がユニタリであるのは、c ≥ 1 かつ h ≥ 0 である場合、若しくは c

 c = 1-{6\over m(m+1)} = 0,\quad 1/2,\quad 7/10,\quad 4/5,\quad 6/7,\quad 25/28, \ldots

(m = 2, 3, 4, ...) のいずれかの値をとり、かつ h

 h = h_{r,s}(c) = {((m+1)r-ms)^2-1 \over 4m(m+1)}

(r = 1, 2, 3, ..., m−1; s= 1, 2, 3, ..., r) のいずれかの値をとる場合であり、かつそのときに限る。これらの条件の必要性は Friedan, Qiu & Shenker (1984) によって示され、Goddard, Kent & Olive (1986)コセット構成enあるいはGKO構成en(ヴィラソロ代数のユニタリ表現をアフィンカッツ・ムーディリー環のユニタリ表現のテンソル積と同一視する)を用いて十分性を示した。c < 1 を持つユニタリ既約最低ウェイト表現は、ヴィラソロ代数の離散系列表現と総称される。これらの表現のうち、m = q/(pq), 0 < r < q, 0 < s < ppq は互いに素な整数、r, s は整数)である特別の場合を極小モデルといい、Belavin (1984) らが研究を始めた。

離散系列表現の最初のほうは

  • m = 2: c = 0, h = 0. (自明表現)
  • m = 3: c = 1/2, h = 0, 1/16, 1/2. (イジング模型に関連する 3 種類の表現)
  • m = 4: c = 7/10. h = 0, 3/80, 1/10, 7/16, 3/5, 3/2. (三重臨界イジング模型に関連する 6 種類の表現)
  • m = 5: c = 4/5. (3-状態ポッツ模型に関連する 10 種類の表現)
  • m = 6: c = 6/7. (三重臨界 3-状態ポッツ模型に関連する 15 種類の表現)

のように与えられる。

ヴィラソロ代数のヴァーマ加群には不変内積が定義される。L0は自己共役な元であり、ヴァーマ加群においては対角化され、最低固有値を持つ。ヴィラソロ代数の交換関係から、L0の2つの固有値の差は常に整数であることが示される。ヴァーマ加群の2つのベクトルは、L0について異なる固有値を持つとき、不変内積について直交する。また、ヴァーマ加群のL0-固有空間はそれぞれ有限次元である。

既約でない最低ウェイト表現はカッツ行列式公式から求められる。カッツ行列式公式によれば、最低ウェイト h,c のヴァーマ加群において、標準基底をとったとき、L0 の固有値 h + N の固有空間の行列式は次の式で与えられる。

  A_N\prod_{1\le r,s\le N}(h-h_{r,s}(c))^{p(N-rs)}.

この公式は Kac (1978) によって主張され(Kac & Raina (1987) も参照)、Feigin & Fuks (1984)において初めてその証明が出版された(関数 p(N) は分割数であり、AN は定数である)。上の m による ch の公式は、m を 0 と -1 以外のすべての数に拡張される。こうして正整数 rs を固定したとき、(c(m), h(m)) は m によってパラメータ付けられた曲線を描く。この曲線上の点に対応するヴァーマ加群は可約である。この結果は Feigin & Fuks (1984) によってすべての既約最低ウェイト表現の指標を求めるために使われた。

一般化[編集]

ヴィラソロ代数の超対称的拡大にヌヴ-シュワルツ代数enラモン代数enと呼ばれる2つがある。これらの代数の理論はヴィラソロ代数のそれとよく似ている。

ヴィラソロ代数は、種数 0 のリーマン面上で固定された2点を除いて正則であるような有理型ベクトル場全体の成すリー環の中心拡大である。Krichever & Novikov (1987) はより高い種数のコンパクトリーマン面上で固定された2点の例外を除いて正則であるような有理型ベクトル場全体の成すリー環の中心拡大を発見、また Schlichenmaier (1993) はこれを例外が2点より多い場合に拡張した。

歴史[編集]

ヴィット環(ヴィラソロ代数から中心拡大を除いたもの)は Cartan (1909) によって発見された。その有限体上の類似物が1930年代にエルンスト・ヴィットによって研究される。ヴィラソロ代数を与えるヴィット環の中心拡大が(正標数の場合に)初めて Block (1966, p. 381) によって発見され、それと独立に Gel'fand & Fuks (1968) によって(標数0の場合が)再発見された。ヴィラソロは1970年、双対共鳴モデルの研究の中でヴィラソロ代数を生成する演算子のいくつかを書き下ろしているが、中心拡大の発見には到っていない。Brower & Thorn (1971, p. 167) によれば、中心拡大がヴィラソロ代数を与えることの物理学における再発見は程なく J. H. Weis によって成されている。

関連項目[編集]

関連文献[編集]