ヴィクター型原子力潜水艦

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Victor III class submarine 1997.jpg
浮上航行中のヴィクター3型
艦級概観
建造: ソビエト連邦
運用:  ソビエト連邦海軍
 ロシア海軍
前級 : プロジェクト 627 (ノヴェンバー級)
次級: 運用更新: プロジェクト 971 (アクラ級)
建造段階: プロジェクト 705 (アルファ級)
就役期間: 1967年
所属期間: 1967年11月5日
完工: 48隻[1]
現役: 8隻
仕様諸元
排水量 浮上時軽量状態では4,950t; 通常浮上時6,990t/潜水時7,250t
全長: 93から102m (303から335 feet)
全幅: 10 m (33 ft)
喫水: 7 m (24 ft)
機関:

1機のVM-4P双発加圧水型原子炉 (2x75 MW), 2セットの OK-300 蒸気タービン; 1 7-羽根のスクリュー; 31,000 shp at 290 shaft rpm—2 低速巡航モーター; 2基の小型プロペラ; 500 rpm時に1,020 shp

電動機: 4,460 kw tot. (2 × 2,000-kw, 380-V, 50-Hz a.c. OK-2 ターボ発電機, 1 × 460-kw ディーゼル非常用発電)
速力: 32 knots (56 km/h, 35 mph)
航海日数: 80日
総員: 約100人 (士官27人, 水兵34人, 入隊者35人)
兵装:

船首に2基の魚雷発射管, 650 mm (8基 - 88R型/SS-N-16 巡航ミサイル, 65-76型 魚雷)

船首に4基の魚雷発射管, 533 mm (16基 - 83RN型/53-65K型/USET-80型 魚雷, 84RN型/SS-N-15型巡航ミサイル, シクヴァル ロケット魚雷, MG-74 Korund と Siren デコイまたは最大36機の機雷)
センサー
FCS

レーダー: 1 MRK-50 アルバトロス’-シリーズ (Snoop Tray-2) 航法/索敵
ソナー: MGK-503 Skat-KS (Shark Gill) suite: LF アクティブ/パッシブ; パッシブ フランク アレイ; バラクーダ曳航式パッシブ・リニア・アレイ(ヴィクター III のみ); MT-70 能動型海氷退避装置

EW: MRP-10 Zaliv-P/Buleva (Brick Pulp) intercept; Park Lamp direction-finder

ヴィクター型原子力潜水艦(ヴィクターがたげんしりょくせんすいかん Victor class submarine)は、ソヴィエト/ロシア海軍の攻撃型原子力潜水艦であり、1型・2型・3型のサブタイプが存在する。ノヴェンバー型原子力潜水艦の後続艦級である。

ヴィクター型の名称はNATOコードネームであり、ソ連海軍の計画名は671型潜水艦(ヨールシュПодводные лодки проекта 671 "Ёрш")、671RT型潜水艦(スョームガПодводные лодки проекта 671RT "Сёмга")、671RTM型潜水艦(シチューカПодводные лодки проекта 671RTM "Щука")である。

アメリカ海軍スプルーアンス級駆逐艦ピーターソン(DD-969)」に並んで浮上している627PTM型 間に入っているのはソヴィエト海軍のモマ型海洋観測艦 1983年10月15日の撮影

概要[編集]

ソヴィエト海軍初の原子力潜水艦、ノヴェンバー型は、原潜建造技術の実証という意味では当時のソヴィエトにとって意義あるものではあったが、信頼性に乏しく、戦闘艦としての評価は低いものにとどまった。そこで、キューバミサイル危機に出動したディーゼル潜水艦は米海軍対潜水艦戦部隊の相手にならなかったという教訓をも踏まえて、本格的な水中戦力を手に入れるべく、第2世代原潜の開発を開始することとなった。そして、その成果として誕生したのがこのヴィクター型である。

第2次大戦型ディーゼル潜水艦の技術的特徴の残滓を引きずるノヴェンバー型に対し、本型は水中戦への適合性を重視して設計された結果、現代的な船型と設計、すなわち、水中航行に適合的な流体力学的船殻、5翼スキュード・プロペラ一軸推進などを備えている他、船体表面にゴム製の吸音タイルを貼付するなど、当時としては先駆的な機軸も取り入れられている。ソヴィエト連邦海軍はこの優れた潜水艦を、潜水艦に考えられるほとんどあらゆる任務に投入することを想定していた。

ヴィクター型は19671992年の間に、改良を加えられながら合計約50隻が就役し、冷戦期のソヴィエト海軍潜水艦隊の中核をなす艦型として活躍した。
ヴィクター1型の一番艦は1967年から1974年にかけて16隻が、同2型は1972年から1975年にかけて7隻が、同3型は1978年から1992年にかけて26隻がそれぞれ建造された。

しかしながら、ソヴィエト崩壊後のロシア政府の財政難には打ち勝てず、1996年から1998年にかけて大量退役が行われ、1型と2型はすべて退役した。3型は10隻が在籍しているものの、この内、行動可能な艦は半分以下と見られている。2004年には、日本の退役原潜解体支援事業「希望の星」プロジェクトにより3型の1隻が解体された。

性能諸元[編集]

ヴィクター1型(671型)[編集]

ヴィクター1型

最も初期に建造されたタイプ。基本的に魚雷のみを兵装とするが、RPK-2ヴィユーガ(のちに81R、NATOコードネームSS-N-15スターフィッシュ)対潜ロケットの運用能力を付与された671V型(3隻)、システム開発の実験プラットフォームとされた671K型(1隻)のサブタイプがある。

  • 全長:92.5m
  • 全幅:10.6m(艦首潜舵を含んで16.5m)
  • 吃水:7.3m
  • 水上排水量:4,100t
  • 水中排水量:6,085t
  • 機関:VM-4P型加圧水型原子炉(出力72MW)×2基/OK-300型蒸気タービン×1基
  • 馬力:31,000hp
  • 最高速力:水上12kt(22.2km/h)、水中32kt(59.2km/h)
  • 運用深度:350m
  • 乗員:76名
  • ソナー:MGK-300型ルビーン、MGK-509型ルビコン(1976年以降順次改造)、MGK-519型(1980年代に数隻に装備)、MG-509型機雷探知装置
  • 航法・指揮機材:シグマ671型、スパート671型潜行深度・進路管制システム
  • 兵装:533mm魚雷発射管×6 - 魚雷(核魚雷含む)および対潜ミサイル(671Vおよび671K型のみ)×18、または機雷×36

ヴィクター2型(671RT型)[編集]

ヴィクター2型

1型の経験を踏まえ、その拡大改良型として開発された。米海軍の対潜水艦戦能力の向上、戦後建造の米空母の防御力の改善を踏まえ、対潜ロケットおよび650mm(25inch)魚雷の運用能力を建造時から付与することで戦闘能力の向上を目指したほか、艦内騒音源の緩衝サスペンション上への隔離による静粛性向上が図られた。

  • 全長:102m
  • 全幅:10.6m(艦首潜舵を含んで16.5m)
  • 吃水:7.3m
  • 水上排水量:4,245t
  • 水中排水量:5,670t
  • 機関:VM-4P型加圧水型原子炉×2基/OK-300蒸気タービン×1基
  • 馬力:31,000hp
  • 最高速力:水上12kt(22.2km/h)、水中32kt(59.2km/h)
  • 運用深度:350m
  • 乗員:98名
  • ソナー:MGK-300型ルビン、MGK-509型ルビコン、MG-509型機雷探知装置
  • 航法・指揮機材:メドヴィェーヂツァ型総合航海システム、アッコールト型総合戦闘情報指揮システム、モールニヤ型通信システム、ツナミ型衛星通信システム、パラヴァン型曳航通信アンテナ
  • 兵装:533mm魚雷発射管×4、650mm魚雷発射管×2 - 魚雷(核魚雷含む)および対潜ミサイル×24、または機雷×36

ヴィクター3型(671RTM型)[編集]

ヴィクター3型

ヴィクター型潜水艦の最終発展型。VA-111シュクヴァール水中ミサイルおよびRK-55グラナート(NATOコードネームSS-N-21サンプソン)巡航ミサイルの2種の新兵器の搭載、4翼二重反転プロペラの導入ほかによる静粛性の向上、コンピューターの導入、またソヴィエトの攻撃型原潜では初の曳航式ソナー・アレイ装備などが、主要な改善点である。以後のソビエト(ロシア)原潜(アクラ型)、シエラ型)の特徴となる艦尾縦舵上の巨大なソナー・アレイ収納ポッドは、この型ではじめて導入されたものである。

本型は26隻が建造され、この内13隻はレニングラード市のアドミラルチェイスキイェ・ヴェルフィ(第194造船所)で、もう13隻は、極東方面コムソモリスク・ナ・アムーレ市のザヴォート・イメーニ・レニンスキー・コムソモール(レーニン共産党青年団記念工廠、第199造船所)で建造されたが、第194造船所建造艦の方が出来は良かったというのが、艦隊での評判であったと言う(第194造船所は、それまで671シリーズを建造していたのに対し、第199造船所は、671シリーズの建造経験が無かった為の差と見られる)。また、1980年代後半より第194造船所で建造された最終グループ5隻は、新造時からツィクロン衛星航法システムを搭載し、更なる静粛性の向上策を盛り込んだことから、671RTMK型として区別される場合がある。

本型は行動が活発だっただけに衝突事故も何件か起こしており、1983年6月には、ウラジオストク沖でK-324が、中華人民共和国漢型原潜と衝突し、同艦を大破させた。このK-324は、4ヵ月後の10月31日には、米本土サウス・カロライナ州沖で新型曳航式ソナーの試験中だったブロンシュタイン級フリゲート「マックロイ(FF-1038)」に接近し、同艦がテストしていたソナーのアレイがスクリューに巻き付いて航行不能となり急遽浮上するという事件も起こしている。K-324は10日後にキューバへ曳航され、偶然「捕獲」した新型ソナー・アレイは、ソ連本国へ運ばれた。

  • 全長:107m
  • 全幅:10.8m
  • 吃水:7.66m
  • 水上排水量:4,877t
  • 水中排水量:7,889t
  • 機関:VM-4P型加圧水型原子炉×2基/OK-300型蒸気タービン×1基
  • 馬力:31,000hp
  • 最高速力:水上18kt(33.3km/h)、水中30kt(55.5km/h)
  • 運用深度:350m
  • 乗員:100名
  • ソナー:スカート(曳航ソナー・アレイを含む)、MT70型氷海航行用、MG-509型機雷探知装置
  • 航法・指揮機材:メドヴィェーヂツァ671RTM型総合航海システム、アッコールト型総合戦闘情報指揮システム、モールニヤM型通信システム、ツナミB型衛星通信システム、パラヴァン型およびブラヴァ型曳航通信アンテナ
  • 兵装:533mm魚雷発射管×4、650mm魚雷発射管×2 - 魚雷(核魚雷含む)、対潜ミサイルおよび巡航ミサイル×24、または機雷×46

冷戦後[編集]

東西冷戦時代のソ連海軍原潜艦隊のワークホースとして活動したヴィクター型であったが、ソヴィエト崩壊後は次々と除籍されていった。本型は就役当初は「原子力潜水巡洋艦」に分類されており、Kナンバーが付与されていたが、ソヴィエト崩壊後、「(一等)原子力大型潜水艦」に「格下げ」となり、全艦がBナンバーに改められた。

ヴィクター1型は、1980年代末に近代化改装による就役期間の延長が検討されたが、冷戦後の軍縮と財政難、予算不足から実施されず、1990年代前半までにほとんどが、また最後の1隻が1997年に退役し、完全に現役を退くこととなった。

同2型も、近代化改装が検討されたが、1型と同じく1997年までに全艦が退役した。

同3型は、北方艦隊に16隻、太平洋艦隊に10隻が配属され、新生ロシア海軍においても引き続き運用される事が見込まれており、1993年春に発表された「艦艇整備10ヵ年計画」では、3個旅団(1個旅団は7隻程度)が維持される予定だった。しかし財政難には勝てず、1990年代後半より除籍が始まった。現在、在籍しているのは北方艦隊所属の5隻のみとなっており、ザーパドナヤ・リッツァ基地のマラーヤ・ロパツカ埠頭及びアラ湾のヴィジャエヴォ基地を母港としている。除籍された艦の大半は保管状態に有るが、セヴェロドヴィンスク市のズヴェズドーチカ工廠(原潜修理工廠、第402造船所セヴマシュ・プレドプリャーチェとは別)では、少なくとも3隻が解体され、極東方面のボリショイ・カーメニ市ズヴェズダー工廠(原潜修理工廠)でも、日本の援助により1隻が解体された。

なお2004年、予算不足で修理費用が無く解役されようとしていた本型のB-292が、ペルミ市に修理費用を援助してもらい、代わりに「ピェールミ」(ペルミ)の名を付けて現役に留まるという出来事があった。この他、本型には「ダニール・モスコーフスキイ」(中世のモスクワ公ダニール)「ポリャールニイ・ゾーリ」「ソスノヴイ・ボール」「タンボーフ」(タンボフ)という個艦名が付けられている。2006年9月7日、「ダニール・モスコーフスキイ」で火災事故が発生し、乗員2名が死亡した。原因は、定期修理が延期された為による故障と見られている。

脚注[編集]

  1. ^ Includes all three Victor Classes

参考文献[編集]

  • アンドレイ・V・ポルトフ、2005、『ソ連/ロシア原潜建造史』、海人社
  • A.S.Pavlov, Gregory Toker (translator), Norman Friedman (editor, English language edition), 1997, Warships of the USSR and Russia 1945-1995, [Annapolis, Maryland]: Naval institute press.

関連項目[編集]

外部リンク[編集]