ワン・ストップ・サービス

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ワン・ストップ・サービス: one stop service)は、ひとつの場所でさまざまなサービスが受けられる環境、場所のこと。行政商業において用いられる[1]

行政[編集]

複数の部署・庁舎・機関にまたがっていた行政手続きを、一度にまとめて行えるような環境をワン・ストップ・行政サービス(one stop governmental service)と言う[2]情報通信技術の発達している近年は、電子政府の構築により、インターネットを通じて多数の官公庁に出掛けること無く、公的サービスの手続きを行うことが可能になってきている。

イギリスでは、1999年に設けられた行政ポータルサイトUK Onlineのワン・ストップ・引越サービス(Iammoving.com)において、引越しに伴う住所変更手続き(パスポート運転免許証などの公的な手続きと、水道ガス電気金融機関などの約750の民間企業や団体の手続き)をまとめて行うことができる[3](UK Onlineは、2004年4月よりは新しいポータルサイトDirectgovへと発展した。同ポータルサイトは、日本でのデジタル庁主導による政府ウェブサイト一元化のモデルともされており[4]、政府機関だけでなく、裁判所なども含めた広範な公的機関・公的サービスの情報を一元的に集約している。)。また、2007年デンマークでも国民ポータルサイトBorger.dkが立ち上げられ、公的サービスを提供している[5]

その他、国際的なワン・ストップ・サービスとして、国境検問所において複数回必要となる出入国手続を1回に簡素化するワン・ストップ・ボーダー・ポスト(OSBP)[6]などが挙げられる。現在では、ほとんどの国で国民サービスまたは行政の効率化のため、行政の窓口を1本化するサービスが進められている。自国では意識していなくとも、他国から見れば結果的にワン・ストップ・サービスなっている場合もあり(無論、その逆の場合もある)、個人情報の質やセキュリティーの確保等の制約もあることから、各国の形態や程度は様々である。

日本の状況[編集]

2001年e-Japan戦略が示され、高速ネットワークインフラストラクチャーの整備と共に、電子政府の実現による行政サービスのワン・ストップ化が計画された。しかし、ブロードバンドインターネット接続の普及によりインフラ整備は進捗したものの、縦割り行政を廃したワン・ストップ・行政サービスが必ずしも促進されたとは言い難いという意見もある[7]

2001年に総務省が開設した行政ポータルサイトe-Gov(イーガブ)は、ワン・ストップ・サービスを実現する電子政府の窓口[3]、2013年現在のサービス内容は、行政手続き情報の案内、電子申請、パブリックコメント及び各府省への意見・要望の一元的な受付、法令や行政文書ファイルの検索サービスなど。パスポートの電子申請も一旦は実施されたが、2005年度の利用が103件で、1件あたりの経費が1,600万円程度になると財務省予算執行調査で指摘された後、2006年に廃止された[8]。また、2005年12月からは「自動車保有関係手続のワンストップサービス[9]」が始まったが、2007年の会計検査院決算検査報告では「自動車保有関係手続のワンストップサービスの利用が低調となっている」と指摘された[10]。サービス提供地域[注釈 1]で利用率が57%に達したのは、2011年10月であった[11]

地方自治体発の動きとして、三重県松阪市などでは、「おくやみコーナー」を設け、死亡時の手続・窓口を一元化して好評を得ており、ワン・ストップ・サービスの好例とされている[12]。このような動きを受け、政府の内閣官房IT総合戦略室においても、ワンストップサービスの一環として、「死亡・相続ワンストップサービス」の施策を掲げ、自治体も含めて複数の機関にまたがる死亡・相続の手続を、ITも活用して一元的に対応できる仕組みを構築しようとしている(遺言書検認、相続放棄などの家庭裁判所での手続はカバーされていないが、別分野では、家庭裁判所との連携に成功する自治体も表れ始めている。)[13][14]。 また、外国人居住者が増え続ける中、地方自治体が出入国在留管理庁法テラス、その他の関係組織と連携し、「ワンストップ型相談センター」を設置する動きが広がっているが、これも注目を集めるワン・ストップ・サービスの例である[15][16]。 一方、厚生労働省でも、失業者が集まるハローワークで「ワンストップ・サービス・デイ[17]」を適時実施している。ここでは、ハローワーク所在地の地方自治体・社会福祉協議会弁護士会等と連携し、生活保護の相談・つなぎ資金の手続き・多重債務の相談などを、求職相談と併せて生活支援を行っている。

このように地方自治体などの地域拠点を軸・中心として複数機関を連携させるワンストップサービスは、ITも活用して各種公的機能・手続などを極力集約・効率化していくコンパクトシティスマート自治体の思想にも通じるもので、人口減少社会における住民サービスの維持策としても位置付けられる[18][19]

総合窓口[編集]

自治体(地方公共団体)では、縦割り行政を廃し役所内の窓口を一本化する総合窓口を導入して、市民にワン・ストップ・サービスを提供する取り組みが増えている。この総合窓口を、札幌総合情報センター主任研究員の瀧口樹良は「住民をたらい回しせず、自治体の窓口で行われる各種証明書の発行や届出等の手続きを、1カ所で住民が行政サービスを行える窓口」と定義している[20]

富士通総研が2007年4月に公表した「総合窓口に関するアンケート調査[1]」では、回答した自治体390団体(特別区)のうち33.3%が何らかの形で総合窓口を導入していると回答。ただし、導入自治体のうち、住民票関係業務の実施率が98.5%であるのに対して、教育委員会関係業務では57.7%に留まっていることから、ワン・ストップ・サービスの実態は限定的(例えば、子供のいる世帯が転入してきた場合には、学校関係手続きがワン・ストップで完結しない)と言える[21]。また、2009年地方自治情報センター町村を含めて行った調査では、総合窓口を導入しているのは1,004団体中のうち23%に留まった[22]。業務システムの構築、庁舎フロアの改修、事務フローの見直しなどハードルが高いとされる。

総合窓口を導入している自治体の例
  • 愛媛県松山市では、2000年11月に総合窓口センターを導入して、市民課窓口業務を中心とした182業務のワン・ストップ・サービスを開始した[23]。さらに、2012年7月には福祉総合窓口を導入している[24]
  • 福岡県大野城市では、2005年9月に市長の所信表明でワン・ストップ 総合窓口の設置について言及し[25]2008年5月に「まどかフロア」と名付けられた総合窓口をオープンさせた[26]
  • 新潟県長岡市では、2012年4月に市役所機能を長岡市シティホールプラザアオーレ長岡に移転させたのを機にワン・ストップ・サービスを開始[27]。部・課を跨ぐ事務でも、来庁者ではなく市職員が入れ替わるようにしている[22]

商業[編集]

一つの店で全ての買い物を済ませてしまう購入形態をワン・ストップ・ショッピングといい、そのような購入形態を支える店をワン・ストップ・ショップ、そのような店のサービスをワン・ストップ・サービスと言うようになった[28]インターネットを利用した商業サイトでも用いている例がある。

また、前述のワン・ストップ・行政サービスと同様に、民間業務にかかる手続きやサービスをワン・ストップで提供する動きもある。大阪ガス関西電力などが参加している「関西手続きワンストップ協議会」では、引越にかかる水道・ガス・電気などの手続きを一括して行えるポータルサイト「関西引越し手続きサービス」を運営していた(2013年11月終了)[29][30]

脚注[編集]

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ ワンストップサービスとは - IT用語辞典 e-Words(2013年2月22日閲覧)
  2. ^ ワンストップ行政サービスとは - IT用語辞典 e-Words(2013年2月22日閲覧)
  3. ^ a b 電子自治体ポータル:ワンストップ・サービス - ITPro 電子行政(日経BP)2004年6月7日
  4. ^ 政府ウェブサイトを一元化へ 目的別で検索しやすく、省庁縦割り打破
  5. ^ (4)国民ポータル(デンマーク) - 平成21年版 情報通信白書(総務省
  6. ^ ワン・ストップでスムーズな貿易を目指す(ザンビア・ジンバブエ)アフリカで初のワン・ストップ・ボーダー・ポスト運用開始(JICAホームページ2009年12月22日)
  7. ^ 第10回【番外編】 政府の新IT戦略は行政窓口サービスのワンストップ化を促進するか - ITPro 電子行政(日経BP)2010年7月23日
  8. ^ 利用者視点に欠けていた行政サービスの実例--パスポートの電子申請、財務省が公表「旅券の電子申請は一件当たり費用が1600万円」 - ITPro 電子行政(日経BP)2006年7月13日
  9. ^ 自動車保有関係手続のワンストップサービスが始まりました - 総務省
  10. ^ (8) 自動車保有関係手続のワンストップサービスの利用が低調となっているため、サービスの運用方法等の改善を図るよう意見を表示したもの - 平成19年度決算検査報告(会計検査院決算検査報告データベース)
  11. ^ 自動車保有関係手続のワンストップサービスの利用率がはじめて50%を超えました! - 国土交通省 報道発表資料 2011年11月11日
  12. ^ 「“おくやみコーナー” 大変な時こそ寄り添います。」(NHKニュースアップ、2018年9月20日)
  13. ^ 内閣官房IT総合戦略室「死亡・相続ワンストップサービスの検討状況について」
  14. ^ 「成年後見、壁なくす自治体の挑戦」(朝日新聞、2018年12月16日)
  15. ^ インフォメーションセンター・ワンストップ型相談センター
  16. ^ 法務省「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(概要)」
  17. ^ ワンストップ・サービス・デイ - 厚生労働省
  18. ^ 国土交通省「コンパクトシティの形成に向けて」
  19. ^ 総務省「スマート自治体への転換はこうして実現」
  20. ^ 総合窓口実現のためのABC 第1回 今、なぜ「総合窓口」なのか? - ITPro 電子行政(日経BP)2007年10月23日
  21. ^ 自治体「総合窓口」のサービスに格差、解消には定義に基づく共通認識が必要 - ITPro 電子行政:GovTechフォーカス(日経BP)2007年5月7日
  22. ^ a b 来信返信 役所での手続き 総合窓口の導入不十分 - 読売新聞 2013年2月17日
  23. ^ 市民課(総合窓口センター) - 松山市公式サイト
  24. ^ 福祉総合窓口 - 松山市公式サイト
  25. ^ 官民連携・共働による公共ワンストップサービスの取り組み −総合窓口「まどかフロア」−(福岡県大野城市) (PDF) - Future Vol.15(全国地域情報化推進協会)
  26. ^ ワンストップ総合窓口「まどかフロア」 - 大野城市公式サイト
  27. ^ 「便利!」をカタチに。市役所の窓口はこう変わる! - 長岡市公式サイト
  28. ^ ワンストップショップとは - IT用語辞典 e-Words(2013年2月22日閲覧)
  29. ^ 関西引越し手続きサービス - 関西手続きワンストップ協議会 - WayBackMachineによるウェブアーカイブ(2014年1月10日版/2016年4月23日閲覧)
  30. ^ 日本初! 関東地域と関西地域間の引越手続きのワンストップサービスの開始 ~インターネット引越総合サイト『引越コンシェルジュ』と『関西引越し手続きサービス』とのインターネット移転受付サービスの提携について~ - 東京電力プレスリリース2006年(平成18年10月10日版/2016年4月23日閲覧)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]