ロトカ=ヴォルテラの方程式

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ロトカ=ヴォルテラ方程式の解の一例 捕食者(Predatori、青)と被食者(Prede、赤)の「位相」は一般にずれており、捕食者が増加すると、急速に被食者が減少し、さらに捕食者が減少する、という時間変化を示す。縦軸は個体数、横軸は時間

ロトカ=ヴォルテラの方程式ロトカ・ボルテラ方程式、Lotka-Volterra equation)とは、捕食者と被食者の増減関係をモデル化し、その増殖速度を表現した次のような非線形微分方程式である。

\frac{dx}{dt} = x(\alpha - \beta y)

\frac{dy}{dt} = -y(\gamma - \delta  x)

ここで x は被食者の個体数、 y は捕食者の個体数、t は時間をあらわしている。

また4つの係数(α、β、γ、δ)は正の実数のパラメーターである。

式の解釈[編集]

二つのそれぞれの式に対して解釈を与える。

被食者の増殖速度[編集]

\frac{dx}{dt} = \alpha x - \beta xy

ここで被食者にとって餌は十分あると仮定する。右辺第一項は、被食者が自然増によって、その個体数に比例して増加することを表している。α は増加に関するパラメーターである。右辺第二項は、被食者が捕食されることによって、自身の個体数および捕食者の個体数に比例して減少することを表している。βは減少に関するパラメータである。


捕食者の増殖速度[編集]

\frac{dy}{dt} = \delta xy - \gamma y

ここで捕食者にとって餌は限られた量しかないと仮定する。右辺第一項は、捕食者が捕食によって、自身の個体数および被食者の個体数に比例して増加することを表している。δは増加に関するパラメーターである。右辺第二項は、捕食者が自然減によって、その個体数に比例して減少することを表している。γは減少に関するパラメータである。

微分方程式の解[編集]

この方程式は解析的に解く(解析解)ことは難しいが、初期値( x0 , y0 ) がどちらも正のときには、周期解となる。コンピューターなどを用いて数値計算を行えば解軌道(数値解)を求めることもできる。解析解は力学系の手法を用いることにより次のように求められる。

固定点[編集]

まず系の固定点を求める。連立方程式

x(\alpha - \beta y) = 0

-y(\gamma - \delta  x) = 0

を解けばよい。これにより、固定点は次の二点であることがわかる。

\left\{x = 0  ,y = 0  \right\}

\left\{x = \frac{\gamma}{\delta},y = \frac{\alpha}{\beta} \right\}

一つ目の固定点はどちらの生物も存在しない状態であり意味がない。二つ目の固定点は平衡状態(平衡点)を表している。つまり、どちらの生物も個体数の増加速度と減少速度が同じ状態である。

線形近似[編集]

次に、線形近似を用いて固定点の安定性を求める。

この方程式のヤコビアンは、

J(x,y) = \begin{bmatrix} 
\alpha - \beta y & -\beta x \\
\delta y & \delta x - \gamma \\
\end{bmatrix}

である。

まず、一つ目の固定点(0,0)でのヤコビアンは、

J(0,0) = \begin{bmatrix}
\alpha & 0 \\
0 & -\gamma \\
\end{bmatrix}

となる。 この行列固有値は、

\lambda_1 = \alpha,\quad \lambda_2 = -\gamma

であることから、点(0,0)はサドル(鞍点)であることがわかる。

また二つ目の固定点でのヤコビアンは、

J\left(\frac{\gamma}{\delta},\frac{\alpha}{\beta}\right) = \begin{bmatrix}
0 & -\frac{\beta \gamma}{\delta} \\
\frac{\alpha \delta}{\beta} & 0 \\
\end{bmatrix}

である。この行列の固有値は、

\lambda_1 = i \sqrt{\alpha \gamma},\quad \lambda_2 = -i \sqrt{\alpha \gamma}

であることから、線形近似ではセンター(中立安定)となるが、構造安定でないためこれだけではわからない(安定か不安定なスパイラルである可能性がある)。

保存量[編集]

ここで次のような実数値関数 V を考える。ただし、 xy は正の場合のみを考える。どちらかが0の場合は後述。

 V = \delta x + \beta y - \gamma \log x - \alpha \log y

Vt で微分すると、

\frac{dV}{dt} 
= \delta x(\alpha - \beta y) - \beta y (\gamma - \delta x) - \gamma(\alpha - \beta y) + \alpha (\gamma - \delta x)
= 0

であることから、 V保存量第一積分)であることがわかる。よって、この力学系は、保存系である。

相平面上の保存系の性質から、二つ目の固定点が中立安定であることや解軌道が V等値線であることがわかる。すべての等値線が有界閉曲線であることから周期解をもつことがわかる。

どちらかが0の場合[編集]

ここで xy どちらかが0である場合を考える。どちらも0の場合は、固定点であることはすでに分かっている。

x = 0 の場合、 y は単調に減少し0に収束する。これは、y軸の正の部分が安定多様体であることを示している。

逆に y = 0 の場合、 x は単調に増加し、x軸の正の部分が不安定多様体であることがわかる。これは、被食者が無限に増加しつづけ、モデルとしてあまり適切でないと考えるならば、ロジスティック式のような考えでモデルの修正を行うことも考えられる。このような考えが、一般化につながる。

解の解釈[編集]

解は次のように解釈できる。例えば、二つ目の不動点よりも被食者 x が小さい初期状態の場合を考える。まず、被食者がすくないため、捕食者 y が減少する。このとき、捕食者が減っていくために被食者 x が増加していく、すると今度は x が増加したため y が増加し始め、次に x が減少し始め、最初と同じ状態に戻る。

このモデル通りの状態が続くならば、定常的(平均的)に増やしたり減らしたりするにはパラメーターを変化させなければならないことがわかる。

たとえ、一時的にどちらかを減らしたり増やしたりしても周期的に増加や減少を繰り返すだけだからである。

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このモデルによく当てはまる例を挙げる。

ロトカ=ヴォルテラの競争モデル[編集]

類似のロトカ=ヴォルテラの競争モデル

{dN_1 \over dt} = r_1N_1\left({K_1-N_1-\alpha_{21}N_2 \over K_1}\right)

{dN_2 \over dt} = r_2N_2\left({K_2-N_2-\alpha_{12}N_1 \over K_2}\right)

に関しては、競争を参照。

このモデルの解は周期解を持たず、\alpha_{21}<1 かつ \alpha_{12}<1 のときには共存解に収束し、それ以外の場合にはどちらかの生物が絶滅して残った生物はキャリング・キャパシティに落ち着く。

一般化ロトカ=ヴォルテラ方程式[編集]

上述のロトカ=ヴォルテラ方程式やロトカ=ヴォルテラの競争モデルは、3種以上の個体群に対して一般化することかできる。

n種の個体群からなる一般化ロトカ=ヴォルテラ方程式は、

\dot{x}_i = x_i(r_i + \Sigma_{j=1}^{n}a_{ij}x{j}), i = 1, \ldots, n

で与えられる。ここで xi は個体群密度、ri は内的増加率(または減少率)である。aiji 個体群に対する j 個体群の影響を表し、増進効果ならば正、阻害効果ならば負となる。すべての種類の相互作用はこのようにモデル化できる。ただし成長率に対するすべての種の影響が、線形であると仮定している。行列 A = (aij) は相互作用行列と呼ばれる。

一般化ロトカ=ヴォルテラ方程式について、状態空間は非負の象限

{\rm R}_{+}^{n} = \{ {\rm x} = (x_1, \ldots, x_n) \in {\rm R}^{n} : x_i \geq 0 (i = 1, \ldots, n) \}

である。{\rm R}_{+}^{n}境界点は座標面 xi = 0 上にあり、種 i が不在であることに対応する。これらの辺は xi (t) = 0 が xi (0) = 0 を満たす i 番目の一般化ロトカ=ヴォルテラ方程式に対する一意な解であるので、不変である。このモデルでは失われた種は移住することが不可能である。したがって境界 bd{\rm R}_{+}^{n}{\rm R}_{+}^{n} 自身は一般化ロトカ=ヴォルテラ方程式に対して不変である。そのため、内部 int{\rm R}_{+}^{n} も不変であり、xi (0) > 0 ならばすべての t に対して x (t) > 0 である。しかしながら密度 xi (t) は 0 に漸近する(対応する種の絶滅を意味する)ことは可能である。

2次元のロトカ=ヴォルテラ方程式の解の挙動は完全に分類されているが、高次元の場合、数多くの未解決問題が残されている。特に3種の個体群の場合でさえ、ある種のカオス的運動が出現することが、数値シミュレーションによって判明している。この解の漸近的挙動は非常に不規則な振動から構成されており、初期条件に大変鋭敏に依存している。このような場合、長期間の予測は不可能といえる。

関連項目[編集]