リー環

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数学における(狭義の)リー環[* 1](リーかん、: Lie ring)はリー代数とよく似た構造で、リー代数を一般化した代数的構造と見ることもできるが、降中心列英語版の研究においても自然に生じてくる。

リー環と関連する概念としてリー群リー代数があるが、(が加法に関してになるのとは異なり)リー環は加法に関して必ずしもリー群を成さず、他方で任意のリー代数はリー環の例である。任意の結合環交換子括弧積 [x,y] = xy - yx を考えればリー環になる。逆に、任意のリー環には普遍包絡環英語版(普遍展開環)と呼ばれる結合環を対応させることができる。

リー環は、ラザール対応英語版を通じて p-群の研究に用いられる。p-群の降中心因子は有限アーベル p-群だから、これを Z/pZ 上の加群と見ることができる。降中心因子すべての(加群としての)直和には、二つの剰余類の括弧積を代表元の交換子積を代表元とする剰余類を割り当てるものと定義して、リー環の構造を入れることができる。このリー環は、もう一つ p-乗冪写像と呼ばれる加群の準同型によって豊饒化することができ、そうして得られたリー環がいわゆる制限リー環である。

リー環をリー代数の類似と見る立場からは、 p-進整数環のような整数環上のリー代数の研究などを通じて、 p-進解析的な位相群やその自己準同型を定義するのにもリー環は有用である。シュヴァレーによるリー型の有限群の定義は、複素数体上のリー代数を有理整数環上に係数制限し、さらに法 p で割って考えることにより有限体上のリー代数を得るものである。

厳密な定義[編集]

リー環ヤコビ恒等式を満足する交代的な乗法を持つ非結合環として定義される。より具体的に述べれば、リー環 L = (L, +, [·,·]) はアーベル群 (L, +, 0) の構造を持ち、以下の性質:

を満たす二項演算 [\cdot,\cdot] を備えるものを言う[* 1]

二つのリー環 L1, L2 の間の写像 f: L1L2 がリー環準同型であるとは、それがリー環の二つの演算を保つときにいう。即ちリー環準同型 f

\begin{align}
 f(x+_1y) &= f(x) +_2 f(y)\\
 f([x,y]_1) &= [f(x),f(y)]_2
\end{align}\quad(\forall x,y\in L_1)

を満たす(演算の下付き添字はそれぞれの空間における演算であることを示す)。

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  • の代わりに一般の可換環上で考えた任意のリー代数はリー環の例である。リー環とは言うものの、リー環は加法に関してリー群になるというわけではない。
  • 任意の結合環は(加法はそのままで積を)括弧積と呼ばれる演算 [x,y] = xy - yx に取り換えることによりリー環になる。
  • 群論から生じるリー環の例を挙げよう。群 G とその上に交換子積 (x,y) = x^{-1}y^{-1}xy を考え、
    G = G_0 \supseteq G_1 \supseteq G_2 \supseteq \cdots \supseteq G_n \supseteq \cdots
    G中心列とする(このとき、各 i, j について交換子部分群 (G_i,G_j)G_{i+j} に含まれる)。ここで
    L = \bigoplus G_i/G_{i+1}
    と置けば、L の直和成分ごとの群演算(各直和因子はそれぞれアーベル群であることに注意)を加法とし、括弧積を
    [xG_i, yG_j] = (x,y)G_{i+j}\
    を線型に拡張したもので定めて L はリー環になる。ここで、交換子の定める括弧積が、リー環で言うところの括弧積の性質を持つことに、列の中心性が効いてくることに注意。

注記[編集]

  1. ^ a b 『代数学とは何か』p.262 [訳注] "日本では次に定義するリー代数のことをリー環と言うことが多く(言葉の誤用ではあるが),ここに定義する意味でのリー環はあまり意識的には使われない.しかし本書のように両方の概念を同時に扱うような場合は,リー環とリー代数を区別して呼ぶことになる."

参考文献[編集]

  • シャファレヴィッチ 『代数学とは何か』 蟹江幸博訳、シュプリンガー・フェアラーク東京。