リストロサウルス

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リストロサウルス
リストロサウルス骨格
リストロサウルス・ムッライ
Lystrosaurus murrayi骨格
フランス・国立自然史博物館
地質時代
約2億5,400万 - 約2億4,800万年前
中生代三畳紀前期)
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
上綱 : 四肢動物上綱 Tetrapoda
: 単弓綱 Synapsida
: 獣弓目 Therapsida
亜目 : 異歯亜目 Anomodontia
下目 : ディキノドン下目 Dicynodontia
: リストロサウルス科 Lystrosauridae
: リストロサウルス属 Lystrosaurus Broom, 1903
本文参照

リストロサウルスLystrosaurus)は、約2億5,400万- 約2億4,800万年前(中生代三畳紀前期)のパンゲア大陸画像資料[1])に生息していた植物食性の単弓類

獣弓目ディキノドン下目に属し、リストロサウルス科に分類されるが、カンネメエリア科とする説もある。

呼称[編集]

属名は上顎の形を見立てた古典ギリシア語: λίστρον (listron)「シャベルこて」と σαῦρος (sauros)「とかげ」との合成語[2]と比定できるが、何らかの理由で Listro- ではなく Lystro- の形をとっている。

英語音(音声資料[3])は「リストロソーラス」、もしくは「リストラソーラス」に近い。中国語名は「水龍獣」(shuǐlóngshòu; シュイロンショウ)。

特徴[編集]

形態[編集]

リストロサウルス骨格

体長は約90-120cm。イノシシほどの大きさである。ずんぐりした形の胴体と短い四肢、短い尾を有する。

著しく短く切り立った顔面は、長い[4]を持つものが多い三畳紀のディキノドン類の中でも、際立って特異なものである。眼窩と鼻孔頭蓋上部に移動し、顎先は低くなっている。 しかし、その上顎には、ディキノドン類に特徴的な角質(くちばし)と大きな犬歯)を具えている。

生態[編集]

全長3mを優に超える巨大な両生類ウラノケントロドン(左)に捕らえられたリストロサウルス(想像図)。彼らにも天敵はいたが、出現当初には少なかったはずである。

形態的特徴、および、出土した地層の状況から、発見当初はカバのように、川や湖沼に生息する半水生の動物であったと考えられていた。 しかし、カルー盆地[5]等の古環境が詳細に調査された結果、乾燥した氾濫原などに生息していたと結論づけられた。また、嘴と犬歯によって独特の形状をなす吻部も、植物の根を掘り起こしたり巣穴を掘ったりするための適応進化と考えられている。[6]

1988年に発見された巣穴の化石からは、ディイクトドンなどと同様に、つがいと思われる雌・雄の骨格化石がまとめて発見されている。[7]

進化史[編集]

リストロサウルスは三畳紀初頭に唐突に姿を現し、瞬く間にパンゲア大陸の広範な地域に分布を拡げていった。[8]古生代を終わらせたペルム紀末の大量絶滅イベント[9]を乗り切った未知の祖先から進化し、競合する植物食動物がほとんど存在せず、本格的な捕食者もまだ進化してきていない生態系において、いち早くニッチ(生態的地位)を埋めたものと考えられる。彼らの放散は、大量絶滅期の終了直後には各地に姿を現していたほど迅速であり、そのままこの時代の示準化石に指定されるほどの隆盛を誇った(後述)。そして、三畳紀前期の終わりとともに姿を消す[10]。数百万年に渡る環境においてのみ、非常に適応し、成功した生物である。

種分類と詳細[編集]

リストロサウルスの頭骨は種によって形態が大きく異なる事が知られている。これは、各々の種が異なる植物を食べた事による適応とされる。[11]

  • 略号 (地名は発見地を表す)
南ア=南アフリカ共和国 / 南極=南極大陸
LAZ=Lystrosaurus Assemblage Zone (南ア、リストロサウルス群集帯) / FF=Fremouw Formation (南極、フレモウ層) / PF=Panchet Formation (インド、パンチェット層) / JF=Jiucaiyuan Formation (中国新疆ジュンガル層).
  • リストロサウルス・クルヴァトゥス(クルワトゥス)
L. curvatus (Owen, 1876)
:最も原始的な種。南ア(LAZ)、南極(Shenk Peak、FF)、中国(ジュンガル盆地、トルファン盆地、新疆、JF、Tunghungshan Series)
  • リストロサウルス・デクリヴィス(デクリウィス)
L. declivis Owen, 1876  :南ア(LAZ)
  • リストロサウルス・ゲオルギ
L. georgi Kalandadze, 1975  
:ロシア(ヴェトルガ川ニジニ・ノヴゴロド州)。「外部リンク、学術的資料」の#2。
  • リストロサウルス・ヘディニ(エディニ)
L. hedini Young, 1935  :中国(JF, Tunghungshan Series)
  • リストロサウルス・ムッカイギ
L. mccaigi Seeley, 1898  :南ア(LAZ)、インド(PF)、南極(Shenk Peak, FF)
  • リストロサウルス・ムッライ(ムッラユィ)
L. murrayi (Huxley, 1859)  :南ア(LAZ)、南極(FF, Coalsack Bluff)、インド(PF)、中国(JF)
  • リストロサウルス・オヴィケプス(オウィケプス)
L. oviceps Haughton, 1915  :南ア(LAZ)
  • リストロサウルス・プラティケプス(プラテュケプス)
L. platyceps Seeley, 1898  :南ア(LAZ)、インド(PF)
  • リストロサウルス・ラジュルカリ(ラユルカリ)
L. rajurkari Tripathi et Satsangi, 1963  :インド(PF)
  • リストロサウルス・ロブストゥス
L. robustus Sun, 1973  :中国(JF)
  • リストロサウルス・シカンゴウエンシス(シカンッゴウエンシス)
L. shichanggouensis Cheng, 1986  :中国(JF)
  • リストロサウルス・ウェイデンレイキ
L. weidenreichi Young, 1939  :中国(JF)

分布[編集]

現在発見されている地域

化石は、南アフリカ共和国インド南極大陸ヨーロッパロシア中国など極めて広い範囲から発見されており、三畳紀前期の示準化石、および、南極大陸の示相化石となっている。 大海を渡れないこの動物の分布状況は、大陸が移動していることの立証につながる決定的事例となり、そしてまた、過去にはほぼ全ての陸塊が一つとなっていた時代があったことの有力な証拠の一つとされている。加えて、彼らの存在は、南極大陸に温暖な時代があったことの確固たる証拠(示相化石)なのである。

大陸移動説の論証として
ゴンドワナ大陸の化石分布図(現在の大陸形状を再配置して再現した概念図)。茶色=リストロサウルス、橙色=キノグナトゥス、青色=メソサウルス、緑色=グロッソプテリス。

アルフレート・ヴェーゲナーが提唱した大陸移動説では、かつて地球上にはパンゲア大陸と呼ばれる一つの超大陸のみが存在し、それが約2億年前に分裂を始め、割れた陸塊はそれぞれに個別のベクトルを持って移動したとする。その大きな流れのなかにある現世の状態として、今日の世界の大陸配置があると考えるものである。地質学古生物学古気候学などの知見から、大西洋をはさんだ南北アメリカ大陸、ヨーロッパ大陸アフリカ大陸[12]は元々一つの超大陸であったとする仮説であった[13]。その証拠の一つとされたのが、このリストロサウルスと絶滅植物グロッソプテリスの化石であり[14]、他にキノグナトゥスメソサウルスも、プレートテクトニクス理論の証拠たる古生物として挙げられる。

右図:化石生物の分布状況は、当時の陸塊が超大陸(ここではパンゲアの一角としてのゴンドワナ大陸)を形成していたことを証明している。

脚注[編集]

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  1. ^ 約2億4,000万年前のパンゲア大陸:Early to Middle Triassic (240Ma)[1] - Mollewide Plate Tectonic Maps [2]
  2. ^ もっとも、近年では、単弓類は爬虫類の一群としては扱われていない。
  3. ^ Lystrosaurus - howjsay.com :当該文字にカーソルを合わせれば繰り返し視聴可能。
  4. ^ ふん-ぶ。眼窩(がんか)から鼻先にかけての部位。
  5. ^ カルー盆地(Karoo Basin):南アフリカ共和国にあり、当地に属するビューフォード岩床には、リストロサウルスの名を冠する三畳紀前期の有名な地層「リストロサウルス群集帯Lystrosaurus assemblage zone)がある。
  6. ^ 『哺乳類型爬虫類 : ヒトの知られざる祖先』 172 - 173頁
  7. ^ 『哺乳類型爬虫類 : ヒトの知られざる祖先』 173頁
  8. ^ 『哺乳類型爬虫類 : ヒトの知られざる祖先』 174頁
  9. ^ この境目をP-T境界という。
  10. ^ 『哺乳類型爬虫類 : ヒトの知られざる祖先』 175頁
  11. ^ 『消えた竜 : 哺乳類の先祖についての新しい考え』64 - 65頁
  12. ^ 実際の陸塊の構成はもっと複雑である。アラビア陸塊インド亜大陸マダガスカル島、南極大陸、オーストラリア大陸は、パンゲアの南半球地域としてのゴンドワナを構成していた。
  13. ^ 今日では、大陸の合体と分裂は数億年単位で何度も繰り返されてきたと考えられており、最も若い超大陸がパンゲアであったとする。そして現在、世界の大陸は、次の超大陸時代に向けてアジア大陸の地下に存在するスーパー・コールドプルームに吸い寄せられるかたちで収斂(しゅうれん)されつつある、とも考えられている。
  14. ^ 古生物学者エドウィン・ハリス・コルバート率いる調査隊は1969-70年、南極大陸はトランスアンタークティック山脈(Transantarctic Mountains)の Coalsack Bluff にある三畳紀前期の地層にて、リストロサウルスとグロッソプテリス、その他の化石を発見した。この成果は、南アフリカ、インド、および、中国での既知の発見例に加わることとなり、大陸移動説とプレートテクトニクス理論に対する根強い懐疑論を一掃するものとなった。Naomi Lubick, Investigating the Antarctic, Geotimes, 2005.

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • 金子隆一 『哺乳類型爬虫類 : ヒトの知られざる祖先』 朝日新聞社〈朝日選書〉、1998年、ISBN 4-02-259709-7
  • ヘーゼル・リチャードソン 『ネイチャー・ハンドブック : 恐竜博物図鑑』 新樹社、2005年、ISBN 4-7875-8534-7。48頁。
  • J・C・マクローリン作・画 『消えた竜 : 哺乳類の先祖についての新しい考え』 小畠郁生・平野弘道訳 岩波書店、1982年。

外部リンク[編集]

日本語による

視覚的資料主体(欧文)

:画像参照(水辺のリストロサウルス。旧来の半水生説に基づく想像図)
:上記と同様の画像に加えて、三畳紀の大陸図説もあり。
  • Beaufort Group - Geology of KwaZulu-Natal :南アフリカのビューフォート岩床、リストロサウルスの頭骨化石標本、および、ゴンドワナの示準化石とゴンドワナ山脈等の図説。

学術的資料、ほか(欧文)

  1. Digitallibrary - American Museum of Natural History
    1. Lystrosaurus from Antarctica by Edwin H. Colbert :PDF
  2. Lystrosaurus georgi - A Dicynodont from the Lower Triassic of Russia :PDF
  3. Abrupt and Gradual Extinction Among Late Permian Land Vertebrates in the Karoo Basin, South Africa - Ward Karoo Science (2005-2-4) :PDF
  4. Permian-Triassic Boundary in the Central Transantarctic Mountains, Antarctica :PDF
  5. The Permian Extinction - Nationalgeographic.com :ペルム紀末の絶滅イベントとリストロサウルスが引き継いだ世界。
  6. Palaeos.com
    1. An Induan Bestiary - Palaeos.com
    2. Dicynodontia - Palaeos.com
  7. Palaeontology - Blackwell Synergy.com
  8. Lystrosaurus curvatus - Zipcodezoo.com :分類
  9. Lystrosaurus - The Palaeology Batabase :分類