ムラージュ

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天然痘のムラージュ

ムラージュ(Moulage)は傷病の記録や医療教育に使用された模型などの呼称。

概要[編集]

フランス語で「型取り・成形」を意味する単語を語源とし、一説では16世紀ルネッサンス期に作成された蝋人形がその起源の一つともされる。かつては石膏で採った患部の型にを流し込んで作成したものに色付けをして仕上げられた。欧米では19世紀に多くが作成され、日本でも明治の終わり頃から昭和30年代まで数多くが作られ、皮膚科の教育に役立った。しかし、カラー写真を始めとする記録技術の向上によって一旦はその役目を終えた。しかし、この技術はマダムタッソーの蝋人形館、日本のレストランの前に飾る蝋細工物などに生かされている。

現在[編集]

ムラージュを施したダミー人形で訓練する衛生兵

現在では、災害医療の訓練などで使用される外傷などを模造したダミー人形や、患者役の身体に特殊メイクで模造された外傷・血液なども総じてムラージュと呼び、トリアージの訓練などに用いられる。素材は蝋に代わってゴムラテックスなどが使用されている。

また、かつて使われた医療用ムラージュは医学の歴史の重要な記録の一つとして、博物館などに移管・収蔵されるケースも多い。収集されている最大のコレクションはパリのサンルイ病院にある。ドイツのドレスデンにある衛生博物館にも展示してある。

ムラージュの歴史[編集]

ヨーロッパにおける歴史[編集]

蝋製の模型の歴史は古いが、蝋製の解剖学的標本を作ったのはズンモ(Gaetano Guilio Zummo 1656-1701 後にズンボと改名)といわれる。彼はナポリの職人であったが、フローレンス、パリと移動、ルイ14世から解剖模型の独占権を得た。その後、何人かの作者がでたが、4000体以上の世界最大のコレクションを有するサン・ルイ病院(Hospital Saint-Louis)のジュール・バレッタ (Jules Baretta 1834-1923)が特に傑出している。彼は2000以上の作品をつくり、レジオン・ドヌール勲章のシュヴァリエ十字章を受賞した。彼は病院の屋根裏部屋に患者を入れ、病変の型をとったが、我慢してもらうために、真心のこもった会話、時にはピアノを弾き、歌をうたったといわれる。彼は自分の発明した釉薬を用いて蝋を何層も重ねたので、人々は透き通った皮膚の下に病変をみたと本当に信じたという。サン・ルイ病院の大きな博物館の集会場の周りの1階、2階にコレクションが並べてある。この病院では1958年までムラージュは作られた。 ヨーロッパの各地の皮膚科、日本の医科大学の皮膚科でも戦前においてムラージュは作られている。[1]

日本における歴史[編集]

日本にムラージュの技術を伝えたのは東京大学初代皮膚科教授土肥慶蔵(1866-1931)である。彼が留学していたKaposiの紹介でHenningから製法を教わって1898年帰朝した。彼は伊藤有(いとうゆう 1864-1934)に技法を教授し、彼はまた努力して独特の製法を作りだしたという。彼は1910年のロンドンにおける日英博覧会で名誉大賞を得、そのごドレスデンでの万国衛生博覧会にも出品した。1910年には販売もしているが、広告によると一個18円(10個以上頼むと15円)とある。[2]その後、後継者長谷川兼太郎や町田信治、ほかの制作者が出た。全国の医科大学皮膚科で広く教育に使われたし、一部は満州でも使われた。しかしカラーフィルムの普及に伴い、制作されなくなった。 多数保存している大学は、北海道大学(約200)千葉大学(800)、東京大学(490) 新潟大学(800)、金沢大学(219),名古屋大学 (500),京都大学 (500)、岡山大学 (9)、九州大学(50),長崎大学(多数)、熊本大学(63),札幌医大(50),京都府立大学(6)、慶應義塾大学(100以上)、東京医科大学(15),東京女子医大(85)、昭和大学(15) ムラージュの質の劣化が心配されている。[3]その他ハンセン病療養所などにもあった。[4]

収蔵・展示している博物館[編集]

文献[編集]

  1. ^ サン・ルイ病院のミュゼ 今泉孝 皮膚病診療 15,12,1092-1098,1993
  2. ^ 皮膚疾患のムラージュ アンケート調査と史的展望 長門谷洋治 皮膚病診療 13,3,248-254,1991
  3. ^ Dermatologic Moulage in Japan Imaizumi T, Nagatoya Y International Journal of Dermatology 34,11,817-821,1995
  4. ^ 図譜 残ったムラージュと消えたムラージュ 小野友道 Visual Dermatology 7,2,192-193,2008

外部リンク[編集]