ミンネザング

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ミンネザングMinnesang)は、12世紀から14世紀ドイツ語圏における抒情詩と恋愛歌曲の伝統をさす。「ミネ」(minne)とは、中世高地ドイツ語で「愛」の意味であり、「ザング」(sang)は現代ドイツ語の「ゲザング」(Gesang)と同じで「歌」の意味である。したがって「ミンネザング」とは「愛の歌」の意味であるが、当時は特に恋愛を主題とした詩歌(とりわけ歌曲)については、「ミンネリート」(minneliet)と分類していた(後に、これが短くなり、シューベルトなどが手掛けた「ドイツ・リート」になる)。このような分類がなされるようになったのは、時代が下がるに連れてミンネザングの内容が変容し、社会諷刺などが盛り込まれるようになって恋愛ばかりが取り上げられなくなったことによる。

ミンネザングの作り手や演じ手は、「ミンネゼンガー」(Minnesänger)と呼ばれた。ミンネゼンガーは中世フランストゥルバドゥールトゥルヴェールに相当し、これらフランス文化の伝統を受け、中世の貴族社会に伝統的な騎士道精神や「宮廷の愛」について歌った。

信頼できる評伝的な資料が欠けているため、ミンネゼンガーの社会的地位については多くの議論が重ねられてきた。明らかに高位の王侯貴族に属している人たちもいる。14世紀の『マネセ写本』は、侯爵、伯爵、王、皇帝(ハインリヒ6世)の歌が含まれている。逆に、マイスター・コンラート・フォン・ヴュルツブルクやハンス・ザックスのように通り庶民の出身者もいる。

しかし多くは、下層階級出身からなるミンストレル(従者)や、主君に仕える封臣だったと考えられている。大まかに言えば、ミンネゼンガーは宮廷における自らの社会階層のために歌を詠んだり演じたりした人たちであり、「プロフェッショナルの」雇われ楽師のように見做してはならない。彼らは活動の見返りとして、たとえばヴァルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデの場合、神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世から封土を授与された。

ミンネザングの最も古い史料は、おそらく1150年ごろに遡り、最初期のミンネゼンガーとしてデア・フォン・キューレンベルクやディートマール・フォン・アイストの名が残っている。初期のミンネゼンガーは、12世紀後半に伝統的だった手法で作詞を行なっている。

12世紀の末になると、ドイツの抒情詩人は、プロヴァンストゥルバドゥールや北フランスのトゥルヴェールの影響をこうむり始める。これはカンツォーネ形式による詩節構造に明白である。最も基本的なのは7行詩で、ab|ab|cxc という押韻を踏み、音楽はこれに対応して A-A-B 形式となっている。

当時の歌曲は、形式においては厳格にトゥルヴェール歌曲と釣り合っており、フランス由来の旋律に当時のドイツの叙事詩を当てはめることもできる。このような一種の替え歌は、「コントラファクトゥム」ないしは「コントラファクトゥーア」と呼ばれる(英語の医学用語の contrafacture とは意味が異なる)。コントラファクトゥーアの有名な例は、ギオ・デ・プロヴァンスの《"Ma joie premeraine"》によるフリードリヒ・フォン・ハウゼンの《"Ich denke underwilen"》がある。

Walther von der Vogelweide

ミンネリートの旋律は、こんにちほんの少ししか伝わっていない。主に15世紀かそれ以降の手稿譜によっているので、元来の旋律とは違ったかたちになっているかもしれない。付け加えると、使われている記譜法が近代的なものとは異なるために、しばしば解読が困難である。旋律の気配はなんとなく察しがつくにしても、リズムがしばしば分かりかねる。

有名なミンネゼンガーは、叙事詩でも著名であり、とりわけヘンリク・ファン・フェルデーケ、ヴォルフラム・フォン・エッシェンバハ、ハルトマン・フォン・アウエ、タンホイザーらが代表的である。

十字軍の時代を通じて騎士階級が没落すると、上記のような市民階級の出身者がミンネザングの担い手や宮廷楽師として活躍するようになった。ミンネザングの内容も、従来の抒情詩から、より社会性のあるものへと変質をとげ、やがて低迷期を迎えた。

15世紀になるとミンネザングの伝統は、マイスタージンガーに道を譲った。とはいえこの二つは全く別々の伝統である。ミンネザングは主に貴族のものだったが、マイスタージンガーはたとえば商人のものだった。

ミンネゼングの伝統についてはオペラの題材になっており、少なくともリヒャルト・ワーグナーの《タンホイザー》と、リヒャルト・シュトラウスの《グントラム》の2作が有名である。

主要なミンネゼンガー一覧[編集]

日本では慣習的に現代ドイツ語読みするので、本稿でもそれに従う。

関連項目[編集]