ミカンキジラミ

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ミカンキジラミ
ミカンキジラミの成虫
ミカンキジラミの成虫
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: カメムシ目(半翅目) Hemiptera
亜目 : 腹吻亜目 Sternorrhyncha
上科 : キジラミ上科 Psylloidea
: キジラミ科 Psyllidae
: Diaphorina
: ミカンキジラミ D. citri
学名
Diaphorina citri
Kuwayama, 1908

ミカンキジラミDiaphorina citri)とは、カメムシ目(半翅目)のキジラミ科に属する昆虫である。

特徴[編集]

幼虫、成虫とも柑橘類ゲッキツで樹液を吸って繁殖する。特にゲッキツを好む[1]。卵は黄色で、幼虫は体長1ミリから2ミリ。成虫は体長約3ミリで、体色は赤褐色ないし黒褐色、前翅には特徴的なまだら模様があり、2か月以上生存する。また、成虫は樹木上で吸汁する際、頭を下にして腹部を持ち上げ、翅を斜め上に突き出す姿勢をとるといった特徴がある。ミカンキジラミの増殖は新梢の発生と関連しており[2]、新梢発生時期には多く発生する[3]

なお、ミカンキジラミの幼虫に寄生するハチとして、ミカンキジラミトビコバチとミカンキジラミヒメコバチがある[4]。また、豊橋技術科学大学の中鉢淳らの研究によれば、毒を作る細菌を体内の器官に共生させることによって、天敵から身を守っている[5][6]

植物への被害[編集]

ミカンキジラミ自体が植物に与える被害としては、吸汁によって部分的な枯死を発生させる程度である。しかしながら、柑橘類に致命的な被害を与えるカンキツグリーニング病(黄龍病、HLB)を媒介するため、重大な害虫として知られている。カンキツグリーニング病菌にはアジア型、アフリカ型、アメリカ型があり、アジア型 (Candidatus Liberibacter asiaticus) はミカンキジラミが媒介昆虫となる[7]。罹病した木の樹液を吸うことで、病原体である細菌を保毒し、次に吸汁した木に伝染させる。日本においてはカンキツグリーニング病とともに特殊病害虫に指定されており、分布地域からの移動が制限されている[1]

ミカンキジラミは農薬に対しては高い感受性を示す。カンキツグリーニング病には効果的な薬剤がないため、予防にはミカンキジラミの駆除が重要である[1]。また、ゲッキツはカンキツグリーニング病にかからないとされているが[8]、ミカンキジラミはゲッキツでよく繁殖するため、柑橘類への感染を防ぐためには周囲のゲッキツに寄生する個体の駆除も重要である[3]

生息地[編集]

ミカンキジラミの成虫(フロリダ州農務局)

主に東南アジア、南西アジアや中近東などに生息する。アメリカ合衆国にはもともと生息していなかったが、1998 年にフロリダ州で、2001 年にはテキサス州で存在が確認された[9]

日本においては、もともと奄美大島以南の南西諸島にしか生息していなかったが[10]、2002年には屋久島に北上したことが明らかになった[11]。さらに、2006年には鹿児島県指宿市で発見され、本土上陸が確認されている[12]。沖縄県、鹿児島県などの関係市町村及び植物防疫所などが駆除をすすめているが、根絶には至っていない。

脚注[編集]

  1. ^ a b c 恩田聡・河村太・那須泰美 「カンキツグリーニング病」『平成15年度果樹農業生産構造に関する調査報告書-果樹農業に対する気象変動の影響に関する調査-独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構果樹研究所。
  2. ^ 安田慶次、河村太、大石毅「ミカンキジラミ成虫のゲッキツとシークワーサーにおける生息部位とその選好性」『日本応用動物昆虫学会誌』第49巻第3号、日本応用動物昆虫学会、2005年8月25日、146-149頁、doi:10.1303/jjaez.2005.146NAID 110001801288 
  3. ^ a b 鹿児島県農業試験場大島支場病害虫研究室 「チアメトキサム粒剤によるミカンキジラミの春期密度抑圧効果」 2004年。2013年8月18日閲覧。
  4. ^ 国際農林水産業研究センター総合防除研究室 「南西諸島におけるミカンキジラミとゲッキツの分布」 2001年。2013年8月18日閲覧。
  5. ^ 世界初、昆虫と融合した「用心棒バクテリア」を発見』(PDF)(プレスリリース)豊橋技術科学大学、2013年7月9日http://www.tut.ac.jp/docs/PR20130712.pdf2013年8月18日閲覧 
  6. ^ 共同通信 (2013年8月13日). “毒作る細菌と共生し防衛 植物害虫、抗がん剤に応用も”. 日本経済新聞電子版. http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1204A_T10C13A8CR0000/ 2013年8月18日閲覧。 
  7. ^ da Graca, J. V. (1991). “Citrus greening disease”. Annual Review of Phytopathology 29: 109-136. doi:10.1146/annurev.py.29.090191.000545. NAID 30022148670. (未見。川合崇之 et al. 2007, p. 27に拠る)
  8. ^ 宮川経邦 『日植病報』46、1980年、224–230頁(未見。安田慶次, 河村太 & 大石毅 2005に拠る)。
  9. ^ Susan Halbert, Xia-an Sun and Wayne Dixon (2001年1月). “2001 Update on Asian Citrus Psyllid in Florida”. FDACS Division of Plant Industry. 2010年11月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年8月18日閲覧。
  10. ^ 東清二監修、屋富祖昌子・金城政勝・林正美・小濱継雄・佐々木健志・木村正明・河村太編 『琉球列島産昆虫目録』増補改訂版、沖縄生物学会、2002年、112–123頁(未見。安田慶次, 河村太 & 大石毅 2005に拠る)。
  11. ^ 井上広光 『植物防疫』58、2004年、29–32頁(未見。安田慶次, 河村太 & 大石毅 2005に拠る)。
  12. ^ 伊藤壽一郎 「ミカンキジラミ本土上陸-生きもの異変 温暖化の足音(60)」 『産経新聞』、2009年3月3日付朝刊、東京本社発行15版、2面。

参考文献[編集]

  • 侵入警戒病害虫」 宮崎県病害虫防除・肥料検査センターウェブページ。
  • 井上広光、篠原和孝、奥村正美、池田綱介、芦原亘、大平喜男「九州本土および屋久島の植栽ゲッキツ(ミカン科)で新たに発生したハマセンダンキジラミ(半翅目:キジラミ科)」『日本応用動物昆虫学会誌』第50巻第1号、日本応用動物昆虫学会、2006年2月25日、66-68頁、doi:10.1303/jjaez.2006.66NAID 110004659454 
  • 川合崇之、菊川華織、佐木智基、河津裕一、横山亨、渡久地章男「カンキツグリーニング病菌検出のためのnested-PCR」(PDF)『植物防疫所調査研究報告』第43巻、2007年3月、27-32頁、NAID 40015948689